#078 : ギルド登録☆鏡見る時に顎引くだろうが!
── ギルドというのは、どうしてこうも人が多いのだろう。
私はオーミヤの冒険者ギルドの受付前で、どっと疲れていた。
人混みと書類と、意味のわからないルール……会社にいた頃を思い出す。最悪。
サクラ「というわけで、辰夫。あんた登録方法調べてきて。私、字読むのだるい。」
辰夫「かしこまりました。」
辰夫達が確認してきた情報によると、冒険者になるには、登録用紙に自分の種族やレベルを書いて提出する必要があるようだ。
私たちは早速登録用紙に記入を行い、受付に提出した。
【サクラ / 美しい鬼族 / レベル300 / 備考:Fカップあります。】
受付嬢「嘘は書かないでください。」
【辰夫 / 竜人族 / レベル330 / 備考:優しくされたい。】
受付嬢「……人生で何があったんですか?」
辰夫「……今はとても幸せです。」←反射で答える
【辰美 / 竜人族 / レベル250 / 備考:サクラさんLOVE♡】
受付嬢「……えっと、恋愛感情って……登録の必要ありましたっけ?」
辰美「全身全霊の必要があります!」←反射で答える
【エスト / 魔人族 / レベル100 / 備考:魔王だよ☆】
受付嬢「……それは……えっと…」
エスト『えへん☆』
受付嬢「え?皆さん……?これ……レベルが高すぎませんか?
ギルドのエースでもレベル50くらいなのですが……
って!……ま、魔王?」
サクラ&辰夫&辰美「「「えッ!?」」」
サクラ「……う!……受付のお姉さん……ち、ちょっと待ってくださいね!」
「あははは……エストちゃん?……ち、ちょっとこっちに!」
私はエスト様の登録用紙を回収すると、エスト様をギルドの隅に連行した。
サクラ「……小娘ッ!バカだバカだとは思ってたけど!お前はバカなの!?」
「魔王なんて書いたらパニックになるし、何よりも命を狙われますよ?」
エスト『だ……だって嘘はついちゃダメなんだよ?』(キラキラ視線)
サクラ「……ぐぅ……た、正しい……そうなのですが……ここはちょっと誤魔化さないとエスト様の命が危なくなるのです。」
エスト『そっかー……わかったよー……』
(なんでこんな純粋な子が魔王なのだろう……?)
そして私は受付に戻り、訂正した書類を出した。
サクラ「ごめんなさいね。この子はちょっと……そういう時期なだけです……」
受付嬢「あぁ……それなら仕方ないですね……」
私がフォローすると、受付嬢は気の毒な顔でエスト様を見た。
エスト『?』(キョトン)
受付嬢「あと、サクラさん?嘘はやめてください。」
受付嬢は、私の胸を見ながら言った。
サクラ「…………ッッ!!」
その瞬間、私の中で何かがプツンと切れた。
痛い。胸が痛い。物理じゃない、精神の方が。
サクラ「うるっっっさいわねぇええええええッ!!!」
私は受付カウンターを両手でバン!と叩いた。
突然の爆発に周囲の視線が一斉に刺さる。
サクラ「わかってるわよッ!!私が!Fじゃないことくらいッ!!」
「……自分が一番よくわかってるんだよぉぉおおおおおおおッ!!!」
涙が勝手に出てくる。
悔しい。恥ずかしい。でも負けたくなかった。
全世界のAのプライドが今!私の双肩に掛かっている気がした。
取り戻すのだ。矜持を。
サクラ「でもな!?見栄張っちゃいけねーのかよ!?」
「なあッ!!あんたたちだって!!
「鏡見る時だけちょっと顎引くじゃんかよぉおおおお!!」
泣きながら叫びながら、私は天に向かって手を伸ばす。
サクラ「……ムダ様……!!力を貸してッ!!」
心の中のムダ様「見栄?ああ見栄だよ!!でもそれで誰かが笑ったんなら、それはもう文化だろうがよォ!!」
ムダ様の語録が、頭の中で鳴り響いた。
それは……私を守る最終防壁。
サクラ「そうよ!!これは文化よ!!」
「Fカップという概念は!!!あってなくても存在してんのよォォッ!!」
サクラ「ほら!!今笑った!!笑ったでしょ!?」
「ね!?文化!!Fは文化ッ!!!私は文化遺産なのよォオオ!!」
エスト『お姉ちゃん……嘘はダメだよ……?』
サクラ「そして!Fって言ったってさぁ!?」
「……実際は Faith の F ……嘘じゃ……は、はい……ごめんなさい……」
振り返ると、小娘が真っ直ぐな目で私を見ていた。
その瞬間、私は崩れ落ちた。
── 私の文化は、滅びた。
受付カウンターにもたれながら声を殺して泣いた──。
そして、ギルドの受付机に置かれた、他の登録用紙がチラッと目に入った。
【冒険者ハンス / 人間 / Lv12 / 備考:モテたい】
【冒険者クララ / 獣人 / Lv8 / 備考:父親がギルドの重役】
【冒険者ゴリラ / ゴリラ / Lv45 / 備考:二足歩行ができるようになりました】
サクラ「……見栄張ってんの私だけじゃねーじゃん!!文化だ文化ァァァ!!!」
周囲の冒険者たち「文化!文化!!」(ノリで叫ぶ)
受付嬢「うるせー!」
◇◇◇
最終的に登録情報はこうなった。
【サクラ / 美しい鬼族 / レベル300 / 備考:Fカップあります。…か?(問いかけ)】
【辰夫 / 竜人族 / レベル330 / 備考:優しくされたい。と…思っていた時期がありました…今はとても幸せです。】
【辰美 / 竜人族 / レベル250 / 備考:サクラさん全身全霊LOVE♡】
【エスト / 魔人族 / レベル100 / 備考:魔王だよ☆ (※そういう時期)】
受付嬢「……えと…うーん……うん!うん!……はいッ!」
「それではこちらで冒険者としての登録は完了です。」
「この後は皆さんの強さを確認する為の実技試験を行います。」
受付嬢は書類を重ねてトントンしながら言った。
サクラ「色々言いたいけども!めんどくさいと判断したリアクション!」
私は受付嬢の微妙な表情を見逃さなかった。この受付嬢、なかなかやりおる。
サクラ「それよりも…実技試験があるんですね……」
受付嬢「はい。虚偽のレベル報告をする方が稀にいまして……それを防止する為です。」
サクラ「あぁ。なるほど……。」
受付嬢「試験はギルドマスターと模擬戦をしていただく、実戦形式となります。」
そうこうすると、1人の男がやってきた。
ギルマス「よっしゃ来たな!モンスター領主撃破組!」
「いやもうウチじゃ君ら“地獄級”で登録されてるからな!」
「これは楽しみだな!俺は元・S級冒険者モブグリム!」
「ここのギルドのマスターだ!宜しくな!」
「はい。宜しくお願いします。」
(……うーん…大丈夫かな?)
私はギルドマスターの命の心配をした。
(つづく)
◇◇◇
──今週のムダ様語録──
「見栄?ああ見栄だよ!!でもそれで誰かが笑ったんなら、それはもう文化だろうがよォ!!」
解説:
他人に見栄を張るのは悪いこと?──いや、違う。
ムダ様いわく、それは“誰かの心をちょっとでも和ませたなら、もはや文化である”とのこと。
つまり、「Fカップあります」と備考欄に書いたサクラの見栄も、読んだ受付嬢と読者が笑った時点で“芸術”と化す。
本人がそれを本気で信じていようがいまいが、笑わせた時点で勝ち。
泣きながら怒鳴りながらでも、それを貫いたその姿勢に拍手を送りたい。
参考:
ムダ様プロフィール
名前:ザ・グレート・ムダ (本名:無駄無道) (38)
身長:165cm
夢:身長190cm
見栄のパッシブスキル:常時発動型
備考:「将来の夢:モデル」って卒アルに書いた過去あり




