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魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る  作者: kadochika
2.呪詛、襲来

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2.14.魔拳の兆し

 悪魔の右手は、アケウの狙撃で破壊されたままだ。

 悪魔は左腕だけで、ディゼムと黒い鎧の首を締め上げている。

 その上、笑っていた。


「はははは、人間め、甘く見ていた! 互いにな……!」


 黒い鎧を通してディゼムの首筋にかかっているのは、途方も無い握力だ。

 この力ならば、無垢の鉄柱であっても難なく捻じ切れるはずだ。

 装甲の向こうから伝わってくる圧迫に、ディゼムはうめいた。


「ぐ……!」

『軌道戦闘級のガンマ線レーザーに耐えるとは……!』


 プルイナの声に、焦りが滲んでいるようにも聞こえる。

 黒い鎧は、全力で抵抗した。

 スラスターの勢いを載せて手足を振り回し、可能な限りの打撃を加える。

 あるいは近距離(クロスレンジ)レーザー、破砕(エクスプローシヴ)(・バレット)

 しかし火器も、この至近距離でなお効果が薄い。

 狙撃体勢にあるアケウは、ディゼムと悪魔が射線上に重なって、すぐには撃てない。

 しかし、彼が射点を移すより、ホウセが悪魔の背後に回り込むより、ディゼムの動きが速かった。


「……ッ!!」


 力が、集中する。

 首を絞められたまま、下から振り上げたディゼムの、左右の拳。

 その破れかぶれの一撃が、悪魔の手首を粉砕した。


「ぬ……!?」


 たじろぐ、悪魔。

 黒い鎧はスラスターを噴かせて後退し、即座に反転、突撃する。


『最大加速』


 そのまま悪魔へと、ディゼムは無心で拳を繰り出した。

 そこには、何かが宿っていた。

 X(エックス)P(ピー)I(アイ)A(エー)S(エス)-6(シックス)による筋力の強化、核爆発にも耐える装甲強度、スラスターの推力。

 それだけではなかった。

 ――魔力!

 彼の拳には、プルイナの知らない、未知の力による強化が加わっていた。

 魔力が宿り、強度を更に増した鉄拳が、ペレグの胸郭(きょうかく)を大きく破砕した。

 胴体が砕け、繋がりを失った頭部と手足が飛散する。


「――――!!」


 その勢いのまま、黒い鎧は悪魔の身体を突き抜けて、激しく転がっていった。


『ディゼム!』

「…………」


 ディゼムは意識を失っていた。

 彼を保護するため、プルイナは黒い鎧を制御し、スラスターを噴かせる。

 糸の切れた人形のように転がりつづけていた鎧は、機体の各部からバシバシとスラスターの噴射光を明滅させ、勢いを減殺する。

 そして無理なく、膝と手のひらを地面についた姿勢へと移行させた。

 失意にうなだれているような姿勢にも見えるが、着装者は気絶したままだ。


「ちょっと、大丈夫……!?」


 動かなくなった黒い鎧に近づき、気遣うホウセ。

 射点を取るために移動を始めていたアケウは、望遠でそれらを見ていた。

 長大なレール・ライフルの照準を下ろして、つぶやく。


「……やったみたいだね」

『あぁ。ディゼムも命に別条ない。集まってきている他の悪魔を牽制しよう』


 白い鎧はそのまま斜面に座り、再びレール・スナイパー・ライフルを構えて遠方の悪魔たちに照準を合わせ始めた。

 エクレルがアナウンスする。


『プルイナ、ホウセ。ディゼムを連れてこちらに合流してくれ。厄介なやつは片付いたようだから、警戒しつつ、当初の予定通り誘引を続行する』


 追ってくる悪魔たちをひきつけながら、彼らは北上した。

 アウソニアへの入口のある地域から、十分と思われる距離としてプルイナたちが推定したのが、およそ250キロメートル。

 そこまで悪魔たちを引き離すのに、10日を要した。











 鎧たちが姿を消してから、2日後。

 アウソニアから北に100キロメートルほど離れた、街道の村の跡地。

 150年ほど前に人間たちが放棄した――あるいは皆殺しにされた――村の1つだ。

 その一角に、悪魔たちが集まっていた。

 先日、半島の南端に集まっていた2万とは比べるべくもない、ごく少数。

 働き悪魔(ダフニア)の群れを含め、せいぜい500程度だ。

 多くの働き悪魔たちは、死体集めに使役されていた。

 廃港に現れた人間たちによって殺害された、魔の戦士たちの死体だ。

 そこに新たに、呪いの匠、ペレグの死体の破片が加わる。

 村の広場だった場所に積み上げられた、悪魔だったものの欠片。

 それを前にして、幾重ものローブに覆われた謎めいた悪魔が、何事かをつぶやく。


「~~――~~」


 呪文だ。

 呪文によって、魔術が発動する。

 するとそれぞれの死体から、煙か粉末のような、きらきらと輝く気体めいたものが放出される。

 それは流れとなって、呪文を唱えた悪魔へと集まり、ローブの奥へと吸い込まれていった。

 記憶。

 死体から、記憶をたどる魔術。

 金色の流体を通してローブの悪魔へと、死んだ悪魔たちの記憶が取り込まれているのだ。


「……!」


 ローブの悪魔は、ペレグたちの(まつ)()の有様を見た。

 人間が生き残っており、彼らの目の前に現れたこと。

 彼らに戦いを挑み、殺したこと。

 そして何より、人間たちが使っていた鎧だ。

 噂となっている赤い鎧だけではない。


「黒と、白……?」


 これは、何をおいても報告しなければならないことだった。

 ローブの悪魔は、懐から人皮紙でできた冊子を取り出し、遠話の魔術紋様のページを開いた。

 そこに1画を書き足し、魔術紋様を起動する。

 報告の相手が魔王ではなく、最側近を気取っているヌンハーであることだけが、やや惜しまれた。











 廃港から残りの悪魔たちを北へ引き離すのに、10日を要した。

 250キロメートルの行程なので、1日あたり25キロメートル。

 これは徒歩で8時間歩いた距離よりも短いが、あまり早く後退すると悪魔たちを引き離してしまう。

 適度な休息を挟みつつ、彼らは交代で悪魔たちに攻撃を仕掛け続けた。

 また、武器弾薬・食料などを製造し、電源を兼ねられるほどに大型化した自己複製プリンターがあった。

 自己複製プリンターは自分で歩行する能力を持ってはいるが、飛行などはできないため、速度は徒歩よりも多少早いといった程度だ。

 そうした条件が重なって、前述の速度となった。

 結果、彼らはアウソニアの近傍地域に集結していた悪魔たちの集団を、北へと誘導した。

 彼らが姿を隠した後も、悪魔たちはそのまま北上し、アウソニアから離れていった。

 目的は達成されたとみてよい。

 3人の人間たちと2領の全身鎧は、アウソニアへと帰投した。

 帰り道については、空を飛んだため1時間とかからなかった。

 自己複製プリンタは大きいため、一部を分離して持ち帰り、残りは自壊させた。 

 ――彼らがアウソニアに戻って最初にしたのは、そうした内容の報告だった。

 理事会室でホウセが、集まった長老たちに説明し、締めくくる。


「なので、アウソニアはもう安全と見ていいかなと。以上です」


 理事会長は軽く息を吐き、彼女に告げた。


「ありがとう、ホウセとインヘリトの戦士たち。礼を言う」

「どうも」

「我々にとっても必要なことでしたので」


 理事会長の言葉に対し、ディゼムは曖昧に、アケウは謙遜するように応える。

 隣席していたファリーハが、書類をまとめたファイルを手に、立ち上がって言った。


「では、私からも報告を」

『ファリーハ。申し訳ありませんが、少し待ってください』

「えー……」


 黒い鎧からプルイナが、彼女をさえぎった。

 今はどちらの鎧も、内部に着装者を抱えたまま臨席している。


『理事会の皆さんと、ホウセに。疑問があります』


 プルイナは理事会室に集まった臨席者を見渡し、続けた。


『ホウセ。まず、あなた自身の人格などを疑っているわけではないことは、断っておきます。

 しかし、本機はあなたがこのアウソニアにとって、どういった存在なのかについて知りたい。

 今回の作戦は成功しましたが、部外者である我々が参加した戦いの成否について、あなたが報告しただけで、理事会の皆さんは受け入れた。

 あなたがどういった経緯で、そこまでの信頼を得たのか?

 あなたは大事な秘密だと言っていましたが……本機はまさに、それが知りたいのです』

「異世界の戦士よ、その話はまた別の機会に――」

「理事会長」


 話題を変えようとする理事会長を、ホウセが止める。

 彼女は長老たちの表情を見渡し、


「私は話してもいいと思います。彼らは悪魔を引き離すために10日間、粘り強く戦ってくれました。私一人じゃ無理だったろうし……共有してもいいかなって」


 理事会長は少しだけ黙った後、口にした。


「…………君が構わないというなら、いいだろう。了解を取り付けて回るわけにもいかないしな」

「それじゃあ」


 ホウセは立ち上がり、ディゼムたちの側を向いて告げる。


「薄々思い至ってたとは思うけど、生き残った人類の国っていうのは、ここだけじゃないの。

 インヘリトやアウソニア以外に、そういう国がいくつかあって……私はそこを行き来して、お互いの近況なんかを書簡で交換する役目をやってる。

 もうそれなりに長いことやってるから、それで信頼してもらえてる……のかな?」


 ややきまり悪そうな彼女の説明を、長老たちが補足した。


「彼女は我々が、悪魔の闊歩(かっぽ)する外の世界を知るために頼ることができる、ただ一人の情報源ということだ。いや、今は君たちという存在がいるのだから、“だった”としなくてはならないかな」

「我々はこの150年で貨幣経済というものを失ってしまったが……報酬も、できる限りのものを提供しているよ」


 ディゼムにもアケウにも、鎧たちにも、うっすらと、思うところはあった。

 人間が生き残っている地域はインヘリトだけではなく、アウソニアがあった。

 ならば、他にも?

 そう考えるのは不自然なことではない。

 多少の驚きこそあったものの、全く信じがたい話というわけでもなかった。

 だが、


「やってるのは連絡と、まぁあとは細々した配達くらいなんだけど――」

「その集団というもの! 数と、それぞれの規模は……!? 教えてください!!」


 説明を続けようとするホウセに、飛びかかるようにファリーハが席を立ち、にじり寄る。

 ホウセは慌てて、彼女を静止しようとするが、


「えーと、今は待って、落ち着いて……」

「落ち着いてはいられません! というか、ホウセ……あなた……」


 ファリーハは語気を徐々に弱め、ホウセの肩からゆっくりと手を放した。


「10日間も外出していたせいですか……? ちょっと、臭いが……」

「だから待ってって言ったじゃん!?」


 抗議するホウセから微妙に距離を取りつつ、ファリーハは陳謝した。


「すみません……話はあとで聞かせてもらうということで、今は風呂に入ってきましょう。アケウもディゼムも、入りたいでしょうし」

『XPIAS-6には自動で着装者の体を洗浄する機能もあるので、二人は衛生上問題ありません。精神的には別ですが』

『というか、ホウセにも鎧を貸して洗浄機能を使わせようとしたのだが、本人が嫌がってな』


 補足するプルイナとエクレルに、ホウセが口を尖らせた。


「何度も言って悪いけど、得体の知れないもので体を洗いたくないの」

『これだからな……誰か早く、この薄汚れた子猫を洗ってやってくれ』

「だれが薄汚れた子猫だって!?」

「エクレル!」


 エクレルに対して憤るホウセ、咎めるアケウ。

 黒い鎧を着たままディゼムは、ホウセの肩を後ろから押した。


「ほれ、行くぞ。確かお前の家、風呂あったよな」

「すみません殿下、僕たちは先に、ホウセの家に戻っていますので」

「うがぁーーっ」


 二人は暴れるホウセの腕を両脇から拘束して、理事会室から退出していった。











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