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第四十二話 招集

三週間も放置して申し訳ありません。

リアルが忙しくて小説どころではありませんでした。

これから勘を取り戻しつつぼちぼち書いていきたいなあと思っています。

『――す。――い』


 十月も残すところあと数日という頃、少し冷えた朝の気温に体を丸めているとどこからか鈍い音が聞こえた。まどろみつつ働かない頭で考えるに、これは携帯端末によるものではないだろうか。俺の部屋にテレビは無く、またパソコンにはヘッドホンを接続している。しかるに、この何か喋っているような音声は携帯端末以外からとは考えにくい。だが、通話をしているわけではあるまいし、一体何の音なのか分かりかねる。ちなみに目覚ましには置時計のアラーム機能を用いているのでそれ以外であることは確かなのだが。


『――態です。――って下さい』


 携帯端末といえば最近新しいアプリを入れる機会があった。それはギルドが製作したもので、お知らせやキャンペーン、魔物や魔法といった各種情報の参照や依頼の閲覧が可能になるものだ。今まではギルドでしか得られなかった情報が時や場所を選ばずに閲覧できるというのはなかなか便利なもので、多少の相談や打ち合わせ程度ならギルドにたむろする必要はなくなった。必然的にギルド内の混雑も大きく解消され、評判も上々だったりする。

 とはいえ、それはこのアプリだけでなく、同時に行われたギルド設備の改修も大きく関わっているのだが。具体的には磁気カードをICカードに、ATM筐体をディスプレイ一体型PCへといった変更だ。


『――急――態です。ギル――に――って下さい』


 もっとも、これらは単にギルド員の利便性の向上だけを目的としたものではなく、きちんと裏がある。例えばATMの筐体は維持費が非常に高かったし、筐体の選択に賄賂が絡んでいた。これはATMがギルドに設置されてからかなり早い段階で暴かれており、絶対に変更する必要があったのだ。もっとも、代替となるプログラムの用意に手古摺ったようで、今まで時間がかかったようだが。また、カードはセキュリティを強化するために必要な措置だったし、アプリもギルド員の緊急呼び出しを簡単にする意図があった。


『緊急事態です。ギルドに集まって下さい。緊急事態で――』


 そう、丁度こんな感じで。




 午前五時。地震警報もかくやといった喧しさで起こされた俺は澪と璃良に連絡を取り、ギルドへと足を運んだ。そこで多くのギルド員と共に聞いたのは中々に厄介な事態だった。というのも、市街地にワイバーンが出現したらしい。それも単体ではなく五匹ほど。


「敵はオーガと同じ大型と思われます。また、飛行能力や火球を吐き出すことから、至急討伐が必要です」


 職員の説明で集まった魔法使いたちの間に緊張が走る。まあ、飛行や火を噴くといった特殊能力持ちの敵は今のところ殆どいないので無理もない。加えてワイバーンは大型であるという情報。全高が3mを超えるそれらは討伐に複数パーティーを要するレイド級の化け物だ。そんなのが五匹もいるとなれば緊張もするというものである。もっとも、無詠唱や独自詠唱といった魔法技術が広まるまでは一体に百人以上の戦力が必要だったことを考えれば随分マシな状況なのだが。


「幸いにも他の複数の支部でも多くの魔法使いが集まっていますので、勝算は十分にあると考えられます。どうかご協力の程、よろしくお願い致します」


 そう言って頭を下げる職員にしばしの沈黙が流れた後、ギルド員たちは身体強化を掛けて現場に向かって駆けだした。勝算があるという打算か。それともこのままでは蹂躙されるだけだからという諦観か。または魔法使いであるという使命感か。理由は様々であろうが参戦の決断をしたのは間違いない。


「夢人、私たちはどうする?」


 純粋に質問を投げかける澪の方を見ると、どこか縋るような目をしている璃良が目に入る。助けに行きたい。しかし以前の魔物の群れのことを考えるとまた禁止されるかもしれないといったところだろうか。だがそれは杞憂だ。


「参加する。急ごう」

「っ、はいっ!!」


 要するに、悪目立ちしなければいいのである。今は以前と違って公に切れる手札も多いし、勝ち目も十分にある。むしろ才能があると目されている現状、参戦しない方が不味いだろう。前回澪が俺の魔力の多さゆえに不参加のリスクを危惧していたわけだが、今回はその比ではないということだ。もちろん喜んでいる璃良のように純粋に何とかしたいという気持ちも一応あるが。

 そんなことを考えながらワイバーンが目撃されたというポイントに向かってまだ薄暗い道を走りぬけた。




 現場に到着すると、お世辞にも良いとは言えない戦況が目に映った。突進や噛みつき、火球といったワイバーンの攻撃を掻い潜りながらその防御を抜くほどの魔法を展開するのは難しく、たまに有効打になりそうな魔法を撃てても飛行で回避される。さらにワイバーンの攻撃による建物の崩落で被害を出したり火災の消火でも人手を取られていて、やや押されている形だ。


「救助と並行して牽制を行う。璃良は治療に専念、澪は攻撃を。俺は結界でサポートするから近くから離れないように」


 二人が返事をしながら頷くのを確認したら、近くの被害が出ているところに向かう。身体強化のお蔭でダメージこそ受けていないものの瓦礫を退かすことが出来ず身動きが取れない者を救助したり、ワイバーンの炎で焼かれのたうちまわっている者に璃良の治療を施したりするためだ。途中、他の戦闘中の者が危ない時に澪がワイバーンの妨害をし、注意がこちらに向くので結界で防御を行うことも忘れない。

 そんな作業を繰り返すこと暫く。救助者が戦線に復帰したこともあり、戦況が盛り返してきたタイミングでそれは起こった。


「姉御!!」


 突如現れた六匹目にグループの一つが急襲されたのだ。やや距離があるそこに急ぐと、背を切り裂かれたものや弾き飛ばされたものがあちこちで呻き声をあげている。これは不味い。


「隔絶の牢壁」


 すぐにその凶行を成したワイバーンを結界で隔離し、治療に移る。今は速度が重要なため、璃良だけでなく澪や俺も治す側としての参加だ。二人にはいつも通り、確実に治療できるものを優先するよう言いつけて、俺は最も重傷そうな人のところへ。


「由、香……逃げ、ろ」

「姉御! 姉御ぉ!!」


 最も危険そうなのはヤンキー女と彼女に姉御と慕われている女性だ。全身を焼かれ、意識も朦朧としている。それでもヤンキー女の心配をできるのは気合の成せるわざか。ふと、俺の接近に気が付いたヤンキー女は縋りついてくる。


「お前……頼む、姉御を助けてくれ! 姉御はあたしを庇って、このままじゃ姉御が!!」

「まかせろ」


 そう口にしながらヤンキー女を引きはがす。俺くらいの魔力をもってすれば、死んでなければ大体の怪我は治すことが可能だ。


「生命の神秘、大いなるエネルギー。彼の製図を基にその身を修復せよ。癒しの極光」


 規模的に誤魔化しが必要なので、詠唱を口にしながら魔法陣魔法を起動する。間を置かずオーロラが彼女の体を包み込み、光と共に元の状態へ。もっとも、焼けた服までは戻らないので上から下まで大事なところが丸見えではあるが。


「っ、ここは……」

「姉御!!」


 意識を取り戻りた彼女にヤンキー女が抱き着き泣き始めるのを見ながら、異世界用に買溜めておいた毛布を亜空間倉庫から取り出し被せる。


「ワイバーンからのダメージを回復させました。もう大丈夫ですよ」

「ワイバー、ン……あ、ああ、あ……」


 被弾の瞬間を思い出したのか虚ろな目をして震えだす女性。流石にこのままというわけにはいかないので軽く一押し。


「もう、大丈夫です」


 精神が安らぐ魔法を展開しながら、視線を合わせて再度ゆっくりと告げる。精神や思考に作用する類の魔法は非常に燃費が悪いので普通の魔法使いでは取れない手段なのだが、俺の魔力量の前には関係ない。徐々に落ち着いていく彼女の様子に、大丈夫だいじょうぶと繰り返すのをやめて立ち上がる。あとはヤンキー女に任せればいいだろう。そう判断し、俺は次の患者の下へ急いだ。




 どうにか敵の半分片付け戦闘が後半に差し掛かろうとすると、ワイバーンどもは多少の被弾も構わず空へと飛ぶ姿勢を見せた。十中八九逃げるつもりだろう。他の魔法使いたちもそう判断したようで攻撃をより密にする。だがその甲斐なく奴らは高々と飛び上が――。


「グガ、アァア」


 ――らなかった。否、正確には飛び上がることができなかった。


「逃がすわけないだろ? お前らにはここで消えてもらう」


 そこには線上の結界が無数に張り巡らせてあり、飛び立つ途中で翼に絡まって身動きが取れなくなる罠が仕掛けてあるからだ。そして更にダメ押しで顔面周りに面の結界を張り、火球での抵抗も封じる。


「さ、これで後は殴るだけってね」


 そんな呟きと共に魔法を放ちだすと、唖然としていた他の面々もつられて魔法で攻撃を加えていく。しばらくすると一匹が消滅したので次のターゲットへ。


「あたしにもやらせてくれ」


 途中、そんなセリフと共にヤンキー女と姉御と呼ばれる女性がやってきて攻撃を加え始めたりもした。ちなみに姉御さんとは目が合った瞬間に赤面と共に目をそらされ、澪と璃良に追及されたりもしたがまあ些細なことだろう。

 そして二匹目と三匹目も討伐を完了し、全員で勝鬨を上げる。


「ふん、姉御のカタキだ」

「私、死んでねーし」


 そんなやり取りに笑いながら早朝の緊急事態は日の出とともに終了した。



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