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幕間三 裏工作[夢人]

良かったなと思えたら評価ポイントをお願いします。


 ネットの大型掲示板を開き、目当てのページに一通り目を通す。


「いい感じだな」


事態が予想通りうまく運んでいることに満足し、誰へともなく頷いてみせる。澪と璃良への指導を開始してからすぐに始めた魔法技術の“気づき”の流布。これがいい感じの起爆剤となり、ネットで色んな検証結果を公開する人が増えているのだ。今はまだ情報が溢れているだけで纏まっていないが、この動きは確実に俺や弟子二人の迷彩として機能することだろう。


「っと。そんなことを思っているとこれか」


『wiki作ったった! 手が空いてるやつはまとめに協力してくれ』

『おつー。未確認の眉唾情報で有益な情報が流されてるのが現状だからまとめは必須よな』

『テンプレもいつの間にか消えてるし』

『え、テンプレとかあったのかよ』

『サルベージ → tttp://image.〇×△……』

『おおっ、サンクス』

『これあればwikiいらなくね?』

『大分古いし、これからも情報出てくるから必要だろ。画像は追記できないし』


「良い流れだな」


これで情報がまとまれば、俺たちが優れた魔法を使っていても目立つことは少なくなる。このサイトという“言い訳”もできるし、魔法使い全体のベースアップも望めるからだ。仮に目立つことがあったとしても、悪目立ちはしないだろう。


「そういえば、今日はどこにするかな」


一昨日は東京、昨日は福岡だったから今日は北が良い。


「思い切って北海道辺りにするか」


そして軽く身だしなみを整えた俺は、透明化を自身にかけて展開したホワイトホールチックなものに足を踏み入れた。




 無事に北海道への転移を終え、透明のまま最寄りのネットカフェに侵入した俺は早々に設置されているパソコンでネットを開き先ほど見ていた掲示板に接続する。


『情報提供はここでいいのけ? 』

『おk』

『新情報もいいがまずは既存情報の検証をだな……』

『待て、まずは話を聞こうじゃないか。クソ情報やデマだったらそれから叩けばいい』

『ガクブル(汗)』

『さあ、話せ』

『さあ、話せ(威圧)』


毎度のことだが、ここの独特のノリにはいつも口がにやけてしまう。もっとも、こうしている間にも書き込みはされるので、すぐに続きを打ち込む。


『おまえら脅してやるなよw』

『で、情報は?』

『実は、保有魔力量を測る方法を見つけた』

『ファ!?』

『かもしれない』

『ズコーッ』

『それ既出。魔法をある程度以上使うと他の人の強さが実感できるってやつ』

『なにその達人技』

『いや、それとは別』

『ファ!?』

『詳しく』


今回のもくろみは、魔力の測定基準を広めてしまおうということだ。計測単位なんて人の認識次第なのだから、最初に広めたもん勝ちなのは火を見るより明らかである。


『端的に言うと、

・今日の朝食時になんとなくコップに入った水に魔力をぶち込んでみたら入った。

・でも、ある一定のところから入らない感覚になった。

・二杯目はそうなる前に魔力切れになったから細かくやれば保有魔力が測れるかも?

みたいな』

『ファ!?』

『有能乙』

『試してみるわ』

『俺も俺も』

『ファ!?』

『さっきから“ファ!?”しか書いてないやつは何なんだよw』

『触んなって』

『しょぼーん……』


思わず笑い声が出そうになるが堪える。透明化をしてるからばれることはないと思うが、一応不法侵入であるからだ。ちなみになぜこんな面倒な真似をしているかと言うと、ネットに書き込みをした端末と場所は調べることが可能だからだ。もし有益な情報が俺の端末から集中していることが知れれば、逆に目立ってしまう可能性がある。もちろん他の人たちもたくさん有益な情報を出しているから心配し過ぎなだけかもしれないが、一応念には念をと言うことだ。なお店員さんには認識阻害の魔法にかかっていただいている。


『試してきた。確かにいっぱいになる感覚があるな』

『嘘つくなよ。確かに魔力は注ぎ込めたけどいっぱいになんてならなかったぞ』

『それこそ保有魔力量の問題かもね。俺は10ミリリットルずつ試したら90ミリリットル目で満タンになる感覚がくるまえに魔力切れになった』

『つまり魔力80~90ってことか』

『つまりさっきのやつは雑魚なだけか』

『てめっ、俺をいじめるのがそんなに楽しいか!?』

『楽しい』

『楽しい』

『愉しい』

『全員即答で草w』

『愉悦が混じっとるw』


「愉悦とかっ。くくっ」


隣のブースから笑い声が聞こえる。どうやらそちらも掲示板を覗いているようだ。


『てかマジで有益情報だったな』

『情報提供サンクス』

『早速wikiにまとめといた』

『おっつおっつ』

『ところでこの魔力水を飲んでみたんだが』

『え、』

『飲んだの!?』

『ファ!?』

『お前はもう引っ込んでろw』

『しょぼーん……』


魔力水を飲んだらしい。どんな効果があるかもわかっていないはずなのに剛毅なものだ。


『で? で? どうなったの??』

『報告はよ』

『おまえらもちつけ』

『おまえが落ち着け』

『結論から言うと、何も起きなかった』

『え、回復は?』

『え、発光は?』

『え、進化は?』

『どれも無し。てか発光とか進化ってなんだよ』


「進化はねーだろ」


 隣に進化はウケなかったらしい。まあ、進化はないと俺も思う。


『ポーションみたいにならないのは残念だな』

『体力や傷の回復はともかく、魔力は回復しても良さそうなのにね』


 これは自分の魔力と言えども体外に出た魔力はレジストがかかるからだ。回復魔法をかけた場合も、自分を回復した時よりも魔力同調した相手の方が回復したりする。


『ポーションと言えばむしろ錬金術じゃね?』

『つまり大釜に魔力水を入れればいいわけだな』

『そこに気付くとは』

『やっぱり』

『神童ka……でも、他の素材が無くね?』

『あ』

『解散』

『いや、待て。魔物のドロップ品ってもしかしたら――』


 そこまで見て、席を立つ。そろそろ帰らなければならないからだ。ちなみに魔物の素材に着目したのは悪くない。もっとも、爪だの牙だのを溶かし込んだものを飲む度胸が現代人にあるとも思えないが。


「こうして技術は進歩していくんだろうな」


 そんなことを呟きながらネットカフェを出て、家に転移する。明日はどこに行こうか。



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