#084 : フエェェッ☆伝説の詠唱
前回までのあらすじ
→ 声が裏返った。
◇◇◇
「運命の扉が今……開くッ!フエェェッ!」
ビーーー♡
ドガァンッッ!!!
イノシシは木っ端微塵に吹き飛び、地面はえぐれた。
村A「……す、すごい……!」
村B「今の光線……確かに“聖女様の呪文”で……!」
「いやいや!呪文とかじゃないから!!!」
私は慌てて手を振った。
村A「聞いただろ!?“フエェェッ!”って裏返った声!!」
村B「あれが……古代の真言……!!」
村C「“フエェェッ”で魔獣を滅ぼすとは……さすが聖女様だ……!」
「いや!フエェじゃない!声が裏返っただけ!!!」
「裏返りボイス」なんて人生で一番恥ずかしい失敗を、まさか神聖視されるなんて。
もう泣きたい。
その隣では、当然のようにローザが手帳を開いていた。
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【聖女の御言葉】
「フエェェッ」
【注釈】
⇒ 魔獣を退けし、聖なる裏返りの詠唱。
声なき者の声をも救う、奇跡の音声。
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「ローザ!!お前それ絶対あとで聖典に刷るだろ!!!」
「はい!もちろんでございます!」(キラキラ笑顔)
「これは聖典の新たな章にすべきですね。“フエェェッの章”……!」
「やめろォォォォォ!!!」
私は全力で突っ込んだ。涙目で。
「ふ、ふは……と、とにかく!貫いたぞ……闇より来たりし獣を……我が瞳の審判にて……!(超マグレだよ!とりあえず良かった…!)」
村D「……いや、あれ泣き声じゃね?“フエェ”って……」
(沈黙)
ローザ「異端だッッ!!!捕まえろーー!!!」(聖典を投げつけて叫ぶ)
村D「えぇ!?いや俺も“フエェ”って言えるよ!?ほらフエェ!」(村人達に縄で縛られる)
ローザ「貴様ァッ!聖女様をバカにしてるのか!!」(聖典で殴る)
村D「してません!してません!」
(沈黙)
ツバキ「うん……ほっとこ……。」
こわかった。心底こわかった。泣くかと思った。
イノシシが蒸発した土煙の中で、私は呆然と立ち尽くしていた。
(...やった?私が?本当に?)
肩は震え、膝も震え、魂だけが宙に浮いている。
でも、恐怖じゃない。
(初めて...自分の力で誰かを守れた...のかな)
村人たちの安堵の表情を見て、胸の奥が温かくなった。
演技でも、偽物でも、結果的に人を救えたなら...
(もしかして、これでいいのかも)
── その時、脳内にあの“音”が流れた。
(テレレレッテッテッテー♪)
「のわッ!?なになになに!?」
──聞き覚えのある、レベルアップのファンファーレ。
【ツバキのレベルが 3 に上がりました】
【ステータスオープンと言うとステータス確認ができます】
「この世界どうなってるの!?…ス、ステータスオープン…。」
\\ シュゥゥゥゥ……ギュウゥゥゥゥゥン……!キュインキュインキュイン……バリリリリ……ドゴォォォォンッ!!シュコーシュコー!!ドゴゴゴゴゴゴゴ!!!ギュインギュインギュイン!!!ホーホケキョ!!!チュドーン!!!ピーヒョロロロ……パリィィィン……ズゴゴゴ……チャリンッ(※なぜか小銭の音)!!! //
「いや!効果音長いな!?」
── ステータスウィンドウ ──
【名前】ツバキ
【種族】人間
【レベル】1 → 3
【称号】灼瞳の神子(聖女)/寝言の導師/パンの預言者(NEW)
【スキル一覧】
・ホーリービーム♡(左目からビームが出る。確率発動/威力は状況次第)
・中二病話術(自己強化・錯覚型)
・寝言布教(パッシブ・信者が勝手に増える)
・余計な一言(NEW)
→ 寝言や失言が三日後に宗教儀式になる呪いのスキル(基本的にローザの飯のタネ)
(異能ばかり増えし我が宿命……あのさ、実際このスキル構成どうなの?普通に……え、いらんくない?)
私は顔を覆った。なにこれ恥ずかしい。いっそ闇に沈みたい。
悶絶していたその時、村長と子供が私のもとにやってきた。
村長「ありがとうございます、聖女様!これで安心して森で働けます」
子供「お父さんも喜ぶ!」
(...あぁ、そっか。私の力で、この人たちが笑えるんだ)
気づくと私は微笑んでいた。
(つづく)
次回!ツバキの身にとんでもない事態が!?
◇◇◇
──今週のカイ様語録──
『あの瞬間、勇気は沈黙し──膝だけが雄弁だった。(つまり怖かった)』
解説:
TVアニメ《堕光のカイ》第884話より。
神獣との邂逅により完全に黙り込んだカイ様。
だが膝だけが「無理無理無理無理無理」って主張していた。
視聴者アンケートで名シーンと票を集める伝説の回。




