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魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る  作者: kadochika
3.隠形、接近

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3.17.戦いの後始末

 まだ夜明け前にもなっていないが、戦闘は終わり、安全も確認された。

 宮殿の宿舎にも、損傷などはないようだった。

 ディゼムたちはひとまず休むため、そこに向かった。

 が、その前に、彼らを呼び止める者がいた。


「すみません、行く前に改めて、お礼を言いたくて」


 アールヴの王子、トレッドだった。

 畏まって、ディゼムたちに一礼する。


「ありがとうございました! 僕たちを救っていただいただけでなく、アールヴィルや人間たちまで、命がけで守っていただいて、本当に感謝しています!」


 ディゼムは胸中では鬱陶しく感じながらも、それに応えた。


「……あぁ、その。どういたしましてっていうか」

「少し危ないところでしたが、女王陛下のお陰で事なきを得ました。こちらこそありがとうございました、トレッド殿下」


 同じように折り目正しい礼を返したのは、アケウだ。

 ホウセは昨晩彼に会った時と同様に、口を尖らせて注意する。


「向こうは安全だと思うけど、もう彼女のためだからって、無茶しちゃダメだよ?」

「はい! 必ずクロナを幸せにしてみせます!」

(誰もンなこた聞いてねぇ……寝かせてくれ……)


 ディゼムの怨念は確実に表情に出ていたことだろうが、やり取りはまだ続いた。

 彼の着ている黒い鎧から、プルイナが音声を発する。


『トレッド王子。我々からも一言』


 トレッドは鎧からの音声を聞いて、慌てた。


「あぁ、失礼いたしました……! 鎧のお二人のことを失念していて!」


 ディゼムを無視して、プルイナは言葉を続ける。


『我々は書物による伝承でしか、アールヴのことを知りませんでした。寿命が長く、美しい種族であるという記述は正しかったようですが……人を惑わし弄ぶという点については誤っていました。あなた方は心優しく、誠実な種族でした。もちろん、過ちを犯さないわけではありませんが』

「うぐ……は、反省しています」


 うなだれる彼に次に言葉をかけたのが、エクレルだ。


『避難民は150年前の、悪魔の記憶も生々しい世代だ。庇護者の代表として、平和なインヘリトに馴染めるように協力してやってくれ』

「もちろんです。異世界のお二人も、どうかお元気で」


 彼は再び一礼すると、中庭の方へと去っていった。

 ディゼムたちは疲労もあって、それ以上は一言も交わさず、宿舎へと向かった。

 彼らはそれぞれの部屋で、泥のように眠った。












 太陽も高度を上げ始め、アールヴィルの時間で午前10時をまわった頃。

 三人の中でもっとも起床が早かったのは、ディゼムだった。

 たたずむ黒い鎧の中から、プルイナが声をかける。


『ディゼム、おはようございます』

「あぁ……おはよう」

『疲れはだいぶ取れたようですね』

「着てもねえのにンなことまで分かんのかよ……まぁいいけど」


 隣のベッドを見ると、アケウはまだ眠っていた。

 透明な敵を相手に目を酷使したことだろうから、仕方あるまい。

 残る二人の女たちのことが気になり、ディゼムはプルイナに尋ねた。


「ホウセと姫様は?」

『ホウセはまだ眠っていますね。ファリーハは女王ムアと話す予定があるということで、先に朝食を取っています』

「ふーん……そういや、昨日は戦闘の後片付けなんかはアールヴたちに任せっきりにしちまったな……飯をもらったら、手伝いに行くか」

『殊勝な心がけです』

「ヒマ持て余すよかマシだろが」


 アールヴィルに来る前は、召喚失敗の余波もあり、何もない日程が続いていたのだ。

 戦闘で疲れてはいたが、今の彼にはやることがある方がありがたかった。

 それに答えて、プルイナは述べた。


『では、本機とエクレルからの役割分担の提案があります。アケウとホウセを起こして、三人で聞いてください』

「急ぐ必要がないんなら、先に聞かせてくれ。無理に起こしたくねえ」

『そうですか。では――』











 昼が近づいた頃、ファリーハは女王ムアの私室に招かれていた。

 睡眠も食事も取ったため、疲労はさほどでもない。

 ファリーハが挨拶をすると、彼女は微笑んだ。


「苦労をかけた、王女殿下」

「女王陛下こそ、危険な局面でお力をお貸し頂き、感謝してもしきれません」


 ファリーハも、改めて礼を言った。

 女王は大魔術を立て続けに使用したことで衰弱していたが、今は小康状態にあるようだった。

 髪飾りもドレスも身につけない、寝間着姿だ。

 彼女は自分の額に手を当てると、


「フフ、魔宝もなしに、大魔術を2度も使ってしまった。寿命が100年ほど縮んでしまったことだろう」

「えっ」


 一瞬硬直するファリーハに、ムアは再び笑いかけた。


「冗談だ。もし本当に100年減っていたとしても、悔いのない使い方ができたと思っているが……すまない、話に入ろうか」

「……はい。これを、お返しにうかがいました」

「おお」


 彼女が布を開いて取り出したのは、赤く輝く巨大な宝石。

 悪魔に奪われていた、“赤い海”だった。


「悪魔の死体から回収しました。お返しします」

「ありがとう。ただ、もはや避難民たちもここで冬眠を続けるつもりはないだろうからな。これは宝として、しまっておくこととしよう」

「それがよいかと思います」


 女王は“赤い海”を枕元のキャビネットにしまい、話題を変える。


「それと、避難民の件、感謝する」

「インヘリトでも、150年前のことを知っている人は全て亡くなっておりますので……今回当時の証人となる人々を連れ帰ることができたのは、意義のあることだったと思います」


 避難民のインヘリトへの転移は、既に完了していた。

 1人の怪我人も出すこと無く、無事に連れ帰ることができたのは、素直に喜ばしいことだ。

 ファリーハとしては、また帰国して様々な手続きをしなければならないだろうが。


「ははは、そうだったな……」


 女王が笑う理由が見えないでいたが、自嘲しているらしかった。


「やはり我らは傲慢だな。人間の寿命が150年に届かないことを、こうも忘れて考えている」

「いえ、そのようなことは……」

「そうもいかない。避難民たちのことも、息子のことも、改めてよろしく頼みたいのだ。それなりの年齢ではあるのだが、あの子が傲慢な男にならないよう、時には指導してやってほしい」

(指導って……彼はクロナさんが死ぬまでインヘリトにいそうなんだけど、その間中ずっと……?)


 まさか、押し付けられたか?

 そう危惧していると、女王にはまだ話すことがあるようだった。

 健康上の心配は、不要になりつつあるのかもしれない


「冬の宮殿も、もう用がなくなってしまったな。今回の礼として、あそこを、転移の紋様を設置する“駅”にしても構わないと思っている」

「本当ですか……!?」


 昨夜は棄却されただけに、思わぬ申し出だった。


「ただし、整備はそちらの持ち出しで行うこと、悪魔との争いの余波をアールヴィルに及ぼさぬこと。この2つが条件だ」

「分かりました……ご厚意に、甘えさせていただきます!」


 収穫を得て、彼女は胸を高鳴らせた。

 旧世界の奪還が、また一歩前進したのだ。











 午後のアールヴィル周辺は天候に恵まれず、曇天が広がっていた。

 どんよりとした曇り空の下で、アールヴたちが戦闘の後処理を行っている。

 目下の最大の懸念は、悪魔たちの死体だ。

 これらを念入りに埋め立てるなどしておかなければ、いずれ他の悪魔たちに発見されてしまい、アールヴィルを攻撃する理由となり得るだろう。

 世界各地を巡回しているという軍団が来る前に、隠蔽しておかなければならなかった。

 ただ、それにまつわり、別の問題もあった。

 生き残った下級悪魔たちだ。

 ディゼムたちがアールヴィル東部の平原で戦闘に入った際、粘着繊維弾(バインド・シルク)によって練り固めた下級悪魔たちの群れ。

 彼らの多くが生存しており、その処置はまだ、決まっていなかった。

 ディゼムは既に起床し黒い鎧を着装、プルイナと共にそこにいた。

 アールヴの役人が、未だにうごめいている大きな悪魔団子の近くで尋ねてくる。


「どうしますかね、これ。我々のことは無視するんですが、人間を見ると襲って殺そうとしてきますよ」

『避難民や我々がいなくなった状態で自由にすると、どうなりますか?』


 プルイナが、彼に尋ねる。

 役人は答えて、


「徘徊して別の悪魔たちと合流しようとするでしょう。言葉が喋れないように見えますが、下級悪魔は情報収集役も兼ねています。中級以上の悪魔とは意思疎通ができるようで、恐らくここで起こったことを報告されます」

『残念ですが、殺すしかありませんね』


 殺す、という表現が、ディゼムにとってはやや、衝撃だった。

 しかし、プルイナが言葉を濁さず、正論を言っているのは理解できた。


「……アールヴィルが報復を受けるのはまずいもんな。それしかねえか」

『尋問のために何人か残して、あとは殺さざるを得ないでしょう。尋問が終われば、それも殺してしまいますが』

「そうだな……そりゃ、俺の仕事だろうな」

『アールヴの兵士たちに任せると、時間がかかりすぎたり、逆に被害が出る可能性がありますので……適任は、我々です』

「お前とこんなに意見が合ったのは初めてかもな」


 アケウやホウセにはさせたくないというのが、本音だった。

 彼らも道中で悪魔を殺してはいるが、全て戦闘の中でのことだ。

 動けない相手を殺すことは、させたくなかった。


「じゃあ、悪りィけど、何人か尋問用に残すから、そいつらの捕縛だけ頼む」

「わかりました」


 ディゼムは塊になった下級悪魔たちに、黒い鎧の指先を向けた。

 指先の多目的射出孔から水が噴射され、下級悪魔たちを塗り固めていた粘着繊維を分解する。

 粘着繊維の正体は、強固だが容易に加水分解するという性質を持った高分子化合物だった。

 拘束を解かれた下級悪魔を3人、アールヴたちと協力して捕縛する。


「んじゃ、よろしく。あとは離れててくれ」

「お気をつけて!」


 敬礼し、下級悪魔を連れて離れていくアールヴの兵士たち。

 そして、ディゼムは残った動けない悪魔たちを殺す作業に取り掛かった。

 黒い鎧の左腕の装甲全体が変形し、限局核レーザー砲(ガンマ・ガン)の砲身となる。


『ディゼム、呼吸が乱れています。休止を提案します』

「…………ありがたいが、いらねえ」


 ふと空を仰ぐが、やはり空は分厚い黒雲に覆われていた。

 晴れるでも、雨を降らせるでもないそれが、妙に鬱陶しい。


「ガンマ・ガン、行使――」


 彼は、構えた武器を目標に向けて発射した。











 ホウセは起床後、偵察に来ていた。

 場所は昨晩、悪魔たちが集団でたむろしていた地点だ。

 ディゼムとアケウが悪魔たちを迎撃した平原の、更に東となる。

 そこで彼女は、あまり見たくはなかったものを見ていた。

 開けた荒れ地に放置された、テーブルや椅子。

 空になった酒瓶や、薄汚れたカード。


「…………」


 悪魔たちの、野営の跡だ。

 彼らは人間のような食事こそしないが、水は飲む。

 彼らは人間のような産業こそ持たないが、人間の作った道具を使うだけの知性は十分にある。

 彼らは人間のような文化こそ持たないが、人間の娯楽を模倣して楽しむだけの感性すら持ち合わせている。

 元々は人間を石にして喰らうだけだった種族が、人間の作った椅子やテーブルを持ち歩く。

 遺棄された酒を見つければ水代わりに飲み、カードゲームがあれば我流のルールで楽しむ。

 悪魔たちは、そのような文化すら醸成しつつあるのだ。

 下級悪魔はともかく、中級以上の悪魔は形態にかかわらず、人間の言語を扱えもする。

 大規模な産業こそないが、強大な魔術を扱い、魔術の武器を作るような技術すら持っている。

 にも関わらず、やはり悪魔たちは、人間を捕食対象としてしか見ていない。

 ディゼムたちに見せたなら、恐らく戸惑いつつも、憤ることだろう。

 だが、本来なら悪魔たちとの争いには無関係だったはずの、異世界の鎧たちならばどうだろうか。


(プルイナとエクレルが見たら、なんて言うかな……?)


 彼女たちにこれを見せるべきか、隠すべきか。


「……」


 いずれ分かることだ。

 ホウセは少し迷ってから、首元の通信機を起動した。












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