#096 : 世界初☆訴訟型侵攻
〈城の上空|サクラ SIDE|10:05〉
《*サクラ視点》
辰夫の背から、王城を見下ろしていた。
怒りと請求書だけが、今の私の翼だ。
サクラ「高いところって、気持ちいいよねぇ。」
ふわっと息を吸って──
サクラ「今日ぉは!私の愉快なお友達を連れて来ましたぁ!!」
ラウワ王「……軍勢を、ってことか!?」
サクラ「ううん!違うの!これは──“私の恨みを晴らし隊のみんな” なの!!」
「どいつもこいつも私の怒りを一緒に背負ってくれる──素敵な、加害者たち!!」
《*天の声 : 魔王軍も被害者だろ》
ラウワ王「は……?」
王が思わず声を漏らすが、私はどこまでも本気だった。
サクラ「聞いてよ!まずはさぁ!ギルドが壊されたの!ユリ様が暴れてね!!」
ユリシア「……なッ」
ユリシアが下を向く。
サクラ「その請求書が、3215万リフル!!
しかも私宛て!!なにそれ!?意味わかんなくない!?」
ラウワ王「それは……いや、その……ユリシア……?」
王がユリシアを見つめるとユリシアは震えていた。
サクラ「──請求書が来ました。送り主は“現実”でした。」
「私はギルドを壊していません。壊したのは──不条理です。」
「この世が私を“請求対象”とした瞬間、私の心は死にました。」
サクラ「もういい…世界ごと燃やすわ…その3215万で!!!!」
「まずはお前の王冠を買い取ってやんよォォォォォ!!!!」
「ヒーヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!!」
私の笑いがピタリと止まり、声は次第に震え始めた。
サクラ「…ふ…ふふ…ふざけるなよ……こっちはさぁ、黙って引き下がってやろうと思ってたんだよ……!」
《*天の声 : 交戦する気満々でした》
その瞬間、私の頬を何かが伝った。
──涙。
サクラ「でもさぁ……ッ!」
「“ラウワ王の命令で行った”って言われてさぁ……!
「私、“魔物だから”って全部押しつけられてさぁ……!
「いきなり斬りかかってきてさぁ……!」
《*天の声 : 先制攻撃したのはお前だサクラ》
私は心の底から叫んだ。
サクラ「ふざけんなよあァァァァァァッ!!!!」
⸻
地上。
鍋、盾、街路の鉄板──叩けそうな金属を手当たり次第に打ち鳴らしながら、
モンスターたちが騒がしく行進してくる。
その騒音たるや、もう軍隊というより“音の暴動”だった。
カン!ガン!バッコォォン!(※鍋が割れる)
魔物たちが叩きながら、思い思いの叫びを上げる。
スライム「定時で帰れる魔王軍最高ー!!」
ゴブリン「飯が出るって聞いたー!!」
オーク「交通費ちゃんと出るって聞いたー!!」
コボルド「予防接種打たなくて良いってマジー!?」
《*天の声:就活ミスったやつが全員ここに来てるな?》
──
◇◇◇
〈王都・玉座|王SIDE|10:12〉
《*天の声視点》
玉座の間では、王が呆然と立ち尽くしていた。
ラウワ王「こ、これは一体……なにが起こっている……」
バルドス「陛下……これは、債権回収です」
ラウワ王「戦争じゃ……ないのか……?」
バルドス「請求書の口火を切った、世界初の “訴訟型侵攻” でございます……」
ラウワ王「いやいやいやいやいやッ!!!」
王が椅子を蹴って立ち上がる。
(つづく)




