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異世界ダンジョン総合学園へようこそ!  作者: gulu


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7/10

6話目:光の先輩と闇の先輩

 そうして翌日――――。


「ごっめぇ~ん♪ みんな、まった~?」

「一番に集合場所に来てた人が言うと、嫌味に聞こえない?」


 トゥラの言う意図は全くないのだが、一番最後に来たヨグさんが申し訳なさそうにしてる。


「俺的には遅刻してくれても良かったのに。そしたら合法的にお部屋にお邪魔できるし」

「女子寮に入るだけで違法だよー?」

「なんでよ! アタシが入っちゃダメな理由があるなら言ってみなさいよ!」

「男だからだって!」

「アタシがいつ自分のこと男って言ったの!? 勝手な思い込みで人の性別を決めつけないでちょうだい!」

「えっ、じゃあ女なの!?」

「オネエ系よ!!」

「じゃあ男だよ!!」


 トゥラの鋭いツッコミが後頭部へ突き刺さる。

 朝っぱらなのにこのキレ具合……デキる! 子供が!

 ちょっと今なら産めそうな気がしてきた!


「というか、こんな朝からダンジョンに潜る必要ってあるの?」

「あるある。というか、先輩もこの時間帯にいるじゃん」


 周囲には俺たち一年生だけではなく、見慣れない<探索者>姿の人達がチラホラといた。


「飯食った直後にダンジョン入ると地獄を見るというのは昨日イヤというほど分りけり~?」

「あぁ……ヒドかったな……ホルンが……」

「あ……あう……あぅあうぅ……」


 腹部に攻撃が直撃した時、口から尊厳が溢れたからね。

 それでも戦意を喪失せずに戦ってたからマジで偉いと思う。

 あと涙目だったホルン見てたら何らかの法律に抵触しそうな性癖に目覚めそうになった。


 心の中の天使がラリアットぶちかまして、悪魔がエルボー叩きつけて違法性癖を眠らせてくれてよかった。


「とはいえ、空きっ腹だとダンジョンの途中で力が出なくなるからドリンク貰ってきた。ほーら、いっき♪ いっき♪」

「なんで一気飲みしないと……ぶっはぁ!? なにこれぇ!?」


 うん、めっちゃ味濃いよね。

 それがキツイから一気飲みをすすめたわけだ。


「慣れたら値段相応に美味しく飲めるらしいよ」

「値段相応……おいくらなんですか?」


 ホルンにこっそり耳打ちすると、まるで兎のようにピョンの跳ね上がった。


「こ……これ一本でそんなにするんですか!?」


 トゥラとヨグさんも気になったらしく、二人にもコッショリと教えたら驚かれた。


「ア……アウ……アアァ……」

「うわ、一本でその値段って高ッ! わざわざ買ってきてくれたの?」

「うむ! 代金は身体て払ってもらうぜゲヘヘヘ! ……って言いたいけど、普通にパイセンに奢ってもらった」

「先輩って、元の世界の人でもいたの?」

「いや、ここで知り合った人」

「入学一週間で奢ってもらうくらい仲良くなったの!?」


 なんかめっちゃ驚かれてる。

 そんな変なことだろうか?


「だって先輩ってことは試験範囲とか学園生活で注意すべきこととか知ってるわけだし、それなら知り合って損はないじゃん?」

「あの……怖く、ないんですか?」

「あぁ、顔が? あとで後輩に怖がられてましたよって教えておくね」

「ふえぇ!?」


 まぁ冗談はさておき――――。


「例えばの話、俺らがここで一年過ごして一年生が入ってきたとするじゃん? そしたら色々教えてあげたいって思わない? オブラートに包むと、先輩面したい」

「包めてない、包めてない。包み紙が足りてない」


 結構頑張ったけど、ダメだったようだ。

 まぁもっと黒い部分の箇所はわざわざ聞かせるほどじゃないし心の中のゴミ箱に入れて右クリック削除しとこう。


「だけどいきなり近づいたら新入生が怖がるかもって距離とる。だから俺は自分から突っ込んだだけ」

「う、うわ~……距離感の縮め方がエグいなぁ~」


 トゥラもやろうと思えばやれると思うが、やっぱり課題の期限があるせいで精神的にそこまで余裕がなかったのだろう。

 俺はむしろ下心満載というか過重積載だからこそ突っ込めたわけだが。

 ゲームもといダンジョンがクリアできないなら攻略サイトを見るか人に聞く!

 自分、現代っ子なんで! ネタバレ上等!


 とかやってたら後ろから大きな影がやってきた。


「やあ、ヒビキくん! 差し入れのドリンクは飲んでくれたかい?」

「ヨーゼフパイセン、ちっすちっす。先輩の濃厚汁、しっかりと女子に飲ませてやりましたぜぇ」

「そうか、そうか! これは僕も愛飲していてね。後輩にも是非おすすめしたい一品なんだ」


 女子達が息をのんで見上げる。

 それもそうだ、なにせ中々に見かけられないくらいの筋肉モリモリマッチョマンだからな。

 おかげで俺の下ネタもスルーされてしまっている。


「ちなみに三人共……この人、お貴族様だから失礼したら失礼されちゃうぞ☆」

「礼がなくとも、ボクが礼を失する理由にはならないよ。礼というものは、人に強要させるものじゃないんだからね」


 今どき珍しいくらいに真っ直ぐで冗談が通じにくいお人である。

 よく考えたら異世界だから珍しいかどうか分からないか。

 ……異世界で貴族っていったら「下民がいくら死のうとも痛くも痒くもないわ、グワーッハッハッハ!」って言ってないとおかしくないか?


 いや、それは偏見だな、良くない偏見だ。

 もしゲス貴族偏見が許されるなら、日本も未だに着物の女性の帯をまわして「あ~れ~!」とかしてないとおかしいし。

 でもやってみたいな、いつかやろう、大人になったら合法的なお店で。


「ヨーゼフ……ヨーゼフ……もしかして銀牢山脈のヨーゼフ卿の!?」

「おや、そこの≪ホーンズ≫の子は知ってるのか。あまり知名度はないと思ってたんだけどね」

「そ……そんなことありません! 白き影の雪に包まれた山脈を治め、幾度の侵略を跳ね返したヨーゼフ卿のお話は語り草になってます!」

「ハハハ、それは僕ではなくご先祖様のお話だけどね。いつかはご先祖様の武勇伝に頼らず、僕自身が誇れる何かを見つけたいね」


 ほんとによく出来た人である。

 おかげでいっぱい奢ってもらえて嬉しい!


 俺が女だったら求婚してたかもしれない。

 でも異世界人の平民じゃ身分の違いで無理か。


 ……ううん、そんなことない!

 ヨーゼフ様は公平なお方!

 私が薄汚い貧民だとしても、きっと愛してくれる!


「ゴホン……ヒビキくん、聞こえてるよ」

「おっと、失敬。つい胸の内にある本音と本性を暴露してしまいました」

「うん、隠して、隠して。慎みは女性だけではなく男性にも必要だから」


 とまぁそんなおバカなことを話していると、また別の人がやってきた。


「ヨーゼフ、いつまでガキと遊んでいるつもりだ?」

「あぁ! すまないレヴィ! 頑張る後輩を見ると、つい世話を焼きたくなってしまって」


 ヨーゼフ先輩ほどではないが、それなりにマッチョなお人であるレヴィ先輩がやってきた。


「レヴィ先輩! いつも女性を口説いて軽薄に見えるけど、実はヨーゼフパイセンが変な女に引っかからないかいつも心配だから安全な女子を選別してるレヴィ先輩じゃないっすか!」


 瞬間、丸太のように太い腕が俺の首に巻き付いた。


「んん~? よく聞こえなかったなぁ。もう一度言ってくれないかなぁ!?」

「グゲゲ……さ、サーセン……! ヨーゼフパイセンに変な虫がつかないように監視してるけど実は全然自分の方が火遊びで燃えてて地雷女をどう処理しようかいつも迷ってるレヴィ先輩って言ったんでゲスよぉ~!」

「どうやら死にたいようだなァー!!」

「ゲェー!? 嘘は言ってないのにぃー!」


 なんなら地雷処理に巻き込まれたのに俺!!

 ……まぁちょっとしくって起爆しそうになった瞬間に逃げたけど。


「ハハハ、レヴィも後輩ができて嬉しいんじゃないか。クラスメイトにだって、そこまで仲良くないだろうに」

「うるさい! そもそも、お前がもっとしっかりしていればオレも……ゴホン、私も苦労せずに済んだのだぞ!」

「ああ! キミのおかげで学園生活もとても助かっている! まさに心の友だ!」

「そんな言葉で騙されると思うなよ? まったく……これは貸しだからな」


 ボソッと「騙されてるぅ~」と言ったら首が開放されて地面に墜落してしまった。

 この人もこの人で難儀なこった。


「ヨーゼフ、そろそろ出発の時間だ。いつまでも遊んでないで早く来い」

「おっと、もうそんな時間か」


 そう言って立ち去ろうとする先輩達に、皆でお礼を言って見送ろうとする。

 ただ、トゥラだけは何か気がかりがあるようで……。


「あの、ヨーゼフ先輩。あのドリンク……中身って何なんですか?」

「ん? 大丈夫、変なものじゃないさ。僕も好きで毎日飲んでるくらいだ」

「そうなんですか、だから身体が大きいんですね!……それで、中身は何なんでしょうか?」

「健康と美容に栄養は欠かせないからね。いつかは君たちも毎日飲めるくらい成功するといいね!」

「はい! ありがとうございます! で、中身はなんですか?」


 しばらくの沈黙、そして―――。


「…………じゃあ、課題の合格を祈ってるよ!」

「ねえ!!!!! 中身は!?!?!?」


 トゥラは走り去るヨーゼフ先輩の背中を見送ることしかできなかった。

 俺は中身知ってるけど、面白いからしばらく黙っていよう。


 そんな波乱万丈な出会い系マッチングがありつつも、俺達もダンジョンに入ることにした。

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― 新着の感想 ―
ヨーゼフパイセン、後輩女子で遊ばない(笑)
いやぁ、やっぱりこの軽快なテンションとテンポはこの作者さんじゃないと味わえないぜ!(多分、後々クッソ重い事情展開が待っている事を覚悟しながら)
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