5話目:地雷パーティー爆誕!
さて……課題の発表から一週間が経過した。
俺はとっくに筆記試験をクリアし、残すはダンジョン課題だけ。
ちなみにクラスメイトでダンジョン課題をクリアしたのは≪ドルイド≫のエメトさんグループだけ。
他の奴らなど知ったことかと、彼女らはもっと上のダンジョンに挑戦している。
なんて白状なんだ!
ちょっとくらい俺に寄生させて課題クリアさせてくれもいいじゃないか!
鶴の恩返しみたいに将来その借りを返すからさ!
まぁ俺は鶴というよりメンドリとかそっち方向だけど。
三歩あるいたら爆発するとか変身が解けるとかそんな感じのやつ。
なんか違うな?
でもまぁ地元の学校じゃ「性根が鳥みてぇに軽いぞ」とか言われてたし大体合ってるか。
「うぉーい、ヒビキー! オレも筆記合格したぞ! まじでありがとな!」
「おぉ! やったじゃん! よぉ~しよしよしよし!!」
貸しを作る為に筆記試験必勝法的なものをクラスメイトに共有したおかげで、大体のクラスメイトは筆記試験を突破している。
あとはこの貸しを使ってお強いパーティーに寄生すれば楽勝って寸法なのだが――――。
「いや、悪い……まだ無理だ。ってか、オレらもまだクリアできてねぇのにお前を連れてはいけねぇよ」
「なによ! アチシが役立たずって言うの!?」
「役に立たないどころか邪魔だから困ってんだよ」
それを皮切りに、周囲から非難の声が押し寄せてくる。
「敵と一緒に味方を弱体化させてどうする」
「音が邪魔で戦闘に集中できねえ!」
「サウス・ゲヘナ式の音楽はやめろ! 地域によっちゃ宣戦布告もんだぞあれ!」
実験もかねて色々演奏したおかげでどんな音楽を奏でればどんな効果が出るのかが把握できたが、その代償として地雷みたいな扱いになってしまった。
「みんなして何よ! アチシが何したって言うのよ!!」
「利敵行為と味方を実験台にしたことだよ!」
「あーはいはい! 私が悪い、悪い! それでいいんでしょ!?」
「だからそうだって言ってんだよ!」
困ったな、反論できない。
ならば実力で黙らせよう。
「では聞いてください。かつて俺の世界で大流行した歌……<山月記・虎っ子のあの子はマタタビキメすぎてアヘアヘ腰振りマシーン>!」
異世界の十六弦楽器を取り出した瞬間、獣っ子の≪ライカンズ≫の奴らは一斉に尻尾を巻いて逃げ出した。
「やめろぉ! 深夜に頭の中で再生されて寝れなくなるんだよ!」
「というか寝ても悪夢になって追ってくるって何だよ!?」
「もうちょっとマトモなのを覚えてきなさいよ!」
これでもまともなやつをチョイスしてるんだがなぁ……。
やっぱり初手で<お兄ちゃん! そこは出し入れする穴だよぉ!>を歌ったのがトラウマになってしまったか。
そして教室の中には俺と……毛量が凄まじい女子一人だけが残ってしまった。
「……あれ、逃げないの? もしかして聞きたい? サビだけでいいなら十秒でやれるけど」
「あっ……いえ、そういうわけじゃないです……」
「聞くに堪えないとかそういうこと!?」
「いえっ! そういうわけでもなくて……! あ、あう……あうぅ……」
まずいな、なんか俺がイジメてるみたいな構図に見えてしまう。
これが現代社会だったらSNSで拡散されて学校の固定電話が32ビート刻んでるところだ。
「なんか一人だけ教室に残ってるってことは……もしかして悩みでもあったり? おいちゃん、話きこか?」
「いえ、別に悩みというほどじゃなくて……」
「うんうん、それは彼氏が悪いね。じゃあ、弾くね」
「まだ何も言ってませぇん………」
「まだ? じゃあ言う気はあるんだ。それならほら、言ってみそ。めちゃくちゃ真剣に重く受け止めるから」
「そ、そこまでのものじゃ! ただ、その……ワタシ、臆病なせいでパーティーを組めなくて……」
「臆病なせいにしちゃダメだ! 僕チンなんてグイグイ行ってるのにもう組んでくれる人いないんだぞ!?」
「ごっ……ごめんなさいぃ……」
おもしろいな、この子。
こんなにイジり甲斐があるのにパーティーに誘わないとか、男子の目は節穴か?
「よし、それじゃあ俺と組もう!」
「えっ……!? で、でも……」
「あぁ、エッチなことしそう? 大丈夫、絶対に手を出したりしないから! キミが崖から落ちそうになっても絶対に!」
「そこは手を差し伸べてくださいよぉ!」
「それは手を出していいって言質?」
「ちがくて……っ!」
うむ、打てば響く良い子である。
少なくともダンジョンで大失敗してもお互い笑って許せそうだ。
「とりあえずこれで二人。ダンジョン行くならもう二人か三人ほど誘いたいけど……心当たりあったりする?」
「ご、ごめんなさい……」
今のは俺が悪かった。
あったら最初からその人と一緒にいるか。
「よーし、お詫びに食堂行こう、食堂! 奢るぜ、奢るぜ、俺は奢るぜぇ!」
金はないが、留学生ということで衣食住の一部は保証されている。
俺がたまたま食いきれないほど頼んで、それを食べてもらうくらいならグレーゾーン。
つまり過剰に悪用しなきゃセーフだ。
――――そう思っていたのだが、ちょっと危ないかもしれない。
「はふっ! はふっ!」
俺が注文した分のほとんどを平らげられた。
なんというか、見てるだけでこっちまで満腹になってきた。
「あっ……ご、ごめんなさぁい……食べすぎですよね……うぅ~……」
「え? いいよ、いいよ。いっぱい食べるキミが好きって言葉もあるくらいだし。というかご飯食べてないの?」
「ワタシ、あんまりお金なくて……学園ならダンジョンで稼ぎながらご飯も食べられるって聞いたんだけど、最初のダンジョンじゃ全然お金にならなくて……」
「日替わりは無料らしいけど、おかわりは有料だもんなぁ。恵体の≪ホーンズ≫にとっちゃ足りないだろうね」
「あ、あれ……? ワタシ、≪ホーンズ≫って言いましたっけ? いつも間違われるのに……」
そう言って彼女は髪をかき分けて、小さな二本の角を見せてくれた。
先生の授業では、二本角は大きいことと捻じれていることが自慢らしいが、これではむしろ隠したくなるのも無理はないだろう。
「前にちょろっと髪からはみ出てるのが見えてね。あ、恥ずかしかった? それなら俺もパンツ見せた方が対等になるかな……」
「え、遠慮しておきます……」
「これから一緒に生死を共にする仲間じゃないか! 遠慮なんかしないで! さぁ!」
「ひゃあっ!?」
なんてバカなことをしてたら、思い切り後ろからはたかれた。
「コラー! ホルンちゃんをイジメない!」
後ろを見れば、小柄で羽の生えた女子が仁王立ちしていた。
「イジメてない! むしろイジメられたい!」
「分かるよ」
(!?!?!?)
フォークを片手に驚いてるホルンは置いといて、≪ピーシーズ≫のトゥラと固い握手を交わす。
かつては小さな妖精であったが、時代が進むにつれて大きくなり飛べなくなったと言われている種族だ。
妖精らしく陽気で開放的、お喋りでよくよく調子に乗るが自前の愛嬌で許される。
つまり俺のパクりだ。
ちょっと過言かもしれないが、話と飯は盛ってなんぼなのでヨシとする。
「で、トゥラちゃまも食事? 残念だけど今日は奢りないよ。全部食われちまったから」
ホルンが後ろの席で小さくなっている。
それでも食べる手は止まっていない。
素敵な食い意地です、ご友人。
「いやさ、パーティー組もうと思ってたけど皆とっくにダンジョン潜っててさぁ……。誰かいないかな~って来たら、ちょうどヒビキが特殊プレイしてたのを見かけたわけ♪」
「へぇ~、それじゃあ丁度よかったじゃん。一緒にダンジョン行こうZE!」
「やったー! ヒビキってば話が早くて助かるよ」
トゥラがこちらの手をとってブンブンとしてくる。
危なかった、"昔のボーイッシュな幼馴染が数年後に女子の制服で転向してきたけど距離感がそのままバグってる属性"がストライクゾーンだったら好きになってた。
つまり大好きということだ。
いやもう勘違いでもいい!
恋は錯覚って言うし間違いから始まってもいいじゃない!
「ちなみにもう一人いるけどいいよね?」
トゥラの指さす方向には、なんだか暗そうな女子がおり、こちらに軽く会釈をした。
「あら、トゥラちゃんの紹介なら無下にできないわね。いいわ、アタシが本物のお嬢様を見せてあげるわ!」
「なんでいきなりお嬢様?」
「民主主義の結果よ!」
女の方が多かったら男もメスになるって法律の本に書いてあった気がする。
ちょっと違ったかもしれないけれど、そんなの些細な問題よね!
「さぁ行くわよ、アンタ達。女の戦いにね!」
―――――きっちり一時間後、最後の生き残りであったホルンがダンジョンから死に戻ってきた。
「おかえり~。ボス戦、頑張ったね」
「ご、ごめんなさい……待たせてしまって……」
むしろ一人で三十分くらい持ちこたえたのが凄いと思うが、慰めにはならないんだろうな。
「えー、それでは反省会をします。先ずホルン……盾持ちが引いてどうする!」
≪ホーンズ≫というのは勇猛果敢な種族である。
だからこそ、種族的には前衛で味方を守るタンクになるのだが、ホルンは攻撃が来るとつい避けてしまう。
つまり盾を持つ意味がない!
シュンとしたホルンが可愛い、許す!
「次! トゥラ! 燃費悪すぎ!」
色術は各色ごとの術があり、トゥラは四色も使える。
ただし、何度か使っただけでもう色術が使えなくなる。
これで威力が高ければ一撃必殺系として運用できるのだが、普通に弱い。
連打もできないグミ撃ち攻撃に何の意味があるというのか。
テヘヘと愛想笑いするトゥラは可愛いね、許す!
「あとヨグさん! 味方を殺す気か!?」
暗い系女子だからおとなしいと思ってたら一番ヤバかった。
よくゲームで呪文とか必殺技を言うのはカッコイイからだと思ってたけど違った。
あれって味方を巻き込まないように、どんな攻撃するかを報せる為のものだったんだと実感した。
ヨグさん、無言で色術をバンバン撃つせいでマジで危なかった。
なんなら俺の死因、こっち抜けてきた敵が俺の方に来て、それをヨグさんが色術で迎撃したら巻き込まれたわけだし。
「俺じゃなかったら死んでるぞ! プンプン!」
「いやいや、死んでたから。一番最初に脱落したから」
自分でも自覚しているのか、ヨグさんも申し訳なさそうに俯いている。
俺は曇る系もイケる、つまり今のログさんもイケるので許す!
そんな彼女をフォローする為か、トゥラがこっそりとこちらに耳打ちしてきた。
「あの子、呪いで声がちょっとな……あんまり怒らないでやってくれ」
「喘ぎ声になっちゃうとかそういうの? オホ声の大きさならアチキも負けないわよ」
「対抗すな」
まぁ事情があるなら仕方がない。
責めてその事情になった原因が消えるなら四連鎖でも五連鎖でもばよえーんでもやるが、そうじゃないならこれからどうするかを考えた方が有意義だ。
「ちなみに俺の反省点ってなに?」
人様の欠点だけをあげるだけでは不公平なので、こちらのダメな点も聞いてみる。
三人が顔を合わせ……腕を組んで悩んでしまった。
「え? なに? もしかして何もなし? 欠点のないパーフェクトな人間……って、こと!?」
「いや、それはなくて……」
ないのか。
まぁ分かってたけどさ、もうちょっとオブラートの包み焼きくらいはしてほしかった。
「最初にホルンを突破した敵がこっちに来た時、庇ってくれただろ? そのあと、ずっと腹を抑えてて何もしてなかったよな。だから、こう、判断に困るって言うか……」
そういえばそうだったね。
一曲どころか楽器に触らないまま誤射で死んだわ。
ダメダメな空気がさらにグダグダになりつつある。
これ以上は無駄なので、大きく手を叩いて空気を入れ替えることにした。
「よし、反省会終了! お疲れ様でした! 解散!」
やっぱりという感じで、全員が気落ちしたまま立ち上がる。
「そんじゃ、次のダンジョン攻略はいつにする? 俺的には明日の朝とかでもいいけど」
それを聞いて三人とも驚いた声をあげる。
「えっ!? ま、またパーティーを組んでくれるんですか……?」
「あんな大失敗したのに、本気なの!?」
「ァ……アヴ……ァァァゥゥ……!」
「というか逆に聞くけど、他の人とパーティー組めると思う?」
三者三様、それぞれの困った感じで反応を返されてしまった。
「というわけで、この四人で課題クリアしよう。ギリいけるっしょ」
「そうだよな! まだ三週間もあるんだ、きっとクリアできるって!」
「へ? 三週間? 俺、次かその次のアタックで攻略する気なんだけど」
ホルンとヨグが、信じられないようなものを見る目でこちらを見つめてくる。
ピョンピョンと元気よく跳ねていたトゥラの動きも止まり、聞き返してきた。
「ほ、本気か……? あぁ! そういう意気込みで頑張ろうってやつか!」
「いや、マジだよ。この面子でクリアできるから言ってるんだけど」
流石にソロも含めて一週間もダンジョンに潜れば大体の傾向と流れは掴める。
あとは攻略する為に必要な要素を集めればいいだけだったが、それも揃った。
「皆、何度も死んだっしょ? 死は失敗ではなく、意味があったんだって証明するよ」




