#013 : 死闘☆令和のOL vs. クマ
前回までのあらすじ
→ 何言ってるか分からんかった。文系だし。
◇◇◇
【現在地】パンジャ大陸南東部・常闇のダンジョン最深部(魔王の間)
【視点】サクラ
【状況】異世界生活5日目。量子筋肉で魔王を黙らせた文系。今は食料を漁っている。
◇◇◇
サクラ「食料も尽きそうだし?そろそろ本格的に “魔王軍っぽい” アクションを起こさないとですね…」
エスト『うんっ☆じゃあ今日から “世界征服” 開始っ☆』
というわけで、世界征服 ≒ 食糧調達のため、私たちはダンジョン最深部の探索に乗り出した。
今いるのは、仮に名付けるなら【魔王の間】──そんな雰囲気の場所だ。
この魔王の間の「ものものしい扉」を押し開け、外に出てみた。
ギギギギギ……
──扉の外は延々と通路が広がっていた。
壁から生えている石の結晶が照明の役割をしており、とても壮大な雰囲気である。
まるで地下宮殿のようだ。
青白い光が暗がりを照らし、幻想的な雰囲気が漂う。
◇◇◇
ダンジョンを進んでいるとエスト様が声をかけてきた。
エスト『……ねえ、お姉ちゃん?』
サクラ「はい?」
エスト『……なんで私が前で、お姉ちゃんが後ろなの?』
(コウモリが飛ぶ音)
サクラ「え?こないだまで令和のOLですよ?舗装されてない道なんて歩けるわけないでしょ?」
魔王の背中に隠れながら歩く私。
だって主従関係を考えると、エスト様がモンスターの前に立つべきじゃん?
そう思いませんか?ねぇ?
エスト『いや……私を守る……感じで……この異世界に喚んだんだけど……』
サクラ「……はぁ……仕方ないですね。」
私は笑顔のまま目が死んだ顔をしたが、暗いし見えていなかったはずだ。
さらにダンジョンを進んでいくと、クマ型のモンスターがウロウロしているのが目に入った。
足音を殺しながら観察すると、腕が4本はある大型のクマ。
その毛並みは黒く、赤い目が暗闇で光っている。
(……いやベヒーモス → クマって、敵のチョイスどうなってんのこの世界……?)
…
サクラ「エスト様、クマ型のモンスターが居ます!モンスターはまだこちらには気付いていないようです!これはチャンスです!奇襲を仕掛けましょう!!」
私は最高の笑顔でグッと親指を立てた。
エスト『奇襲好きだね☆』
サクラ「ええ。なぜなら──」
私は脳内でムダ様の教えを反芻する。
『奇襲はマーケティング。市場が気づく前に市場を潰せ。』
サクラ「──奇襲はマーケティングですから。」
(エスト様の歩みが止まる)
エスト『は?』
サクラ「市場が気づく前に市場を潰す。これが基本です。」
エスト『お姉ちゃん、今何を言ってるの?』
サクラ「……知らん。でも勢いがある。勢いがあるから正解。」
エスト『ホントに何を言ってるの!?』
サクラ「……ホント私、何を言ってる?」
エスト『……とりあえず、奇襲するってことでいい?』
サクラ「はい。」
(エスト様が怪訝そうな目で見てくる)
エスト『……じゃあ行こう?』
サクラ「エスト様は飛び道具的な魔法は撃てますか?」
エスト『撃てるよ?』
サクラ「では、お願いします!撃っていただいた後に、私は死んだフリをしますね!」(キリッ)
私は無茶しやがって敬礼をエスト様に送った。
ビシッ☆(良い敬礼の音)
エスト『それ一撃で仕留めないと私に襲いかかってくるよね?』
サクラ「私のいた世界ではクマを見たら死んだフリなのです。子供でも知ってる常識です。」
エスト『レベル上げしに来てるんでしょ!?』
エスト様の表情からイラッとした感が読み取れた。
サクラ「……ちっ」
…
エスト『じゃあ気を取り直して!……行くよ☆ ダークアロー!』
サクラ「了解!」
エスト様の掌から放たれた黒い矢が、闇の中を一直線に走った。
ギィン!と空気が裂ける音。
矢はクマ型モンスターの肩で爆発した。
ボボボボボンッ!!!!!
クマ「ガウウウウウウウーッ!!」
クマモンスターは叫ぶと同時に消えていた。
床に魔方陣が焼き付き、亀裂が走っている。
サクラ「は?え?」
エスト『あ、あれ?あれぇ?また……爆発しちゃった……』
サクラ「ん……ん?……また?」
エスト『爆発する魔法じゃないのに……教科書の通りに魔法撃ったのに、失敗かぁ…』
もしかして、エスト様 ── 天才肌なのか……!?
いつもアホの子だと思ってた。
サクラ「こ、これは……ちょっと優しくしとくか……」
エスト『ん?お姉ちゃんなぁに?☆』
サクラ「い、いえ。ナイス魔法でした!」
……思えば、筋トレ三日でやめたOLが、筋肉で戦ってる。
なんだこのキャリアプラン。
──
そうこうしてると今の爆音でクマ型モンスターが更に一頭顔を出した。
ウロウロしている。こちらに気付いていないようだ。
サクラ「チャンス!」
【スキル:《怪力》発動】
私は地面を蹴った。
前回のベヒーモスでは必死で分からなかったが、自分でも驚くほどの速さだ。
地面を蹴る感触が心地よい。
空気を置き去りにしていく。
これが鬼の身体か……。
クマは悲鳴を上げて振り向いた。だが、遅い。
サクラ「まずは──挨拶代わりに!」
私は全体重を乗せて、クマの胸元に跳びかかった。
サクラ「ドロップキィィィィック!!」
[タグ]#ヒロインです #筋肉は裏切らない
ズドォォン!!
クマ「ガウウー!?」
クマの身体が後方に吹き飛ぶ。
地響きを立てながら転がった。
サクラ「すまん!クマ!こっちは食糧事情がかかってんだ……!」
私はすかさずダッシュで間合いを詰める!
逃げようとしたクマの足をガシィと掴む。
【スキル:《怪力》── お腹減ったモード】
サクラ「筋肉の栄養は筋肉で取る。それが食物連鎖ってやつだ……!」
《天の声:血糖値の落ち込みが筋肉を刺激する。サクラの出力+100%。理屈はない。》
サクラ「さあ次は!必殺・関節破壊コース!」
サクラ「喰らいなさい!私が最も尊敬するプロレスラー!
ザ・グレート・ムダ様の──魂を込めた見よう見真似の──!」
叫びとともに、私は身体ごとクマの足を捻りあげる!
サクラ「──ドラゴン・スクリュー!!」
私はクマの右足を掴んで一気に身体ごと捻った。
グルンッ!!ガギィッ!!
(……手応えあり)
そのままモンスターの勢いを利用して──
サクラ「地獄へ、ダイブ!」
ドグシャッ!!
クマ「ガウ……ッ!」
地鳴りのような衝撃。
土煙があたりに舞う。
エスト『お!おぉぉぉぉーかっこいいッ⭐︎』
……深呼吸。
鼓動が少しずつ落ち着いていく。
拳に残る熱が、まだ冷めない。
私は優雅に立ち上がると、倒れているモンスターを見下ろしながら呟く。
髪を後ろに流し、埃を払う。
サクラ「ふふ……戦う私は美しい……」
エスト『うん、強い。美しいかはさておき☆』
サクラ「……ちっ」
──
さらにダンジョンを進んでいくと、またクマ型のモンスターがウロウロしているのが目に入った。
(……あれ?ついこないだまでファミレスでドリア食べてたのに……なんで、こんな暗いダンジョンで食料調達してんの!?)
(ファミレスと言えばメニュー裏の間違い探し……)
(あれ、毎回最後の1個がどうしても見つからないんだよッ)
【スキル:《怪力》── ファミレス間違い探しモード】
《天の声:制限時間を超えた焦燥感がサクラの筋肉を覚醒させる。出力+500%。理由:人類の業。》
サクラ「ドリア冷めたじゃねーかぁッ!?」
ドグシャッ!!
クマ「クマッ!?」(何!?)
気付いたらいきなりクマをぶん殴ってた。
サクラ「……時間返せよッ!!間違い探しの難易度高すぎんだよッ!!」
クマ「ガウッ!?ガウウッ!?」(通り魔!?間違い探しッ!?)
叫ぶと同時にクマは地面にめり込んだ。
……ガ……ガウッ……(*クマさん納得いかないまま撃沈)
(涙目でこちらを見てくるクマさん)
サクラ「でもドリアとサラダは美味しくて好き!!」
エスト『お姉ちゃん!クマさん絶対に納得いってないよ!?』
サクラ「知らん!理不尽を食らうのがダンジョンの定めだッ!」
……深呼吸。
怒りは毒だ。でも私には、それが燃料になる。
サクラ「意味は分からん。でも勢いがある。だから正解。」
──その時。
《ぽぽぽぽっ ぽぉんこっつー♪》(*レベルアップのテレレレッテッテッテー♪のリズム)
エスト『おっおっおーッ!?お姉ちゃん!レベルが10も上がったよ~☆』
エスト様は嬉しそうにピョンピョン跳ねている。
赤い瞳が星のように輝き、小さな手足を無邪気に動かす姿。
ふふふ……可愛い。
こうして見ると、とても魔王には見えない。
経験値の美味しい小さな女の子だ。
私のレベルは上がらなかった。
このクラスの相手では経験値にならないか。
妹のアゴなら上がるのに……世界って不条理ね……
が、適当に話を合わせておいた。
サクラ「やりましたね!私も似たような感じでした。」
効率的にはエスト様のアゴを狙うのが良いと分かった。
そうだ!エスト様の運命のアゴを狙おう。
その小さな顎には、無限の可能性が詰まっている。
エスト『どしたのお姉ちゃん?私のアゴになにかついてる?』
サクラ「いえいえ。」
(あのアゴ……世界のレベルアップ装置……)
(つづく)
*作者は魔王のアゴの弱点と勇者バレのリスクのバランスめちゃくちゃ良いと、本気で気に入っています。
\\次回予告!//
戦いの後に待つのは、想像を超えた新たな力。
その力は希望か?それとも笑いか?
次回──
『チートスキルDE☆ネタスキル』
世界征服は、まだ序章にすぎない──!
\\お楽しみに!//
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──
『奇襲はマーケティング。市場が気づく前に市場を潰せ。俺、今何を言ってる?知らん。でも勢いがある。勢いがあるから正解。ホント俺、何を言ってる?』
解説:
これは「理屈が崩壊した成功理論」だ。
ムダ様は常に“勢い”を神格化する。勢いが真実を上書きし、論理を蹴飛ばす。
その状態を「マーケティング」と呼んでいる。
つまりこれは、戦略でも哲学でもなく、熱量で現実を書き換える祈祷だ。
「俺、今何を言ってる?」という自問は、本来“混乱”のサインのはずなのに──ムダ様にとっては悟りの瞬間。
思考が崩壊して、脳が“勢いだけの生物”になる。
そこに余計な理性がない。
つまり、理屈を捨てた結果としての正気。
それがムダ様流のマーケティングだ。
あれ?今、何を言ってる?




