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魔王がポンコツだから私がやる。──Max Beat Edition  作者: さくらんぼん
第03章 : 厨二病聖女ツバキだ…左目が疼く…
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#032 : 違う、違う、私は † ──……聖女です……?

挿絵(By みてみん)

── 私の名前はツバキ。目を開けると、私の世界は崩壊していた。


挿絵(By みてみん)


ここはキューシューの国。

火山と火竜を信仰するこの地では、古くから「紅蓮の神竜の咆哮とともに聖女が降臨する」という伝承があった。


だがその神竜は──

数日後、パンジャ大陸タマイサ地方で鬼の女に敗れ、温泉掘り要員としてこき使われることになる。

もちろん、キューシューの民はそんなこと知る由もない。


◇◇◇


見知らぬ豪華な広間。

中世ヨーロッパを思わせる石造りの壁。

窓の外には、現代的な建物は一つもない。


「ここは……どこ……?」


声を絞り出すのがやっとだった。

喉は乾き、手足は震え、冷や汗が背中を伝う。


昨日まで自分の部屋にいた。

しかし今は知らない場所にいる。

パニックが押し寄せてくる。

呼吸が浅くなり、心臓が激しく鼓動を打つ。


「す、すみません……ここはどこですか?」


震える声で尋ねるが、誰も答えない。

代わりに、ざわめきが広場に広がる。


「聖女様だ!」

「聖女様が召喚された!」


理解できない言葉が飛び交う。

頭が混乱し、吐き気が込み上げてくる。


「え?聖女……?違います……」


私の言葉に、周囲の表情が変わる。

困惑、そして怒りの色が見える。


「聖女様、お戯れはよしてください」

「貴方様は我々をお救いくださるのです」


圧倒される声の数々。

後ずさりしようとするが、人垣に阻まれる。


「違う……私はただの人間よ!」

必死の叫びは届かない。

周囲の目が冷たく、鋭くなっていく。


「偽の聖女か?」「詐欺師を処刑せよ!」


『処刑』── その言葉で全身の血が凍りつく。

息ができないほどの恐怖が、喉元を締め上げる。


逃げ道はなかった。もう後戻りもできない。


一瞬で様々な可能性が頭をよぎる。処刑。拷問。奴隷。


私に残された道は、たった一つだった──


葛藤する心。しかし、生きるためには……

……震える唇を必死に動かす。


「も、申し訳ありません……

突然のことで……私は……私は……」


言葉につまる。喉が渇き、声が出ない。

周囲の期待に押し潰されそうになりながら、最後の決断を絞り出す。


「……聖女です……」


その瞬間、歓声が沸き起こる。

私の心は叫んでいた。


(嘘だ!違う!違うの!私はただの人間なんだ!)


しかし、その声は誰にも届かない。


◇◇◇


部屋のドアが開く音。

激しい動悸。逃げ出したい衝動。動けない現実。


「聖女様、王がお呼びです」


従者らしき男性の言葉に、私の恐怖は頂点に達した。


王座の間。

威厳に満ちた王の前で、震える膝をなんとか折り曲げた。


「聖女よ、我が国はモンスターの脅威にさらされている。恐らくは魔王が動き出したのだ。汝の力で魔王を倒し、我が国を救うのだ」


頭が真っ白になる。

耳鳴りがする。

視界が狭まる。

吐き気がする。

今にも気を失いそうだ。


「私には……そんなことできま……」


震える声で本当のことを言おうとした瞬間、側近たちの冷たい視線が突き刺さる。


「聖女様?今なんと?」

「きっと聖女様のご冗談かと?」

「すべては聖女様にかかっております。」


その言葉の裏に、脅しが見え隠れする。

断れば、私はどうなるのだろう?処刑?拷問?奴隷?


死にたくない。

苦しみたくない。

帰りたい。帰りたい。帰りたい。


「お、おうけいたしました……」


今なんて言った?

自分の声だった?

今のは私の声ではない!

きっと他人の声なんだ!


やっぱり誰にも私の声は届かない。


私にできることなど……何一つない。


これは……ただの時間稼ぎ。

生きるための最後のあがき。


「聖女様、魔王討伐の旅に必要な準備はすべて整えさせましょう」


私には彼らの言葉がわからない。わかりたくない。

頭の中は真っ白で、ただ一つの思いだけが渦巻く。


どうすれば生きられる?

この絶望的な状況から、どうすれば逃げられる?


でも答えは見つからない。

ただただ時間だけが過ぎていく。


そして私は、偽りの聖女として絶望的な旅路へと押し出されていった。


毎日が恐怖との戦い。

聖女ではないとバレる恐怖、無力さへの絶望、そして死への恐怖。


死にたくない。生きたい。生きなければ。

どんなに苦しくても、どんなに怖くても、生き抜かなければ。


それが、それだけが、今の私にできる唯一のこと。


心の中で、ただ祈る。


誰か……助けて。

誰か……この悪夢から私を救い出して。


しかし、誰も私を救ってはくれない。

私は神に使える聖女らしい。


── でもその聖女に神は居ない。


「私の名前はツバキ……私はここに居る。

誰か私を見つけて……誰か私を助けて……

誰か……サクラ……カエデ……」



── そしてこの5分後に左目からレーザー(ホーリービーム♡)が出た。


……

………


「神よ……その手が差し伸べるのなら、俺の影まで抱きしめてみせろ。──Contradiction.」

翌朝ツバキはカイ様(*)を思い出して呟いた──。


── 私は……焦げた縁の残るマグカップを、黙って見つめていた。


テーブルには、小さな焦げ跡と、うっすらと蒸気だけが残されていた。


(つづく)




── 遥か、世界の深層。


「……三つ目の鍵。……これで、揃ったか……」


声なき声が、冷たく微笑む。


世界は、知らぬ間に歯車を刻み始めていた。




◇◇◇


《征服ログ:番外編》


【征服度】:該当外(ただし聖女ツバキ、左目ビーム発射により世界観に風穴が開く)

【支配地域】:キューシュー王国(表向きは“聖女の加護”により民衆掌握中)

【主な進捗】:ツバキ、異世界にて“聖女”として誤召喚される。本人は否定するが即処刑の空気を察し、5秒で折れて受諾。

【特記事項】:本人に自覚も力も無いまま国の命運を背負わされるが、5分後に左目からホーリービームを放つ。ツバキの中で「カイ様」の語録が精神安定剤になりつつある。国民は狂信、神は不在。本人だけが正気。


◇◇◇


──【今週のカイ様語録】──

『神よ…その手が差し伸べるのなら、俺の影まで抱きしめてみせろ。──Contradiction.』


解説:

光は選び、影は捨てる。だがカイ様は言った。すべてを受け入れよと。

ツバキの中でその言葉は、信仰よりも深い鎖となった。

(*)カイ様はツバキが影響を受けた厨二アニメキャラ

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― 新着の感想 ―
急にまた変な娘来た(笑)目からビーム出た事で絶対に精神の安定を取り戻していそうな、この感じが凄いですね。可哀想かなぁっというところからの感情の全フレが凄いです。今回もとても面白かったです。置いてかれる…
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