2話目:初ダンジョンとその成果
私はー! いまー! ダンジョンのアマゾンっぽいところに来ていまーす!
ちょーこえーでーす!!
確かにダンジョンの学園なんだからすぐダンジョンに潜りたいって思ってたよ。
でもさ、チュートリアルって必要じゃない?
いや、ダンジョンの入り方というか出し方は教えてもらったけどさ。
種みたいの貰って、それを埋めて、しばらくしたら別次元の入り口が出来るとかロマンとファンタジーが感じられてよかったけどさ、
だけど、まさかいきなり何の準備もなしで中へ放り込まれるのはちょっと違うじゃん。
そんな難易度じゃ人はついていかないよ!?
ダンジョン内で死んでも気絶して放り出されるから平気?
ならええか……。
よくねぇよ! 命は一つしかないんだぞ!?
ついでに目は二つに口は一つ!
げっへっへ、こっちの口は正直じゃないか……って台詞もあるし口も二つか三つくらいあるか。
まぁそんなことはどうでもいいんだ。
ダンジョンなのにアマゾンってなんだよ。
もう私ダンジョン君のこと分からないっ!
……だからこの学園に来たんだったわ。
はぁ~……馬鹿なこと考えてたら落ち着いてきた。
死んでも死なないみたいだから、実際にそれを体験させたいんだろうな。
ついでにダンジョンの怖さってやつを最初に叩き込むと。
あの先生、ロリなのに結構スパルタだな。
むしりロリだからスパルタなのか? 異世界の流行なのか?
……と、アホなこと考えながら周囲を観察してたら道っぽいものを発見したので進んでみる。
木々からガサガサ音だったり変な鳴き声みたいなものが聞こえるけど全部無視。
道中の分かれ道、宝箱っぽいものが見えたけど無視。
アマゾンで宝箱はおかしいだろ。
あと下手に開けたら石化したり爆発したり毒矢が飛んでくるに決まってる。
ソースはダンジョンローグライクの攻略動画。
そして進む道の先にクソでけぇダンゴムシみたいな虫型モンスター発見。
明らかな攻撃態勢に入ったのを見て、咄嗟に地面に伏せる。
≪バキィ!≫
先ほどのダンゴムシがバウンドし、俺の近くの樹に直撃。
哀れ樹には折れなかったものの、ひび割れてしまう。
下手に当たれば死ぬのは確定的に明らかである。
じゃあここで死んでさっさと帰るのも有りか。
再びダンゴムシが攻撃態勢に入るのを冷めた目で見ていたが、ふと気づいてしまった。
下手に当たれば死ぬのではなく……うまく当たらないと死なないのではないかと。
つまり、死にぞこなったら痛みでのたうち回り、文字通り死ぬまでなぶられることになるということだ。
「ッスゥー……それは流石に勘弁!」
地面を転がり、二投目となるダンゴムシボールを回避。
そのままダッシュで逃げるが……このまま逃げてどうなる?
追われて、たかられて、なぶられて、死ぬまで痛めつけられるだけ……。
ならもう殺すしかないじゃない!
よし、殺すか。
先ほどの分かれ道から宝箱まで戻る。
追ってくるダンゴムシが再び飛んでくるタイミングを計って、宝箱開ける。
トラップ宝箱オープン!
……しかし、何も起こらなかった。
「ハズレかよチクショー!」
本来なら罠がない方が当たりなのだが、今はハズレである罠がほしかった。
とはいえ、予想以上に宝箱が堅かったせいか、ダンゴムシが腹を見せてジタバタと隙を晒している。
何か武器はないかと周囲を探ると、散乱した宝箱の破片の中に小さな石のナイフが見えた。
即座にそれを掴み、思い切りダンゴムシの腹に突き立てる。
≪ギュイイイイイ!≫
しばらくは見苦しく体液を飛び散らせながら暴れるダンゴムシだったが、すぐにパッタリと死んだ。
「へっ、きたねぇ断末魔だぜ」
ナイフを引き抜き、虫の体液を払うように石のナイフを振るう。
……今のちょっとかっこよかったな、もう一回やろう。
とか思ってたら、茂みの中からダンゴムシの団体さんが見えた。
「あっ……もしかしてあれ、断末魔じゃなくて仲間を呼ぶやつですか?」
そうだと言わんばかりに、一斉にやつらは攻撃態勢に入る。
俺は全速力で逃げた。
「恥ずかしいとは思わないのかお前らぁ!!」
あーあ! 虫風情には武士道とか騎士道とか分かんねぇだろうな!!
でも囲んで叩いて殺せとか言われてたみたいだし、ある意味体現してるのか?
ああもう分かんない! サメとかムカデの映画くらい分かんない!
とにかく逃げる! 逃げ切って見せる!
しばらく走って、後ろを見る。
≪ヴヴヴヴヴヴ!≫
ふーえーてーるー!
多分あれだ!
倒して進まないとドンドン増えてくやつだあれ!
でも俺には無理!
だから死ぬまで逃げ続ける!
走って走って走って走って息が切れても走り続けて頭の中のマップも真っ白になるくらい走って……よく分からない光があったのでそこに飛び込んだ。
ふと……これゲームだとボス前のやつでは?、という考えがよぎって覚悟した。
しかし、光の先に見えた光景は―――――パンツであった。
「………エトルリア先生?」
「下着で人を判断するな!」
先生の痛くないゲンコツをくらい、夢ではないことを実感した。
「とはいえ、普通は全滅するもんだが……お前もよく生きて戻った。誉めてやろう」
「幼稚園児じゃねぇんですから……」
エトルリア先生に撫でられながら周囲を見ると死屍累々……いや、生きてはいるんだろうけど全員がぶっ倒れていたり痙攣したりしている。
俺も死んでたらあの中の一員になってたのかぁ……死ななくてよかった、マジで。
安心しきってぐったりしていると、大きな影がさしかかる。
「……先生、これからの予定は?」
「うむ、どうせ全員使い物にならなくなると思っていたから無い。帰っていいぞ」
俺が押し倒した……もとい、先生のせいで押し倒すことになってしまった女子は、こちらに再び軽蔑の目を向けて去っていった。
……好感度を元に戻すアイテムとか、ダンジョンから出ないかな。
「ちなみにあやつはボスまで倒してダンジョンを踏破したぞ」
「マジで!?」
武器とか持ってないから、やっぱ魔法とかそういうの使ったんだろうか。
それでも普通にスゲーなぁ、入学初日でボス撃破とかエリートじゃん。
「あ、武器で思い出した! 先生、これダンジョンで拾ったんすけど!」
「おぉ、戦利品まで手に入れてきたのか。うむ、これは……!」
エトルリア先生の目つきが先ほどと全く違う、真剣なものへと変わる。
「もしかしてチートアイテム級の武器だったり!? ビームが出るとか敵が即死するとか!」
「うむ……ゴミだ!」
「くそったれぇ!!」
「いやいや、ただのゴミではないぞ。何の価値も見出せぬという点でずば抜けておるゴミだ!」
「ゴミなんじゃねぇか! いくら美味しそうに見えても食品サンプルは食えないんですよ!?」
結局のところ……俺がダンジョンで得られた成果は、凄い産廃と役に立つかどうか微妙な経験だけであった。
(うぅむ、年代が特定できれば年代に応じた値段がつく収集品になりそうだが、それが分からん)
(つまり現時点では消失時代のモノだと思われるが……消失時代のゴミの可能性もあるしなぁ)




