#089 : 草むらダイブ☆孤高の草さん爆誕
前回までのあらすじ
→ 草王とかいう危ないキャラが増えた。
◇◇◇
──数分後。
(*なお、誰もカエデが草と契約してたとは知らない)
草王と別れ、少し気を抜きながら草原を戻っていると、目の前に……アレがいた。
ぷるぷると震えながら、ゼリーみたいな体を引きずって進む──スライム。
最弱モンスターのはずなのに、私はビクッとして立ち止まった。
カエデ「……無理……ムリムリムリムリ……スライムとか、無理……!」
私はとっさに草むらへダイブ!
カエデ「発動──《スピリットコール : 草》!!」
私はいそいそと草をむしった。
そして髪に草、肩に草、鎧に草、ブーツからはタンポポ。
リュックにはウィルソンが草の冠をかぶってスタンバイ。
カエデ「私は草……草そのもの……風と共に在る存在……」
スライムが “ぷるるん”、と近づいてくる。
私は震える手で、そっとウィルソンを構えた。
カエデ「……頼んだよ、ウィルソン」
ビュンッ!!
ウィルソンがスライムのそばの小石に当たり、カツンッという音を立てた。
スライムはびくんと反応し、ゆっくりとそちらに向かっていった。
カエデ「……よし、気を逸らせた……完璧な草戦術……」
◇◇◇
── その頃、《天の声 : 別視点》
冒険者A「あれ?さっきギルドでシルビアさんがブチ切れしてた人…?」
冒険者B「え、え、え!?今、草の中で“何か”投げてたよ!?」
草の影から、二人組のFランク冒険者(♀)が現れた。
彼女たちは──
・スライム(最弱)に怯えて草むらに隠れる女
・謎の儀式のようにウィルソンを投げる姿
・そして“勝利”と呟く草
──を、目撃してしまった。
冒険者A「なに……してるの……?」
冒険者B「……だめ……見ちゃダメ…絶対何かキメてる…」
「こっち来たら“あっち側”になる!!逃げて!!」
彼女たちは全力で逃げ去っていった。
カエデはただ、風と草に感謝していた。
──天の声──
《スキル:スピリットコール:草 熟練度+1》
《称号:孤高の草 獲得》
《噂:冒険者ギルドで“草さん”と呼ばれ始めた》
◇◇◇
《カエデ視点》
おっソロ「おかえり!どうだった?」
パン屋に戻ると、おっソロさんが出迎えてくれました。
カエデ「無事に薬草を集められました!それで……」
私は草王との遭遇を話しました。
おっソロ「草王?そんな王様がいるんだねぇ……」
カエデ「はい!」
おっソロさんは少し不思議そうな顔をしましたが、すぐに笑顔になりました。
おっソロ「まぁ無事で何より!さぁ、お疲れ様のご飯を用意したから食べよう!あはは!」
カエデ「はい!」
私の冒険者としての第一歩は、無事に踏み出せました。
明日はもっと素敵なクエストが待っているかも……!
でも、今わかったことがあります。
この世界は思ったよりずっと危険だってこと。
「家族のみんな……ツバキ……元気かな……サクラは、あの世でもどうせ元気だろうけどね。」
ふと、懐かしい顔を思いながら、私はお祝いのパンを口に運びました。
◇◇◇
──これは、精霊と契約する“アルティメットスキル”。
勇者にしか扱えない、神秘の力。
今のところ契約できたのは、ただひとつ──
《スピリットコール : 草》
……でも、きっとこれから増えていく。
泥とか、苔とか、結露とか。お風呂の湯気とか。
── 予感がする!私!強くなってる!
新しい希望が私を包んだ。
【天の声】
「この者は過去、数多の契約を重ねてきた。ツボ、英会話、そして今──草。」
──その頃、少し西の街では。
「我が咆哮に応えし信者どもよ……暁麦は焔の刻こそ魂震わす焔の契約!!(つまりパンは焼きたてがうめぇ)」
キューシューからオサカにやって来たという“聖女”が目撃されていた。
(つづく)
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【名前】カエデ
【種族】人間 (ど天然)
【職業】勇者
【レベル】1 (*固定)
【スキル一覧】
・スピリットコール:草
└ (精霊顕現・第零式:草)
・ウィルソンを投げつける(Lv836)
・ど天然 (大事なことなので2回目)
【称号】
・草さん / 草の者 / 草属性
【契約精霊一覧】
・草王 (初契約)
【現在の目的】
・パン屋のために薬草を集める
・強くなってる気がする
・でもスライム怖い
【備考】
・スピリットコールは勇者専用アルティメットスキルです (たぶん)
・次の契約精霊は「泥」か「苔」か「湯気」か「結露」か作者の家の状況次第。
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──今週のカエデ語録──
『カエデです。家にはツボや英会話セットがたくさんありました。』
解説 :
地球ではツボや英会話、異世界では草と契約したカエデ。
本人はいつだって本気だし、違和感もない。
この語録は、“ど天然契約勇者”としての原点。
ここからすべてが始まった──気がする。




