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魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る  作者: kadochika
3.隠形、接近

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3.8.夜中の逃避行

 そして、到着予定時刻が近づいた頃。

 時刻は夜、右手に月が昇り始めていた。


「見えてきたよ、アールヴィル!」


 先頭を飛ぶホウセが、首の通信機を介してディゼムたちに報告する。

 鎧たちのセンサーにも、鬱蒼とした原生林から垣間見える建築物の形状が捉えられた。

 ディゼムはプルイナが強調処理を施した映像を見て、感想を述べた。


「分かりづれえ! この距離で夜だってのに、よく見えるなあんなの」


 遠くに見えたアールヴたちの住処は、徐々に近づいてくる。

 だがその時、アケウが声を上げる。


「待って、あそこに人が!」


 すかさずエクレルが内部のアケウの視線を追い、人影を特定する。

 方向はすぐに黒い鎧にも共有され、ディゼムはプルイナが視界に投影した矢印を追って、同じものを発見した。

 ホウセは2人の視線の先を見て、それを特定したようだった。


「あれか!」


 2人の――若い男女が走っている。

 プルイナとエクレルは、それぞれの着装者の視界に補正をかけ、更に人影を拡大した。

 先頭を行く男は、魔術の品らしい照明を掲げており、耳が長く尖っていた。

 インヘリトの伝承に登場するアールヴと、身体的特徴が一致する。

 一方、それに手を引かれている女は、外見上は人間との差異はなかった。

 アールヴの国が近いのだから、近くにアールヴがいるのは分かる。

 だが、人間もいるとはどういうことか?

 やはりアールヴが、人間を匿っていたということだろうか?

 そもそもこんな時間に外出する理由とは、何か?


「私が行く! 2人はファリーハをよろしく!」


 ホウセはそう言って軌道を変えると、走る2人の男女――アールヴと人間に向かって飛んでいってしまった。


『我々も様子を見つつ、後を追いましょう』

「あぁ。アケウ、いいか」

「うん。殿下にも事情を説明して差し上げてくれ」

『今、コンテナの中へ音声で説明した』


 2領の鎧はファリーハを収容したコンテナを保持したまま、速度を落としてホウセの後を追った。











 2人が走っていた理由はすぐにわかった。

 悪魔に追われているのだ。

 ささやかな月明かりが、森から飛び出した悪魔の姿を照らし出していた。

 悪魔の上半身は人間型だが、下半身にはムカデかイモムシのような無数の足を持っており、それらをせわしなく動かし、獲物を追っている。

 障害となる木々をなぎ倒しながら、2人の逃げ足よりも速い速度で走っていた。

 当然、距離は徐々に縮まっていく。

 ホウセは真紅の槍と鎧で発揮しうる最高速度で急行し、空中で槍から離れた。

 真紅の槍はそのまま飛んでいき、悪魔に――左手で弾かれた。


「!?」


 驚きつつも、ホウセは短く呪文を唱え、真紅の槍を回収する。


「疾く、戻れ!」


 悪魔は動きを止め、飛来する彼女に気づいたようだった。

 真紅の槍が当たった悪魔の左手も無傷ではなく、傷口から粘性の高い液体が流れ出ている。

 ホウセはそのまま鎧を飛ばし、悪魔と、それから逃げていた2人の間に滑り込むように着地した。

 真紅の槍を構え、宣言する。


「通さない」


 悪魔は立ち止まり、彼女を観察しているようだった。

 その頭部は額から角を生やした人間の男、といった様子だが、口元が笑っている。

 いや、そこに生じた亀裂の形状が、たまたま笑っているように見えるだけか。


「っ!」


 ホウセは反応した。

 悪魔の後ろに伸びた胴体と尾が、それ自身の頭上を越えて飛び出してきたのだ。

 それを、右に回避。

 悪魔の尾が大地を打ちのめし、草地の土砂が衝撃で跳ね跳ぶ。

 ホウセが右腕に力を込めると、真紅の鎧の右腕の装甲が膨張した。


「鋭く、貫け!」


 呪文と、爆音。

 同時に投げ放たれた真紅の槍は、しかし、今度は悪魔によって受け止められてしまった。

 悪魔は奪い取った真紅の槍を振りかざし、ホウセに向かって突進した。


「激しく、(つんざ)け!」


 そこに、魔術の落雷が襲いかかる。

 振りかざした真紅の槍を通して、悪魔の体から地面へと、大電流がほとばしった。

 月明かりしかなかった夜闇が一瞬、ぱっと明るくなる。

 ホウセは電流で硬直した悪魔へと飛びかかり、真紅の槍を握ったままの悪魔の手を、思い切り蹴り上げた。

 空中に放出された真紅の槍をぱしり、と取り戻し、両手で振りかぶると、ホウセは槍の穂先を悪魔の脳天へと叩きつけた。

 そのまま両断される悪魔、噴出する粘性の血液。

 彼女は後ろ向きに跳躍して、降りかかる液体を回避した。


「…………!」


 注意深く周囲を見回すが、他の悪魔はいないようだった。

 追われていた2人の男女――アールヴと人間――は歩みを止め、ホウセを見ていた。

 彼女は、彼らに対して声を張り上げた。


「何考えてんの、このバカ!!!」


 その声は、そこに接近しつつあったディゼムにも、黒い鎧の集音装置から容易に聞こえる大きさだった。

 黒い鎧の視界には、男女2人に接近して説教しているらしい、真紅の鎧の姿が写っていた。

 アールヴの男の方の反応から察するに、知り合いのようだ。


「ほら、掴まって! 飛ぶよ!」

「いや、しかし……」

「しかしじゃない! その人が誰だか知らないけど、人間でしょうが! だったら危険だって、判らないわけじゃないでしょ!!」


 ホウセの剣幕に怯えて、というわけでもないだろうが、それまでは見ているだけだった人間の女の方が、アールヴの男の袖を引いて告げた。


「トレッド……もういいよ、やめよう? 危ないのは私もよくわかったし……」

「クロナ……」


 ディゼムはその場面にどう関わっていいのか判らず、通信機を介してホウセに尋ねた。


「ホウセ、どうすんだその2人」

「連れてくよ。アールヴィルはすぐそこだし、あなたたちも入れてもらえると思う」


 強引に2人を抱き上げようとするホウセに、プルイナとエクレルが提案する。


『さすがに2人抱きかかえては動きづらいでしょう』

『手狭になるが、ファリーハと一緒にコンテナに入ってもらう。それでいいな、ホウセ』

「……じゃあ、よろしく」


 彼女は真紅の鎧を離陸させると、アールヴィルのある方向へと先行して飛んでいった。


『ホウセは先行してしまいましたが……その前にひとつ、やることがあります』

『そうだな。この悪魔の死体を埋めて行こう。他の悪魔に気づかれては、アールヴの攻撃によるものだと誤認されるおそれがある』


 ディゼムは収容コンテナを降下させながら、ぼやいた。


「……このでかい死体を埋めんのかよ」


 悪魔の死体は、多数の足の生えた長大な下半身を備えていた。

 重量にして、馬で5頭分はあるだろう。

 直接手で掘るにせよ、鎧の持つ火力を使うにせよ、それなりに大きな穴を掘らなければなるまい。

 通信が繋がったままだったので、少しするとホウセが、アールヴィルへと呼びかけているらしい声が聞こえてきた。


「お邪魔しまーす! 人間のホウセでーす! 寄らせてくださーい!」


 その声はやや、不機嫌だった。

 それからアールヴィルへの入域を許されるまでに、1時間近くを要した。










 アールヴィルへの入域後、一行は簡単な身体検査を受け、夜にも関わらず、アールヴの宮殿へと招かれた。

 宮殿と呼ぶにはいささか慎ましい佇まいだったが、そこで女王が待っているのだという。

 鎧を身に着けたディゼムとアケウについては、兜を脱いで素顔を見せた状態という条件で入室が認められた。

 アウソニアからかなり北上した上、時間帯のせいか、空気がかなり冷たい。

 短い廊下を抜けた先、謁見用らしき広間に、彼女はいた。

 アールヴの、女王。

 腰より下まで伸びているであろう黒髪を束ね、複雑な紋様の編み込まれたローブを羽織り、玉座に腰掛けている。

 ただ、伝承上の種族の長と言われて想像するような壮麗さは、ほとんど無かったと言っていいだろう。

 彼らが来訪したのが、このような遅い時間帯だったためかもしれない。

 異世界の鎧たちのセンサーは、ローブの模様が魔術紋様の一種に類似していることを認識していた。

 女王が、小さな口を開く。


「私はアールヴの女王、ムア。まずは息子を助けていただいたこと、礼を申し上げる。本当にありがとう」


 息子、ということは、追われていたのはアールヴの王子ということになるだろうか。

 王子であろう彼――トレッドと呼ばれていた――は、ファリーハたちから見て左手に立っていた。

 一行を代表してファリーハが進み出て、挨拶を返した。


「人間の国、インヘリトの王女、ファリーハ・クレイリークです。こちらこそ、丁重にお迎えいただき、ありがとうございます」


 本当に実在していたアールヴ、そしてその長。

 入域の際に書簡も渡し、事情は伝えてあるが、ファリーハは改めて、女王に説明した。

 人間が、悪魔から旧世界を取り戻す戦いを始めたこと。

 そのために異世界の鎧を召喚したこと。

 そして、その戦いと魔王の居場所の捜索のために、アールヴィルの土地か、近隣の一部を貸してほしいこと。

 だが、彼女の態度はすげなかった。


「それはできない。我々が人間の反攻に手を貸せば、悪魔は我らのことも攻撃しようとするだろう」


 ファリーハは女王ムアの言葉が終わるのを待った。


「我らの魔術が悪魔に劣るとは思わないが、数の利は悪魔にある。あなた方には気の毒だが、このアールヴィルの安寧こそが、我らには大切なのだ。準備が整ったなら、帰るが良い。ホウセと同様、寝床と食事、そしてささやかではあるが、帰還のための魔術紋様を描く場所は提供しよう」


 女王の態度は、あまりに冷淡、というほどではないものの、協力的でもなかった。

 アールヴの立場からすれば、当然ではある。

 アールヴたちの人口はさほど多いようには見えない。

 彼女の言う通り、いかにアールヴの個々人が強力であろうとも、万の単位でやってくるであろう悪魔の軍勢に、正面から対抗するのは難しいだろう。

 あわよくばアールヴを、戦力としても取り込めないかと考えていたファリーハの目論見は、出会い頭に叩かれた形となる。

 せめて、転移のための魔術紋様を域内に常設することだけでも認めさせたい。

 そのために今の彼女がアールヴたちに提示できる見返りといえば、やはり自己複製プリンターしかない。

 だがそれは、注意深く見極める必要があった。

 物資不足にあえいでいたアウソニアと異なり、アールヴたちは特に困窮しているようには見えない。

 精密機械の製造を実演してみせたところで、不要だとはねのけられ、それどころか逆に不興を買う恐れもある。


(そもそも、アールヴは人間を必要としていない……?)


 いや、それは矛盾しているように思えた。

 その証拠は、先程はっきりと目にしている。

 ファリーハは思い切って、尋ねることにした。











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