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魔王がポンコツだから私がやる。──Max Beat Edition  作者: さくらんぼん
第06章 : リンド村を拠点にしました。名前は「サクラ帝国・湯けむり支部」です。
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#074 : 番外編☆綾様、経済と倫理とSAN値を支配す


そしてお金と言えば……前世での記憶が蘇る。


── 綾様の観察日記 番外編 ──


転生前の地球。

表参道のオープンカフェ。

休日の午後、私とカエデとツバキの幼馴染3人組は、何も考えず甘いものをつつくつもりだった。

……そのはずだった。


ツバキ「この席、風水的に“無の方角”。我のチャクラが収束して……ふふふふ……」

ツバキは意味わからんことを言いながら、椅子に妙な座り方をしていた。いつも通りだ。


サクラ「いいから黙って座れ。結界張られても困る」

アイスティーを啜りながら、私はいつも通りに止める。


ツバキ「……ッ!」


そのとき、ツバキの様子が変わった。肩がビクッと跳ねる。

何かに気づいたように、目を泳がせた。


カエデ「ツバキ……?」(きょとん)


風が止んだ。

パラソルが微動だにしない。

車の音も、遠くの話し声も、すべてが静かになる。

信号が全部赤になって、街の空気が凍った。


ツバキ「ダ、ダメだサクラ! ここ、ダメなやつ来てるって! 今すぐ逃げよう!? 私、正直ここいらで限界──!!」


サクラ「……ツバキが標準語?どした?何をテンパってる?」


ツバキ「ち、ちが……いやその……私は……SAN値が……リミットを超え──わああああああああああ!!!」

ツバキは頭を抱えてテーブルに突っ伏した。完全にテンパってる。珍しい現象ではある。大抵ヤバいやつが来る前兆でもある。


私はアイスティーを置いて、ふと思い出す。


サクラ「……そういえばあんた、霊感強いんだったわね……」


カエデ「えっ!?ツバキって除霊できるの!?」


ツバキ「できないっ!!」

机に顔押し付けたまま、ツバキが全力で否定した。


カエデ「ツバキ、普通の人みたいだったね〜!かわいい♪」

カエデが笑って言った。全然状況読んでない。さすがだ。


そして──決定打が入った。


さっきまで私たちの足元をトコトコしてた普通の鳩。


そいつが、唐突にスイッチ入れたかのように──ケーキに飛びかかった。


カエデ「えっ!? ちょっ!? それ私のスイ──!!?」


ばっさばっさばさ!!!


鳩はカエデのケーキを掴んで飛び立っていった。

想像の三倍くらいのスピードで、しかも完璧に一直線に。


サクラ「……持ってかれた……」

私は呆然と呟いた。


カエデ「あはは、旅立ってったね〜!がんばれ〜!」

笑顔のカエデ。メンタルが異世界生物。


私は鳩の飛んだ先を見る。


そこに、いた。


完璧なスーツ。無駄のない姿勢。

片手には折れ目ひとつない一万円札──。


サクラ「……綾様……ッ」


綾様。

私とカエデの上司。職場の中枢。

“経理と経済と倫理”をすべて握り潰す女。


綾様が入店した瞬間──照明が一度だけ点滅し、BGMが“巻き戻し”のようにノイズ混じりに止まった。

周囲の客が自然と財布をバッグに戻すのを、私は見た。


サクラ「やば……逃げるぞ、二人とも。今、ここにいたら財布の磁気まで吸われる」


カエデ「でもケーキまだ食べてな……」


サクラ「カエデ、現実見て!もう無いの!あれ鳩じゃなかった、運命だったの!!」


綾様は近くの席に座り、店員に注文をしていた。

声は一切発していない。けれど──注文が成立していた。

注文を受けた店員は3歩歩いて泣き出した。


……その時だった。

綾様の視線が、こっちを向いた。


カエデがにこっと笑って、手を振ろうとした。


カエデ「あっ、綾子さんだ!こんにちはー! 綾子さ──」


サクラ「カエデ黙ってて!!!!」


私は咄嗟に叫んだ。命に関わると思った。


そして綾様と目が合った。


綾様「……あら?…サクラさん。」


綾様「ふふ。カエデちゃんも。カエデちゃんはいつも元気ね。」


カエデ「はい。綾子さん偶然ですねー」

カエデがにっこり笑って答える。天然すげー。


名前を呼ばれただけで私は心臓を撃ち抜かれたように動けなくなった。

笑ってもいない。怒ってもいない。ただ“名前を呼ばれた”だけ。


綾様「サクラさん?この間の請求書……締め処理、まだでしたよね?」


サクラ「えっ……あ、あの、それは……今ちょうど──」


綾様「“ちょうど”?」


サクラ「っ……っっ、しっ……! し、してます!! 今! してます!!」


綾様「請求書は出せるよね。領収書は受けとれる。でも、幸せは計上できない。それでも帳簿は閉じなきゃいけないの。分かる?」


サクラ「はい!まったくわかりますん!」


綾様「ふふ。じゃあまたね。」


笑ってすらいない。無表情。

なのに、私はなぜか息ができなかった。


あれはもう特級呪物というか…概念だ。

ツバキが出てこない理由が、今ならよくわかる。


綾様は、それ以上何も言わず、コーヒーを愉しんでいた。


サクラ「え?あのコーヒーいつ届いた?」


私たちは、足音を立てず逃げるようにレジへ向かった。

そこで店員から出されたレシートを見て、時が止まった。


店員「あの……ポイントカード、お出しになりますか?」


そこには、はっきりと表示されていた。


-300P


サクラ「えっ?マイナス?マイナスって何?ポイントって0より下あるの?貯まるんじゃないの!? 減るの!?」


カエデ「うわ〜!レア演出だ!わたし初めて見たかも〜☆」


ツバキ「……運命が……逆流している……」

テーブルの下からツバキのうめき声が聞こえた。


サクラ「ちょっと待って!? 私たち何もしてないよね!?鳩にケーキ取られてマイナスってどういうことなの!?」


店員「“前のお会計の影響で、店内ポイントバランスが調整されました”って……すみません……」


サクラ「ちょっと何言ってるかわからない…」


あの人はきっと、今もどこかでバランスを取っている。

経済と、倫理と、私のポイント残高の。


ツバキ「……出ていい……?もう……帰ってる……?」


あ。ツバキ置いてきた。まぁいいか。


◇◇◇


人生で“返せない借金”なんていくらでもある。

でも、あの時間を返せって言われても、私は絶対返さない。

帳簿は赤字のままでも、今日も笑いで埋めてやるわ。


借金してでも人生がでっかくなるなら──安いもんでしょ?


借金じゃ死なないしね?(震え声)


いや、死ぬ場合もあるのかな?


まぁでも“笑えてなかったら”たぶん、死んでた。


(つづく)


◇◇◇


《征服ログ : 番外編》


【征服度】: N/A

【支配地域】:N/A

【主な進捗】:N/A

【特記事項】:

 ・ツバキの異常センサーが“綾様”に反応→即逃走。SAN値直葬(※椅子から崩落)

 ・レア演出:ポイントカードのマイナス表示(-300P)

 ・サクラ「お金はもう使った。でも、あの時間は本物だったんです」

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― 新着の感想 ―
 鳩にケーキ持って行かれてw ∑(゜Д゜)鳩ケーキ食べるの!? って突っ込みを入れた後に −300Pt  ポイントって、0から下があるとは  正直思わなかったw
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