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バームベルク公爵領の転生令嬢は婚約を破棄したい  作者: くまだ乙夜
第三部

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祭りのあと 1


 はぐれドラゴンの襲撃で死者は出なかった。

 重篤な怪我人もおらず、竜五匹に襲われた事件にしては軽い損害で済んだと言えよう。パパ公爵たちが民の保護やら後始末やらでてんやわんやの中、客人の世話を見るように言われてディーネも屋敷に戻ることにした。


 ジークラインたちを連れて広間へと向かう。帝国の皇太子とメイシュア教の大司教主がいささか険悪な雰囲気で並び、その後ろをぞろぞろと二人の付き人が歩いてくる。

 一番後ろをおっかなびっくりついてくるのが、この日のために呼ばれたバームベルクの家臣たち、あるいは近隣の仲良し貴族たちである。アークブルムの騎士たちもここの中に入っていた。


「それで結局、あのドラゴンは野良か何かだったんですの?」


 ドラゴンは野生にも生息しているし、人にも飼われている。

 ドラゴンは魔物の中でもとくに魔力食いが激しい生き物で、身体の八割が魔力でできているらしい。この世界では無機物に魔力がたまりやすい性質があるらしく、魔物は魔法石を好んで食べるので、バームベルク内でも鉱脈あたりによくドラゴンが出没する。先ほどの暴れ竜は鱗が鉄っぽかったので、おそらく鉄鉱あたりから飛んできた野良ではないかと考えたのだ。


 ディーネは竜の生態に詳しくないが、ジークラインならば一目見れば大まかな生息地まで見分けられるらしい。その分析力をあてこんでの質問に、ジークラインは珍しく少し悩むようなそぶりを見せた。


「……さあな。鉄竜のようではあったが、分からなかった」

「所属不明……でございますか?」

「ああ」


 ディーネは戸惑うしかない。この男に限って、分からないなどということがあるのだろうか。

 少なくともディーネの知る限りにおいてはジークラインが魔力絡みの見立てを外したことはなかった。

 直感的に、何らかの作為があって誤魔化していると感じる。


「ただ、うまいこと餌の配分を変えて偽装してるようだが、飼い竜の可能性も捨てきれない」


 飼い竜が人里を襲ってきたとなれば、これは明確な殺害計画ということになる。魔鉄が主食の竜といえばバームベルクの鉱山貴族あたりが候補になるだろう。


 ますます怪しい。飼い竜であっても飼料で魔力の性質が偏るから、見分けはつくはずなのだが。


「そんな……では、黒幕は、わたくしたちの身内に……? いやですわ……」


 わざとらしくうつむいたディーネに同情するような視線を送ってよこしたのは若き大司教主だ。


 これが暗殺計画であった場合、何が目的になるのかだが、主に狙われていたのはジークラインだから、今日この日にジークラインが来ると知っていて罠が仕掛けられそうな人物といえばエストーリオが断然怪しい。


「鉄竜なら、うちの鉱山近辺が怪しいということなのかしら……おそろしゅうございます」


 何気なく話を合わせながら、ディーネは注意して二人の様子を観察する。


 ジークラインが先ほど露骨に竜の出所をぼかしたのは、何が目的なのだろう?


「まだ分かりませんよ。外部の者かもしれませんし……」


 エストーリオがいたわるように言ってくれたが、これが演技なのかは判断できなかった。彼はもともとディーネに気があるそうなので、親身な発言も簡単に取り繕えるのかもしれない。


「俺を狙っただけかもしんねえぞ。悪かったな、せっかくの祭りを台無しにしちまってよ」

「そんな……ジーク様がいらっしゃったから、みんな無事なのですわ。まあ、こんなに返り血を浴びて……」


 何気なくジークラインに寄り添うと、彼は何を思ったのか、ディーネの腰に腕を回してきた。


「大したことじゃあねえ。でも、お前が無事でよかった」

「まあ……」


 遠慮なくベタベタとするジークラインに、ディーネは悲鳴をあげそうになったが、なけなしの理性で我慢した。

 ジークラインは普段めったに触ってこない。

 急にどうしたのだろうと焦っていると、同じく動揺しているらしきエストーリオと視線がかち合った。

 これもエストーリオに対する揺さぶりか何かなのだろうか?

 ジークラインの考えは読めないが、その可能性はある。それならおとなしくされるがままのほうがいいのかもしれない。何にせよ、ドラゴンの返り血で服が汚れたら弁償代を請求してやろうとひそかに決心した。今日着ているのは皇宮に出るときの正装ではなく、ごくふつうの絹のドレスだ。蜘蛛のドレスよりも格は落ちるが、必要以上にぴったりしていないというだけでディーネの評価はウナギ登りである。


「わたくしはいつもジーク様に助けられてばかりですわね」


 恋人に向かってちょっとはにかむような感じで言ってみる。うまく演技できたかどうかは不明だが、エストーリオの顔からは表情が消えた。


「馬鹿言ってんじゃねえよ。てめえの女ひとり守れねえで何が英雄だ」

「まあ、いやですわ、ジーク様ったら」


 どうでもいいが耳元でしゃべるのはやめてほしいとディーネは思った。

 変に意識してしまって、思考がうまく回らなくなる。いい声をしているのも罪深い。


 ジークラインが式典中に襲われるのは、何もこれが初めてではない。ディーネはその都度隣で見ていたので分かるが、この男はドラゴンの五匹や十匹では到底倒せやしないのだ。


 今日襲ってきたドラゴンはジークラインの実力を完全に見誤っていた。となれば犯人はジークラインの強さを知らなかったか、あるいは失敗すると知っていてわざと仕掛けてきたということになる。


 エストーリオはどうなのだろう?

 彼が事前にジークラインの下調べをしていないとは考えにくい。

 彼だって、教会のイメージアップも兼ねた収穫感謝祭はぜひ成功させたかったはずなので、ジークラインが憎いとしてもこの日を狙うメリットはないはずだ。

 返り討ちにされるのは目に見えているから、相対的に皇太子の株をあげることになる。


 唯一ありそうなのはディーネ絡みの怨恨だが、そのあたりはちょっと読めない。ストーカーの思考回路など分かりたくもないが。


 しかし、鉄竜が襲ってきたとき、自分だけは身の安全を図れるようにしていたのも確かなのだ。

 広間の隅にいるアークブルムの騎士一行をちらりと見やる。中央のホウエルン卿は、あいも変わらず鎧姿だ。騎士にとっては鎧兜姿が正装とはいえ、やや物騒だ。あれがエストーリオに雇われた護衛だったのだとしたら、あの重装備にもうなずける。


 ディーネが考えている間に、ジークラインはもう一本の腕を回してきた。

 密着度があがって、ディーネはさすがに恥ずかしくなってきた。


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