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魔王がポンコツだから私がやる。──Max Beat Edition  作者: さくらんぼん
第06章 : リンド村を拠点にしました。名前は「サクラ帝国・湯けむり支部」です。
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#058 : 世界征服☆それは文化から

リンド村は、日に日に にぎやかになってきた。


道には人の往来が増え、広場には仮設の露店が立ち並び、どこからともなく笑い声が聞こえてくる。


温泉施設の効果は絶大で、領主の命により派遣された技術者や農夫、職人たちが続々と村にやって来ていた。


サクラ「うーん……やっぱり人が増えるっていいわねぇ……」


私は広場に腰を下ろし、村の様子を眺めながらひとりごちた。


(……まるで、開場前の後楽園ホールって感じね)


そう、いずれこの村に建てるつもりなのだ。世界征服の中核となる施設──


サクラ「サクラ・グランド・花月!!」


略してSGK。お笑い劇場兼プロレス会場。


サクラ「ふふふ……どちらも世界征服には欠かせない文化なのよ……」


エスト『お姉ちゃん?何をニヤつきながら独り言言ってるの?』


後ろからエスト様が現れ、首を傾げた。


サクラ「野望について語っていたのよ」


エスト『怖い答えが返ってきた☆』



私は村の北、空き地の一角を見つめた。


地盤は良好、温泉施設にも近い。

ここにドーム型アリーナと劇場を並べて建てれば、宿泊客の流れがそのまま観客になるって寸法よ。


サクラ「ここにリングがあって……そっちに花道……実況席はあのへん……」


エスト『お姉ちゃん、顔がガチだよ☆』


サクラ「私の辞書に"遊び"のページは無いの。プロレスに関してはね」


エスト『お笑いには?』


サクラ「"真剣"ってページに載ってるわ」


エスト『お姉ちゃん……征服より劇場の方が本気なんじゃ……』


私は何も言わず、地面に棒で


《メインイベント:可憐なファイター・サクラ vs 竜王ダークドラゴン辰夫》


とでっかく書き加えた。


エスト『……あ、しかも出場するんだ……』


サクラ「え?リングに立つのが魔王軍の魔王として当然でしょ?」


辰夫「えっ!?……わ、わわ我がサクラ殿と戦う!?」

「いや、いやいやいや!?なんでですか!?」

「む、無理です!何をされるのか想像もつかない!恐ろしすぎる……!」


辰夫がその場で崩れ落ちた。


サクラ「弱そうだからよ」


辰夫「弱そう……そんな理由……か……」

辰夫はそっと空を見上げた。


辰美「え!?竜王なのに!?うちの看板モンスターなのに!?出オチなの!?」


辰美がツッコミながらも目をキラキラさせていた。


エスト『お姉ちゃん……?魔王は私だよ……?……ね……?』


サクラ「……。」(無視)

エスト『……。』(また無視かの顔)


エスト様はそっと空を見上げた。



サクラ「ふふ、これぞサクラ興業第一弾興行──伝説の幕開けってやつね」


ちょうどその時、エスト様が真顔でぽつりと聞いた。


エスト『お姉ちゃん……これって……ほんとに世界征服なの?』


サクラ「え?そうよ?」


エスト『え、だって、もっとこう……バーン!ってお城が爆発したり!ズドーン!ってお空が割れたり!ふはははー!って高笑いしながらさ!?おっきな塔の上から見下ろす……みたいなの想像してたんだけど……』


サクラ「古いわね……昭和の魔王像かしら?」


エスト『え!?じゃあ何!?』


私は鼻で笑って、村の広場を指差した。


サクラ「いい?見てなさい、エスト様。民衆が笑ってるでしょ?あれがね、征服よ。」


エスト『えっ?笑いが?』


サクラ「そう。笑わせて、泣かせて、ドラゴン・スクリューして、謝ってから殴って、逆ギレして、自分を正当化して感情を掌握するの。これが"私の"世界征服。プロレスとお笑い、どっちもガチよ」


エスト『一部が凄く納得できた☆』


私は地面に棒で図を描きながら、堂々と言い放った。


サクラ「いい?計画はこうよ──」


・まず温泉で観光客を呼び込む

・次に劇場とリングで笑わせて泣かせる

・その場でTシャツとタオル売って資金確保

・地元と連携して町おこし

・自治権ゲット、スポンサー獲得

・貴族の地位を奪取

・そして王に就任、税制と法を改正!


サクラ「世界を動かしたければ、笑顔で契約書を差し出して、経費で殴れ。── 完璧ね!」


エスト『ムダ様かな?』


サクラ「で、気に食わない奴は貴族だろうと王様だろうとモンスターだろうと── バーンてして、ズドーンてして高笑いするのよ?」


エスト『……なんだ!やっぱり合ってた☆』


──そう言って笑ったエスト様だったが、ふと顔を曇らせた。


エスト『……でも、お姉ちゃん……ほんとにこれで大丈夫なのかな……?』


突然のトーンダウンに、私は少しだけ黙り込む。


エスト様は空を見上げて、小さな声で続けた。


エスト『なんか、すごく楽しそうだし、笑えるし……でも、なんかちょっとだけ……怖い気もするんだよね……今の楽しいのが、終わるのが怖い…』


私は立ち上がって、そっとエスト様の頭を撫でた。


サクラ「……」


私は少しだけ黙って、視線を広場に向けた。


サクラ「うまくいくかどうかじゃないのよ。うまくいくように、ブチ上げて、力技で押し通すの」


エスト『え?……怖い☆』


サクラ「でも楽しいでしょ?」


エスト『……うん☆』


私はウィンクしながら棒をくるくる回し、地面の図面に「王都ラウワ焼き討ち計画(仮)」「王都ラウワ in モンスタースタンピード計画(仮)」と書いた。


サクラ「どっちが良い?どっちも楽しそうでしょ?」


エスト『……やっぱり怖いよ!?☆』


──そのとき、村長が急ぎ足でやってきた。


村長「さ、サクラさん!オーミヤの領主様宛の請求書についての件でございますが……」


サクラ「はいはい、ちょうど王都に行こうと思ってたから、ついでに渡してくるわね♪」


村長「さすがです!」

村長が請求書を出した。


エスト様が『えっ、王都!?』と目を丸くした。


サクラ「うん。王都に行くわよ!」


──その瞬間、広場のどこかから歓声が上がった。


振り返ると、元盗賊団のひとりが、バナナの皮で滑って転倒していた。


村民「だ、大丈夫か?」

元盗賊団「……ネタのつもりでした!」


村中に笑い声が響き渡る。


私は立ち上がって、パチパチと手を叩いた。


サクラ「見なさい、エスト様。これが……文化。これが……支配よ。今のは古典すぎるから私がレベルを上げる必要あるけどね。」


エスト『楽しみだね☆』


(つづく)


\\次回予告!//


領主への請求書が、魔王軍を王都へと導く──!


次回──

#059 : 世界征服☆進捗率3%ってマジ?


\\お楽しみに!//


◇◇◇


──【今週のムダ様語録】──

『世界を動かしたければ、笑顔で契約書を差し出して、経費で殴れ』


【解説】

暴力より請求書、剣より書類、城壁より会計処理。

支配とは、領収印を握ること。ムダ様はそうおっしゃいました。

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