表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王がポンコツだから私がやる。──Max Beat Edition  作者: さくらんぼん
第01章 : 恥ずか死お姉ちゃんとポンコツ魔王の転生録
15/174

#015 : 姉の誓い☆失わせないための世界征服

◇◇◇


【現在地】パンジャ大陸南東部・常闇のダンジョン(魔王の間)

【視点】サクラ

【状況】異世界生活5日目。魔界超サーモンキング(Lv999)の召喚をキャンセル成功した直後。


◇◇◇


──魔王の間。


クマ肉を食べて“冬眠”と“鮭取り”を覚えた。

残るのは、部屋に漂う肉の匂いと、妙に静かな時間だけだった。


あの謎スキルの通知音も、もう鳴らない。

代わりに、胸の奥がやけにうるさい。


……クマ食べて冬眠と鮭って、どんなRPGだよ。

いや、もはやギャグだろ。


《天の声:お前の存在がギャグみたいなもんだろ。》


(またこいつかよ!)


サクラ「っさい!!」


──


火の落ちた石板コンロの上で、串の先が冷えきっている。

私はぼんやりと、空になった皿を眺めていた。


……まぁいい。

冬眠でも何でも、エスト様を守るためなら使いようだ。


それに──守るって、そう簡単に言える言葉じゃない。

だからこそ、ちゃんと“決意”に変えなきゃいけない。


魔力灯の淡い光が、石壁をゆらゆら照らしていた。

まるで夜の焚き火みたいで、少し落ち着く。


サクラ「……まぁ、いざとなったら私が大魔王やってもいいけどね?」(クスリと笑う)


その独り言に、隅で座っていたエストが顔を上げた。


エスト『ねぇ、お姉ちゃん……わたし、ほんとは……もっと強くて、かっこいい魔王になりたかったんだ。』


彼女の声はか細くて、まるで灯の揺れみたいに頼りない。


エスト『……私に召喚されたの嫌だと思ってたら……やだな……って。』


私は、しばらく黙っていた。

そして、乾いた笑いがこぼれる。


サクラ「……そんなの、最初から分かってたけど?」


エスト『えっ……?』


サクラ「エスト様がポンコツで泣き虫なのは、見れば分かる。でも──」


私は立ち上がり、魔力灯の光を背に彼女を見下ろした。


サクラ「勝手に喚んで“お姉ちゃん”なんて言われたら……もう引き受けるしかないでしょ。誰が妹を置いてくもんですか。」


エスト『お姉……ちゃ……』


サクラ「……あーもう!また涙ぐんで!湿っぽいのは禁止!」


エストは唇を噛みながら、それでも小さく呟いた。


エスト『……もし……お父様が戻ってきたら、わたし……また捨てられるのかな……。』


胸の奥がギリッと鳴った。


サクラ「……はぁ???小娘!自分が何を言ってるか分かってんの?」


サクラ「親に捨てられたとか、そういう話は小娘のせいじゃないから!!ちっちゃくて、バカで、ポンコツで──」


サクラ「あぁ、もう!──笑うとアホみたいに可愛い魔王の、何が悪いっていうんだ!」


言葉が止まらない。もう止められなかった。


サクラ「家族を失うのがどんなに辛いかも、残された者がどんな気持ちになるかも、全部知ってる。」


サクラ「誰にも『おかえり』って言われない夜が、いちばん冷えるんだよ。」


サクラ「だからこそ言える。残された家族を放っておく親なんて、魔王だろうが何だろうが、ぶん殴ってやる。」


言葉を吐き出したあと、胸の奥がじんと熱くなった。


サクラ「それに──ムダ様が言ってたんだ。『親は選べないが、殴るかどうかは選べる』ってね。」


サクラ「エスト様を泣かせた責任、きっちり取らせてやるから。」


深く息を吸った。

守るって決めたんだ。あの日も、今も。


サクラ「──それが、私の世界征服。“大切な人を失う世界”なんて、私がぶっ壊してやる。」


ドゴォン!


拳を突き出すと、空気が震えた。

魔力灯の光がビクリと揺れて、二人の影が壁に踊る。


エストは目を見開いたまま、しばらく私を見つめていた。

やがて、視線を落とし、小さな手で私の腕をそっとつかんだ。


エスト『……それって、すっごく……わがままで、でも、あったかい。』


サクラ「……っ、な、なにそれ……は?……知らないし……。」


エスト『──ありがとう、お姉ちゃん。』


一拍置いて、その小さな頭をぽんと押さえた。


サクラ「……ったく、ほんとチョロいんだから。」


悪くない。いや、悪くないどころじゃない。

むしろ──少しでも長く、この手を離したくない。


……でも。

その温もりの裏で、胸の奥が少しざわついた。

怒りも、悲しみも、後悔も。

全部、まだ拳の中に残ってる。


そのとき、ムダ様の声が頭に蘇った。


『ストレスを溜めるな。拳で昇華しろ。筋肉は感情を代弁する。』


サクラ「……あー、やっぱムダ様、天才だわ。」


そうだ。

このざわつきはきっと、ストレスだ。

なら、解消法はひとつ。


サクラ「うん。ストレス解消も、征服のうちってことで。」


エスト『……え、いま急にテーマ軽くなった!?』


サクラ「違う!ムダ様の教えに従っただけ!!拳で世界と、自分を鍛え直すのよ!!」


エスト『お姉ちゃん、それただの筋トレでは……?』


サクラ「筋肉は世界を救う哲学ッ!!」


エスト『哲学なんだ……!?』


サクラ「そう、筋肉は裏切らない。裏切るのは大体、人間だけ!!」


ドガァァァン!!(*机を殴って壊す音)


エスト『お父様の机がァァァァ!?!?』


サクラ「……」


(沈黙)


サクラ「……あ」


粉々になった机を見つめる。


サクラ「……これ、お父様の……」


エスト『そうだよ!?』


サクラ「……」(冷や汗)


(間)


サクラ「……いや、むしろ良かったんじゃない?」


エスト『え?』


サクラ「だってさ、エスト様を置いて行った親の机でしょ?こんなもん残しておく方がおかしいわけ」


サクラ「過去に縛られてちゃダメなの。前を向くために、机も過去も全部ぶっ壊す!これ、ムダ様の教えね」


エスト『そんな教えあったの!?』


サクラ「今作った」(てへぺろ)


エスト『作るな!?』


サクラ「でもほら、これでエスト様も、過去に縛られなくて済むでしょ?」


エスト『いや!縛られてないから!普通に使ってただけだから!?』


サクラ「それに私、さっき宣言したじゃん。"エスト様を泣かせた責任、きっちり取らせてやる"って」


エスト『机に責任取らせてどうするの!?』


サクラ「机から始まる報復。これが私の世界征服」


エスト『征服関係ないよね!?』


(沈黙)


サクラ「……胃が痛い」


エスト『今更!?』


サクラ「……うん。明日からレベル上げ再開だな。」


ストレスも拳も、動かしてナンボ。止まったら腐る。ムダ様もそう言ってたし。


サクラ「よし。世界征服──まずは腹筋300回から始めよう。」


《天の声:物語の方向性、迷走中。》


サクラ「っさい!!」



別に世界なんか欲しくないっての。

でも、まぁ、あの子が笑って生きられる場所くらい……

私が殴ってでも作ってやんよ。

……なーんて。言わんけどね。やっぱ恥ずかしいし、ね?




(つづく)



ムダ様の言葉は、いつも乱暴で、でも真っ直ぐだ。

殴れって、きっと暴力の話じゃない。


“どんな過去でも、自分の意思で上書きできる”ってことだ。


親がいようがいまいが、泣き虫な魔王がいようが、関係ない。

私は、私の手で、この世界を殴り返す。


そして──

守るために、笑うために、今日も拳を握る。



◇◇◇


《征服ログ》

【征服度】:0.2%

【支配地域】:クマ肉と魔王(胃袋と方針の両面制圧)

【主な進捗】:育てて征服する計画が始動。魔王を妹として守ると決意。

【特記事項】:最悪、自分が大魔王やるらしい。(やめろ)


◇◇◇


──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──


『親は選べないが、殴るかどうかは選べる。』


解説:

血は水より濃いが、拳はそれより早い。叩け。

血縁は宿命だ。逃げられない構造だ。

けど拳には“今”がある。

過去に殴られたままの自分を、今、殴り返せる。

ムダ様にとって殴るとは、報復じゃなく更新だ。

一発で血の呪いをリロードする儀式。

親でも運命でも、ぶん殴った瞬間に「お前の人生」になる。

だから叩け。速さこそ自由だ。あと殴るとスッキリする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
湿っぽパートだ!(っ*´ω`*c)ホクホク 2人はもうしっかり姉妹ですね! そしてムダ様名言大量生産してるなー«٩(*´ ꒳ `*)۶»
 ムダ様……名言溢れるムダ様……教!? ムダ様教!?  何か強く生きる為の名言集が作れそう……幾らですか?
いや、最高ですね。親は選べないが、殴るかどうかは選べるって名言すぎるでしょ。私の座右の銘にしたいぐらいです。ホントにそう。自分の行動や覇気をどこに向けるかはその人次第で、それをモチベーションに力強く生…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ