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第四十一話 魔法修復術

大変遅くなりました……orz

璃良と澪のキャラ付けに悩むのと腰痛のダブルパンチでなかなか書く作業がはかどりませんでした

とりあえず、璃良と澪はキャラが今までよりは(主に性格面で)固まったので、今後はもう少しマシな表現になると思います……たぶん

あと、今日はこれ以外に幕間二(璃良視点)を差し込みました

璃良の性格がちょっとは出せているかなと思います

今後ともよろしくお願いします


 ここ最近、ギルドでは週末に“魔法修復術体験コーナー”なるものを実施している。魔法修復術とは平たく言ってしまえば魔法による治療であり、それを一般の人がギルドに来て実際に受けてみるという施策だ。これにより一般人は魔法を感じることができるし、魔法使いは回復系の魔法の練習ができる。また、ギルドは回復系魔法のデータと企画への評価が得られて美味しい。そんな誰もが嬉しい試み。

 当然希望者は殺到していて、参加は数回待ちだったりする。もちろん魔法使い側は動物での実験を必須にし、一般人側は同意書へのサインを求めることで篩にかけているにもかかわらず、だ。


「お婆さん、今日はどうしたんですか?」

「手のリウマチが酷くて……。治るかねえ」

「やってみないと分かりません。でも、頑張りますね!」

「頼んだよ」

「はい!」


 そして今日はそんな体験コーナーに三人で参加している。澪と璃良に回復魔法の経験を積ませようと思い、しばらく前に予約していた分の順番が回ってきたのだ。


「しかし、璃良は活き活きしているな」

「璃良は、優しいから」


 独り言に返事があった。見れば澪がいつの間にか近くに来ていたらしい。そして、確かに考えてみれば予約する時に璃良はかなり嬉しそうにしていた覚えがある。とはいえ。


「澪も優しいでしょ」


 そう返す。クラスの女子を田中羅王から守るために派閥のトップを務めたり、オークの群れが発生した時も率先して参加しようと言ったり。自分第一の俺よりずっと他人思いだ。だが、澪は首を横に振る。


「そうでもない。派閥は璃良の勢いに流されただけだし、オークの時は夢人に必要だと思っただけだから」

「俺に?」


 予想外の回答に思わず疑問の声が出る。


「そう。夢人は魔力が高いから現場に居なかったってなると後で村八分になると思った。逆に、上手く活躍すれば受け入れられる土壌になる」


 確かに、あの時は魔力量で周囲に距離を取られていた。とはいえ、恐怖ほどではなくショック程度だったので直に収まると気にしていなかったのだが、澪としては憂慮する事態だったらしい。


「つまり、あの命令無視ももしかして俺を釣り出すために?」

「……うん。夢人なら絶対来てくれるし上手く対処してくれると思ってた」


 なんというべきか、微妙な気分である。この過度の信頼が嬉しくもどこから来ているのか謎だし、俺が二人の行動を読んでいたつもりが全て澪の掌の上だったとは。


「もちろん、もう言いつけを破ったりしない」


 俺の表情に機嫌を損ねたと思ったのか、澪がすぐに反省の言葉を続ける。まあ、依存症の件もあるしそれは疑っていない。


「それもだけど、俺を信頼しすぎて積極的にリスクを取るような真似はしないでね」


 ただ、一つ理解しておいて欲しいのは俺は絶対ではないし完璧でもないのだということだ。もちろん魔法に関しては相当にデキる自信があるし、自分や大切な者を守るために尽力するつもりではある。だが、100%の保証など無いのだ。信頼してくれるのは嬉しいが、なるべく危険な目には合ってほしくないというのが本音である。


「……分かった」


 どこか不服そうに了解の返事をする澪に苦笑する。さしずめ、夢人なら大丈夫なのにといったところだろうか。あるいは、最悪は撤退していたから危険ではなかったということかもしれない。まあ、どちらにせよあまり心配をかけないでくれと思う。


「うん。……でも、そういうことだから私は別に優しくはない」


 そういえば、そんな話だった。中々に衝撃的な告白だったからすっかり忘れていた。


「いや、澪は俺のことを思ってくれたんだからやっぱり優しいよ」

「私は夢人のためだけ。だけど璃良は知らない人のためにも動ける」


 なるほど。確かに親密ではない人にも思いやりを持てるというのは一つの長所として挙げられるレベルかもしれない。


「そういえば、オークの時に激しく噛みついてきたのも璃良だったな」


 澪は平常運転だったが、璃良は随分激しい口調だった。あれは助けたい、助けなければという気持ちが前面に出た訴えだったと言える。


「きっと、助けることが当然なんだと思う。自分が出来る範囲ならなおさら」


 私には真似できない。羨望の眼差しを璃良に向けつつそう口にした澪はどこか悔しそうで、思わずフォローの言葉が口に出る。


「別に真似する必要はないよ。澪には澪の良いところがあるはずだし。それに――」

「それに?」

「優しさは美徳だけど、過ぎれば枷にもなりうるから」


 人は強欲だ。もっと助けたいという欲の沼に嵌まるかもしれないし、助けられなかったことで自罰的になるかもしれない。あるいは助ける対象に利用されたり恐れられたりするかもしれないし、助けられなければ罵倒されることすらある。どこかで制限を掛けないと、どうにも苦しい思いをせざるをえないのだ。


「璃良は、大丈夫かな?」

「分からない。まあ、いざという時は俺たちが助けに入ればいいさ」


 そんなことを言ったそばから璃良が先ほどのリウマチの患者に絡まれている光景が目に入る。俺たちの会話がフラグになったかのようなタイミングだ。


「なんだい、まだ痛いじゃないか! ちゃんと治しとくれ!!」

「あの、もう魔法は掛け終ったんですが――」

「でも痛いんだよ! あんたが無理ならちゃんと治せる人を呼んでおくれ!!」


 困惑しつつもどこか傷ついた雰囲気の璃良に近づき、肩を叩く。


「夢人くん!」

「なんだい、あんたは!?」

「おそらくこの場で最も回復させる力が強い魔法使いだよ、婆さん」


 嘘は言っていない。極論、死んでいなければ魔力のごり押しで大体の損傷は治療できる。そしてそんな確かな自信を感じ取ったのか、件の患者は一転機嫌をよくして笑顔を見せ始めた。


「そうかい。なら治療を頼むよ。この娘じゃ話にならなくてねえ」

「ごめんなさい」


 悲しそうな、しかし笑顔で謝罪の言葉を口にする璃良に俺の中の怒りが燃え上がるのを感じる。


「話にならないのはあんただよ、婆さん」

「あぁ!?」

「魔法で治せるのは損傷に限る。事前説明でも注意があったし同意書にもチラシにも書いてあったはずだ。そして婆さんのリウマチによる骨の変形は完治している。痛みについては病だから医者の領分だよ」


 たまにいるのだ。魔法は万能でなんでも治せると思っている輩が。だが、そうではない。魔法で出来るのは基本的に損傷の回復だけであり、病には効果が無いのだ。本来そこをカバーするのがポーションなのだが、未だ見つかったという話は聞いていない以上は現代医療に頼ることになるだろう。


「ふざけるんじゃないよ! こっちはわざわざギルドまで足を運んだって言うのに!!」

「こっちは頼んでない」


 澪も援軍にやってきた。不愉快気にあしらうその姿は、大分腹に据えかねていることを感じさせる。


「たしかに」

「そもそも、これってボランティアじゃなかった?」

「治療してもらっておいてお礼じゃなく文句を言うとか……」

「こういうのを品格が無いって言うんだっけ?」


 周囲からも冷たい視線と非難が浴びせられ、まさに四面楚歌といった状況に顔をゆがめる婆さん。


「ぐっ、もう二度と来るもんか!!」


 そしてそんな捨て台詞を吐いてギルドを後にした。


「璃良、大丈夫?」

「はい、大丈夫です。皆さん、お騒がせして申し訳ありませんでした!」


 明るく騒動を謝罪する璃良に少し安心しながら、一緒に頭を下げる。周囲の人たちが協力してくれたから、すぐに事が収まったのだ。俺としても頭の一つくらい下げるべきだろう。見れば澪も同様にしている。

 そんな俺たちには気にするなとか頑張ってなどの応援の声が贈られた。




「た、大変だ! 魔物が、怪我人が!!」


 周囲からのエールを受けた後、施術に戻ろうとすると急報が入った。なんでもすぐ近くでミノタウロスやキメラといった中型クラスの中でも強力な敵が複数現れたらしい。幸いにもギルド近くだったのですぐに魔法使いが大勢で仕掛けて始末したらしいが、倒しきるまでに怪我人が結構な数出たのだとか。中には重症者もいてすぐに治療が必要らしい。


「二人とも、魔力の残りは?」

「半分くらいです」

「七割以上ある」


 当然、体験コーナーは中止。その場にいた魔力が残っている魔法使いたちは全員現場に向かうことに。もっとも、そこはある種の地獄と化していた。


「痛えよ……」

「幹夫ちゃん、しっかり!」

「うぅ、う」

「救急や魔法使いはまだなのか!?」

「……」

「しっかりしろ! 死ぬな!!」


 うめき声が響き、怒号が飛び交う。建物や道のいたるところが破壊され、所々に血痕と共に人が倒れているその光景はまさに目を覆わんばかりのものだ。だが、立ち止まることは許されない。死体が転がっていないだけマシというその状況は、つまり足を潰されている者も腹に穴を空けている者もまだ生きているということなのだから。


「澪、璃良、気を強く持て! 俺の後をついてこい!!」


 ショックのあまり呆然としている二人に強い指示で気付けを行う。この場においては二人も十分な戦力だ。遊ばせておくつもりなどない。


「救助に来た魔法使いです。場所を空けてください!」


 まずは最も被害の大きそうな場所へ向かう。見れば工事現場の近くであり、鉄骨に両足を潰されている中年男性が一人と鉄パイプに腹を貫かれている少年が一人。そして、片手が切り落とされている女性が一人いる。


「早く幹夫ちゃんを、娘を、娘婿を!!」

「お婆さん!?」


 早速対応をと思ったら少し前に見た顔が。どうやらこの三人は璃良の治療にケチを付けた婆さんの親類らしい。


「あんた達、頼むからあの子らを助けておくれ。さっきのことは謝るから。どうか、どうか……」

「邪魔だ」


 近くに来て拝むような姿勢の婆さんに一言。それに対し悲壮感を漂わせているが構っている暇はない。


「俺が鉄骨とパイプを退かすから澪は足の、璃良は腹部の修復を! 元気になった雑なイメージで良い。魔力量で強引に治せ!!」

「はい!!」

「了解」


 障害物を取り除いた後、澪と璃良が指示通り治療を施し、すぐに怪我は癒える。手が切り落とされていた女性に関しても、俺が障害物の処理後に回復させた。全員意識ははっきりしているし、とりあえずは大丈夫だろう。


「あとは病院で診察を受けて輸血をしてもらって。澪、璃良、次行くよ」

「うん」

「ありがとう。ありがとう……!!」

「お大事に」


 涙を流し感謝の念を伝える婆さんに笑顔でそう告げる璃良。理不尽な罵倒をしてきた相手にもこんな対応ができるあたり、やはり優しいなと澪と共に頷き合った。




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