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第四十四話 出現

感想返し出来なくてごめんなさい。

温かい言葉に大変励まされてます。

 十一月も半ばとなり、今年も残すところあと一月半程度。振り返ってみれば色々なことがあった。異世界転移の不発に始まり、魔物の出現、魔法使いの覚醒、条約提起に起因する紛争、選民思想とテロリズム、弟子兼彼女が二人、ネット工作、ギルドへの協力、山購入、二度目の魔物の群れ等々。

 この中から私的なものを除いても、社会に大きな変革を与えたといえる事柄がいくつも残るはずだ。株価や物価も乱高下し、まさに激動の年と言っても過言ではないほどの一年だった。だがそれもいったん終わり。最近は比較的世の中も安定してきたし、あとは来年の発展に期待しつつマッタリ過ごせそうである。そんなことを思いながらベッドで携帯端末を眺めていると、ふいに不穏な情報が流れてきた。


『謎の地下構造物キター!!?!』

『冒険の予感 (ワクワク)』

『魔物とか溢れないのかな?』

『中にはゲートのようなもので移動します ← ファンタジィ過ぎぃ!!!』

『一般人はまた蚊帳の外か……』


 地下構造物・冒険・階層。そんなキーワードからあるものが推察され、しかし予想が外れていればいいなと思いながら階下に降りリビングの戸を開く。すると、丁度そのことについてのニュースがテレビで流れていた。


 ――政府はこの魔物が現れる地下構造物、仮称:ダンジョンが既に複数確認されていることから全国に存在する可能性があるとし、発見した場合は迂闊に近づかないように注意を呼び掛けて――


「やっぱり、ダンジョンか……」


 もうお腹いっぱいだよと思いながらため息をつく。どうも今年は最後の最後まで慌ただしいものになるらしい。




 ダンジョン。これの語源は地下牢であるらしいが、最近ではゲーム的な迷宮の意味で用いられることが多い。つまり、魔物や謎といった危険度の高い障害を突破すれば神秘や宝物という見返りが得られる場所ということである。そして政府がわざわざダンジョンという俗な呼び方をしているあたり、発表までの先行調査で“そういう”場所であると判明したのだろう。例えば、魔物だけでなく何かしらの貴重なアイテムが確認できたとか。


「しかし、ついにダンジョンまで現れたか」


 魔物が出現しているから、そのうちダンジョンなんかも発生するかなと考えてはいた。しかし、実際に現れたとなるとやはり驚かざるをえない。

 ちなみに、異世界においてもこういったダンジョンは存在した。深い階層で希少な素材やアイテムが手に入るのはもちろんのこと、浅い階層でも外より稼ぎが大きくなりやすいので非常に人気だったのは強く印象に残っている。


「問題は、どういった管理・運営がされるかだよな」


 ダンジョン自体の所有権や管理責任は誰に帰属するのか。ダンジョンから産出した、獲得してきた品は誰のものになるのか。宝物、つまり魔物のドロップ品以外の税金はどうなるのか。こういった事柄が決まらないとダンジョンに潜るかどうかの判断もできない。


「特に獲得品の所有権については気になる」


 仮に持ち帰ったものには対価を支払って全て回収するような形式になると、市場への売り手が限定されることになる。俺としてはこれを機にポーションを売り捌き始めたいので、極端に目立つその状況は都合が悪いのだ。

 もっとも、異世界と違い隠れ蓑にするつもりのダンジョンからポーションが産出されない場合はそれ以前の問題なのだが。


「そのあたりの確認も早めにしたいところだけど……」


 積極的に動こうという気にはなれない。ダンジョンを捜し、人目を避けて侵入し、さらに見つかるか分からないポーションを捜す。些か以上に面倒なのは間違いない。


「そのうち情報が出てくるかもしれないし、今は見だな」


 まあ、情報が出てくるより先に潜る機会があれば注意を払うかと思い、ひとまずダンジョンに関する思考を打ち切った。




 ところが、思ったよりも早くその機会は訪れた。というのも、一週間もしないうちにこの周辺でもダンジョンが見つかり調査隊がギルドで結成されることになったのだ。


「夢人とダンジョン探索……楽しみ」

「澪ちゃん、私も忘れないでくださいね?」


 まるで遠足に行く前の子供のような澪に、璃良が突っ込みを入れる。もっとも、そんな璃良からも気分が高まっているのが見て取れる。


「こらこら。そろそろダンジョンに入るんだから切り替えろー」

「はい!」

「分かった!」


 まあ、二人の興奮も分からないでもない。未知の冒険があり、不思議があり、宝物があるのだ。本格的にアタックするならともかく、今回のような物見遊山のような調査では緊張より楽しみが先に来るだろう。だが流石にそのままでいいともいえないので、二人に師匠風を吹かせて軽い注意を行う。気分は引率の先生だ。もちろんその程度でテンションが下がるはずもないのだが、常々注意を払う訓練しているから少し意識させるだけでも大分違うだろう。


「でも、調査隊に選ばれて良かった」


 それからはダンジョンに出てくる魔物の予想について話を広げてしばらく。ふと、澪が思い出したかのように呟いた。曰く、俺ならともかく自分が選ばれる自信はなかったとのこと。


「いやいや、二人が選ばれないとかありえないから」


 今回の調査隊の選定は、ギルドによる独断で指名制だ。軽く聞いた話ではこれまでの活躍やギルドへの貢献度を基に決めたらしい。そして二人は俺の弟子にしてパーティーメンバーである。自衛のためもあり二人にはそこら辺の魔法使いでは群れても太刀打ちできない力を身に付けさせたし、その過程でたくさんの依頼を消化してきた。つい最近だってワイバーン戦で治療能力の高さを見せつけたばかりだ。そんな二人が選ばれないという事態は何か裏でもなければ考えられない。


「逆に有用だから別のチームに配属される可能性ならあっただろうけどね」


 強いうえに実用的な治癒魔法も使える二人は、戦力バランスだけを考えるなら俺と一緒に探索させるのは効率的とは言えないからだ。もっとも、ギルドは単純な個々のバランスではなくチームとして実際に運用した時の遂行力を重視したようで、普段から組んでいるパーティーを崩さないように注意したらしい。事実、調査隊の各チームはパーティーをベースに不足部分をソロの人で補うという構成だ。


「ま、そういうわけで澪や璃良が調査に参加するのは順当なんだよ」


 個人単位でもパーティー単位でも選ばれるのが普通。そんな言葉で締めると二人は笑顔で頷いた。




「では最終確認です」


 テントの設営や点呼が終わり、そう口を開くギルド職員に集められた十チーム五十人が注目する。


「まず、内部に入ったら携帯端末での連絡が取れるかどうかの確認をお願いします。他のダンジョンの報告を聞くところによると大丈夫だとは思いますが念のためです。万が一ここで障害がみられる場合は調査はいったん中止となります」


 これは先行調査で分かったことの一つであるが、ダンジョン内部でも電波は届くらしい。探索中にGPSが入口の地点から動いていなかったことから、異空間的な展開をしていると目されているダンジョン内になぜ電波が届くのか。これには数々の学者が持論を展開しているらしいが、これといった答えはまだ出ていないようだ。もっとも、詳細が分からなくても使えることには違いない。ゆえに調査隊では安否確認や緊急連絡に電話を用いることになっている。


「次に調査時間は八時間です。ですが余裕を見て三時間が経過したら帰還に入って下さい」


 とはいえ、連絡できないような不測の事態が発生する可能性もゼロではない。そこで時間が区切られた。予定された時刻を過ぎても戻ってこない場合は捜索隊が組織されることになる。ちなみにこの捜索にかかる費用は救助される人の負担になるので、間違っても遅れないようにと強く言われている。


「最後に、当初通達した通りダンジョン内部で入手したものは全て提出してもらいます。宝物に限らず魔物からのドロップも全てです。また今回の目的は調査ですのでなるべく多くのサンプルやデータを持ってきていただけると助かります」


 これについては少し残念だが、元よりそう言う依頼なのだから仕方がない。集められたチームもいわゆる精鋭なので、特に揉めることもなかった。もちろん基本の報酬に加えて成果に応じた追加報酬が出るという話のおかげかもしれないが。


「それでは、皆さんの健闘を期待します」


 その言葉を最後に職員は口を閉じる。あとは調査隊の仕事だ。互いに顔を見合わせ無言の譲り合いをした後、やがて一班から三メートル四方の岩製のゲートを潜り消えていく。

 この地域のダンジョンの調査が今、幕を開けた。


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