#059 : 世界征服☆進捗率3%ってマジ?
前回までのあらすじ
→ お笑い魔王軍の次の目的地は王都らしい。
◇◇◇
サクラ「というわけで──王都に行きます!」
エスト『突然すぎィ!!☆』
エスト様のツッコミをスルーしながら、私は地面に看板を立て、文字を描いた。
【留守です 村のことはワイトに 請求書のことは領主に 苦情は受け付けません】
サクラ「よし、完璧!エスト様!ワイト呼んどいて。引き継ぎしないとね。」
エスト『りょ☆』
◇◇◇
嫌がるワイトに仕事を押し付け、村の広場に戻ると、すでに荷造りを済ませた辰美がぴょんぴょんと跳ねていた。
辰美「遠足!遠足だ〜!王都って何があるんですか?ごはん?スイーツ?祭り?世界征服?」
サクラ「全部あるわ。最後以外はおまけだけど」
辰美「やったー!」
その隣では、辰夫が泣きそうな顔で荷物を引きずっていた。
辰夫「ちょ、ちょっと待ってください……バイトのシフトが……!親方にはお世話になってまして……。」
サクラ「バイトって何よ。家賃も光熱費も払ってないくせに」
辰夫「えっ……じゃあなんで請求書が毎回……我に……」
サクラ「うるせぇ!行こう!」(ドンッ)
私は辰夫の背中に請求書を貼りつけ、そのまま強制連行を始めた。
…
旅の準備を整えた一行は、リンド村の南門に集合していた。
道行く村人たちが手を振る中、私は胸を張って歩いた。
サクラ「さて、今回の旅の目的は三つ!」
エスト『三つ?』
小首を傾げて尋ねてきた。
サクラ「ひとつ!オーミヤの領主の顔を見ながら請求書を渡す!」
「怖い!」辰夫が振り返る。
サクラ「ふたつ!プロレスとお笑いの布教活動!」
「楽しい!」今度は辰美がノリノリで返す。
エスト「みっつ!ついでに王権も取ってこようかなって!」
『ついでッ!?☆』エスト様が笑う。
サクラ「まずはオーミヤよ。あの領主に請求書を手渡して、ついでに少し踏みつけて──で、そこから王都ラウワに寄って……」
エスト『寄って……?』
サクラ「……うっかり王座をいただいちゃおうかなって!」
エスト『うっかり!?☆』
サクラ「そう。うっかりね。ついでにうっかり貴族から地位を剥奪して、うっかり税制を改正して、うっかり世界征服の足がかりにしときたいわね」
辰美「うっかりの規模デカすぎません!?」
辰夫「やめてください……うっかりでも我ら処刑されますぞ……」
サクラ「心配しないで、あなたたちはうっかり踏まれるだけだから♪」
辰夫「そこが一番心配です!!」
私たちは、笑いとプロレスと請求書を携えて──
いざ、王都ラウワへ!
(つづ……
── その時、魔王軍一同の頭に天の声が響いた。
(サクラは「支配地域数:2」を達成しました)
(世界征服達成度:……うっかり3%)
サクラ「……うっかり!? 私の野望がうっかり扱い!?!?」
私は目を見開いて固まった。
サクラ「嘘でしょ?ここまでして 3 % ……?」
エスト『やったー!世界征服してる感きた☆』
辰夫「ははは。世界は広いということですな。」
辰美「まぁそんなもんかもですねぇ」
サクラ「おい、小娘!そこ感動するとこじゃないから!あと97個って何!?やばない!?やめてよ私そんな体力タイプじゃないんだけど!?」
《天の声:がんばってください♡》
──その頃。
遠く離れたオーミヤの領主邸の一室。
冷えたワインを手に、領主が不気味に笑っていた。
領主「……奴らが王都に向かった?ふん、よかろう。いずれ"上"に仇なす者……王に報告する口実ができたわけだ……」
彼は窓の外に目を向けた。
領主「笑わせる。征服?プロレス?ふざけおって……」
ワインのグラスを傾けると、その瞳にはほんの僅かに、恐れと怒りが混ざっていた。
領主「……だが忘れるな、鬼の女よ。お前に踏みにじられた者は……忘れぬ……誰か居るか!?王国の騎士軍を呼べ!」
(つづく)
◇◇◇
その夜、エストは夢を見た。
漆黒の闇に浮かぶ“瞳”。
無数の囁き。無数の腕。無数の「わたし」。
『……魔王……』『……鍵……』『……忌むべき血……』
怖くなって目をそらした先に、サクラがいた。
無表情で、じっとこっちを見ていた。
『……お姉ちゃん…助けて…』
思わず手を伸ばした瞬間、サクラは崩れて消えた。
──なぜか、「ありがとう」って言ったような気がした。
そこでエストは飛び起きた。
震える手。
冷たい汗。
そして、右手のひらに浮かぶ黒い痣。
でも翌朝手を洗ったら消えた。
◇◇◇
《征服ログ》
【征服度】:3.0%
(温泉→教育→興行→領主制圧と、支配の多層展開に成功)
【支配地域】:常闇のダンジョン / リンド村(+周辺)
【主な進捗】:
・興行構想「サクラ・グランド・花月(SGK)」構想公開
・リンド村、観光+教育+笑いの三位一体体制に進化
・エスト、変な夢を見るが手を洗ったら解決
・魔王軍、王都へ向けて出発。請求書と笑いを携えて
【特記事項】:
・サクラ、プロレスとお笑いで世界を征服するという
正気の皮を被った狂気を宣言
・王都ラウワ、いよいよ「うっかり侵略」予定地に浮上




