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98、ヴァランの友達

 オクルスは会場の端で大人しくしていた。それなのに、向けられる視線は多い。それは隣にヴァランがいるからだろうか。


 オクルスがちらりと視線を向けると、ヴァランは首をこてんと傾げた。


「どうしました?」

「いや……」


 暗くも明るくも見える青の瞳。きらきらと輝く銀の髪。整った顔立ち。この会場の中でも、群を抜いて容貌は美しいだろう。


 いつもはヴァラン以外だと、鏡に映る自分の顔、エストレージャの顔しか見ていないから比較をしたことなかったが、大勢の中では彼の顔の端正さが際立っているのをしみじみと感じた。


「君、かっこいいよね」

「……」


 オクルスがヴァランにだけ聞こえるようにそう零すと、彼は青の目を大きく見開いた後で怪訝そうに尋ねた。


「からかってます?」

「ううん。思ったことを言っただけ」

「……」


 オクルスがそう答えると、ヴァランが頬を手で押さえた。その様子をしばらく見ていると、その手の隙間から見える頬が少し赤く染まっているように見えた。少し考えて、ようやく気がつく。


「え? もしかして照れてる?」

「……」


 ヴァランに睨まれるが、あまり怖くはない。犬に吠えられるよりも怖くない。むしろかわいい。オクルスはヴァランの髪を撫でようと手を伸ばしたが、彼の髪を乱してはいけないと気づき、手は引っ込めた。


 ヴァランを見ながら、オクルスはあっさりと先ほどの発言から意見を変える。


「やっぱり君、かわいいね」

「……オクルス様、やっぱりからかってますね」

「そんなことないよ」


 オクルスは否定したが、ヴァランは怒ってしまったようで、ぷいと顔を背けてどこかへ行ってしまった。


 思ったことを言っただけなのに。オクルスはそう思いながらも、周囲を見渡した。


 オクルスに話しかけてくる人は今のところいない。こちらを見ている人はいるものの、それだけだ。


 ヴァランがいなくなってしまうと、やることがない。オクルスは空になったグラスを、回収している使用人に渡した。


 混雑している会場を眺めるが、特に面白いことはない。懐中時計を取り出して時間を確認するが、全く針が動いていない。やはり今年も何か仮病を使ったら良かったか。


 また飲み物を取りに行こうかと考えていると、ヴァランが年の近い青年を連れて帰ってきた。両手にグラスを持っていて、1つをオクルスの方に差し出してきた。


「オクルス様、飲み物をお持ちしました」

「あ、ヴァラン。ありがとう」


 オクルスが嫌になってどこかに行ってしまったのかと思ったが、戻ってきてくれた上、飲み物を持ってきてくれたようだ。感謝しながらオクルスは受け取る。ヴァランと一緒に来た青年に目を向けると、それに気づいたヴァランが少しだけ面倒そうに言う。


「勝手についてきたので、紹介します。僕の同級生のルリエンです」


 それだけを言って、ヴァランは黙ってしまった。青年の説明はしてくれないらしい。オクルスが戸惑っていると、ルリエンがガシッとヴァランの肩に腕を回した。


「おいー、ヴァランー。友達だろー」

「……」


 ヴァランは無言ではあるものの、ルリエンという青年は怒らないため、嫌がってはいないのだろう。そう判断したオクルスはルリエンに向き直った。ヴァランの友達なら、適当に接するわけにはいかない。


「はじめまして。えっと、なんとお呼びすれば?」

「物従の大魔法使いさま! お目にかかれて光栄です。お噂はかねがね。ルリエン・ノヴェリスです。ルリエンとお呼びください!」

「……どうも」


 どんな噂を誰から聞いているのか。疑問をのみ込んで、オクルスは上品に見える笑みを作った。


 ノヴェリス家。たしか、身分としては公爵家、侯爵家につづく伯爵家だったはず。それが分かったところで、貴族の勢力図などは全て忘れたため、どのように接するべきかなど分からないが。


「ルリエン様は……」

「ルリエンで良いですよー」

「……ルリエン様は、ご両親と一緒ではなくて構わないのですか?」


 貴族の令息は、親に連れられて挨拶回りをするものだろう。もう終わったのだろうか。オクルスが尋ねると、ルリエンは頷いた。


「はい。もう自由にして良いと言われたので」

「そうですか」


 それなら、ここに彼がいることに何も言うことはない。オクルスとの話が終わるとすぐに、ルリエンはヴァランに絡み始めた。オクルスのことは気にしていない。


 アルシャインを助けたくらいから露骨に怖がられることは減ってきているとはいえ、ここまでオクルスを気にしない人も珍しい。それだけ、ヴァランと親しいということだろうし、「大魔法使い」より友人の方が大事なのだろう。良い友達ができたようで良かった。


「ヴァランー、お前がいるって噂を聞いたから探していたのにー。無視すんなよー」

「……?」


 オクルスは眉を顰めた。ヴァランの情報はそんなに速く回っていたのか。知っているとすれば、オクルスとヴァラン以外には王族くらい。そこから話が漏れるとは考えにくい。それでは、どこから。


 買い物に行ったときに情報が流れた、と考えるのが自然。店からか、あるいは街で目撃をされたか。一気に考えることが増えた気がする。


 ルリエンにどこからの情報かを聞こうか迷ったが、オクルスが情報の漏れた先を過敏に気にしていると思われるのも困る。ルリエンを信用しているわけでもない。後でエストレージャに相談するとして、警戒はしておいた方が良いかもしれない。


「物従の大魔法使いさまー、ヴァランは家でもこんな感じなんですかー」

「……え。ごめんなさい、聞いていなかったです」


 ルリエンの話しかけられ、オクルスは肩を揺らす。思考に集中していて、全く聞いていなかった。オクルスが正直に答えると、ルリエンはきょとんとした後に、どこがつぼにはいったのか大笑いをし始めた。


「はは、あはは。あー、大魔法使いさまって面白い人ですね」

「……そうですか?」


 笑ったことで自分が質問していたことを忘れたのか、彼はそれ以上聞いてこなかった。結局何を聞きたかったのか。オクルスがヴァランからもらった飲み物を飲んでいると、ヴァランが少し不機嫌そうにルリエンを小突く。


「ルリエン、オクルス様に馴れ馴れしく話しかけないで。失礼でしょう?」

「えー、いいだろう。減るわけではないし」

「僕とオクルス様の時間が減るから駄目」


 同級生と過ごしているときのヴァランは、こんな顔をしているのか。オクルスがじっと眺めていると、こちらを見たヴァランと視線が交わった。


 ヴァランがオクルスの右手に触れる。


「オクルス様。ルリエンはいいので、向こうに行きましょう」

「えー、友達は大事にした方が良いよ」

「……」


 オクルスがエストレージャにどれだけ世話になっていることか。言いたいことは伝わったようで、ヴァランは無言のまま頷いた。

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