第四十話 明晰夢
今日の出来事:澪璃良のキャラ濃く修正したる!!→30分後→え、無理じゃね……
今日書いた三人の方がキャラが立ってる始末だったり
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明晰夢、というものがある。これは寝ているときに夢だと自覚しながら見る夢のことだ。そして、いま俺はまさに明晰夢を見ている。なぜなら俺の目の前には今、異世界の光景が広がっているのだから。
「レオナ姫、ただ今戻りました」
白銀色の甲冑を装備したまだ幼さの残る顔立ちの騎士が膝をつき、頭を垂れている。そしてそれを受けている同い年くらいの姫はテーブルからカップを取り紅茶を一口。
「お帰りなさい、レイ。いつも言っているけれど、ここは私の部屋なのだから気楽にしていいのよ?」
「まだ、職務中ですので」
実直と言えば聞こえはいいが、いささか硬すぎる反応を返す騎士に姫は軽くため息をつく。こいつの生真面目は死ぬまで治らなかったのは知っているが、こんなに昔からだったのかと俺も苦笑いする思いだ。
「……わかりました。早速ですが報告をお願いします」
「はっ! 各地域における魔物の被害数、およびギルドでの魔物素材の取引量は先月よりも減少していました。ピクシー・トレント・スケルトン・ガーゴイル・ゴーレム・マンドラゴラ・ミノタウロス・キメラが最近大きく減った影響と思われます」
その報告を受け、姫は少し考えた後に口を開いた。
「以前はゴブリン・コボルト・オーク・ワーム・リザードマン・サハギン・オーガ・クラーケン・ユニコーンが少なくなったのよね?」
「はい。それらの種類は大きく数を減らして以降は数が安定しています。おそらくは今回も同様に推移するのではないかと」
「安易な推定は危険よ? ところで、民の反応はどうかしら?」
微笑む騎士をそうたしなめながら、しかし姫自身も少し嬉しそうにしている。だが、彼女にとって重要なのはやはり民なのだろう。答えは判りきっているはずなのに、念のためとそれを騎士に問うた。
「全体的に歓迎しています。素材がやや僅かに高くなったことに対する不満は見られますが、それよりも危険が減ったことの方が嬉しいようです。」
「そう。それなら良かったわ」
思っていた通りの答えが返ってきた姫は表情を緩め、騎士は眩しそうにそれを眺めている。確かに、民のことを思う時の彼女は輝いていた。そう、オーラが違うとでもいえばいいのだろうか。それを騎士に告げたら誇らしそうに当たり前だと返されたのは懐かしい記憶だ。
「魔物の数は多すぎましたからね。先に挙げた種類は今の量で丁度いいくらいです。素材の値上がりも大したものではありません」
「他の種類も減ってくれれば……いえ、原因が分からない以上は喜んでいられないわね。そちらの調査はどうだったの?」
こちらも進展があれば。そんな思いだったであろう姫に、騎士は申し訳なさそうに答えを告げる。
「ギルドや宮廷学者が調査しているのですが、未だ答えは出ておらず……。申し訳ありません」
「そう……。確か、転移の可能性が高いって言われているのよね?」
少し気落ちする姫。しかし、何かを思い出したかのように騎士に確認を行う。
「はい。魔物が消失する瞬間の光景が転移現象に似ていたと」
「……分かりました。レイ、ありがとうございました」
「勿体なきお言葉です」
騎士が答えると、再び何かを思案したのちに騎士にねぎらいの言葉をかけた。
「ところで、レイ」
「なんでしょうか?」
任務を無事に終え、一息ついているであろう騎士に姫は呼び掛けに疑問顔。だが俺には分かる。あれは何か突拍子もないことを言い出す目だ。
「ユリアナ様にも調査にご協力いただこうかと思うのだけど」
「な、いけません! 御考え直し下さい、レオナ姫!!」
そして案の定、姫の口から出てきたのは騎士を慌てさせる内容だった。もっとも、騎士のこの反応も無理はない。この国でユリアナ様といえば、かのユリアナ・スピルウッドしかいないのだから。常識的に考えて、若き姫が頼みごとをするには少々荷が勝ちすぎる。
「もし魔物減少の反動があったらと考えると、ね。あと、今は職務中じゃないでしょう?」
「ぐっ。だ、だが何もレオナが頼まずとも――」
「父上も兄上も政務で忙しいわ? ちょうど兄上に王位を譲る準備が始まったところだし。それに、これは私が担当する案件よ?」
だが、姫は騎士の扱いをよく心得ている。生真面目な騎士が反対しにくいように感情論ではなく正論を重ね、自身の思いを通そうとするのだ。
「しかし――」
「ただ、一人じゃ心細いからレイも一緒にいて頂戴? 今さっき、お呼びしたから」
「な――」
そしてそれでも聞かなそうな時には強行する。『王族には行動力も求められるのよ』は彼女の常套句だった。
「私を呼びつけるとはずいぶん偉くなったものだな、レオナ」
「ユリアナ様! この度は来ていただき感謝いたします」
「ふん。まあ、お主が私のところに来るのは無理があるだろうからな。仕方あるまい」
そして唐突に部屋へ現れるは女の魔法使い。黒縁メガネをかけた二十代ほどにしか見えない彼女は、しかし王国にその人ありと謳われた大魔法使いだ。不機嫌そうな言葉とは対照的に、機嫌の良さそうな表情で近くの椅子に腰かける。
「ユリアナ様。貴女が凄いことは存じていますが、姫への敬意を忘れてもらっては困ります」
だが、騎士には全てが関係無い。気にするのは自身の主君への不敬のみだ。
「ほお、ドラグレアの童ごときが随分な言い草だな」
「レイ! 申し訳ありません、ユリアナ様」
その発言に女魔法使いは薄ら笑い、姫は慌てて謝罪を行う。
「まあ、いいさ。ところで一体何の用だ?」
だが、別に女魔法使いも本当に怒ったわけではない。本人を前にしていうと怒られるだろうが、文字通り年季が違う。
「実は、暫く前から続いている魔物の減少についての調査をお願いしたいのです」
「……なぜ、そんなことを?」
しかし姫の依頼には何か思うところがあったらしい。返事をするまで暫しの間があり、口を開くときは真剣な表情になっていた。
「魔物という脅威が本当に消えたのか、それとも消えた分がまた戻ってくるのかを知りたいのです。転移に近い現象で消失するとは聞いているのですが……」
「ふむ。おそらく消えた魔物が戻ってくることは無いと思うが……。いや、いいだろう。きちんと調べてやる」
「ありがとうございます!」
機嫌を損ねれば国家の損失になる。自身の味方を失うことにもなる。最悪敵に回られたら多くの命が失われる。そんな女魔法使いに対し、少し顔をこわばらせながらも理由を告げる姫の胆力は流石王族といったところだろうか。幸い、女魔法使いは言葉をやや濁すだけで調査の協力を承諾した。上手くいったことに姫は喜び、騎士は一人安堵の息を吐く。
「報酬はいつもの通り、ユニコーンの血を二体分と一年分の食糧を貰おうか」
「はい、お待ちしております」
そして世界には靄がかかり、意識が覚醒するのを感じた。
不思議な、そう本当に不思議な夢だった。全て知っている面々の、しかし知らないはずの時期。女の魔法使いはともかく、生真面目な騎士と責任感が強く民思いな姫に会ったのは二十も後半になってからだったはずだ。昔の姿絵を見せてもらったこともない。
「それに、夢にしてはやけに明瞭だったしな」
目を瞑れば起きた今でも鮮明に思い出すことができる。まるで本当にあった出来事を見せられたような……。
「まさかね」
自身の考えを一笑に付す。きっと、少し異世界のことが懐かしくなっただけだろう。決して忘れることは無いが、最近は思い出すことも減ってきているから。
時計を見ればまだ午前一時半。起きるべき時間まであと三時間半もある。
「もう一眠りするか」
そう口にして、瞼を閉じる。さっきの夢の続きが見られたら面白いかもなと思いながら。




