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魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る  作者: kadochika
3.隠形、接近

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3.5.召喚の儀式、再び

 一行は、人通りの多い広場へと来ていた。

 威容を誇る大きな建物を指して、アケウが説明する。


「ここが大聖堂。王都の名所といえばまずはここ。向かいにあるのが、政府庁舎」


 以前は彼らも、陸軍の兵士としてここの警備に参加していた。

 彼らが魔術省へ出向している今では、別の兵士がその代わりを勤めていた。

 兵士たちは通行人を誘導し、大聖堂の外壁に近づかないようにしている。

 ホウセがそれに関して、アケウに質問した。


「こうやって全体に魔術紋様が描かれてるのって、もしかしてファリーハが言ってたやつ?」

「そうだね。エクレルとプルイナも、ここで異世界から召喚されたんだ」

「へー……」


 ディゼムは、アケウとホウセの会話をやや離れて聞いていた。

 すると彼女は、アケウに大聖堂とは直接関係のないことを尋ねた。


「そういえばあなたたちって、どういう縁であの鎧と一緒なの?」

「召喚の儀式の時に、魔王――の“影”っていうのが会場に来て、動けなかったプルイナたちを壊そうとしてたんだ。そこに割って入ったのがディゼムで、その時プルイナと契約したんだって」

「へー、そんなことしてたんだ。なかなか勇敢なんだねーディゼムくん」

「……その呼び方やめろ」

「えー」


 ディゼムが眉をしかめると、ホウセはふざけて口をとがらせた。

 内部への立入が禁止だったこともあり、彼らはすぐに、別の名所へと移った。

 紹介するのは、やはりアケウだ。


「王立図書館。貸出はしてないけど、インヘリトで出版された本の全てを閲覧できるらしいよ」

「なかなか大きいねー。ちなみにあの銅像だれ?」

「印刷王モンテシオン……だったかな。実際に王様だったわけじゃないんだけど、遷都で混乱してる時に大活躍したんだって。夜な夜な動き出すって噂だけど」

「マジで!?」

「根拠のねぇこと吹き込むなよ!」


 もっとも、名所といいつつ、現在のインヘリト王国にはさほど長い歴史があるわけではない。

 遷都前からの伝統文化などはあるが、現在この島にある有形の物はほぼ全て、150年前の祖先が一から作り上げたものだ。

 建造物は全て、どれも歴史を150年より前に遡ることができない。

 場所を港に移して、アケウは湾の向こうを指さした。


「水平線のところに見えるのが、海防島。悪魔から本島を守るための砲台が置かれてるんだって。この間ディゼムが全部壊しちゃったけど」

「うわひっど」

「俺が悪意でやったみたいに言うんじゃねえ! 海軍のせいだろが海軍の!」


 ディゼムが二人に抗議すると、港を歩く海兵が、通り過ぎつつもじろりと彼を睨んだ。

 太陽が真南に近づき、彼らは更に場所を移した。

 遷都横丁(せんとよこちょう)にある食堂に入り、昼食を取る。

 芳香が漂い、混み始めた店内で、給仕が出来上がった料理を持ってきた。


「特盛焼肉定食、お待ちどうさまでーす!」

「はい、ここでーす。うわー!」


 置かれたトレイを見て、ホウセが歓喜する。

 大皿の上に、香ばしく焼かれた豚肉が山盛りになっていた。

 付け合せのパンは元々大きかったが、それが見劣りするほどだ。

 小柄なホウセの体格に対して、多すぎはしないか。

 ディゼムは横からそれを見て、うめいた。


「お前、それ全部食うの……!?」

「え、さっき人が頼んでるの見て、行けると思って頼んだんだけど」


 けろりと答えて、ホウセ。

 アケウも彼女の皿を見て、声を上げる。


「すごいなぁ……」

「まぁ俺が奢るっつったんだし、食えるんならいいけど」


 跳ね上がった給料の使い途としては、悪くないところだろう。

 そうこうと言っている間に、ディゼムたちの注文も届いた。


「横丁定食と揚げ魚定食、お待ちどうさまでーす!」

「あ、横丁定食です」

「揚げ魚で」


 三人はそれぞれに、届いた食事に手を付け始めた。


「いただきます!」


 飴色に焼けた肉を次々と口に運びつつ、ホウセがうなづく。


「うん!」


 彼女は一拍置いて、感想を口にした。


「いろんな所をまわったけど、インヘリトのごはんもおいしいね!」

「……まぁな」


 ディゼムが作ったわけではないが、地元の食事をそのように褒められて、悪い気にはならない。

 焼肉を頬張るホウセをそれとなく横目で見ながら、彼は考えた。

 こんな休日も、たまにはいいかも知れない。











 大聖堂では、いよいよ第二回となる救世主の召喚が行われようとしていた。

 予想以上に魔術紋様の設置が早く、実施が早まる運びとなったのだ。

 儀式は早さを重視し、魔術紋様が完成次第、召喚式を起動することになっている。

 完成が早まったため、予定を合わせて式に出席できる有力者は少なく、前回の1/3ほどだ。

 その臨席者も前回の反省を踏まえ、全員が屋外席で待機していた。

 大聖堂の中にいるのは、責任者のファリーハの他には、作業に携わる魔術師たちと、警備の兵士たちだけだ。


(前回は魔王の“影”なんてものが来たわけだけど……)


 異論はなかったが、急いで儀式を実行することに、不安がないこともなかった。

 悪魔たちにこうした儀式が感知されているのではないかという意見もあった。

 ただそれ以上に、異世界の鎧に匹敵する戦力が増えるという可能性は、あまりに魅力的だったといえる。

 そのために、議会も主計省の反対を押し切り、臨時の追加予算を承認したのだ。

 つまり、「金は出すから早くやれ」。特例だった。


(何にせよ、やるしかない……!)


 ファリーハは礼拝の間に残った少人数の魔術師とともに、召喚に臨む。

 兵士たちは紋様の外に出て、銃の安全装置を外して万一に備えた。

 最終確認は終わっており、紋様の図形や記号に間違いはない。


「それでは、召喚式、起動してください!」


 合図を送ると、魔術紋様の中にいた魔術師が、最後の一画を描き入れ、退避する。

 大聖堂の内外の壁に縦横無尽に描かれた紋様が、光を放ち始めた。

 目を開けていられないほどの眩さが収まると、そこには。


「…………!?」


 そこには、金属質を思わせる、とてつもない巨体が膝をついていた。

 そう、巨体だ。大きい。

 全体的な印象は、甲冑といったところか。

 人間と同様の数の手足を持つ、人型だ。

 その表面は光沢の少ない、落ち着いた鋼鉄の色をしている。

 かなりの重量があるのだろう、修復が終わったばかりの大理石の床にはヒビが入り、陥没を始めていた。

 甲冑を着込んだ、巨人だろうか?

 それとも、動きがないことから、またしても鎧だけを召喚してしまったものか?

 いずれにせよ、ファリーハはその大きさに圧倒されていた。


(理論上はあり得たとはいえ、ここまで大きいなんて……!)

「すごい……!」「床、大丈夫なのか……?」


 彼女だけでなく、魔術師や兵士たちも感嘆している。

 救世主召喚のための立体魔術紋様には、設計上の限界があった。

 まず、召喚の対象を自由に選ぶことはできない。

 条件が曖昧なのだから当然だ。

 また、召喚された際、魔術紋様からはみ出す寸法のものは召喚できない。

 このため、条件を満たすからと言って、大聖堂を押しつぶしてしまうような大きさの異世界の大怪獣……などは召喚されない。

 とはいえ、これは本当に、サイズ上限すれすれの大きさだった。

 大聖堂の一部を解体しないことには、外に出せそうにない。

 この点については、失敗してしまったといえる。


(巨人なのだとしたら、申し訳ないことをしちゃったなぁ……動かないから多分、生き物ではないんだろうけど)


 だが、既に召喚は完了している。

 後悔なのだから、後ですればいい。

 ファリーハは、意を決して宣言した。


「召喚はひとまず成功のようです。まずは、翻訳の魔術を使用します!」


 ファリーハは意識を集中し、呪文を唱えた。


(こと)()(はし)よ、(はし)(わた)(こと)()よ」


 血液から取り出された魔力が、彼女の言葉を、相手に分かる形に変える。

 これで異世界の巨人であろうと、意思の疎通ができるようになるはずだった。


(まぁ、言葉を喋るなら、だけど……)


 もしも筆記・手話や何らかの信号で遣り取りをするのだとしたら、また別の手段を考えればいい。

 彼女は魔術が発動した手応えを感じて、やや大きな声で、巨人へと語りかけた。


「こんにちは、大きな人! 私の声が、聞こえていますか?」 


 鋼鉄色の巨人は、膝をついた体勢のまま沈黙している。


「もしもーし! 聞こえていますかー!」


 なおも反応がない。

 鎧たちの時は、たまたまその場に魔王の“影”がやってきて人間に攻撃を仕掛けたため、それを守るために動き出したということだった。


(……さすがに、あんなものがまた攻めてきたら困るけども……)


 もしくは、前回の状況を人為的に再現するか?

 目の前で誰かが命の危機に陥れば、この巨人も反応する、という可能性は考えられた。

 無論、そんな保証はどこにもないのだが。

 ファリーハは無作法を承知で、巨人の表面を刺激してみることにした。


「失礼します!」


 具体的には、鋼鉄色の部分を拳でコツコツと叩く。

 人間でいえば、つま先のあたりだ。


「…………」


 やはり反応はない。


(しかし困ったなぁ……教会にはなんといえばいいやら)


 彼女はしばし、腕組みをして考え込んだ。

 大聖堂をお借りしましたが、内部に巨人を召喚してしまったので、外に出すために一部を解体させてください。

 修繕費用は魔術省が出します。


(うん、その手で行きましょうか……!)


 動かす方法を解明するのには、時間がかかるかもしれないが。

 そうとなれば、外で待機している臨席者たちに状況を説明しなければならない。

 ファリーハは、魔術師と兵士たちに声をかけた。


「みなさん、外に出ましょう。今すぐに被召喚者を移動させることはできないので、一度出席者に説明を――」


 その時、コォン、と低く、金属音らしき音が鳴った。


「――!?」


 上から聞こえてきたが、まさか巨人の発した声か?

 ファリーハが振り向くと、巨人の頭部で、その目が光っていた。


「えっ」


 大きな単眼が、ぎろりとこちらを睨んでいる――ように思える。

 次の瞬間、地響きとともに巨人が立ち上がった。


「ええぇぇぇ……!?」


 膝をついていた時よりもさらに巨大な、鋼鉄色の巨体。

 立ち上がるとその頭部は、礼拝の間の天井近くまで届くようだった。

 彼女は怯えつつも、勇気を振り絞って呼びかけた。


「き、聞こえていましたかー!? あの、私はファリーハ・クレイリークと――ひぁぁぁ!?」


 大きな振動は、巨人が一歩を踏み出した衝撃によるものだった。

 大理石の床は完全に陥没し、轟音が大聖堂を揺らす。


「ぜ、全員、外へ! 外へ逃げて!!」


 魔術師たちはファリーハの声を聞き、慌てて駆け出した。

 兵士たちはそれより遅れて、彼女や魔術師たちをかばうように後退する。

 一方で巨人は、一歩、もう一歩と無造作に歩き出していた。

 その歩幅は、人間よりも遥かに大きい。

 それゆえ、見かけの上ではゆっくりと歩いているだけにもかかわらず、巨人の速度は人間の全力疾走よりも速かった。

 だが、大聖堂の正面の壁へと向き合うと、巨人は一度、動きを止めた。

 その間に、ファリーハや魔術師、兵士たちはほうほうの体で、大聖堂の正面から外へと走り抜ける。

 彼女たちが大聖堂から出たのとほぼ同時、巨人は建物正面の壁を破壊して、外へと出た。

 倒れる石柱、散らばる瓦礫。

 破壊された復古調の装飾が落下し、破片と粉塵が舞い上がる。

 大聖堂前の広場は騒然となった。











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