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魔王がポンコツだから私がやる。──Max Beat Edition  作者: さくらんぼん
第01章 : 恥ずか死お姉ちゃんとポンコツ魔王の転生録
20/174

#020 : スキル《怪力》☆OL時代残業モード

前回までのあらすじ

→ ──歯医者怖い。


◇◇◇


サクラ「はぁ……やめやめ。刀なんて性に合わないわ。私にはやっぱ拳だわ。」


ガランガラン……


刀を地面に投げ捨てた。

刃が石を割り、鈍い音を響かせる。


サクラ「本気出すぞ……デッカいトカゲさんッ!!」


【スキル:《怪力》】発動


バキバキバキッ──!


骨と筋肉が音を立てて悲鳴を上げ、すぐにそれは歓喜の咆哮に変わった。


全身に力がみなぎる。

血が沸騰するような感覚。

地面が、空気が、私の気配に押されて震えた。


サクラ「ふぅ……いくぞ! トカゲッ!」


気合一閃、地を蹴った私はまるで弾丸のように飛び出した。

目標はただ一つ──目前にそびえ立つ巨大なドラゴン。


ドラゴン「ふん……特攻か?だがそれがどうした」


ドラゴンは鋭い爪を振りかぶる。

だがその一瞬、横合いから黒い閃光が飛来した。


ドンッ!


──その時、エスト様の《ダークアロー》がドラゴンの肩に命中!


エスト『お姉ちゃん!今だよっ!』


ドラゴン「む!?」


ドラゴンの視線が逸れた。


その隙、私は加速を緩めず──


サクラ「おらあああああッッ!!」


振り上げた拳が、全身の怪力を纏って炸裂。

狙いは顔面だ!


サクラ「よそ見してんじゃぁ!ねーーーーーぇよッ!」


ドゴォッ!!!!


乾いた破裂音とともに、拳が鱗を砕き、骨に届く。

ドラゴンの首がのけぞり、全身が大きくよろめいた。


ドラゴン「ぐぅ…?」


サクラ「ふぅ。やっと調子出てきたわー……」


地面に着地し、手をぷらぷら。

そして、もう一度拳を握りしめる。


サクラ「第二ラウンド、いくぞ?トカゲぇ?覚悟しとけよ?」


ドラゴンは低く唸りを漏らしながら、なおも鋭い眼光でこちらを睨み返してくる。


顔面の鱗は割れ、鼻先から血が流れ、それでもプライドだけは折れていない。


むしろ、“次こそは”という構えすら見せていた。


サクラ「行くぞぉあッ!!」


──私はスイッチを入れた!


サクラ「残業……だと……?」


ピキィィィ………ッ!!


私の中で何かが弾けた。

脳内に地獄がぶち上がる。


チャット通知、Excel地獄、午前0時の「軽く修正して」メール。

何人の同僚が泣きながら退職届を打ち込んだか。

そして私も、あの夜を超えてきた一人──。


全身の筋肉が音を立ててうねり、肩に“責任”という名の重みがのしかかる。

空気が変わった。周囲の温度すら数度下がったように感じた。


サクラ「なるほどね……これは“完徹コース”ってやつか……!」



【スキル:《怪力》──OL時代残業モード】発動!!!



《天の声:社畜時代を思い出すことによる怒りのバフ。要するに八つ当たりするのだ。サクラの攻撃力が300%アップする。理由?知らん。》


背中から湯気が立ち、目の奥に殺意じみた光が宿る。


サクラ「いいよ。出勤してやるよ。ブラックな戦場にさァ!!」


私はニヤリと笑い、口角を吊り上げる。


サクラ「なぁ、トカゲ……アゴだけ守っとけ?“報連相”の順番、間違えんなよ?」


ドラゴン「……何を言っている?」


ザッ!!


地を蹴った瞬間!音を置き去りにした。


【サクラさん奥義:《報・連・相》発動──!】


サクラ「まずは──報告ッ!!」


ズドンッ!!


ドラゴン「ぐはッ!!」


両足を揃えたドロップキックがドラゴンの胸板に炸裂ッ!!


サクラ「現状報告ゥーッ! “お前はすでに死にかけている”ってなァ!!」


サクラ「次は!連絡ッッ!!」


着地からすぐ踏み込み、右ストレートをドラゴンのアゴにぶち込む!


バシュッ!!!


ドラゴン「がはぁ!!」


サクラ「アゴ守っとけって言ったよねぇ!!次の予定?“お前の敗北”だよッ!!」


サクラ「最後は!!相談ッッッ!!!!」


(沈黙)


ぶんッ──ピタッ……!


拳を振りかぶるが、止まる。

視線が宙にさまよう。


(……誰に相談すればいい?)


(上司?帰宅済み。部長?既読スルー。同僚?全員疲弊。)


(……いつもこうだ。)


そして──


サクラ「相手いねぇええええええぇ……えぇぇぇぇぇッ!! 」


洞窟に反響する咆哮!!


サクラ「いつもそうなのよ!! 相談したくても誰もいない!!だから全部一人で回してんのよォォォ!!」


ズズズッ……!


ドラゴンの巨体がグラつき、ついに片膝をついた。


ドラゴン「ぐっ……な、なんだ今のは……三段……いや、二段構えの連撃……まさか、それが“報連相”…?」


サクラ「そうよ!! 社会の荒波を生き抜いた拳だよ!!」


私はくるりとバク転で着地し、口元をぬぐってニッと笑う。


(笑っとけ……ふざけとけ……そうしないと……動けなくなる)


サクラ「残念でしたー! 私はね、正々堂々って柄じゃないのよ。

 “誰かがやらなきゃいけない仕事”を、全力でブン殴ってるだけよ!!」


ドラゴンが、呻きながらこっちを見ている。


その目に浮かんでるのは──完全に戦慄。


(ふふん、今さら気づいた?私の一番ヤバいところって、性格だからね。)


エスト『お姉ちゃん……凄い……』


後ろで、エスト様がぽかーんと口を開けていた。

尊敬とちょっとした恐怖が混じった、ありがたいリアクション。


サクラ「ありがとエスト様。あてくし?テンションで回る社畜型バトルスタイルなんで!」


私は肩を軽く回して、静かに言った。


サクラ「さて、"案件処理"を続けま──」


── その時だった。

目にも止まらぬ速度で、ドラゴンが突進してきた!


ドラゴン「甘いな、鬼の娘よ。」


ズドンッッ!!!


サクラ「は──!?」


ガシィッ!!!


反応する暇もなく、ドラゴンの左手が私の胴体をがっちり掴む。


サクラ「くっ……この巨体で、なんでそんな速さ出んのよ……!」


巨大な爪が食い込み、肋骨がミシリと悲鳴を上げた。


サクラ「ぐあぁぁぁ!」


そのまま私は地面に叩きつけられる。


ドガァァァン!!!


サクラ「ぐぅッ!!」


石床が粉々に砕け、クレーターができた。

私の体は完全に動かなくなる。


サクラ「はぁ……はぁ……」


息も絶え絶えで、もう立ち上がる力も残っていない。

視界が暗くなっていく。


エスト『お姉ちゃーん!』


タタッ!!


ドラゴン「下がっていろッ!!!……やはり我には敵わなかったか。だが、よく健闘した。」


エスト『うぅ……』


エスト様が駆け寄ろうとするが、ドラゴンが威嚇の咆哮を上げる。


ドラゴンは私を見下ろしている。


(くそ……こんなところで……)


意識が沈む。

光も、音も、全部が遠い。


……その時だった。


──またムダ様の声が蘇った。


『勝ちたきゃ食え。食えば解決する。昔からそうだ。

 噛むとは生きること。飲むとは覚悟だ。

 だが家系ラーメンのスープは覚悟を超えてきた。』



サクラ「ム……ムダ……様……」



(静寂)



(家系ラーメン……?)



(つづく)



\\ 次回予告 //


瀕死のサクラに、ムダ様の声が再び降り注ぐ!

「勝ちたきゃ食え」──その言葉を胸に、暴食発動!?


伝説ドラゴンのスキルを奪い取る!!

そう、きっと手に入るのは……炎のブレス!覇道の咆哮!

異世界無双への切符!


……の、はずだった。


次回──

『暴食発動☆ドラゴンのスキル奪ってやったぜ!!』


「……え? ちょ、待って、今なんて!?」


\\ お楽しみに!! //



◇◇◇


──グレート・ムダ様語録:今週の心の支え──


『勝ちたきゃ食え。食えば解決する。昔からそうだ。

 噛むとは生きること。飲むとは覚悟だ。

 だが家系ラーメンのスープは覚悟を超えてきた。』

 

解説:

ムダ様にとって「食う」とは、戦うこと。

噛む=生、飲む=覚悟──すなわち摂取は闘争の延長線である。

だが“家系ラーメン”という存在は、その覚悟を試す暴力的な儀式。


ムダ様は戦った。脂と。勇敢に。

そして悟った。「人はスープに勝てない」と。


以後、彼はスープを残すようになった。

敗北ではない。消化を選んだのだ。


美味しいけどな!

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― 新着の感想 ―
「軽く修正して」この世で一番言ってはいけないセリフじゃないか…… 奥義が報連相なのも面白い(*´艸`)
引きが楽しみすぎるのですよ(笑)暴食してどうなるのか、楽しみでしょうがないじゃないですか。報連相フルコースも笑いながら読んでいましたが(笑)ドラゴンと報連相なんて、なんで結びつけようと思ったんですか。…
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