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魔王がポンコツだから私がやる。──Max Beat Edition  作者: さくらんぼん
第05章 : ど天然ポンコツ勇者カエデ流浪編
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#052 : 魔女じゃないし☆ジブリに怒られないギリギリを攻めてみた(作者)

こんにちは。カエデです。

たぶん今、世界でいちばん寂しい体育座りをしています。


挿絵(By みてみん)


「雲は自由に空を飛べて羨ましいな。ね?ウィルソン?」


私は手のひらの良い形の石に視線を移し、語りかけました。


「元気出せよ…カエデ。」


手のひらの良い形の石から声が聞こえました。


「……宿屋……暖かいご飯……お風呂……布団……泊まりたかったなぁ……。」


「そりゃ無理ないさ。あのガチップは異常だった。俺でも引いた。

 そこからの張り手と鉄砲はヤバい。令和だったら逮捕案件だ。マジで。」


「そっか……そう……だよね。……私は……逮捕されないだけ運が良かったのか……。」


「おう。そうそう。だから元気…おっ?カエデ。誰か来たぜ。」


── すると、手のひらの良い形の石が人の影に覆われました。


そして、影の上の方から声が聞こえました。


「見ない顔だけど、どうかしたのかい?」


「……ぇ…………?」


私は顔を上げ、声の主を見ました。

そこには妊婦の女性が私の前に立っていました。


「あ……えっと……どこにも行くところが無くて……

 それに……頼れる人も……居なくて……。」


私は再度、手のひらの良い形の石に視線を移しながら答えました。


「なんだいなんだい!困ってんのかい?だったらとりあえずウチに来な!」


「……あ……ッ…………」

その女性は私の手を掴み、強引に私を引っ張りました。


女性は私を引っ張りながら言いました。


「ウチはすぐそこのパン屋だよ。ほら!そこそこ!」

「パ……パンッ……!」


──


カランカラン……♪


パン屋さんのドアが幸せの音を奏でると、たちまちにパンの香りが私を包みました。


「ふわぁ……パンの……匂い……だ……良い匂い……」


私は入り口で立ち止まり、目をつむって幸せの香りを嗅いでいました。


すると、女性は私の頭から足元まで見てから言いました。


「んー……うんッ!まずはお風呂だね!ほら!そこの奥がお風呂だから入ってきな!」


「……え……え?……あ、はい。ありがとうございます……」


私をお風呂まで案内しながら、女性はテキパキと動いていました。


「着替えはここに置いておくよ!私のお古だけどね!

 あはは!じゃあほら!入っといで!」


女性は私のお尻をポンと押しました。


「えッ?あ!ありがとうございます…!」


──


浴室に入ると喜びが込み上げてきました。


「ぉぉ……お……風呂……だぁ……うわー!うわー!お風呂だー!」


私は小声で思い切り喜びました。


久しぶりのお風呂……私は念入りに身体を洗いました。

身体を洗いながらも涙が、鼻水が止まりませんでした。


しばらくしてお風呂から出ると、脱衣所に用意されていた かぼちゃパンツを履き、

黒いワンピースを着てから赤いリボンを付けると、パン屋さんの店舗側まで行きました。


「お風呂……ありがとうございました。

 ……ホントに……!ホントに!ホントに!……ホントに!ホントにぃ……

 うっ…うっ…ありがとうございました!……ホントに……うっ……うっ……」


私は泣きながら何度も何度も何度も頭を下げてお礼を言いました。


「なんだい!なんだい!たかだかお風呂で大袈裟だねー!

 あはは!……おッ!私のお古の服だけどさ!それ、とってもいいよ。

 黒は女を美しく見せるんだから!あはは!」


そして私は恐る恐る女性に尋ねました。

「……あ……あのッ……お、お金は払いますので……パンを……!

 パンをいただいても……良いですか……?

 ……実は……ここ最近ずっと葉っぱや野草しか食べてなくて……」


「葉っぱ?野草?何があったんだい?まぁそれを聞くのは野暮ってもんか!

 どうぞどうぞ!好きに食べて良いよ!あはは!」


「……ッ!!!!!」

私の口から声にならない喜びが出ました。


そして近くにあったパンに手を伸ばしました。

パンを掴むと、パンを持つ手が震えていました。


震えながら手に取ったパンを見つめ、生つば を飲み込んでからそのパンを一気に頬張りました。


(……ゴクリ……)

…………パクッ……!


「……ッ!!」


口の中に一瞬で広がるパンの匂い、柔らかな感触。

噛むたびに、なにかがほどけていく気がした。


「…………う"っ……う"ゔっ……お"……おびじぃ……

 ど、どでぼ…ぼ…美味……じびぃ……でじゅ……」


挿絵(By みてみん)

[挿絵 : 優しさに包まれたカエデさん]


久しぶりに食べたまともな食べ物 ──。

涙が、鼻水が止まりませんでした。


「あはは!飲み込んでから話しなよ!パンは逃げないからさ!

 せっかくお風呂に入ったってのに顔がぐちゃぐちゃじゃないか!

 あはは!ほらほら!どんどん食べなッ!」


そして女性はパンを食べる私を見つめながら言いました。


「とりあえず今日は泊まっていきな!洗濯物も乾かないしね!

 鎧は自分で拭いとくれね!あはは!」


なんと、女性は私の服の洗濯までしてくれていました。


「何から何まで……ありがとうございます……ぅ……うっ……うっ……」


── パンを食べ終わると、私は女性の胸を借りてずっと泣いてしまいました。

女性は何も聞かずにいてくれました。私の頭を撫でながら ──。


しばらくすると、男の人がノソっと現れました。


「……わ!?わわッ……」

私が驚くと、女性が言いました。


「ああ!これはウチの旦那よ!旦那は無口でね!

 なぁに!とって食べやしないよ!あはは!」


女性は旦那さんのお尻をパシパシ叩きながら言いました。


「自己紹介がまだだったね。私はソロ。

 みんなからは おっソロさん なんて呼ばれてるよ。あはは!で、あんたは?」


「あの、私、勇者のカエデです!こっちは良い形の石のウィルソン!

 ……ま、魔女じゃないです!」


「キ……カエデ……良い名前だね!ねぇ?アンタ!あはは!」


おソロさんは旦那さんのお尻をパシパシ叩きながら言いました。


「ニャーゴ……!ニャーゴ……!」


パン屋さんのペットの黒猫が鳴きました。


「ああ!あんたもいたね!ヂッヂ!あはは!」


私は入り口に立てかけてあったデッキブラシを見つめながら……

ここに住み込み、宅急便の仕事をしようかなと思い始めていました。


何故だかはわかりません。


パン屋さんの外をメガネの男の子が自転車で通りました。

飛行船も飛んでいます。


パン屋さんの名前はグーチョキ……

おっと、風がドアを鳴らしたので、今日のお話はここまでです。


それでは今回の優しさに包まれたお話はここまでにしようとおもいます。

また次回のお話でお会いしましょうね!


── 異世界に放り出されたけど、落ち込んだりしたけど、私は元気です。


(炎上しなければつづく)


◇◇◇


《征服ログ》


【征服度】:該当外 (ジブリさんごめんなさい)

【支配地域】:なし(パン屋内に仮滞在中)

【主な進捗】:放浪の末、カエデが“おっソロさん”のパン屋に拾われる。

【特記事項】:

・お風呂→かぼちゃパンツ→黒ワンピ→赤リボンの“カエデ宅急便フォーム”に進化。

・精神的充足により「ここに住もうかな」発言。

・完全にジ○リっぽい空気感になってきたが、本人はまだ勇者。

・本人は戦ってないのに異様に読者の好感度を稼いでいる


◇◇◇


──【今週のカエデ語録】──

『あの私、勇者のカエデです!こっちは良い形の石のウィルソン!……ま、魔女じゃないです!』


【解説】

カーテンを開いて静かな木漏れ日の優しさに包まれたならきっと──な件。

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― 新着の感想 ―
 キ◯www  パン屋! 黒猫! 大きなリボン!  キ◯www  優しさに包まれながら✨
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