表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王がポンコツだから私がやる。──Max Beat Edition  作者: さくらんぼん
第01章 : 恥ずか死お姉ちゃんとポンコツ魔王の転生録
22/174

#022 : 鬼ころし☆ツンデレ手紙と全力ダッシュ

サクラ「エスト様!エスト様!しっかりしてください!」


私は瀕死のエスト様を背負い、ダンジョンを走っていた。


どれくらい走っただろう——。

もう時間も方向も分からない。


足を動かしているのは焦りだけ。


暗闇をさまよう夢の中のように、ただ走っていた。


サクラ「ああ……私のせいだ……エスト様!」


(返事はない)


息が、喉に刺さる。


サクラ「もう少し……もう少しですよ!どうか、頑張って……!」



── 話は少し遡る。


◇◇◇


サクラ「チクセウ……チクセウ……あのトカゲめ……チクセウ……」


ドラゴンに敗北し、ホームのエスト様の部屋に戻った私は、お酒に逃げていた。


エスト『お姉ちゃん!?……そのお酒!……鬼ころし (日本酒)!?』


二度見するエスト様。


エスト『ど、どこにあったの!?……鬼が鬼ころしを飲んでる…』


挿絵(By みてみん)

【挿絵:鬼が鬼ころしでノックアウト】


サクラ「黙りゃッ! 小娘がッ!」

テーブルに空き瓶をガンッ!と叩きつける。中身はもう空


エスト『ひっ……』(後ずさり)


サクラ「……私は……悲しいんだよ……」

椅子から半分ずり落ちながら、涙と鼻水で顔ぐしゃぐしゃ。


エスト『女の子がそんな顔しちゃダメだよ?』


サクラ「異世界に転生して鬼になってるわ……」

角を指差して「見ろよこれぇ!」と叫んで、グラグラ揺れて倒れかける。


エスト『……』


サクラ「貧乳のままだわ……」

胸をペタペタ押さえて、目をそらす


エスト『……』(目を泳がせる)


サクラ「ドラゴンに負けるわ……」

机に突っ伏してバンバン叩きながら泣き叫ぶ。


エスト『……面白い』(小声)


サクラ「哺乳類ですらなくなるわ……」

床に転がってジタバタ、靴が片方すっ飛ぶ。


エスト『あ。』(視線が飛んで行く靴を追う。)


サクラ「はっ!? あはは……! あははははは!」

いきなり起き上がり、ピースサインを振り回す。


サクラ「あーっはははー……んー……」

最後は盛大にゲラ笑いしながら、そのまま机に顔面ダイブ。


スーッと寝息を立てた。


エスト『情緒が仕事してない!』


突然ガバーーーッ!

サクラ「……ん……あぁッ!!!」


私は突然起き上がり、エスト様の紅の瞳を真正面から見据えた。


エスト『ひぃッ』


サクラ「エスト様……私はとんでもない事に気付きました!」


エスト『酒くさッ!』


サクラ「これは大発見です! いいですか?」


エスト『来るな!酒くさッ!』


サクラ「私の《スキル:暴食》……これで様々な生物のスキルを食べて習得していけば…」


エスト『う、うん…』


サクラ「……ん?スキルというか特性だよね……スキルって言うな。イライラする…クソがぁーーーーーッ!!!」


エスト『情緒がんばれ!』


サクラ「……あれ何の話だっけ?……あぁ。そうそう!」


エスト『情緒!!』


サクラ「このまま行けば!憧れの【究極生命体アルティミット・シイング】になれる可能性があるのです!!!」


エスト『アル……な、何を言ってるの?』


サクラ「具体的に言うと、溶岩の中でも生きてられます。」


私は最高のドヤ顔をした。


エスト『なんか凄いこと言ってるけど頭に入って来ない! 』


私は驚くエスト様の目を見つめた。


サクラ「……」(見つめながら最高のドヤ顔)


エスト『(ひぃッ)』 (怯えるエスト様)


サクラ「あはははははッ!もっとよ! もっと称えなさい! 小娘ッ!」(泥酔)


エスト『じ、情緒が良い感じ!』


サクラ「……でもね……宇宙空間だけは無理なの……ぅぅぅ……凍るの……宇宙では凍るのよ……考えるのをやめたくなるの……よぅ……」


エスト『情緒ーーーッ!?』


なかなか良いツッコミをするようになったなーと、エスト様の成長を心から喜んだ。


サクラ「なんかさ……"お姉ちゃん"って、ちょっとだけ……あったかいんだよね……」


サクラ「……名前じゃなくても……誰かに呼ばれるのって……」


サクラ「いいな……私は…ここに居るんだな……家族……って……うーん……Zzz……」


ここで私の記憶が飛んでいる。



◇◇◇



── 翌朝。


*ここから天の声ナレーション



サクラは机に顔面ダイブしたまま、すぅすぅと寝息を立てていた。


頬に少し涙の跡、口元には泡……全力で笑って泣いたあとの、ぐちゃぐちゃな寝顔。


エスト『もう……』


エストは苦笑しながら、棚の奥からそっと布団を取り出すと、静かにサクラの背中へとかけた。


エスト『お姉ちゃんは……強いのに、弱いとこもいっぱいあるね』


その寝顔を、エストはしばらくじっと見つめる。


エスト『……これじゃ魔王失格だよ。守られてばっかりで……』


唇を噛みしめて、視線を決意に変えた。


エスト『……お姉ちゃんは、私のために必死に頑張ってくれてる。』


拳をぎゅっと握る音がした。


エスト『……私だって、守られてばかりじゃいけない。』


エスト『お姉ちゃんに頼ってばかりじゃ、魔王になれない!』


小さな肩を震わせながら、それでも前を見据えるように。


エスト『私が、もっと強くならなきゃ……』


エスト『お姉ちゃんを、守れるくらいには……』


ほんの少し震えた指で、テーブルに突っ伏したままのサクラの髪をそっと払う。


エスト『……いてくれて、ありがとうね。』


エスト『名前を呼んでくれて……ありがとね。』


ぽつりと、誰にも聞こえないように呟いた。


──サクラは「ぐごぉ……」と寝返りを打ち、机から転げ落ちる。


エスト『!? お姉ちゃん!?……寝てるだけかぁ……』

慌てて抱き起こす。ちょっと安堵の笑み。


そして、机に置き手紙を残すと、音を立てないように部屋を後にした。



◇◇◇



*ここからサクラ視点


サクラ「はッ!?……エスト様?……うぅ……頭痛い……」


翌朝、目を覚ますとエスト様の姿がなかった。

酷い二日酔いの頭で部屋を見渡すと、机の上に書き置きが残されていた。


========================================

【お姉ちゃんがポンコツになってるので、1人でレベル上げをしてきます。

 私も早く魔王らしく強くならないと!心配しないでね☆


 追伸 :

  オヤツは棚にあります。

  私の分は食べちゃダメよ?残しといてね☆】


  それから——

  お姉ちゃんのこと、べべ別に特別だとか思ってないんだからねっ!?

  ……でも、ありがとう。いつも。エストより】

========================================


サクラ「バカか……ツンデレ属性まで会得したのか…?」


それでも、胸の奥があったかい。


サクラ「……でも、ありがと。"お姉ちゃん"……呼んでくれて、ありがとな……」


── 涙が出そうだった。


私は棚のオヤツのお饅頭2人分を口に含んだ。

──甘さが喉に落ちる。現実が戻る。


そして、すぐにハッと我に返る。


サクラ「エスト様!?」


た、たた大変だ!

あの子……バカなのに!?ポンコツなのに!?


すぐさまエスト様を探しに走り出した。


心臓が壊れそうなくらい早鐘を打つ。

息が苦しい。

それでも私は走るのをやめなかった。


(……また失うのは嫌だ。あの朝みたいに、もう二度と冷たい手は握りたくない!)


(お願い……お願いだから無事でいて……!エスト様……!)


──


しばらく走ると、エスト様とモンスターが対峙しているのが見えた。


どうやらエスト様が優勢のようだった。


サクラ「あぁ! エスト様! 良かった……勝てそうね……」


──だが、そのとき。


サクラ「あっ! 危ない!」

エスト様の横から、別のモンスターが不意打ちで襲いかかってきた。


ガッ!


……沈黙。


ガラガラ……


エスト「きゃ!」


エスト様は熊型モンスターに弾かれて壁に衝突し、そのまま地面に崩れた。


サクラ「エスト様ーーーーーッ!!!!!」


私は駆け寄り、モンスター達をドラゴン・スクリューで瞬殺。


サクラ「エスト様!エスト様!」


サクラ「……良かった。生きてる!!でも……傷が深い……どうすれば……?」


サクラ「わからない。……ダメ。諦めるな。考えろ。」


考えろ。


気を失っているエスト様を強く抱きかかえ、考えを巡らせた。


脳裏にムダ様の言葉が過ぎる──。


『立ち止まるのは罪じゃない。

 立ち止まって、それでも進む理由を思い出せ。

 俺はいま、新宿駅で立ち止まってる。

 進む理由は──試合に遅刻しそうだからだ。』


(沈黙)


(ムダ様……新宿駅苦手すぎ……)


サクラ「いや、今はムダ様どころじゃない!」


(守るって言ったのに。私が全部やるって言ったのに──)


(私のせいで……傷ついた──)


(誰か……誰か、助けてくれる人は……)


サクラ「そうだ……アイツなら、分かるかもしれない…!」


サクラ「エスト様を助けてくれるかもしれない…!」


唇を噛みしめる。


サクラ「行くしかない!」


血の味。


──走れ。


迷っている暇なんてない——守るべきものがいるのだから。


(誰もいない世界でも……この子だけは、"お姉ちゃん"って呼んでくれる。)


(それだけで、私は──もう一度、走れる。戦える。)


──私はエスト様を背負い、ドラゴンの広間へと走り出した。


心臓が、早鐘。

息が、足りない。

でも、足は止まらない。


今度こそ守る。

あの子が笑う未来を。



(つづく)


◇◇◇


《征服ログ》


【征服度】 :0.35%(情緒崩壊から再起動)

【支配地域】:感情(ツンデレ含む)と使命感

【主な進捗】:エスト重傷。

       サクラが"守るための征服"を再確認し、

       ドラゴンの元へ向かう決意を固める。

【特記事項】:鬼ころし(酒)を飲み、

       ツンデレ手紙に泣かされ、

       全力ダッシュで地獄へ向かった。

       感情が忙しい。


◇◇◇


──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──


『立ち止まるのは罪じゃない。

 立ち止まって、それでも進む理由を思い出せ。

 俺はいま、新宿駅で立ち止まってる。

 進む理由は──試合に遅刻しそうだからだ。』


解説:

ムダ様は人生を「遅刻寸前の朝」として生きている。

立ち止まることを恐れず、しかし止まりきることもできない。

なぜなら彼の中で、“焦り”こそが生の証だからだ。


彼にとって「進む理由」はいつも切実で、くだらない。

愛でも夢でもない。

ただ、試合に遅れそうだから。

けれど、それでいい。


人はいつだって、格好つけた動機よりも、

「今ヤバいから走る」の方がずっと速い。


ムダ様は今日も走る。理想を追ってではなく、集合時間を追って。

哲学を置き去りにして。

そうしてまた新宿駅で迷う。


それでも彼は言う──

「走ってるうちは、まだ遅刻じゃねぇ」と。


このあと、遅刻してめっちゃ怒られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
なるほど宇宙だけはだめなのですね。どうしてかとある名作を思い出して考えるのをやめるというフレーズが浮かびました。エスト様含めてどうなるのか、とても楽しみな展開でした。今回もとても面白かったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ