表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バームベルク公爵領の転生令嬢は婚約を破棄したい  作者: くまだ乙夜
二巻発売記念番外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

225/252

聖女祭の夜(5/13)


 食事の合間に余興アントルメが行われ、聖女の歌や民謡が披露される。楽器に合わせて再び踊りの輪があちらこちらでできあがり、ちょっとしたゲームなども始まった。


 ゆるやかなバス・ダンス風の男女入り乱れた民族舞踊が、さほどの規則性もなくバラバラと好きなように行われている。途中で目立ちたがり屋の騎士が登場し、ハイテンポの複雑な跳躍を人前で披露して拍手喝采をもらっていたが、ミルザは楽しそうに見入っていた。


 騎士を指さし、ミルザがジークラインに問う。


「王子様は踊らない?」

「俺が参加しようもんなら、どいつもこいつも全員前座になり下がるからな。不満が出るんだ」


 ジークラインがいつもの軽口を叩くと、ミルザは吹き出した。


「なあに、それ。王子様面白いですね」


 ――あ、やっぱり面白いんだ。


 ディーネの周りには彼を絶賛する人しかいなかったのでちょっと麻痺していたが、やはり異文化の人からすると彼の大見得の切り方は面白く聞こえるらしい。安心する一方で、あんまり悪く言われるのも面白くないなと思ってしまうのだから、恋心は複雑だ。


 やがて酔客の興が乗ってきたのか、曲のテンポが上がり、男女ペアの舞踊も始まった。


 ワルツの中世版はレントラーといい、やはり男女ペアで行うが、社交ダンスほど洗練されてはいない。ワルキューレのダンスはレントラーやタンゴなどよりももっと激しく、過激だ。


 若い騎士がどこぞの貴婦人の腰を抱きかかえ、高く掲げた。貴婦人のつきだした足がスカートからのぞき、太もものガーターベルトまでがあらわになる。見物客から大きな歓声が上がった。


 別のカップルは、男女両方が同時に『山羊の跳躍』と呼ばれるハイジャンプを披露して、片方は華麗な足さばきを、女性は脚線美を見せている。


 ――ぐだぐだも最高潮って感じね。


 基本的には農民の集会や、お酒が入った大人の悪ふざけで踊られるものだから、良家の淑女であるディーネは踊るべきではないと言われ、もっぱらゆるやかでお行儀のいいダンスだけをさせられてきた。


「みんなスカートで踊っているんですね。踊りづらそう」


 ふいにミルザがつぶやいた。彼女は聖女のコスプレ風のロングスカートの下に、筒形のほっそりとしたズボンをはいている。おそらくはこれがチェルリクの正装なのだろう。騎馬民族の衣服は男女ともズボンであることが多い。それはそうだろう、乗馬にスカートは不向きだ。日本でも乗馬用の袴はつくりが特別で、足がズボンのように別れている。


「ワルキューレでは、女性はズボンをはきませんのよ」

「うそ! じゃあ、乗馬のときはどうする? 竜に乗るときは?」

「スカートのままで」

「スカートのままで!? ワルキューレの女性、スゴイですね……」

「悪しき風習ですわ。危なくって仕方ありませんもの」


 肩をすくめるディーネの、太ももの辺りにミルザがちらりと視線をやった。なんとなく恥ずかしくなって、ディーネは前開きのスカートをそっと閉じ合わせた。ディーネの服が奇抜なのは諸事情あってのことだ。放っておいてくれと、言えるものなら言いたかった。


 余興ももう少しで終わりだ。はやくダンスの熱も下火にならないだろうかと考えているディーネの横で、ミルザがふいにはしゃいだ声をあげた。


「ねえ、私、あれをやってみたい!」


 指さしたのは男女ペアの『野蛮な』踊り。


「え……? でも、あれは……」


 慌てたディーネがなんと言って止めようかと考えあぐねたすきに、ミルザはぴょんと席から立ちあがった。


「王子様、私と踊ってください!」


 ――な……なー!?


 ディーネは衝撃で声も出ないほどだった。だって、ディーネだってまだジークラインとあんな踊りはしたことがないのだ。婚約者である自分を差し置いて、他の女が彼の相手を務めるなどということが、どうして許容できようか。


「いや、俺は……クラウス、相手してやれ」


 ジークラインが名指しでワルキューレ貴族の青年に声をかけると、またしても皇帝陛下が眉を上げた。


「これ、せがれや。はるばる遠くからお越しになった姫君に失礼じゃろう」


 ディーネは失礼を承知で、皇帝の顔を凝視せざるを得なかった。


 ――ちょっと、どういうこと!?


 ミルザが要求したダンスは社交ダンスとして洗練される以前の、『農民の無礼講』といった雰囲気の踊りで、いかがわしく身体を密着させるパートがいくつもある。


 必然的にジークラインは彼女の身体に触れることになるのだ。


 婚約者がいることを理由に、ジークラインもディーネもダンス全般を断っていたし、誰もがそれを承知していたから、彼がディーネ以外をダンスのパートナーに選ぶことなどこれまで一度としてなかった。それは相手が外国からの貴賓であっても例外ではなかったのだ。それなのに、どうして今回に限って皇帝はミルザをこれほどまでに優遇しているのだろう?


 ――もしかして……


 ディーネは嫌な予感に全身が総毛立った。

 これは皇帝からの宣告なのではないだろうか?

 つまり、皇宮としてはバームベルクよりもチェルリクとの関係を重きに置く、というような。

 もしもそうだとしたら、ディーネの一存でうかつに遺憾の意を表明するわけにもいかない。


バス・ダンス

ルネッサンス後期の宮廷舞踊。ゆるやかで気品のある集団舞踊。


レントラー

三拍子系の男女ペアで行うドイツ舞踊。世界的に有名なウィンナーワルツの前身となった。

基本の動きは共通しているが、ワルツとは違い、高く跳躍するパートなどを含む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ