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魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る  作者: kadochika
1.パワードスーツ、召喚

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1.2.魔王の襲来

 異世界から来た黒い鎧が、ディゼムに強制的に()()()()ことで、彼を魔王の攻撃から守った。

 それを見た魔王――ワーウヤードの女神のごとき美貌が、わずかに歪む。

 一方で、ディゼムは一瞬で黒い鎧の中に飲み込まれて、戸惑っていた。


「…………!」


 状況が、飲み込めない。

 一瞬だけ暗くなったものの、彼の視界は明瞭だった。

 耳には声が聞こえてきている。


『本機は、人命保護を実施しています。アリスタルコス条約に基づき、市民財産保護規約を有効化、事態に適用しました』


 落ち着き払った、やや低い女の声。

 だが、語る内容はよく理解できなかった。


『身体を楽にして、衝撃に備えてください』

「な、何でだ……!?」


 それとは別に、彼の目の前にいる魔王が、小さく呟く声も聞こえる。


「……そうか、それが話に聞く予言の戦士とやらか?」


 言うと、彼女は祭壇の上から、更に髪を繰り出した。

 ディゼムを守る黒い鎧は、体勢を変えず、なおも動かない。

 鋭い音を立てて、金色の槍と化した髪の連続攻撃が、黒い鎧を襲い続ける。

 とはいえ衝撃で倒れそうになると、鎧は足を動かしてバランスを取った。

 内部のディゼムは、外部から手足を強制的に動かされ、更に動揺していた。


「んな、何だ……!? もしかして……!?」


 彼にしてみれば、自分だけでその洞察に至ったのは奇跡的だったかもしれない。


(こいつ、あの黒い鎧なのか……!? 俺を中に入れて、動かしてる……!?)


 ただ、彼にとってはもはや、それどころではなくなってしまった。

 祭壇の上の魔王は自らの髪を操り、彼に対して無数の刺突を放ってくる。

 金色の髪は、なおも彼に向かって、猛烈な勢いで伸縮を続けていた。

 そんな状態で身体の自由が効かないというのは、もどかしさの極みだった。


(クソ、身体を楽に、なんて言われたってな……!!)


 手足を勝手に動かされる状態で、攻撃にさらされる。

 恐ろしい状態だったが、しかし実際には、彼は無傷のままだった。

 全身を黒い装甲で完全に保護され、目の部分は赤く透明な素材で覆われている。

 黒い鎧は、ディゼムを完全に守っていた。

 状況をはたから見れば、神々しくさえ見える金色の女が、兵士を攻撃した。

 そして、黒い鎧がそれを守っている――

 ということになるだろう。

 礼拝の広間の様子を見に戻ってきた警備の兵士たちが、それに気づく。


「あれは……女神、なのか……!?」「異世界の黒い戦士が……!」


 女神とまで呼ばれたそれは、そこで髪束による攻撃を中断した。

 次いで、やや不機嫌そうに語気を強める。


「ヒトよ。お前たちにそのような具足が作れるとは思えぬ。やはり余を殺すために、どこからか()び寄せたのだな。この堂の、そこかしこにある(かす)れた紋様が、何よりの証拠」


 その声は鎧の中のディゼムにも、はっきりと聞こえた。

 声さえも幻想のように美しい、金色の女。

 魔王と名乗っていたが、つまり、


(悪魔の……女王ってことか!?)


 ディゼムは、鎧の中でただ、それを反芻することしかできない。

 一方、彼女――魔王はそこまで告げると、黄金の篭手をまとった右手を掲げる。

 再び黒い鎧から、落ち着き払った女の声が、彼の耳に入ってきた。


『1点の重大な脅威を検出しました』


 やはり、意味は分からない。

 だが、目の前で魔王の掲げた右腕が、輝きを強めていく。

 鎧から聞こえる女の声も、それと何か関係があるような気がした。


(警告、してんのか……!?)


 大聖堂を一撃で吹き飛ばす威力の魔術の力が、解き放たれようとした時。

 ディゼムを閉じ込めていた黒い鎧が、爆発的に前方へと飛び出した。


「へぐぉ!?」


 中の彼にはたまったものではない。

 そして鎧は、魔王に向かって左腕を突き出し、


『エクスプローシヴ・バレット、行使』

「うぉ!?」


 落ち着いた女の声と同時、指先から小さな弾丸が高速で飛び、魔力の集中していた魔王の篭手に当たった。

 爆発が、魔力をかき乱してエネルギーを散らす。


「……!?」


 そこまでの行動は予想外だったのか、美しい魔王の表情に小さな動揺らしきものが混じる。

 黒い鎧は速度を落とさず――ディゼムを守ったまま――追撃。

 拳骨の位置から二本の短い棘を伸ばし、突き刺す構えを見せる。


『ヴァリアブル・パラライザー、行使』


 祭壇を駆け下りて、鎧はその拳を突き出す。

 魔王が一歩後ろに下がり、紙一重で届かない。


「!?」


 いや、拳が伸び切った瞬間に棘が射出されていた。

 魔王はそれを、首をひねって回避――しきれなかった。

 彼女の頬に、小さな傷が生じた。

 そこから、金色の煙が流れ出す。


(血じゃねえ、何だ……? やっぱ人間じゃねえ……!?)


 一方で、動揺からか、魔王の動きがわずかに止まる。

 だが、黒い鎧は動きを止めず、鉄拳を連打した。

 頭、胸、腹。

 三連続の衝撃に、魔王はひらひらとした衣や黄金の髪、長い尻尾をたなびかせつつ吹き飛んだ。

 だが、彼女はそのまま大聖堂の床を転がることなく、空中で姿勢を回復させる。


「はぁッ!!」


 ワーウヤードは虚空に3つの火球を生み出し、黒い鎧に向かって投げつけた。


『クロスレンジ・レーザー、行使』


 黒い鎧は、頭部側面から何かを発射してそれを撃ち落とす。

 空中で爆炎の花が咲き、大聖堂の大広間に爆風が吹き荒れた。

 黒い鎧はそのまま突撃、前蹴りを見舞い――これは魔王に左腕で防がれる。

 逆に魔王が黒い鎧の左足を蹴り払い、一瞬滞空した鎧に拳を放った。

 今度は黒い鎧が吹き飛ぶ。


「うぉ!?」


 内部のディゼムは目まぐるしい動きに戸惑うも、何とか視線を動かし、外の状況を把握しようとした。

 黒い鎧は吹き飛ばされながらも、全身のスラスターからの噴射で姿勢を制御し、何事もなかったかのように着地する。

 その時。


『あなた、あなた。聞こえていますか』

「!?」


 ディゼムは自分に対する呼びかけらしきものに、身構えた。

 先程から聞こえていた、落ち着き払った女の声。

 今までは一方的に、よくわからない内容を話していた声が、自分を呼んでいる。

 彼には知る由もないが、翻訳の魔術の効果だった。

 召喚の直後に王女が鎧へと施した魔術が、まだ効いているのだ。

 もっとも、翻訳がされていても、難しい用語が理解できるようになるわけではないが。


『手短に済ませます。本機はプルイナ。あなたが着ている、この鎧です。あなたの名は?』

「……ディゼム」


 戸惑いつつ、名乗る。

 プルイナと名乗った声は、淡々と説明した。


『ディゼム。このままでは、我々は負けます。あの、魔王に対して』

「負ける……!?」

『具体的には、死にます』

「死ぬ……!?」


 そこまで言葉を交わすと、魔王ワーウヤードが攻撃を再開した。


「堕ちよ」


 ドームの穴を抜けて天から落ちてきた強烈な電撃が、黒い鎧(プルイナ)を貫く。


「うぅ……!?」


 鎧は回避こそ間に合わなかったが、圧倒的な電圧・電流に耐え抜き、内部のディゼムも保護した。

 とはいえ、無防備に何度も受けて問題がない、というわけではない。

 次撃に備えて後退し、プルイナは続けた。


『あなたが、承認してください。この鎧が――本機が、あなたのものであると。今、本機はあなたのものではありません。勝手に保護をしているだけで、動きに限界があります。あなたが自ら認めて着装者となることで、本機はより大きな力を発揮できます』

「鎧に……お前に選ばれるってことか……?」

『そのような解釈も可能ですが……勝つにはそれしかありません』


 魔王の超音速の飛び蹴りが、黒い鎧に狙いを付けていた。

 黒い鎧はなおも動き、ディゼムを中に入れたまま、ワーウヤードの黄金の足首を掴んで止める。

 反動で、床の石材が大きく削れた。

 足を受け止められたままの魔王の髪が、無数の触手のようにうごめき、黒い鎧の装甲を突き刺す。

 貫通はされていない。

 しかし黄金の針の嵐は、なおも装甲を蝕もうとする。

 宝石の土砂降りのような音が、装甲の内部まで聞こえてきた。


「クソ、とにかくお前が動き回るんで体中限界だ……! 俺を助けてくれるんなら何だっていい! お前に選ばれたんなら、受け入れる――プルイナ!」


 魔王の髪は装甲を破壊こそしなかったが、黒い鎧は体勢を崩した。

 彼女が足を振り上げると、掴んでいた足首を支点に、鎧は逆に空中へと蹴り上げられてしまう。

 ディゼムは悲鳴じみた声で、救いを求めた。


「――俺を助けてくれ!」

『救助要請を受諾しました。あなたを着装者として認証します』


 滞空した彼らを目がけて、魔王の拳が爆音を立てる。

 だが、恐るべき威力を放ったワーウヤードの籠手を、黒い鎧は空中で掴み、止めた。

 魔王が短く、うめく。


「何――?」


 拳を引き戻そうとする魔王。

 その拳を掴んで離さず、スラスター制御で空中に留まる黒い鎧。

 プルイナが、宣言した。


『あらためて、全身を楽にしてください。本機はこれより、第2段階の格闘戦を実施します』

「――!?」


 肩のスラスターを上方に噴射させて、勢いよく着地。

 黒い鎧はその反動を利用して、背負い投げに近い要領で、魔王を空中に放り投げた。

 すかさず足裏からの噴射で空中に舞い上がり、魔王に追いついて(かかと)落としを食らわせる。


「くぁ……!?」


 背部スラスターからの強烈な推進力も加わり、後ろから蹴られた魔王。

 彼女はそのまま大聖堂の床に衝突し、石材を爆散させる。

 そして黒い鎧は魔王の黄金の髪をひっつかみ、遠心力に任せて周囲の床へと何度も叩きつけた。

 化粧の大理石やその下に敷かれた石材までが破壊される轟音が、礼拝の広間にこだまする。

 されど、彼女も黙ってはいない。


(あなど)るなァ!」


 その右手から突如、巨大な光熱の球体が膨れ上がり、発射された。


『対熱防御』


 回避が間に合わず、鎧がその威力に吹き飛ぶ。

 プルイナが着装者の視界を保護したため、ディゼムの目には眩しさは届かなかった。

 だが、装甲を通して衝撃の凄まじさは伝わってきた――気がする。

 背部と脚のスラスターからの推力で姿勢を立て直し、プルイナがアナウンスした。


『損傷なし。ハード・カッター、装備』


 黒い鎧が、手首の装甲の内側からせり上がってきた突起を掴む。

 引き抜くと、それは短剣だとわかる。

 その短剣で――爆炎の向こうから、剣を構えて高速で飛びかかってきた魔王を迎撃する。

 黒い刃が、魔王の剣の、黄金の刃を受け止めた。

 どこに剣など携えていたのか、あるいは悪魔の魔術で生成できるものなのか。

 金色の、神々しささえ感じる剣だ。

 魔王本人も、あれほどの爆発でも傷が増えていないように見えるのは、やはり尋常ではない。

 傷といえば、先ほど黒い鎧が拳から出した棘で付けた、頬のものだけではないか。

 ディゼムは、黒い鎧のプルイナに話しかけるつもりで指摘する。


「おい、何か……あいつの傷、もう治りかけてねえか……!?」


 相手の剣に対して短剣で切り結んだまま、プルイナが答える。


『損傷が確実に減少しています。治癒していると考えられます』

「このままでも俺たち、負けるんじゃねえか……?」

『負けません。必要とあらば、この建造物を破壊する規模の兵装を使用してでも、あなたを守ります』

「それはやめろ! 王様とか偉い坊さんとか、周囲に大量にいるんだぞ!?」

『すでに避難は進行しつつあるようです。このままでは敵の攻撃の余波によって、同じことが起きます』


 彼らは魔王と戦いながら、鎧の中で問答していた。

 そこに、魔王の後方から飛び込んでくる質量があった。


「何っ!?」


 それは黒い鎧に衝突し、のけぞらせた。

 衝突してきたのは、もう一方の白い鎧だった。

 魔王がその尻尾を伸ばして、祭壇の上に直立したままだった白い鎧の足首を掴み、投げ飛ばしてきたのだ。


「ほう、思ったより上手くいったな」


 その時にはすでに、魔王は黒い鎧のすぐそばまで接近していた。

 鎧の全身が、黄金の髪によって空中へと縛り上げられる。


「う……!?」


 内部のディゼムにも、黄金の髪からすさまじい圧力がかかってきているのが理解できた。


「ぐ……潰される、のか……!?」

『防御しています。身体を楽にしてください』

「いや何か圧迫感すごいんだけどな!?」


 魔王が微笑む。

 弱みを見つけてやった――というような。

 そんな表情でさえ、美しかった。


「くく、そうか。つつかれるより、締め上げられる方が効くか?」

『クロスレンジ・レーザー、行使』


 黒い鎧は頭部からレーザーを照射するが、黄金の髪には傷一つつかない。

 魔王本体に照射するも、もはや物ともしないようだ。


『対象の耐久性の上昇を確認』

「クソ、動けねぇのか、プルイナ!?」

『現在の本機の駆動性能を上回っています』


 締め上げる力はますます上昇し、黒い鎧の抗堪(こうたん)できる限界に迫り、越えようとしていた。

 頬の小さな傷口も消え去り、魔王は拍子抜けしたように口にする。


「これは“影”に過ぎぬ。本物の余が、遠く離れた地で見ている夢のようなもの。それで殺せるとあらば、予言の戦士、恐るるに足らずか」

(んなこと俺に言われてもな……!?)


 ディゼムは魔王の発言に当惑しつつ、戦慄した。

 鎧の装甲がきしみ、彼の体にも徐々に圧力が伝わってきている。

 そこへ――パン、と何かが弾ける音が響く。


「その人を離せ!」


 銃声と共に、突撃してくる者がいた。

 鉄兜の下から赤毛の覗く、若い兵士。


(アケウ……!?)


 要人たちの避難は終わったのか、戻ってきたのだ。

 魔王に向かって拳銃を発砲しながら、粉塵の漂う礼拝の広間を駆けてくる。

 距離が離れていることもあり、魔王に当たる弾丸は一つもないが、それでも彼女の気を引くことには成功していた。


「うん?」


 魔王ワーウヤードは、その黄金の髪の全てを、ディゼムと黒い鎧を縛るのに使っていた。

 その一部を伸ばし、すぐ近くに転がっていた白い鎧を掴み上げる。

 そしてアケウに対して、白い鎧を弾丸のように投げ飛ばした。

 赤毛の兵士は飛来した白い鎧に衝突し、即死する――ことなく。

 今度は、白い鎧が()()した。


「う……!?」


 そのまま鎧の破片はアケウに対して襲い掛かり、元の形状を復元しつつ彼を飲み込む。

 鉄兜や拳銃、警棒などは、やはり排除された。

 鎧に包まれた彼の耳に、言葉が聴こえてくる。


『緊急処置として強制着装を行った。当機はエクレルという。よろしくアケウ』


 鈴の鳴るような女の声で自己紹介をされ、アケウはたじろいだ。


「何だ……!? なぜ僕の名を……!?」

『さっき、そこの黒い鎧の中の者がお前の名を呼んでいたからな』

「えっ……じゃあ、あの鎧の中には、ディゼムが……!?」


 鎧に守られた戦士が、2人に増えた。

 黄金の髪束を引き戻し、不機嫌そうにうめく、魔王。


「やはり予言の戦士か、こちらも!」


 一方、アケウと白い鎧は違った。


「僕はこいつを追い払いたい。君が異世界から呼ばれた戦士だっていうなら、力を貸してくれないか、エクレル!」

『いいだろう。身体を楽にしていろ。下手に動くと、手足が折れるぞ』


 黒い鎧の中では、プルイナがディゼムに状況を説明していた。


『あちらの着装者も、鎧を承認したようです。行きましょう、ディゼム。これならば、今度こそ負けはありません』

「お前が全部動かしてんだろ! もう体中痛えから、早くやっちまってくれ!!」

『要請を受諾しました』


 黒と白、2領の鎧が疾駆して、突進してきた黄金の魔王を迎撃する。

 魔王は魔力を背後から、2領の鎧は推進力を背部のスラスターから。

 両者は互いに強烈なエネルギーを放射して、真っ向からぶつかり合った。

 左右それぞれの腕で、黒と白の鎧を押し留める魔王――いや、正確には“影”と自称していたか。

 彼女は再び、咆哮する。


「ヒトの戦士ども、今ここで鎧を引き裂き、中の肉を削いでやる!」


 大聖堂と周辺一帯が、衝突の衝撃で生じた爆風でびりびりと揺れる。

 彼らは衝突の勢いのまま、魔王が開けたドーム天井の穴へと上昇して行った。

 大聖堂の上空に飛び出した彼らを、正午の太陽が照らす。

 そこでワーウヤードは、あることに気づいた。

 自分と組みあっているのは、黒い鎧だけだ。

 いつの間に消えたのか、白い鎧が、いない。


『ディゼム、魔王から離れます!』

「え!?」


 黒い鎧が黄金の魔王を蹴り飛ばし、空中で距離を取った。

 そこに――


限局核レーザー砲(ガンマ・ガン)、行使!』

「――――――!!!」


 横合いから発射された超高密度のガンマ線が、魔王を直撃する。

 金色の美の化身は、跡形も無く蒸発した。


「何だ、今の……!?」


 ディゼムが空中で周囲を見回すと、白い鎧――エクレルが大聖堂の屋根の上で、片膝をついて構えていた。

 何やら形状の変化した左腕を、前方へと突き出して構えている。

 構えを解くと、腕の装甲はがしゃがしゃと元の形状に戻っていった。

 ディゼムの疑問に、プルイナが答える。


『ガンマ・ガンです。核レーザー砲に変形した腕部装甲の内部で小規模な核爆発を引き起こし、そのエネルギーを一つの方向へと偏向する。即ち、本来ならば全方位へと拡散する核爆発の威力の、ほぼ全てを標的に向けてぶつける兵器です』


 説明を聞き、ディゼムは滞空したままの黒い鎧の中でつぶやいた。


「……よく分からんが、何か、あっけなく終わったな」

『危険な役目を引き受けてくれて感謝します、ディゼム。もし魔王といつまでも掴みあっていたら、我々も同じように消滅していたでしょう』

「なんつう恐ろしいことしやがんだよ!?」


 ディゼムの抗議を聞きつつ、黒い鎧は全身の噴射口からの噴射の反動で、ゆっくりと降下した。

 そのまま大聖堂の入り口を出て、やや離れた屋外の広場へと降り立つ。

 アケウと白い鎧もそれに続くようだった。

 小さく、ずしり、ずしりと音を立て、2領の全身鎧が着地する。


『現在近傍に脅威なし。強制保護、解除』


 そして二人の着装者からばらりと崩れ落ちるように剥がれて、白い鎧と黒い鎧は彼らの隣に再び元通りに組み上がった。

 召喚時と同様の、直立不動の状態だ。

 着装者たち――ディゼムとアケウ――は、特にディゼムが強烈な運動をさせられたためか、ぐったりと姿勢を落とし、倒れ込む。


「ディゼム!?」


 石畳に頭を打つ直前に、黒い鎧とアケウが、彼の体を抱きとめた。

 礼を言いたいところだったが、それより先に、素直な心情が口に出てしまう。


「し、死ぬ……」


 一人では立つことも難しい有様だったが、そんなディゼムを力づけるように、アケウが言う。


「まだ早いよ、ほら」


 彼の視線の先を追うと、何やら歓呼のような声が聞こえてくる。

 一人や二人ではない。

 大聖堂の外に避難していた要人や魔術師、兵士たちの声だ。


「やった……!」「異世界の鎧が!」「私たちを守ってくれた……!」


 多くの人々が安堵し、喜んでいた。

 それはやや、複雑な気分ではあった。


(俺は何もしてねぇんだけど……)


 疲労の限界がやってきて、そのあたりで一度、ディゼムの意識は途絶えた。











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