第2章 「岸和田城下で辿る恋路」
※ 挿絵の画像を作成する際には、ももいろね様の「もっとももいろね式女美少女メーカー」を使用させて頂きました。
−初デートでは、北中振大尉の故郷にお伺いしたいです。
園里香上級大尉の申し出は、実に有り難い物だった。
士官学校に入るまでの義務教育時代を過ごした岸和田は、私にとっては庭みたいな場所だ。
回遊式の日本庭園と近代和風建築が美しい五風荘に、市のシンボルとして親しまれている岸和田城。
これらの名所旧跡は、南海本線の蛸地蔵駅から徒歩でアクセス出来る距離にあるため、初デートの散策スポットには最適だった。
「天性寺に伝わる蛸地蔵の説話は、岸和田生まれなら誰もが小中学生時代に聞かされた事があると御伺いしましたが、やはり北中振大尉も?」
城内で上映されていた短編映画が、余程に印象的だったのだろう。
岸和田駅方面へ向けて商店街を進む園里香上級大尉は、アーケードを飾るタコのオブジェやイラストに興味津々だった。
「勿論です、園里香上級大尉。根来武士から岸和田城を守った蛸地蔵は、今でも親しまれていますよ。こちらでは、タコ料理を断つ願掛け参りも有名なのです。」
「その親愛の念が、この商店街にも現れているんですねぇ…」
初デートを意識されてか、園里香上級大尉の私服はビジネスカジュアルでコーディネートされていた。
白いサマージャケットを羽織ったパンツスタイルは、一般企業の新入社員を彷彿とさせ、瞳の大きな童顔との相乗効果で実に初々しく感じられた。
その上、アーケード内を興味津々と見回す姿は、十代後半から二十歳前後の地方人少女のようにあどけなかった。
−軍服姿はあれ程に凛々しかったのに、こんな一面もあるのか…
その意外なギャップに思わず見惚れてしまった、その時だった。
「北中振大尉は、今の私と軍服姿の私と、どちらがお好きですか?」
振り返られた園里香上級大尉が、このような質問をされたのは。
「そ、それは勿論…今の御姿が…」
今回の初デートのため、園里香上級大尉が様々に尽力された事は想像に難くない。
それに何より私自身が、園里香上級大尉の見せる意外な魅力に心を動かされているのだから。
「そうでしたか…そう仰って頂けて、有り難いですね。」
言葉とは裏腹に、何処か含みのある口調だった。
「では、軍装は?大正五十年式女子軍衣に袖を通した私は、北中振大尉の目にはどのように映るのでしょうか?」
「えっ…?」
予期せぬ第二問に、思わず口籠ってしまう。
まさか、二者択一ではなかったなんて思わなかった。
いずれにせよ、初デートまでこぎ着けた今回の縁は、これまでだろう。
私は潔く覚悟を決めた。
「ごめんなさい…少し、意地悪な質問でしたね。急がなくても大丈夫ですよ。」
だが、ビジネスカジュアルに身を包んだ女子士官は、軽く頭を掻きながら、申し訳無さそうに微笑を浮かべていたんだ。
「お好きなタイミングで構いませんので、答えが思い付いたらお聞かせ下さい。さあ、急ぎましょう!次はプラネタリウムですよ!」
「おおっと!急に腕を引っ張るのはお止め下さい、園里香上級大尉!」
照れ隠しとばかりに私の腕を掴み、早足で岸和田駅を目指す園里香上級大尉。
その快活さを見ていると、さっきの意味深な口調や申し訳無さそうな顔色など、嘘みたいに感じられたんだ。




