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第三十四話 栽培

良かったなと思えたら評価ポイントをお願いします。

「父さん、山を買いたいんだけど」


 そんなことを言うと、なぜか苦笑が返ってきた。


「夢人はいつも唐突だな」


 流石に脈絡がなさすぎただろうか。とはいえ、そんなに毎回妙な出だしで会話を始めているわけでは無いはずなのだが。


「それで、なんで山を買いたいんだ?」


 父が用途を問うてくる。まあ、普通は山を買い求める高校一年生などいないだろうから当然の疑問だろう。


「実は農業の真似事をしてみようかと思ってね」

「農業?」

「うん」


 なおのこと怪訝な表情になる父だが、これが本音である。というのも、この間の新種の魔物の大量発生でマンドラゴラを稀に確認することができたのだ。


「マンドラゴラって、物語とかだとよく耳にするあの?」


 食器を洗い終えた母が話に参加してくる。


「そう。ただ、叫び声に害はないけどね」


 恐らく最も近いと思われる呼称がマンドラゴラなのでそう呼んでいるが、物語のような危険性はない。まず、見た目は大根サイズの人参で、根っこの部分が足のように二股になっている。そして接近しても特に攻撃してくることはなく、むしろ大声を上げて逃げて行くのだ。また逃げる速度も速くなく、ぶつかっても困らない。


「ただ、ドロップ品の根は物語級の薬効があるんだ」


 厳密には、根をから生える葉っぱの部分に、だが。見た目普通サイズの人参の根っこ自体には特に何の効果もないが、それを植えると一日で葉っぱが生えてくる。その葉っぱが万能薬と言っていい“ポーション”の材料となるのだ。


「万能薬とは大きく出たな」

「事実だからね」


 詳しい仕組みは分からないが、内臓疾患だろうが遺伝子性の病だろうが細菌・ウイルス関連だろうがなんでも治す。流石に怪我は治せないが、その治癒効果の高さと範囲の広さは万能薬と言って差し支えないだろう。


「さらにこの人参、もといドロップ品の根っこは腐らず永久的に葉を付けるんだ」


 つまり、一体倒せば一日一本分の万能薬が生産される様なものだったりする。その分、あまり見かけないのだが。それでもこの間の大量発生でかなりの数を手に入れることが出来たので、栽培しようというわけだ。


「というわけで、土地が欲しいんだ」

「畑じゃ駄目なの?」


 母の疑問はもっともだ。そもそも普通は栽培と言えば畑を思い浮かべるだろう。俺もそう思い調べてみたのだが、どうにも畑の売買やレンタルはハードルが高そうなのだ。


「そうなの?」


 そうなのだ。曰く、農地法というものがあり、農地を買ったり借りたりするには『農家資格』が必要らしい。そして新規参入者が農家資格を手に入れるには『認定申請書』や『営農計画書』を提出して許可を得る必要がある。

 また、農地資格を手に入れた後も農地を手に入れるには持ち主との交渉が必要になる。付近の農家との水・農薬・獣害といった面での兼ね合いがあるので、信用が無いとたとえ耕作放棄地であっても簡単には貸してもらえないし売ってもらえない。


「その点、山は買うだけだからね」


 登記くらいは必要になるが、山を農地に開墾しても取得・保持に関する農地法の制限は特にない。従って、山を買おうという結論に至ったのだ。


「……わかった。何か手伝ってほしい時は言いなさい」

「うん、ありがとう」


 了解は得た。あとは買うだけである。




 それから十日後、俺は購入した山の中にいた。


「うん、良いところが見つかってよかったな」


 目の前の光景に思わずそんな言葉が口を突いて出る。とある県の山奥に位置するこの場所こそ、今回俺が手に入れた山林だ。なかなか立派な木々が立ち、清流があり、麓には平坦地がある。さらに測量も済んでいるため境界の問題も発生しない。そんな素敵物件。気になるお値段はというと、なんと9万坪で450万円。坪単価になおすと50円である。なぜこんなに安いのか。もちろんちゃんとした理由がある。


「流石に駅から車止めまで三十分。さらにそこから歩いて十五分は遠すぎるよな」


 つまり、立地の問題だ。将来的に開拓される可能性が低いので投資目的には向かないし、林業をやるには運び出しの手間が大きなネックになる。加えて、いざキャンプ地や林業で使おうとしても、魔物の駆除から始めてそれを維持しないといけない。とてもではないが売れるわけがないのだ。


「まあ、その辺は俺なら問題ないけど」


 転移が使え、魔物の駆除ができ、結界でその状態を維持できる。むしろなるべく他人を入れたくない俺としてはアクセスが悪いのはプラス評価になるのだ。


「それに、この平坦地が良い」


 もちろん、そんな辺鄙な物件はここ以外にもたくさんあった。ではなぜここに決めたのか。それは麓に合計8000坪もの平坦地があったからだ。

 俺が山を欲していた理由は、あくまでマンドラゴラのドロップする根の栽培のためである。傾斜がきつかったり樹木が生い茂っていては作業がはかどらない。ゆえに平坦地を含むところを探していたらこれを見つけたのだ。

 正直なところ、山の部分も平坦地もこんなに必要なかった。だが、町中にある裏山のようなものは税金が高かったり土砂崩れが起きた時に責任問題が発生したりするリスクがあると言われたので、山奥で一番良さそうなここに決めたのだ。


「とりあえず、作業を始めるか」


 少し考え事が長引いたが、本来の目的に着手するとしよう。まずは平坦地に群生する笹藪を始末する必要がある。燃やしてしまえば簡単なのだが、山火事と間違われたら不味い。そこで、風魔法で対処することにする。かまいたちの類で細かく切り刻み、小さな竜巻で巻き上げて隅の方に寄せてしまうのだ。

 そして威力を調整すること数度、目の前に学校のグラウンドくらいの広さの地面が広がっていた。


「広さはこれだけあれば大丈夫かな」


 だが、まだ笹藪退治は終わりではない。笹藪は地面の下に地下茎を張り巡らせるらしく、これを撤去しないと穴が掘れないのだそうだ。もっとも、これも魔法で解決する。


「農耕用の魔法なんて誰が開発したんだろうなあ」


 夢の中の師匠から受けた修行の一環に、農耕用魔法の存在もあった。具体的には土を下から掘り起こしたり、一定の間隔で広範囲に水を散布するようなものだ。この内、前者を使って地下茎を表に出していく。


「で、あとはドールにお任せと」


 表に出てきた地下茎の回収作業は簡単な動作をさせられるドールにやらせることに。ドール自体はこの場にある土から作った。即席ではない、より高度なドールを作ることも出来るが素材の問題とあまり得意な分野ではないことから手を付けていない。


「そもそもそんなの作っても使い道がなさそうだしなあ」


 誰が聞いているわけでもないのに、そんな言い訳をしながらドールの作業をながめる。少し、時間がかかりそうだ。




「あとは植えるだけだな」


 地下茎もなくなり、掘り返された地面だけが残った光景を見て満足する。あとは適当な間隔でドロップ品の根っこを植えていくだけだ。

 ちなみに、土作りは必要ない。なぜならこの人参もどき、魔物のドロップ品だからか雑草も真っ青になるほどのしぶとさなのだ。具体的には、耕す必要なし・肥料必要なし・水必要なしといった具合である。それこそ、荒野どころか砂漠でも育つ。むしろ水中でも問題なく葉を付ける。おそらく周囲の魔力を糧にしているのだろうが、詳しいことは不明だ。もっとも、効能からしておかしいのだし、魔法魔物絡みを科学で完全解明しようという方が無理があるのかもしれないが。


「ん、これで最後か」


 そんなことを考えながら作業をしていると、約300個を植え終わった。あとは各種結界を張ればとりあえず作業完了だ。。

 ちなみにこの約300個のうち280個はギルドから買い取ったものである。というのも、いくら数を倒したとはいえ元が希少なマンドラゴラをたくさんは倒せなかったのだ。そこで、ギルド長に頼んで各支部から取り寄せてもらったのだ。ドロップ品を直接食べるのが主流の今、暫くは誰も価値に気付かないだろう。だが、必ずポーションは作られる。その少し後にポーション製作者の一人として動けば、目立たず安定した収入源を確保できるはずだ。資産はあるが、今の不安定な情勢を考えると安定した収入源は合った方が良い。なにせ独りではなく、両親や澪、璃良といった護るべきものがあるのだから。




「それで、これがそのポーションね」


 農作業から二日後、両親にポーションの入ったグラスを渡しながらそう口にする。


「……夢人、蛍光緑の粒子が対流してるように見えるんだが」

「ポーションだからね」


 頬をひきつらせた父にそう返す。だが、ポーションとはそんなものなのだ。魔力水100mlに葉っぱ一枚の割合で調合すると何故かこんなことになる。


「お父さん。せっかく夢人が作ってくれたんだし……」

「そう、だな」


 どこか悲壮感を漂わせながら、両親は互いを見て頷く。二人に良くないものなど渡さないのだから、安心してほしいのだが。

 そんなことを思っていると、二人がしめし合わせたかのように一緒にグラスを煽った。


「……んん? 特に触感はないな」

「……うーん、味は水、かしら」


 まあベースが水だし、蛍光緑の粒子は魔力反応的な何かだろうからそんなものだ。それよりも、


「調子はどう?」

「そういえば、疲れがとれてるな」

「私は少し胃が痛かったのが治っているわ」


 きちんと効果を実感できたようで何よりだ。もちろん、他に無自覚の病があっても治っているはずである。


「まあ、こんな感じ。世の中で発見されたら徐々に流していこうかなって思ってる」

「ユニコーンの血の時のように大騒動になるから難しいんじゃない?」

「製薬会社なんか激怒しそうだな」


 両親の言葉に考え込む。良い収入源を確保したと思ってたが少し甘く見積もり過ぎだっただろうか?


「……まあ、無理なら止めればいいし」


 その時はポーションは身内用にして、何か別の案を考えればいいだけだ。とりあえず、一つの選択肢として持っておくのは悪くないだろう。


「ぼちぼち頑張るよ」


 今は手札が増えそうなことと、身近な人が病に倒れる可能性がほぼなくなっただけで良しとしよう。




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