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魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る  作者: kadochika
3.隠形、接近

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3.13.悪魔の塊

 飛び出し、気配に向かって槍を繰り出すホウセ。


「っ!?」


 しかし、真紅の槍はあっさりと受け止められる。

 とっさに飛び退こうとするが、槍はかなり強固に掴まれているらしい。

 相手の視覚を塞いだと思っていたホウセは、やや動揺した。


(見えてる……!? この濃霧の中で、こっちの動きが!?)


 仕方なく槍を手放そうとすると、悪魔ヒュメノの声が聞こえた。


「騙したな……!」

「……!?」


 ホウセは腹部に打撃を受けて、真紅の槍から引き剥がされた。

 その勢いを殺しきれず、彼女は宮殿の通路の内壁に衝突する。

 壁が破砕され、真紅の鎧はその向こうへと吹き飛んだ。

 悪魔は姿を消したまま、なおも追撃してくる。

 何やら、つぶやく声が聞こえた。


「私を騙すために、霧を生み出したな……!」

(何いってんのコイツ……!?)


 武器を奪われたまま、体勢を立て直せない。

 それどころか、悪魔は姿を消したまま、真紅の槍を振るってきた。

 回避。

 爆音とともに、床材が砕ける。

 その残響に、悪魔の叫び声が交じって聞こえてきた。


「私は騙されない! 私は騙されるのが、嫌いだ!!」


 体勢を立て直せないまでも、ホウセは床を転がりつつ、魔術の霧を消す。

 霧に関係なく相手から自分が見えているのなら、自分の視界を阻害する行為でしかない。

 突き出される真紅の槍を、かろうじて避ける。

 敵の武器までは透明にできないらしく、そこは救いだった。


「自分は姿を消してるクセに、何なのそれ!?」


 どうしても言いたかったことを口にすると、ホウセはどうにか姿勢を立て直した。

 そして、真紅の槍の動きで悪魔の位置を見切ると、再び呪文を唱える。


「鋭く、膨らめ!」


 それを受けて、真紅の槍全体から、無数の棘が爆発的に伸びた。


「ぐ!?」


 棘の一部が刺さったらしく、悪魔はうめいて、真紅の槍を空中に放り投げたように見えた。

 相手が透明なので、あくまで「そう見えた」だけだが、


「疾く、戻れ!」


 呪文を唱えて、ホウセは槍を取り戻す。

 無数の棘は既に消えている。

 彼女が真紅の槍を構えると、ヒュメノは再び襲いかかってきた。


「また騙したな!!」

「戦いなんて、騙し合いに決まってるでしょうが!」


 悪魔は今しがたの棘による攻撃で出血しているらしい。

 青黒い血液が空中に滲んで、透明な腕に合わせて動いているのが見える。


(これなら、何とか戦え――)


 だが、甘かった。


「うっ――!!」


 出血から相手の腕の位置をおおよそ把握し、防御する。

 タイミングを合わせて威力を減殺しても、なお悪魔の攻撃の威力は凄まじかった。

 再び壁へと吹き飛ばされ、槍を取り落としそうになるホウセ。


(こいつ……たとえ透明になってなくても、かなり強い……!)


 先程から魔術の霧の中でも、的確に彼女の居場所を捉えて攻撃を加えている。

 恐らく、アールヴたちから奪った“赤い海”を取り込んで力に変えているのだろう。

 真紅の槍を構え直す彼女を、悪魔がわめきながら追撃する。


「私を騙すな! 欺くな!」


 一発目はかろうじて回避。

 次撃は間に合わず防御、やはり吹き飛ばされる。

 姿勢を崩されないようバランスを取ると、ホウセはまずいことに気づいた。


(やばい、これ以上は……!)


 方角が悪い。

 戦闘が冬の館へと近づいている。

 もともと宮殿と冬の館とは、隣接していると言っていい位置関係にあった。

 ホウセから避難民たちへと目標を変更されれでもしたら、厄介なことになる。

 守り切れない。


「早く! その鎧と槍を! 渡せ!!」


 半ばうわ言のように言葉を発するヒュメノの攻撃を、また防御する。

 その度に大きく弾き飛ばされるが、真紅の槍と鎧はよく耐えていた。

 この槍と鎧は大切な道具で、相棒のようなものだ。

 それを他人に、ましてや悪魔などに。


「渡すかぁっ!!」


 言葉とは裏腹に、振った槍は空を切った。

 やはり、速度や反応が尋常ではない。

 今度は足を掴まれ、悪魔が大きく跳躍する。

 空中へと引きずり出された格好だ。


(……やっぱ見えないってのは不利すぎる……!)

「渡せェッ!!」


 そのまま凄まじい勢いで、下方へと放り投げられる。

 受け身を取る暇もなく、ホウセは大地に激突した。

 場所は、冬の館のすぐ近くだった。

 既に異常に気づいたアールヴの兵士たちが、集まってきていた。


「何だ!」「見ろ、空中から液体が!」「姿を消す悪魔か!?」


 武器を手に、虚空から滲み出た青黒い血液を遠巻きに取り囲もうとしている。


「ヤバいっ……!!」


 何しろ、姿が見えない相手だ。

 アールヴとはいえ、生身の兵士たちに勝ち目があるとは思えなかった。

 冬の館も近い。

 避難民たちのいる地下へと、踏み込まれてはならない。


(何とかしないと……!)


 立ち上がろうとした時、鎧から伝わってくるざわめきが、急速に強まった。


「ッ!?」


 どん、と大きな音を立てて、彼女は鎧の上から踏みつけられた。

 たまらず体勢を崩し、瓦礫へと叩きのめされる。

 そして、


「私は騙されない……!」


 真紅の槍を、手の中から再び奪われた。

 それどころか、身体の上に馬乗りにされ、兜の上から頭を掴まれる。

 悪魔の姿は、なおも見えないままだ。


「さあ、鎧も渡せッ……!!」


 そのまま鎧に槍を突き刺されてしまえば、彼女は死ぬだろう。

 彼女が死ねば、次は避難民か、アールヴたちだ。

 敗色が濃厚だった。











 ディゼムとアケウは、それぞれの鎧をまとって東へ飛ぶ。

 追加武装こそ完成しなかったが、胸部と大腿部、前腕部の装甲に、既に呪いを防ぐ魔術紋様を描画していた。

 相手が呪いの魔術を使ってくる限りは、それぞれ5回まで無効化することができる。

 東の空には、月が昇っていた。

 そして、それを背後にそびえ立っている、巨大な影。

 機体のセンサーとドローンのカメラ情報を合成しつつ、敵を観察する。

 胴体よりも太い腕、ナメクジのような下半身。

 無論、悪魔だった。

 足元には、下級悪魔の集団が群れで歩いている。


『ドローンが巨大化の瞬間を捉えています。アウソニアで遭遇したものと同様の、自身を巨大化させる魔術の作用でしょう』

「ああいう相手なら、ガンなんとかが使えるよな?」

『今なら風向きは西、限局核レーザー砲(ガンマ・ガン)も使用可能で――』


 だが、彼らが発射体制に入る前に、悪魔が奇妙な動きを見せた。

 巨大な悪魔はかがむと、無造作に手で足元をすくい上げる。 

 土砂ではない。

 下級悪魔(ダフニア)たちだった。


「……何だ!?」


 すくい上げた下級悪魔――推定で数百人を、悪魔は両手で捏ねあわせる。

 通信を介して、アケウの声が聞こえる。


「見たまんまだけど……味方を、捏ねてる……?」


 ガラスのような体組織を持つ下級悪魔たちが凝縮されて、所々で月明かりを反射した。

 そして、更に悪魔はそれを手に握り、振りかぶった。

 ディゼムは思わず悲鳴をあげる。


「投げんのかよ――!?」


 そう。巨大な悪魔は本当に、投げた。

 下級悪魔でできた悪趣味で巨大な球が、回転しながら高速で飛来する。

 鎧たちは、即座にその軌道を計算した。


『――落着予測地点、アールヴィル!』


 そして、対処する。


『アケウ、止めるぞ!』

「分かった!」


 白い鎧がスラスター全開で急速反転し、巨大な悪魔団子の行く手を阻みにかかった。

 先日迎撃した魔術の隕石より速度は遅いが、質量がはるかに大きい。

 限局核レーザー砲(ガンマ・ガン)では、悪魔たちが放射化した燃えカスとなってアールヴィルに降り注いでしまう。

 破砕(エクスプローシヴ)(バレット)では、破壊力が足りない。

 近距離(クロスレンジ)レーザーや流体(キネティック)焼夷弾(プラズマ)は、飛来する悪魔の塊を、燃えながら飛来する悪魔の塊に変えるだけだ。

 単純な破壊力では、阻止できない。

 ならば。


『バインド・シルク、連続行使!』


 悪魔団子の軌道の途中に割り込んだ白い鎧は、指先の多目的射出孔から多数の粘着繊維弾を連射した。

 粘着繊維弾は回転する悪魔の塊に全弾命中し、その表面を白い繭のようなもので覆い尽くした。

 そして白い鎧はそのまま、飛来する下級悪魔たちを受け止める。

 

「ぐっ……!?」


 全身のスラスターを、可能な限りアールヴィルの方へと向けて噴射する。

 悪魔団子の重心を射抜くようにして、勢いを殺すのだ。

 単に受け止めただけでは、バラバラにほぐれた悪魔たちがアールヴィルへと降下する恐れがあった。

 だが悪魔の塊の各部に付着した粘着繊維弾(バインド・シルク)の粘着力のおかげで、それは防いだようだ。

 団子の中で鎧の近くにいた下級悪魔たちが、木の枝を束ねたような形の腕を振り回し、こちらを攻撃してくる。

 アールヴィルへの直撃は阻止した。

 

『安心するな、次弾が来るぞ!!』

「っ!」


 エクレルの言う通り、2発目、3発目が飛来していた。


『こいつを使って、1発分相殺する!』


 エクレルが白い鎧を操作して、保持していた悪魔の塊を放り投げた。

 粘着繊維は鎧にも貼り付いていたが、辺縁(フロンティア)収奪(エクスプロイション)装甲(アーマー)を微弱に作用させて剥がす。

 投げ飛ばされた悪魔の塊は、似たような軌道で飛んできた別の悪魔団子に衝突し、崩壊させた。

 塊のままの悪魔たちも、バラバラになった悪魔たちも平原へと落ちていく。

 一方で、黒い鎧も同じ行動に出て、悪魔の塊がアールヴィルに落下するのを阻止していた。


『こちらは任せてください!』

「クソ、頭おかしいだろ悪魔ってのは!?」


 だが、それだけでは終わらなかった。

 巨大な悪魔は、それまでよりも更に巨大な悪魔の塊を握り固めていた。


「!?」


 そしてやはり、それを投げつけてきた。

 黒い鎧と白い鎧はそれに対処すべく、空中で互いに接近し、手を合わせた。

 文字通り、両手の平を接触させて、


『バインド・シルク、行使!』


 2領が再び離れると、そこには粘着繊維でできた大型のネットが形成されていた。

 それを大きく広げて、悪魔の投げた大玉の軌道上へと移動する。

 そして接触――粘着繊維の網は悪魔の塊をキャッチして、大きく伸びた。

 鎧たちはスラスターを噴射するが、あまり強く噴かせても、今度はバインド・ネットが千切れてしまう。


「くっ、耐えてくれっ……!」


 祈ったからではないだろうが、10秒ほど速度を減殺して、巨大な悪魔の塊は停止する。

 アールヴィルに着弾する懸念はなくなった。


『切り離します』


 手元の粘着繊維を分解すると、巨大な悪魔団子は地上に落下し、崩壊した。

 気づけば、それを投げつけていた巨大な悪魔もいない。

 巨大化の魔術を解除したのだろう。

 鎧たちが視界を拡大すると、姿形の様々な悪魔たちがやってくるのが見えた。

 姿形の一様な下級悪魔たちと異なり、様々な魔術を操る個体が集まっているはずだ。

 眼下の平原には、粘着繊維に絡め取られていない下級悪魔たちも大量にいた。


「まずはこいつらからだな……!」『それがいいでしょう』

『アケウ、あれを使う!』「……わかった!」


 ディゼムとアケウは、鎧のスラスターを上方に噴射して急降下した。

 限局核レーザー砲(ガンマ・ガン)を起動すると、左腕の装甲全体が変形する。

 着地と同時、彼らは東に向けてガンマ線レーザーを照射した。


「ガンマ・ガン、行使!」











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