#098 : 侵略開始☆福祉活動じゃないよ
ゴォォォォォン……!
辰夫が空を切り裂く咆哮を放ち、天に黒煙が舞う。
その合図に呼応するように──地上が…“動いた”。
サクラ「進めええええええええ!!!」
「──魔王軍、進軍開始ッ!!!」
その号令が空に響いた瞬間──
王都の外縁が、咆哮と金属音で震え始めた。
魔王軍「定時で帰れる魔王軍最高ーーーッ!!」
魔王軍「全軍行進っ!!サクラ様の気分が乗ってるうちに終わらせろぉぉ!!」
ズズズズズ……!!
地響きのような足音とともに、魔物の軍勢が王都に向けて進軍を始める──。
◆ 最前列:リズム部隊
カン!ガン!カン!バッコン!!
鍋、盾、街灯の残骸──
ありとあらゆる ”叩ける金属” をドラム代わりにした即興音楽隊。
明らかにテンポがバラバラだが、妙に一体感がある。
ゴブリン隊長「カウント取れぇぇ!!進軍ビートは120BPM固定だッ!!」
ゴブリンの隊長が指揮棒代わりに骨を振り回す。
ゴブA「隊長!鍋が割れましたーッ!」
ゴブB「予備鍋出せェェェ!!フライパンでも代用可!!!」
ゴブC「そこの看板も叩け!!音が出ればなんでも良い!!」
ガンガンガン!キンキンキン!
王都の住民たちが避難をしながら振り返る。
住民A「……なんか、楽しそう……?」
住民B「侵略軍って、こんなにノリノリなの?」
⸻
◆中段:福祉支援部隊(メイン部隊)
オークA「こちら高齢者対応班!移動補助、完了しましたァ!」
大柄なオークが、おばあさんを背負いながら報告する。
悪魔「子ども班も完了ッス!あやしてたら懐かれました!」
角の生えた悪魔が、泣いていた赤ん坊をあやしている。
赤ん坊はケラケラ笑っている。
隣では、スライムがベビーベットになっていた。
魔物A「スライムベット最強だろ!」
魔物B「魔王軍カフェテリアポイント貯めて交換するわ」
魔物C「迷子保護班、迷子2名確保!」
魔物D「よーし!しっかりと親御さんに送り届けろよー!」
魔物E「おい!新人!もっと笑えよ!子供が怖がるだろ!顔の形変えてやろうか!?」
魔物F「ペット避難班、報告します!猫15匹、犬8匹、インコ5羽、ハムスター、金魚、全員無事です!」
魔物G「よーし!命は大事にしろよー!」
魔物H「次はゴミ拾いだぁーーーーーッ!」
魔物I「おい!ゴブリンのお前!今何を捨てた!?鞭打ちの刑だ!」
王都の住民たちが避難をしながら振り返る。
住民C「えっと…これって侵略…?」
住民D「違うだろ…これは…なんだ?新しい公共サービス?」
住民E「なんか…悪い人じゃないのかしら…」
住民F「人じゃないけどね…」
⸻
◆後方:装備搬送部隊
魔物J「パジャマ姿の亡霊兵が混じってます!」
魔物K「いいんだ!奴は夜勤明けでそのまま来てるんだ!!」
魔物(亡霊)「……おはよーございまーす……」
ふわふわの亡霊が眠そうに手を振る。
魔物L「寝てないのに戦争参加すんの?」
魔物M「夜勤明けなら明け休みを使えば良かったのに?」
魔物(亡霊)「でも残業代出るし…」
⸻
◆オーク遊撃部隊
オーク「あの、その…ありがとうございます…」
八百屋のおじさんが、落とした野菜を拾ってくれたオークに頭を下げる。
オーク「いえいえ!重そうでしたから!あ、明日のゴミ出しもやっときましょうか?」
筋骨隆々のオークが優しく微笑んで、ついでに重い野菜箱も運んでくれる。
オークA「おい、これで良いのか?」
オークB「なんか…気持ち良いよな、感謝されるって」
オークC「ああ…生きがいを感じる」
王都の住民たちが避難をしながら振り返る。
住民G「親切すぎない!?」
住民H「侵略軍よね!?これ!?」
住民I「避難する必要あるのこれ!?」
⸻
◆悪魔カウンセラー
悪魔カウンセラーA「人生相談3件受けました」
悪魔カウンセラーB「『悪魔に相談』って言葉があるけど、本当に相談されるとは…」
⸻
◆空中支援部隊:竜騎兵(辰美指揮)
ワイバーン部隊がアクロバット飛行で空に♡を描いていた。
辰美「いけぇぇえ!!火の輪くぐれ!!!」
空中に魔法の炎の輪が出現する。
魔物「え、意味あるんですかそれ!?」
小型竜に乗った魔物が困惑する。
辰美「無いけど!カッコいいだろ!!」
辰美が嬉しそうに答える。
炎の輪を潜る小型竜たち。
見た目は完全にサーカス。実態は空中散歩。
⸻
◆サクラ、空から総覧
私は辰夫の背から、この光景を見下ろしていた。
サクラ「見てるか…王よ……これが私の”魔王軍"だ……!」
王城の窓から、青い顔をした王が覗いている。
サクラ「叩く奴もいれば、支える奴もいる」
「荷物持つ奴もいれば、赤ん坊をあやす奴もいる」
魔物たちの行進は続く。
カオスな光景が眼前に広がっていた。
サクラ「…くくく…人間どもの…“ありがとう”とか、“お疲れ様”とか……聞こえた?エスト様?辰夫?」
エスト『うん☆』
辰夫「はい。」
サクラ「……この人間どもの断末魔がさぁ……気持ち良いッ……あぁもう……ありがとう……最高……!」
私は肩を抱き、ぷるぷると震えながら、ひとりで身悶えた。
エスト『断末魔……?』
辰夫「エスト殿。聞こえないフリした方が良いですぞ……」
──天の声──
断末魔の定義がバカすぎる。
なんだよ“ありがとう”が絶叫って。
サクラ「……これが魔王軍の力…私の力…ふふふ…」
私の声が、大きく震える。
エスト『お姉ちゃん!魔王は私なんだからねー!?』
隣に居た小娘が私の袖を引っ張りながら言った。
サクラ「……。」(無視)
エスト『お姉ちゃん!聞いてるの?お姉ちゃん!』
サクラ「……。」(無視)
(……ラウワ王…忘れてないから。私を泣かせたこと。)
エスト『お姉ちゃんー!?』
(つづく)
次回 : #057 福祉活動してたら正義にブチギレられたで御座る。(仮)
お楽しみに!?(作者の気分でタイトルはコロコロ変わります)
◇◇◇
【魔王軍採用情報】
・完全週休二日制
・残業代100%支給
・社会保険完備
・やりがいのある社会貢献活動
・種族問わず歓迎
・温泉等の福利厚生
「あなたも一緒に『侵略』しませんか?」
◇◇◇
おまけ
【綾様観察日記 番外編:福祉と侵略と“あの人”】
私は、辰夫の背から王都を見下ろしていた。
暴走する鍋軍団、泣き止んだ赤子、空に舞う竜の♡マーク──
この狂った侵略劇を、私は少し震えながら見つめていた。
その時、不意に思い出した。
──東京でOLやってた頃。
仕事?してたよ。主に人間観察という名の精神修行をね。
主な観察対象は総務部の最強お局の綾小路綾子様。通称は綾様。
──【綾様観察日記 vol.98】──
──東京本社。
季節は春。部署全体で参加した“地域美化ボランティア”。
無理やり参加させられた私は、やる気ゼロでトングを持っていた。
そのときだった。
遠くから、綾様が歩いてきた。
フルスーツにハイヒール。ネームプレートが光っていた。
……右手に、金色のトング。
彼女は、空き缶を拾った。
その動作は、なぜか正座の所作に見えた。
誰かが冗談めかして言った。
「さすが綾さん!動きが洗練されてますね!」
その瞬間、彼女は空を見上げてこう言った。
「……地球には、恩があるのよ。捨てるなら、愛を捨てなさい」
全員、沈黙。
風すら、止まった。
トングを持つ私の手が震えた。
「愛を捨てよう……愛を捨てよう……」
花壇に頭を擦りつける班長に、誰も声をかけなかった。
それ以来、“綾様派”と囁かれ──
気づけば、彼は役員になっていた。
ただし、その目からは光が消えていた。
──私は、今でも信じている。
綾様は、“ゴミを拾ってる”んじゃなかった。
この星の秩序を調律していた。
(思い出すだけで胃が痛い)
「……いやほんと、福祉活動ってのは…こう、魂が削れるんだよ……」
私は小さく呟いた。
地上では、鍋が割れ、オークが子供を抱きしめていた。
──世界征服と美化運動。
実は、紙一重なのかもしれない。




