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魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る  作者: kadochika
2.呪詛、襲来

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2.15.一時の帰還

 現在のアウソニアの起源は、150年以上前の、旧アウソニア国による地下実験場に由来する。

 魔術によって掘削した広大な地下空間に、魔術紋様で作動する人工太陽を設置し、国土の狭い国であっても、地下空間を農業や畜産に利用できるかどうかという試みだ。

 食糧生産を強化するための計画だったが、悪魔の襲来により、人間を保護するためのシェルターとして転用されることとなった。

 本来の出入り口は閉鎖され、魔術によって隠蔽された秘密の出入り口や通気口などが設置された。

 これによって、アウソニアは旧来の1/100にまで人口を減らしつつも、何とか生き延びることができた。

 この際、地下水が豊富だったことは不幸中の幸いだった。

 150年の間、1万人の人口を支え続ける水源が存在したのだ。

 これは地下へと居住区画を拡張する際には障害だったが、人口の維持には有利に働いた。

 今、ホウセたちが加温された湯を使った風呂を利用できているのも、そうした水資源あってことだ。

 先日のような大規模な被害を受けてもなお、水道が生きていたのはありがたかった。

 ホウセはいまだ半壊したままの借家で風呂を済ませ、一息をついた。


「やー、さっぱりした!」


 服も着替えているが、鎧や槍に変形する真紅のマフラーだけは首に巻いている。

 ディゼムは食卓の椅子に腰を置きながら、彼女の様子を眺めて、尋ねた。


「暑くねえのか」

「暑くないよ。暑い時にはひんやりしてるし、寒い時にはあったかい便利なマフラーなの」

『なかなか高性能ですが、本機にもそれくらいはできます』

「なに張り合ってんだおめーは……」


 話題に割り込んできたプルイナに、ぼやくディゼム。

 鎧たちは今は着装者から離れ、人型のまま直立している。

 アケウはディゼムと同様、食卓の椅子に腰かけ、休んでいた。

 ホウセは蛇口を開けて、コップに水を注いでいる。

 その後ろ姿に向かって、ディゼムは再び訊いてみた。


「さっきの話だけどな、ホウセ」

「何?」

「お前、なんで連絡係なんてやってんだ?」


 純粋に、興味があった。

 自分よりも年若いであろう小柄な娘が、一人で悪魔の支配する世界を渡っているという。

 真紅の槍と鎧があるとはいえ、ただならぬ行為なのは確かだ。


「…………」


 やや長く沈黙し、ホウセは答えた。


「詳しいことは、悪いけど……秘密。大事なことだから」

「またそれかよ……まあ無理には聞かねえけど」


 気まずさを感じて玄関扉の方に視線を移すと、ちょうど扉が開いた。

 入ってきたのは、ファリーハだった。


「ただいま」

「おかえりなさいませ、殿下」


 アケウが席を立ち、彼女を迎えた。

 理事会の長老たちへの報告を終えたのだろう。

 ファリーハが部屋に入り、尋ねる。


「何の話ですか?」


 ディゼムとホウセの会話の、最後の部分が聞こえていたか。

 ファリーハの質問を、ディゼムは平静を装ってごまかした。


「あ、何でもないんスよ」

「……?」


 王女は怪訝そうな顔をしたものの、すぐにそれを引っ込める。

 手に持っていた紙束を食卓の上に置きながら、言った。


「それより、さっきあなたたちの退出した直後に理事会には報告したのですが……魔術紋様、試作が完成しました。あとは転移の試験をするだけです」

「インヘリトに帰れるのですね……!」


 期待を込めて尋ねるアケウ。


「えぇ、試験が成功すればですが。あなたかディゼムに、試し役をやってもらいたいと思っています」

『それは先日話したとおり、転移妨害の紋様に弾かれて海上などに出ても、自力で飛んでこられるからという意味でいいんだな?』


 白い鎧から、エクレルが質問する。


「そうです。それに、万全を期してはいますが、転移に関する魔術紋様はこの10日間で習得したものなので……残念ながら確実とまでは断言できませんしね」

『問題はない。もし迷っても、鎧同士の超空間通信で、ある程度は相対距離が割り出せる。最悪の場合は飛んでアウソニアまで戻るさ』


 波打つ海面に魔術紋様を描画することはできない。

 もし誤ってインヘリトから遠く離れた海上に転移してしまった場合、魔術紋様で帰還する手段が失われてしまうのだ。

 船ごと転移するという手もあるが、長距離飛行の可能な異世界の鎧とその着装者を送り込む方が、より都合がよい。

 エクレルはさらに尋ねた。


『先の転移の際にも懸念してはいたのだが……転移というのはどういう原理でやっているのだ? 失敗したら、石の中にいるといった事故が起きたりはしないのか?』

「ありませんよ? 液体や固体の内部には、転移させようとしてもできません。無理に実行しても発動しないか、実体化の瞬間に弾かれて、元の魔術紋様に近い方向へ押し出されます。転移妨害もその性質を応用したもので、原理上の理由は不明ですが、経験則で明らかになっているのです」

『そうか。まぁ万が一そうなったらなったで、辺縁(フロンティア)収奪(エクスプロイション)装甲(アーマー)の機能で脱出できるから、心配するなよアケウ』

「大丈夫だよ。殿下が描かれた紋様なんだから」

「ええと、あまり当然視されても……言いたくありませんがにわか仕込みですからね?」

「大丈夫です。僕とエクレルでやります」


 ディゼムはそこまで聞いて、アケウに指摘する。


「なんで何の断りもなくお前が試験を引き受ける流れになっとるんだ……俺は困らんけど」

「あ、ごめん。やりたかったりする?」

「お前がやればいいよ、気にすんな」


 時刻はすでに、かなり遅くに差し掛かっていた。

 ファリーハが、あくびを堪えながら呼びかけた。


「今日はもうみんな疲れているでしょう。試験は明日の夕方から行いますから……というか私も眠いので……」

「はい、殿下」

「じゃ、お疲れ様ス」

「おやすみー」


 ホウセとファリーハはホウセの寝室へ。

 ディゼムとアケウは別室へ向かい、寝床に就いた。












 翌日の夕方、アケウは白い鎧をまとい、魔術紋様による転移の試験に身を投じた。

 アウソニアの一室から魔術の力で空間を転移し、別の場所へと一瞬で移動する。

 なぜ夕方なのかといえば、インヘリト王国に直接上陸できない可能性が高いためだ。

 インヘリト王国は周辺に転移妨害の魔術紋様による防御を施している。

 よって、直接内部に転移することができない。

 島から遠くに転移してしまった場合、島を探す頼りになる地形といったものはない。

 このため、夜間に転移し、星の配置を頼りに探し出す必要があるのだ

 魔術紋様が作動し、彼らが飛び出た先は、予想通り海の上だった。


「……!?」


 ざばんと小さな水柱を立てて、白い鎧が海中に沈む。

 鎧が完全に気密されているため、内部のアケウが水の温度や圧力を感じることはないが。


『やはり夜か。時差は予想通り、およそ4時間。浮上して、星を頼りにデータを補正しながらインヘリトを探すぞ。悪いがお前は見ているだけだ』

「何かやることが出来たら教えてくれればいいよ」


 白い鎧はスラスターを噴かせ、海上に飛び出した。

 夜空には、星々。

 月は出ていたが地球のものより小さく、他の星明りを大きく妨げるほど強い光を発していない。

 天体観測に向いた条件が揃っていた。

 エクレルは機体からドローンを射出しつつ、天測航法でインヘリト王国の位置を割り出し始めた。


「殿下のお話だと、王国には結界が張ってあるそうだけど……見つかるかな」

『150年の間、おそらくは悪魔も、逃げた人類の行き先を捜索したことだろう。それでも見つからずにいたのは運もあるだろうが、それだけ隠蔽力の高いシステムということだ。当機も何としても見つけたいとは思っているが、予定通り、48時間見つからなければ帰投する』

「帰り道は分かりそう?」

『インヘリトの図書館で得た星図と、アウソニアで10日間、野外で取得した天球データがある。これをつなぎ合わせて、既にアウソニアに空を飛んで戻るルートはある程度割り出してある』

「すごいな……」

『もっと褒めるがいい』


 1時間ほど周囲を飛行すると、視界に急に、変化があった。


「――!」


 星明かりが、緩やかに照らし出す海。

 そこに浮かび上がる、ガス灯の輝き。

 島だった。

 人間が住まう都市を載せた、島。


『あれだな。ノヴァン・インヘリト島、インヘリト王国』

「帰ってこれたんだ……」


 アケウにとっては、故郷でもあった。

 興奮で高まった彼の体温をデータとして取得しながら、エクレルは共有すべき情報を口にした。


『我々の使う熱電・色覚迷彩と理論的には近いが……可視波長外の電波までは遮断していないな。都市の発する微弱な熱や、ラジオ局の電波がキャッチできた。ファリーハに確認したら、王国とも共有するとしよう』


 白い鎧は島に接近すると、機体の肩の端部を発光させた。

 右が緑、左が赤。

 太陽系の伝統的な航行灯で、インヘリト王国では恐らく意味は通じないだろう。

 だが、無警告で降り立つよりはよい。


『大聖堂前の広場に着陸する。音声を発信するから、お前は名乗りつつ報告しろ』

「ああ、頼む」


 大聖堂前の広場上空に差し掛かると、白い鎧はスラスターを調整し、噴射口の発光を強めてライトの代わりにした。

 そして、ゆっくりと降下する。


「こちらはインヘリト王国所属、白い鎧とその着装者です! 事故で旧世界に転移していましたが、報告のために帰還しました!」


 アケウは帰還し、王や議会、各省庁に状況を報告した。

 探査隊の壊滅、王女と鎧およびその着装者の生存、悪魔の軍勢の実在、地下国家アウソニアの存在などだ。

 王国側では先日の自爆事件で死体や鎧の破片が見つからなかったため、彼らがどこかに転移したことだけは確実だろうと考えられていたようだ。

 アウソニアへと直通するよう魔術紋様が再構成され、アケウとエクレルがアウソニアに戻ったのは、翌々日の昼のことだった。

 さらに、ファリーハがインヘリトへと直接帰還するためには、インヘリト側で展開していた転移妨害の結界を解除する必要もあった。

 彼女と鎧、そしてその着装者たち全員がインヘリトに戻るには、やや時間がかかった。











 お疲れさまです。これにて第2章終了です。

 悪魔の呪いを退け、何とかインヘリト王国へと帰還した一行。

 休息も束の間、彼らの報告した旧世界の悪魔の脅威に対し、議会は第二次救世主召喚を決定する。

 旧世界への次なる足がかりを求め、未知の種族アールヴの国・アールヴィルへと向かった一行は、アールヴの王子を悪魔の手から偶然救うことになったのだが――次章、『隠形(おんぎょう)、接近』。

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