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魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る  作者: kadochika
3.隠形、接近

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3.3.技術の供与

 ディゼムたちは、王都西の基地にある経理部へと向かった。

 魔術省に出向してはいても、給与の受け取りは陸軍からという扱いなのだ。

 給与は現金の直接支給で、本人が不在の際は経理部が管理することになっている。

 無事に受け取りを済ませ、2人は中身を確認した。

 そしてやや不確かな足取りで、それぞれの実家のある住宅地へと向かうのだった。


「まさか10倍以上になってるとはな……」

「実家に入れても驚かれそうだよね……どうしよう、いつもの額と同じにしておいたほうがいいのかな」


 鎧の助けやホウセの手ほどきがあったとはいえ、金額に見合う働きはしていたことだろう。

 だが本来、彼らの階級では定年まで勤めていても届かないであろう額面だった。

 アケウの言う通り、実家の家族に渡す額は考えたほうがいいだろう。

 彼らが異世界の鎧に選ばれたということは秘密である以上、不自然に増えた給与のことも隠す方が賢明だ。

 ディゼムはそう考えて、次の難題に行き当たった。


(……これから旧世界に行くことが増えるんなら、使い道を考えねえとな……)


 旧世界での活動が増えるとなれば、インヘリトの通貨など現地では通用するまい。

 使うとしたら、インヘリトの中でしかないのだ。

 だが極端な例として、明日にでも魔王とその軍がインヘリトを蹂躙したなら、トゥーカ紙幣は紙くずに変わるものでもあった。

 貯めておくだけというのも、それはそれでリスクがある。

 しかし、他に使途といって思い浮かぶのが、酒、賭博、女など。

 彼の思考はそこで引っかかった。


(いやいや。あぶく銭じゃねえんだ、もっと身になることに……)


 それ以外となると、思い浮かべるのも難しいのがディゼムという男だった。

 彼は迷って、アケウに尋ねた。


「お前は何に使う?」

「思いつきだけど、旧世界奪還が成功したらいい学校にでも通うか……退役後の商売の元手になりそうなら、そうしてみようかなって」

「お前はなんつうか、考え方がいちいちちゃんと未来を向いてんだよな……」

「まぁでも、今日は家族に何か買ってくよ。ディゼムも何か、果物でも買っていったらいいんじゃないかな。ほら、都合よく遷都横丁(せんとよこちょう)も見えてきたし」


 アケウが右手を小さく振って、前方を指し示す。

 遷都直後の混乱期に勃興(ぼっこう)した、古い市場だという。

 遠くからその賑わいを見て、ディゼムはひとまず、あまり難しく考え込むのはやめることにした。


「んー、干し芋でも買ってくかな……」


 ディゼムとアケウは、行き交う人をかわしながら市場へと入っていった。

 鎧がない状態でそのように親友同士で連れ歩くのは、久しぶりのことだった。











 翌日、ファリーハは報告会を開催した。

 日程の合う王族や閣僚、議員、高級官僚や一部の財界人などを集め、急遽開催するものだった。

 場所は王宮からほど近い会館の公演用ホール。

 内容は、旧世界の実態とアウソニア、そして悪魔。

 ファリーハの近くには、白い鎧を身にまとったアケウと、ホウセが座っていた。

 ただ、今の彼女は保安警察の連絡員から報告を受けていた。

 連絡員の男に対し、確認する。


「では、保安警察が目を光らせている以上は、今後自爆などといった手段はないと考えて良い、ということですね」

「はい。体面にかかわる、といっては陳腐になりますが、不穏分子は万全に洗い出しました。怪しい動きを見せれば、いつでも拘束可能とのことです」

「ご苦労でした。以後も監視と捜査を続けてください」

「は。失礼いたします」


 連絡員が離れると、ファリーハはため息をついた。

 またアウソニアまで転移する際、前回と同じようなことをされてはたまらない。


(保安警察の質の向上も課題かな……)


 時計を見ると、まさに定刻を迎えるところだった。

 彼女は立ち上がり、宣言する。


「それでは、ただいまより、旧世界事情の報告会を開催いたします」


 拍手が起こり、収まると、ファリーハはこれまで自身が旧世界に転移した経緯などを、改めて説明した。

 続けて、


「私を守ってくれた異世界の鎧たちが、旧世界の実情と、そこに跋扈する悪魔たちの姿、その戦力を記録しております。皆様そのまま、正面の映写幕をご覧ください」


 白い鎧が立ち上がり、右肩口の装甲をわずかに展開する。

 そこから、設置された大型の幕へと映像が投射された。

 映し出されたのは、民家の壁を蹴り砕いて侵入してくる悪魔だった。

 薄暗い屋内へと入り込んでくる悪魔が、白い鎧による弾丸で破砕される。


「おぉ……!」


 インヘリトの人々にとっては初めて見る、映像だった。

 驚くあまり、立ち上がってその場から動きかける者まで居た。

 ファリーハは一度映像を止めさせ、説明した。


「これは、白い鎧、あるいは黒い鎧が現地で見たものを、そのまま皆様に、動く絵としてお見せしている状態です。驚かれるかと思いますが、危険は一切ありません。続きをご覧ください」


 場面は編集によって、次々に切り替わった。

 悪魔によって隕石群を落とされた時の映像や、多種多様な悪魔の姿。

 ホウセの登場、アウソニアへの案内。

 人工太陽に照らされたアウソニアと、そこを襲った悪魔。

 悪魔を狙撃する、レール・ライフルの威力――

 ちなみに、ディゼムやアケウなどの着装者や、プルイナたち自身の音声は、プルイナたちが編集の段階で削除していた。

 映像が終了すると、ファリーハが結ぶ。


「これらを退け、アウソニアの協力を得て、我々は無事に帰還することが出来ました。既に文書では報告しましたが、少しでも実情を真に迫って感じて頂きたく、このような場を設けた次第です」

「今のが旧世界の、本物の悪魔……」「これが我が国を襲ったら――」「しかし、次の召喚がうまく行けば――」


 会場は衝撃を受けた様子で、ファリーハは映像の効果を実感していた。


「詳しくは後日、協議の場を設けたいと思いますが、異世界の鎧が作り出す異世界の武器を用いて、陸海軍へ、悪魔に対して有効な武器を配備してゆくことも提案したいと思います。ご参集いただいた皆様に置かれましては、ぜひともご検討いただきたく存じます」


 後日、やや時間はかかったが議会で改正法が成立するなど、異世界の鎧のもたらす技術や知識を積極的に活用していく体制が、徐々に整うこととなる。












 一行がアウソニアから帰還して、3日後。

 場所は、王都南部の陸軍工廠だ。

 長さ5メートルほどにまで巨大化した自己複製プリンターが、その筐体を大きく展開させた。

 長さ3.2メートル、重量650キログラムほどの砲身の載った車輪付きの架台が、プリンターの外へとゆっくり押し出される。

 人々の見守る中、新型の榴弾砲が姿を見せたのだ。

 工廠の床がみしり、と静かな悲鳴をあげる。

 王族や閣僚、工場の関係者などが、どよめいた。


「おぉ……」


 王国の一般的な大砲よりも短く、有名な海防砲よりもスリムだ。

 しかし射程は前者の倍以上、威力も後者に勝り、重量は半分以下。

 王国の砲兵部隊が、現在の編成を大きく変えずに使用可能。

 それでいて悪魔の皮膚に対して有効な火力を持つ、太陽系の過去の機種を選定したものだ。

 臨席していたファリーハが、鎧たちから聞いていた内容を一同に説明する。


「運用については、すでに供与された書籍のとおりです。悪魔の大群に対して、より効果的な砲撃が可能となるとのことです。複製装置は、原料と性能の及ぶ限り、これを生産し続けます」

「移動、始め!」


 陸軍の兵士たちが4人やってきて、榴弾砲の載った架台に取り付く。


「移動、始めます! ご注意ねがいます!」


 彼らは周囲に警告しながら、ゆっくりと架台を移動させ始めた。

 こうした要領で、鎧たちはファリーハや軍関係者の監修のもと、武器供与を行っていた。

 榴弾砲に加え、下級悪魔を掃討するのに十分な威力の小銃、および重機関銃。

 そしてそれらに必要な弾薬と、消耗資材だ。

 いずれもインヘリト王国の工業設備でも製造可能と考えられるものを選定し、設計図、取扱説明書とともに供与した。

 必要とあらば、彼らの持つ既存の設備でも製造可能だ。

 また、太陽系――主に地球――で使用されていた戦闘・戦術の要領も紙の書籍として供給している。

 インヘリト王国軍は、それを元に強化されることだろう。

 勝利を至上とするならば、戦闘車両や航空機、艦艇なども供与したいところだ。

 だが、生産は自己複製プリンターに任せきりにするとしても、そもそもそれを運用するための整備基地や、滑走路といった設備を整えることが難しい。

 自己複製プリンターでクレーンや管制基地の資材・部品を生産することはできるが、それを設備として組み立てるには、そのための工作機械を別に製造しなくてはならない。

 更に、その運用をインヘリトの人々が理解できるようにする――そこまでを考えると、全く時間が足りなかった。

 しかも生産された兵器群は、プルイナたちが悪魔の脅威を排除し、元の世界に帰還した後でも残るのだ。

 それはこの世界の人類たちが悪魔を駆逐したあと、人類同士の紛争で使われることになる。

 それを止めることは不可能だ。

 気の早い話ではあるが、そうした“戦後”を考えたなら、あまり強大な兵器を供与するのも望ましくないことだ。

 技術レベルに見合った、やや強い武器の供与で、ひとまずは様子見をする――というのが、プルイナたちの判断だった。

 ただ、ファリーハには気がかりもあった。


(大叔父様の主導だったとはいえ、反乱を起こした海軍にも導入しちゃって大丈夫かな……)


 難しいところではあったが、不公平感を減らすためという非公式な理由もあり、小銃と重機関銃は海軍にも配備が予定されている。

 実際に性能試験を行い、両軍が納得したなら、配備は速やかに進むことだろう。











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