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第三十話 初デート

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 デート。一般に親しい男女が交際を深める目的で行われるものを指す。基本的に二人きりで行くものであるので、今回の俺たちのケースはデートに該当するか微妙なところだろう。少なくとも世間的には友達同士でのお出かけに見えるであろうことは間違いない。もっとも、重要なのは本人たちの心持ちなので、そう言う意味ではデートと呼ぶことが適当である。

 さて、こんな益体もないことを考えているのは澪と璃良を待つに当たって緊張をほぐしつつ暇をつぶすためだったりする。現在、待ち合わせの十分前。今からさらに十分前に到着していた身としては暇になるのも仕方がないというものだ。


「もっとも、遅れてくる選択肢はないわけだけど……」


 よく漫画などで先に着いていた女の子がナンパされるシーンがあるが、あれは女の子を待たせる男側に問題がある。可愛い女の子が待ち惚けしてたらその手の迷惑を受けるのは判りきっているのだから、男側が対処しておくべきなのだ。この際、女の子側がトラブルに対処できる力があるかないかは関係が無い。気分よくデートを始めるためにするべき配慮というやつなのだから。


「すみません、待ち合わせがあるので」

「邪魔」

「そう言わずにさ。ほら、俺らも二人でちょうどいいじゃん?」

「俺たちなら全部奢っちゃうよー?」


 台無しである。


「澪、璃良!」

「夢人!」

「夢人くん!」


 とにもかくにも、全身を強化し二人の下へ。髪型から服装までいかにも遊んでますといった男二人組との間に割って入る。


「なんだ、こいつ」

「ほっとけよ。それより澪ちゃん、璃良ちゃん、早く行こうぜ~」


 不愉快。そう、実に不愉快だ。馬鹿なナンパ男どもに作戦を台無しにされたのも、こいつらが澪と璃良の名前を許しもなく呼んでいるのも、何よりそんな隙を見せてしまった己の愚かささえもだ。


「失せろ」


 ゆえに口調も荒くなる。決していい選択とは言えないが仕方がないのだと自身に言い訳をして。


「ああ? 何だお前」

「あのさあ、夢人クン。俺ら、魔法使いなんだよね」


 “解るっしょ?”そう続ける男は手をこちらに構え魔法を使うぞという脅しをかけてくる。


「だから?」


 苛立ちが加速し、心が冷えていくのを感じる。ああ、だが武力でけりがつくというのなら話が早い。足もとの石畳をひび割れさせ、左右の手には彼らにのみ見えるように炎と氷を纏う。


「こいつ――っ!?」

「――あ、あ」


 さらに強力な殺意を込めた限定的な魔力を展開し、遅延性の忘却の魔法をかける。本能的に二度と彼女たちに近づこうなどとは思わないように。記憶にすら残すことが無いように。


「失せろ。――三度は言わない」


 そして一歩前方に踏み出すと、ナンパ男どもは這う這うの体で立ち去って行った。


「……はぁ」


 もっとも、馬鹿どもを追い払った後は苛立ちよりも落ち込みの方が先に来る。せっかく澪と璃良にデートを楽しんでもらおうと思ったのに、初っ端からケチがついた格好だからだ。これで凹まないわけがない。


「夢人くん、おはようございます」

「おはよう、夢人」

「あ、うん。おはよう」


 しかし二人はあまり気にした様子ではない。むしろ笑顔まで浮かべている。


「今日はよろしくお願いしますね?」

「楽しみにしてる」


 そんな二人に釣られて俺の気分も上向いていく。そう、せっかくのデートなのだから楽しまなければ損だ。それにもう二度と関わらない人間のことで頭を悩ますよりも、目の前の澪と璃良のことについて考えた方が建設的である。とりあえず、古今東西の基本にのっとり、まずは褒めるところから入るとしよう。


「よろしく。……二人とも、今日も可愛いね」

「ふふ、ありがとうございます」

「ありがと。でも次からは一人ずつ具体的に褒めてほしい」


 しかし合格点には及ばなかったようだ。個人的にはかなり頑張ったつもりなのだが……。


「でも、さっきのが格好良かったからいい」

「凄く嬉しかったです!」


 そう口にするとともに二人は両腕に抱き着いてきた。内心、舞い上がる。我ながら実に単純だが、既にテンションはローからハイへと移っていた。


「行こうか」


 もっともそんなのを露骨に出すのも恰好が付かないので、なるべく抑えつつ映画館への移動を促す。チケットは既に入手済みだし、今度こそ上手く決めるとしよう。


「ふふふ」

「かわいい」


 ……舞い上がっているのは隠しきれてはいなかったようだが。




「映画、イマイチでしたね」


 昼時、澪が行きたいと言っていたカフェでランチを摂りつつ先ほどまで見ていた映画の品評を行う。


「そう? 戦闘面は良かったし個人的には結構好きだったけど」


 恋愛と戦闘の最高峰を謳っていたが、恋愛面は最高は少し言い過ぎといった具合だった。もちろん標準以上ではあったし戦闘面の出来は非常に良かったので、単にハードルを高くし過ぎただけといった感じではある。


「でも、夢人ならあのくらいできる」


 そう言う問題なのだろうか。というか。


「それを言うなら二人でも出来るからね?」

「え?」

「ほんと?」


 考えもしなかったという二人の反応に思わず笑いがこぼれる。


「もちろん」


 アクロバットな動きや高所から飛び降りるのは身体強化で間に合うし、壁を走るのも部分強化の応用で足裏に吸着の性質を付与すればいいだけだ。真剣白羽どりだって身体強化で視力も強化されるのだから未強化の人が相手なら余裕である。つまり使うのは身体強化だけなのだ。


「言われてみれば」

「確かに」


 まあ身体強化こそが魔法使いを非一般人たらしめる最大の要因なので当然と言えば当然なのだが。他にも消費魔力的にはいい手段とは言えないものの、魔法の無効化も可能なあたり基本にして奥義という表現がぴったりな技術だったりする。


「他にも炎を使ったり爆発させたりっていうのも魔法で簡単に再現可能だし」

「……私たちもずいぶん強くなったんですね」

「夢人のお蔭」


 妙に感慨深く頷いている二人だが、修行はまだまだ序盤であることを忘れてもらっては困る。今はまだできる事が増えただけで、その使い方や練度はまだまだなのだから。


「まあ、これからも頑張っていこう」

「はい」

「うん」


 とりあえず驕っているわけでは無いようだ。そう安堵しつつテーブルに目をやると、空になった食器がそろそろ次の工程に移る時であることを教えてくれた。




 話を切り上げてカフェを出た後はショッピングである。メインは洋服屋らしいが、それまでにもいくつもの店を回った。途中、今日の記念にと思い購入したお揃いのマグカップは今夜から活躍することは間違いないだろう。そして現在。


「まじか……」

「マジです」

「本気と書いてマジ」


 一人でいれば白眼視も免れない場所、女性水着コーナーの入り口に俺は立っている。曰く、選ぶのを手伝ってほしいらしい。


「あまりセンスに自信ないんだけど」

「素直に良いと思ったものを教えてくれればいいんですよ?」


 そうは言ってもこの手合いにはやはり正解と不正解があるのが常なわけで――。


「私たちの水着姿、見たくない……?」

「見たい」

「じゃあ行こう」


 不安そうな表情で澪に見上げられた瞬間、本能のままに自分の内心を吐露していた。罠にかけた澪はと言えば、璃良と共に既に店内に向かって歩き出している。


「……行くか」


 もはや観念するしかない。そして行くのなら二人から離れないようにしないと本格的に不味いだろう。そう思い俺は二人の下へ急いだ。




 可愛い。似合ってる。いい感じだね。そんな凡百の褒め言葉しか出てこなかったが、二人は不機嫌になることなく俺に数々の水着姿を披露してくれた。眼福である。


「それで、今までの中でどれが一番良かったと思いますか?」


 ただし難事もやってくる。一通り試着し終えた二人は最終判断を俺に委ねてきた。


「……これかこれ、かな」

 

 指さしたのはビキニタイプの物とワンピースタイプの物。二人とも各一着ずつ候補に選んだ。


「えっと、方向性が全然違うんですけど……」

「なんで?」


 疑問顔の二人だが、これでも一応理由があるのだ。


「欲望のままに選ぶならビキニタイプ。見てて俺が楽しいから。でもプールとか海なんかで衆目にさらすことを考えるとワンピースタイプ。理由は他の男に見られると思うと嫉妬するから」


 些かぶっきらぼうな物言いだったが、まあ、そういうことだ。ビキニタイプはエロくて嬉しい。しかし他の男に見せるならワンピースタイプで隠してもらいたい、と。実に自分勝手で我儘な理屈である。

ただ、そんな半分やけっぱちの素直な心情の何かが琴線に触れたのか、二人は顔を赤らめつつも嬉しそうに、しかし目を泳がせている。


「……両方買います」

「私も」


 もちろん俺には特に止める理由もない。むしろ、二人の水着姿をまた見られるのかなと期待するくらいだ。


「あ、俺が出すよ」


 そんな邪な気持ちも込めつつ会計で財布を取り出す。


「えっと、それは流石に……」

「悪い」


 すると申し訳なさそうにする澪と璃良。だがこれは俺の我儘なのだ。


「ここは格好つけさせてほしいかな」


 修行の過程で魔物を討伐しているのだから二人に支払い能力があることは分かっている。しかし、今回は俺に臨時収入が入ってのお誘いだ。それも初デートである。こっちが支払うのが筋というか、甲斐性みたいなものなのだ。


「……分かりました。ありがとうございます」

「ん、ありがとう」


 仕方ないなといった感じで微笑まれ、少し気恥ずかしい。ただ、こういうちっぽけな面子を大事にしてくれたことを嬉しく思う。




「それじゃあ、今日はありがとうございました」

「今日は楽しかった」

「こっちこそ、ありがとう」


 それから駅まで歩き、今日のデートはお開きに。どうせまた明日も会うのだが、少し切なく感じるのは今日が楽しかったからに違いない。願わくば二人もそう思っていてほしい。


「また、明日」


 そんなことを思いながら電車に乗る。今日の夕日は少し感傷的に感じられた。




×凄い主人公がハーレムを作った

〇度量のある二人に主人公が捕まった

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