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29、疑心

第1王子、アルシャイン

第1王女、ルーナディア

第2王子、エストレージャ

第3王子、レーデンボーク

 その後の説明によると、王位継承争いの課題の1つとして、この犯罪組織の壊滅、捕縛、そして仮に裏で貴族が関わっている場合にはその捕縛をすることとされていたらしい。あまりにも犯罪組織が影響を持ってしまっていたため、重要な課題として設定されたようだ。


 貴族については知らないが、少なくとも犯罪組織の壊滅と捕縛はオクルスが行ってしまった。王となるための課題の大半を解決したのがオクルスだ。それを理由として、王位継承権についてオクルスの意見を確認したいという話らしい。


「もちろん、君の言った人間が王になるという話ではない。ただ、参考材料として利用するだけだ」

「……なるほど?」


 王位継承について問うた理由は分かった。しかし、政治や情勢をしらないオクルスには意味のない質問だ。


「申し訳ありません。私はエストレージャ第2王子殿下しか存じ上げないので。エストレージャ第2王子殿下が希望するなら推薦いたしますが」


 オクルスがそう言うと、顔をしかめたエストレージャがすぐさま首を振った。


「やめてくれ。本当に」

「エストレージャ第2王子殿下がそうおっしゃるようなので。私からは何も」


 責任感が強くて、真面目なエストレージャなら向いていそうだと思うし、大魔法使いの名をかけて推薦をしても良いと思う。エストレージャが王に興味がないらしいなら、これ以上の話すことはない。

 またオクルスはエストレージャのことしかあまり知らないというのが大きい。だからこそ、誰が良いと聞かれても答えられない。


 王は特に感情を顔に出すことはなく頷いた。


「……そうか」

「はい。私からお答えできることはないです」


 オクルスの返事に、第1王子のアルシャインと第1王女のルーナディアの表情が少し変わった。


 アルシャインはどこか怒りに満ちた顔に。ルーナディアは困ったような顔に。


 何か変なことを言っただろうか。オクルスは自分の言葉を少し考えると何となく気がついた。


 お前らのことなんて興味がない。どちらも王に向いていない。そう言っているように聞こえたのだろう。ただ、知らないというだけだが、そう勘違いされてしまっている気がする。慌てて口を開いた。


「他意はないです。お二方について存じ上げない私が何か意見するのは無意味だと思うため、お答えできないだけですので」


 オクルスはそう言ったが、アルシャインの厳しい目が緩むことはない。今日は大人しいレーデンボークだけではなく、アルシャインからも敵視されている気がする。


 もう帰ってもいいだろうか。敵意を向けられるのも好きではない。そして用事はない。


 知っていて放置していたのなら追求しようと思っていたが。一応課題として認識した上で対処を王族が2人がかりで考えていたというのなら文句を言いにくい。


「他に用事がなければ失礼しますが」

「誰かオクルスに要件はあるか?」


 国王が王子と王女のことを見る。エストレージャだけはすぐに首を振った。レーデンボークも迷ったようだが首を振る。


 すっと手を上げたのは第1王子のアルシャインだった。


「よろしいですか?」

「ああ」


 王族の瞳はみんな金色だが、アルシャインは紫の髪も相まって、特に冷たい印象に見える。そんな彼は、はっきりとオクルスを睨み付けてきた。


「父上。オクルス・インフィニティの自作自演の可能性はないのですか? まるで図ったように犯罪組織の拠点を見つけて」

「……」


 オクルスは表情を変えずにそちらを見据えた。オクルスへの質問ではないため、答えなくてもいいだろう。


「アルシャイン。証拠もないのに()()()使()()()疑うな」


 鬱陶しい。そう思う気持ちを必死に押し込めた。


 「大魔法使い」ではないオクルスなら疑うのだろう。そういう意味では、大魔法使いという身分はオクルスを守ってくれる。


「アルシャイン兄上。それはないかと。オクルスは預かっている子どものために動いたので」


 エストレージャが口を挟んでくれたことで、オクルスは肩の力を抜いた。実際、部屋の中の空気も少し緩んだ気がする。


 しかし、アルシャインだけは厳しい目を崩していない。


「子ども? ああ、引き取ったんでしたっけ? 何のために?」

「理由を説明することになんの意味が?」


 この男にも子どもを悪用する目的で預かったと疑われているのか。


「物従の大魔法使いは、生き物の命を軽視していると噂になっていますよね。その子どもも、いつか人形にでもするつもりですか? 猫にしたように」

「……は?」


 一瞬、頭が真っ白になった。どくり、と自身の心音が妙に聞こえる。オクルスは平常心を保つことができず、アルシャインを睨み付けた。


 何を言えば良いのか。


「アルシャインお兄様。失礼ですよ」


 そこで助け船を入れたのは、第1王女のルーナディアだった。

 

「なんですか、ルーナディア。物従の大魔法使いへの点数稼ぎでもしたいのですか?」

「……そういうわけではなくて」


 ルーナディアは先ほどからずっと困った表情をしているように見える。アルシャインやレーデンボークよりは話を聞いてくれそうな人だ。


 国王が金の細めた瞳をアルシャインの方へと向けた。


「関係ない話はするな、アルシャイン」

「それでも、私の友人のシュティレ侯爵が言って……。いえ、なんでもないです」


 アルシャインは何かを言いかけたが、国王に睨まれて口を閉じた。


 シュティレ侯爵。オクルスの血縁上の兄。そして、オクルスのことを散々貶しめ、陥れようとした人間。

 

 思い出したくもない人間の名を出され、オクルスは顔をしかめた。


 しかし、知っている。いくら自分が弁明したところで、否定したところで、信じない人間には信じてもらえない。


 静かに息を吐いて、オクルスは立ち上がった。


「他にはありませんね。それでは失礼します」


 それを見て国王がエストレージャに目配せをした。軽く頷いたエストレージャが立ち上がる。オクルスをヴァランのところまで案内してくれるのだろう。


 オクルスへの配慮のように見せながら、1人で城内を歩かせたくないだけだろう。しかし、オクルスとしてもエストレージャと一緒の方が雑音が少なくなるからエストレージャがいた方がありがたい。


 そのとき、第1王女のルーナディアが立ち上がった。オクルスとエストレージャがそちらに視線を向けると、彼女はにこりと笑みを浮かべた。


「物従の大魔法使い様。私もご一緒してよろしいですか? 久しぶりにヴァランに会いたいので」

「はい」


 ヴァランもルーナディアが孤児院に来ていたと言っていた気がする。それにしても、孤児院の子どものことを一々覚えているものなのだろうか。王族が孤児をそこまで気にしているとは思ってもみなかった。

 

 今のところルーナディアは悪い人には見えないが、だからといって信用はできない。オクルスは警戒をしながらも頷いた。


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