1.2.魔王の襲来
異世界から来た黒い鎧が、ディゼムに強制的に着られることで、彼を魔王の攻撃から守った。
それを見た魔王――ワーウヤードの女神のごとき美貌が、わずかに歪む。
一方で、ディゼムは一瞬で黒い鎧の中に飲み込まれて、戸惑っていた。
「…………!」
状況が、飲み込めない。
一瞬だけ暗くなったものの、彼の視界は明瞭だった。
耳には声が聞こえてきている。
『本機は、人命保護を実施しています。アリスタルコス条約に基づき、市民財産保護規約を有効化、事態に適用しました』
落ち着き払った、やや低い女の声。
だが、語る内容はよく理解できなかった。
『身体を楽にして、衝撃に備えてください』
「な、何でだ……!?」
それとは別に、彼の目の前にいる魔王が、小さく呟く声も聞こえる。
「……そうか、それが話に聞く予言の戦士とやらか?」
言うと、彼女は祭壇の上から、更に髪を繰り出した。
ディゼムを守る黒い鎧は、体勢を変えず、なおも動かない。
鋭い音を立てて、金色の槍と化した髪の連続攻撃が、黒い鎧を襲い続ける。
とはいえ衝撃で倒れそうになると、鎧は足を動かしてバランスを取った。
内部のディゼムは、外部から手足を強制的に動かされ、更に動揺していた。
「んな、何だ……!? もしかして……!?」
彼にしてみれば、自分だけでその洞察に至ったのは奇跡的だったかもしれない。
(こいつ、あの黒い鎧なのか……!? 俺を中に入れて、動かしてる……!?)
ただ、彼にとってはもはや、それどころではなくなってしまった。
祭壇の上の魔王は自らの髪を操り、彼に対して無数の刺突を放ってくる。
金色の髪は、なおも彼に向かって、猛烈な勢いで伸縮を続けていた。
そんな状態で身体の自由が効かないというのは、もどかしさの極みだった。
(クソ、身体を楽に、なんて言われたってな……!!)
手足を勝手に動かされる状態で、攻撃にさらされる。
恐ろしい状態だったが、しかし実際には、彼は無傷のままだった。
全身を黒い装甲で完全に保護され、目の部分は赤く透明な素材で覆われている。
黒い鎧は、ディゼムを完全に守っていた。
状況をはたから見れば、神々しくさえ見える金色の女が、兵士を攻撃した。
そして、黒い鎧がそれを守っている――
ということになるだろう。
礼拝の広間の様子を見に戻ってきた警備の兵士たちが、それに気づく。
「あれは……女神、なのか……!?」「異世界の黒い戦士が……!」
女神とまで呼ばれたそれは、そこで髪束による攻撃を中断した。
次いで、やや不機嫌そうに語気を強める。
「ヒトよ。お前たちにそのような具足が作れるとは思えぬ。やはり余を殺すために、どこからか喚び寄せたのだな。この堂の、そこかしこにある掠れた紋様が、何よりの証拠」
その声は鎧の中のディゼムにも、はっきりと聞こえた。
声さえも幻想のように美しい、金色の女。
魔王と名乗っていたが、つまり、
(悪魔の……女王ってことか!?)
ディゼムは、鎧の中でただ、それを反芻することしかできない。
一方、彼女――魔王はそこまで告げると、黄金の篭手をまとった右手を掲げる。
再び黒い鎧から、落ち着き払った女の声が、彼の耳に入ってきた。
『1点の重大な脅威を検出しました』
やはり、意味は分からない。
だが、目の前で魔王の掲げた右腕が、輝きを強めていく。
鎧から聞こえる女の声も、それと何か関係があるような気がした。
(警告、してんのか……!?)
大聖堂を一撃で吹き飛ばす威力の魔術の力が、解き放たれようとした時。
ディゼムを閉じ込めていた黒い鎧が、爆発的に前方へと飛び出した。
「へぐぉ!?」
中の彼にはたまったものではない。
そして鎧は、魔王に向かって左腕を突き出し、
『エクスプローシヴ・バレット、行使』
「うぉ!?」
落ち着いた女の声と同時、指先から小さな弾丸が高速で飛び、魔力の集中していた魔王の篭手に当たった。
爆発が、魔力をかき乱してエネルギーを散らす。
「……!?」
そこまでの行動は予想外だったのか、美しい魔王の表情に小さな動揺らしきものが混じる。
黒い鎧は速度を落とさず――ディゼムを守ったまま――追撃。
拳骨の位置から二本の短い棘を伸ばし、突き刺す構えを見せる。
『ヴァリアブル・パラライザー、行使』
祭壇を駆け下りて、鎧はその拳を突き出す。
魔王が一歩後ろに下がり、紙一重で届かない。
「!?」
いや、拳が伸び切った瞬間に棘が射出されていた。
魔王はそれを、首をひねって回避――しきれなかった。
彼女の頬に、小さな傷が生じた。
そこから、金色の煙が流れ出す。
(血じゃねえ、何だ……? やっぱ人間じゃねえ……!?)
一方で、動揺からか、魔王の動きがわずかに止まる。
だが、黒い鎧は動きを止めず、鉄拳を連打した。
頭、胸、腹。
三連続の衝撃に、魔王はひらひらとした衣や黄金の髪、長い尻尾をたなびかせつつ吹き飛んだ。
だが、彼女はそのまま大聖堂の床を転がることなく、空中で姿勢を回復させる。
「はぁッ!!」
ワーウヤードは虚空に3つの火球を生み出し、黒い鎧に向かって投げつけた。
『クロスレンジ・レーザー、行使』
黒い鎧は、頭部側面から何かを発射してそれを撃ち落とす。
空中で爆炎の花が咲き、大聖堂の大広間に爆風が吹き荒れた。
黒い鎧はそのまま突撃、前蹴りを見舞い――これは魔王に左腕で防がれる。
逆に魔王が黒い鎧の左足を蹴り払い、一瞬滞空した鎧に拳を放った。
今度は黒い鎧が吹き飛ぶ。
「うぉ!?」
内部のディゼムは目まぐるしい動きに戸惑うも、何とか視線を動かし、外の状況を把握しようとした。
黒い鎧は吹き飛ばされながらも、全身のスラスターからの噴射で姿勢を制御し、何事もなかったかのように着地する。
その時。
『あなた、あなた。聞こえていますか』
「!?」
ディゼムは自分に対する呼びかけらしきものに、身構えた。
先程から聞こえていた、落ち着き払った女の声。
今までは一方的に、よくわからない内容を話していた声が、自分を呼んでいる。
彼には知る由もないが、翻訳の魔術の効果だった。
召喚の直後に王女が鎧へと施した魔術が、まだ効いているのだ。
もっとも、翻訳がされていても、難しい用語が理解できるようになるわけではないが。
『手短に済ませます。本機はプルイナ。あなたが着ている、この鎧です。あなたの名は?』
「……ディゼム」
戸惑いつつ、名乗る。
プルイナと名乗った声は、淡々と説明した。
『ディゼム。このままでは、我々は負けます。あの、魔王に対して』
「負ける……!?」
『具体的には、死にます』
「死ぬ……!?」
そこまで言葉を交わすと、魔王ワーウヤードが攻撃を再開した。
「堕ちよ」
ドームの穴を抜けて天から落ちてきた強烈な電撃が、黒い鎧を貫く。
「うぅ……!?」
鎧は回避こそ間に合わなかったが、圧倒的な電圧・電流に耐え抜き、内部のディゼムも保護した。
とはいえ、無防備に何度も受けて問題がない、というわけではない。
次撃に備えて後退し、プルイナは続けた。
『あなたが、承認してください。この鎧が――本機が、あなたのものであると。今、本機はあなたのものではありません。勝手に保護をしているだけで、動きに限界があります。あなたが自ら認めて着装者となることで、本機はより大きな力を発揮できます』
「鎧に……お前に選ばれるってことか……?」
『そのような解釈も可能ですが……勝つにはそれしかありません』
魔王の超音速の飛び蹴りが、黒い鎧に狙いを付けていた。
黒い鎧はなおも動き、ディゼムを中に入れたまま、ワーウヤードの黄金の足首を掴んで止める。
反動で、床の石材が大きく削れた。
足を受け止められたままの魔王の髪が、無数の触手のようにうごめき、黒い鎧の装甲を突き刺す。
貫通はされていない。
しかし黄金の針の嵐は、なおも装甲を蝕もうとする。
宝石の土砂降りのような音が、装甲の内部まで聞こえてきた。
「クソ、とにかくお前が動き回るんで体中限界だ……! 俺を助けてくれるんなら何だっていい! お前に選ばれたんなら、受け入れる――プルイナ!」
魔王の髪は装甲を破壊こそしなかったが、黒い鎧は体勢を崩した。
彼女が足を振り上げると、掴んでいた足首を支点に、鎧は逆に空中へと蹴り上げられてしまう。
ディゼムは悲鳴じみた声で、救いを求めた。
「――俺を助けてくれ!」
『救助要請を受諾しました。あなたを着装者として認証します』
滞空した彼らを目がけて、魔王の拳が爆音を立てる。
だが、恐るべき威力を放ったワーウヤードの籠手を、黒い鎧は空中で掴み、止めた。
魔王が短く、うめく。
「何――?」
拳を引き戻そうとする魔王。
その拳を掴んで離さず、スラスター制御で空中に留まる黒い鎧。
プルイナが、宣言した。
『あらためて、全身を楽にしてください。本機はこれより、第2段階の格闘戦を実施します』
「――!?」
肩のスラスターを上方に噴射させて、勢いよく着地。
黒い鎧はその反動を利用して、背負い投げに近い要領で、魔王を空中に放り投げた。
すかさず足裏からの噴射で空中に舞い上がり、魔王に追いついて踵落としを食らわせる。
「くぁ……!?」
背部スラスターからの強烈な推進力も加わり、後ろから蹴られた魔王。
彼女はそのまま大聖堂の床に衝突し、石材を爆散させる。
そして黒い鎧は魔王の黄金の髪をひっつかみ、遠心力に任せて周囲の床へと何度も叩きつけた。
化粧の大理石やその下に敷かれた石材までが破壊される轟音が、礼拝の広間にこだまする。
されど、彼女も黙ってはいない。
「侮るなァ!」
その右手から突如、巨大な光熱の球体が膨れ上がり、発射された。
『対熱防御』
回避が間に合わず、鎧がその威力に吹き飛ぶ。
プルイナが着装者の視界を保護したため、ディゼムの目には眩しさは届かなかった。
だが、装甲を通して衝撃の凄まじさは伝わってきた――気がする。
背部と脚のスラスターからの推力で姿勢を立て直し、プルイナがアナウンスした。
『損傷なし。ハード・カッター、装備』
黒い鎧が、手首の装甲の内側からせり上がってきた突起を掴む。
引き抜くと、それは短剣だとわかる。
その短剣で――爆炎の向こうから、剣を構えて高速で飛びかかってきた魔王を迎撃する。
黒い刃が、魔王の剣の、黄金の刃を受け止めた。
どこに剣など携えていたのか、あるいは悪魔の魔術で生成できるものなのか。
金色の、神々しささえ感じる剣だ。
魔王本人も、あれほどの爆発でも傷が増えていないように見えるのは、やはり尋常ではない。
傷といえば、先ほど黒い鎧が拳から出した棘で付けた、頬のものだけではないか。
ディゼムは、黒い鎧のプルイナに話しかけるつもりで指摘する。
「おい、何か……あいつの傷、もう治りかけてねえか……!?」
相手の剣に対して短剣で切り結んだまま、プルイナが答える。
『損傷が確実に減少しています。治癒していると考えられます』
「このままでも俺たち、負けるんじゃねえか……?」
『負けません。必要とあらば、この建造物を破壊する規模の兵装を使用してでも、あなたを守ります』
「それはやめろ! 王様とか偉い坊さんとか、周囲に大量にいるんだぞ!?」
『すでに避難は進行しつつあるようです。このままでは敵の攻撃の余波によって、同じことが起きます』
彼らは魔王と戦いながら、鎧の中で問答していた。
そこに、魔王の後方から飛び込んでくる質量があった。
「何っ!?」
それは黒い鎧に衝突し、のけぞらせた。
衝突してきたのは、もう一方の白い鎧だった。
魔王がその尻尾を伸ばして、祭壇の上に直立したままだった白い鎧の足首を掴み、投げ飛ばしてきたのだ。
「ほう、思ったより上手くいったな」
その時にはすでに、魔王は黒い鎧のすぐそばまで接近していた。
鎧の全身が、黄金の髪によって空中へと縛り上げられる。
「う……!?」
内部のディゼムにも、黄金の髪からすさまじい圧力がかかってきているのが理解できた。
「ぐ……潰される、のか……!?」
『防御しています。身体を楽にしてください』
「いや何か圧迫感すごいんだけどな!?」
魔王が微笑む。
弱みを見つけてやった――というような。
そんな表情でさえ、美しかった。
「くく、そうか。つつかれるより、締め上げられる方が効くか?」
『クロスレンジ・レーザー、行使』
黒い鎧は頭部からレーザーを照射するが、黄金の髪には傷一つつかない。
魔王本体に照射するも、もはや物ともしないようだ。
『対象の耐久性の上昇を確認』
「クソ、動けねぇのか、プルイナ!?」
『現在の本機の駆動性能を上回っています』
締め上げる力はますます上昇し、黒い鎧の抗堪できる限界に迫り、越えようとしていた。
頬の小さな傷口も消え去り、魔王は拍子抜けしたように口にする。
「これは“影”に過ぎぬ。本物の余が、遠く離れた地で見ている夢のようなもの。それで殺せるとあらば、予言の戦士、恐るるに足らずか」
(んなこと俺に言われてもな……!?)
ディゼムは魔王の発言に当惑しつつ、戦慄した。
鎧の装甲がきしみ、彼の体にも徐々に圧力が伝わってきている。
そこへ――パン、と何かが弾ける音が響く。
「その人を離せ!」
銃声と共に、突撃してくる者がいた。
鉄兜の下から赤毛の覗く、若い兵士。
(アケウ……!?)
要人たちの避難は終わったのか、戻ってきたのだ。
魔王に向かって拳銃を発砲しながら、粉塵の漂う礼拝の広間を駆けてくる。
距離が離れていることもあり、魔王に当たる弾丸は一つもないが、それでも彼女の気を引くことには成功していた。
「うん?」
魔王ワーウヤードは、その黄金の髪の全てを、ディゼムと黒い鎧を縛るのに使っていた。
その一部を伸ばし、すぐ近くに転がっていた白い鎧を掴み上げる。
そしてアケウに対して、白い鎧を弾丸のように投げ飛ばした。
赤毛の兵士は飛来した白い鎧に衝突し、即死する――ことなく。
今度は、白い鎧が破裂した。
「う……!?」
そのまま鎧の破片はアケウに対して襲い掛かり、元の形状を復元しつつ彼を飲み込む。
鉄兜や拳銃、警棒などは、やはり排除された。
鎧に包まれた彼の耳に、言葉が聴こえてくる。
『緊急処置として強制着装を行った。当機はエクレルという。よろしくアケウ』
鈴の鳴るような女の声で自己紹介をされ、アケウはたじろいだ。
「何だ……!? なぜ僕の名を……!?」
『さっき、そこの黒い鎧の中の者がお前の名を呼んでいたからな』
「えっ……じゃあ、あの鎧の中には、ディゼムが……!?」
鎧に守られた戦士が、2人に増えた。
黄金の髪束を引き戻し、不機嫌そうにうめく、魔王。
「やはり予言の戦士か、こちらも!」
一方、アケウと白い鎧は違った。
「僕はこいつを追い払いたい。君が異世界から呼ばれた戦士だっていうなら、力を貸してくれないか、エクレル!」
『いいだろう。身体を楽にしていろ。下手に動くと、手足が折れるぞ』
黒い鎧の中では、プルイナがディゼムに状況を説明していた。
『あちらの着装者も、鎧を承認したようです。行きましょう、ディゼム。これならば、今度こそ負けはありません』
「お前が全部動かしてんだろ! もう体中痛えから、早くやっちまってくれ!!」
『要請を受諾しました』
黒と白、2領の鎧が疾駆して、突進してきた黄金の魔王を迎撃する。
魔王は魔力を背後から、2領の鎧は推進力を背部のスラスターから。
両者は互いに強烈なエネルギーを放射して、真っ向からぶつかり合った。
左右それぞれの腕で、黒と白の鎧を押し留める魔王――いや、正確には“影”と自称していたか。
彼女は再び、咆哮する。
「ヒトの戦士ども、今ここで鎧を引き裂き、中の肉を削いでやる!」
大聖堂と周辺一帯が、衝突の衝撃で生じた爆風でびりびりと揺れる。
彼らは衝突の勢いのまま、魔王が開けたドーム天井の穴へと上昇して行った。
大聖堂の上空に飛び出した彼らを、正午の太陽が照らす。
そこでワーウヤードは、あることに気づいた。
自分と組みあっているのは、黒い鎧だけだ。
いつの間に消えたのか、白い鎧が、いない。
『ディゼム、魔王から離れます!』
「え!?」
黒い鎧が黄金の魔王を蹴り飛ばし、空中で距離を取った。
そこに――
『限局核レーザー砲、行使!』
「――――――!!!」
横合いから発射された超高密度のガンマ線が、魔王を直撃する。
金色の美の化身は、跡形も無く蒸発した。
「何だ、今の……!?」
ディゼムが空中で周囲を見回すと、白い鎧――エクレルが大聖堂の屋根の上で、片膝をついて構えていた。
何やら形状の変化した左腕を、前方へと突き出して構えている。
構えを解くと、腕の装甲はがしゃがしゃと元の形状に戻っていった。
ディゼムの疑問に、プルイナが答える。
『ガンマ・ガンです。核レーザー砲に変形した腕部装甲の内部で小規模な核爆発を引き起こし、そのエネルギーを一つの方向へと偏向する。即ち、本来ならば全方位へと拡散する核爆発の威力の、ほぼ全てを標的に向けてぶつける兵器です』
説明を聞き、ディゼムは滞空したままの黒い鎧の中でつぶやいた。
「……よく分からんが、何か、あっけなく終わったな」
『危険な役目を引き受けてくれて感謝します、ディゼム。もし魔王といつまでも掴みあっていたら、我々も同じように消滅していたでしょう』
「なんつう恐ろしいことしやがんだよ!?」
ディゼムの抗議を聞きつつ、黒い鎧は全身の噴射口からの噴射の反動で、ゆっくりと降下した。
そのまま大聖堂の入り口を出て、やや離れた屋外の広場へと降り立つ。
アケウと白い鎧もそれに続くようだった。
小さく、ずしり、ずしりと音を立て、2領の全身鎧が着地する。
『現在近傍に脅威なし。強制保護、解除』
そして二人の着装者からばらりと崩れ落ちるように剥がれて、白い鎧と黒い鎧は彼らの隣に再び元通りに組み上がった。
召喚時と同様の、直立不動の状態だ。
着装者たち――ディゼムとアケウ――は、特にディゼムが強烈な運動をさせられたためか、ぐったりと姿勢を落とし、倒れ込む。
「ディゼム!?」
石畳に頭を打つ直前に、黒い鎧とアケウが、彼の体を抱きとめた。
礼を言いたいところだったが、それより先に、素直な心情が口に出てしまう。
「し、死ぬ……」
一人では立つことも難しい有様だったが、そんなディゼムを力づけるように、アケウが言う。
「まだ早いよ、ほら」
彼の視線の先を追うと、何やら歓呼のような声が聞こえてくる。
一人や二人ではない。
大聖堂の外に避難していた要人や魔術師、兵士たちの声だ。
「やった……!」「異世界の鎧が!」「私たちを守ってくれた……!」
多くの人々が安堵し、喜んでいた。
それはやや、複雑な気分ではあった。
(俺は何もしてねぇんだけど……)
疲労の限界がやってきて、そのあたりで一度、ディゼムの意識は途絶えた。




