28、王位継承争い
次の日。城についたオクルスは会議室へと案内された。ヴァランは別室で待機をするように言われた。
オクルスはヴァランを1人にすることを心配にしたが、さすがに大人の話にヴァランを付き合わせるわけにはいかない。また何かがあればペンダントに合図を送るように念を押して、エストレージャと共に会議室へと向かった。
「……」
「そんな嫌そうな顔をしなくても」
「何分で終わると思う?」
「まあ、時間に余裕がない人の方が多いから、すぐ終わるんじゃないか?」
「そんな忙しい方々が呼び出す用事ってなに……」
何かがおかしい。オクルスが不法侵入をしたどころの話ではなくなっている。そのレベルなら、書類提出で終わりだろう。この件に何があるというのか。
「王子様、もしかして私は何かの爆弾を踏んだ?」
「……まあ、近しいものは」
適当に濁したエストレージャに、オクルスは顔を引きつらせた。
◆
部屋に入るとすでに王族は揃っていた。オクルスを連れてきたエストレージャが席につくのを見ながら、オクルスは王の座る場所の対面にある空いている席の前に立った。
本来ならオクルスが先についているべきのはずだが、おそらく他の議論をしていたようだったため、会議の途中から呼び出されたという形だろう。
「お待たせして申し訳ありません。失礼いたします」
大魔法使いという地位は特殊だ。王族と同等まではいかなくとも、命令を拒否しようとすれば不可能ではない。意見を言うことも容易である。一応目上として王族を立てる大魔法使いが多いが、そこまでの敬意を払わない大魔法使いも過去にはいたようだ。
もっとも、今の大魔法使いは王族に素直に従う人間ばかりだ。1番政治と離れたところにいるのはオクルスだが、それでも礼儀は尽くしているつもりだ。逆らったり、敵対したりするのが面倒という消極的な理由もあるが、それ以上に生まれは貴族の家であるオクルスは王族を雑に扱うという意思はない。
「オクルス・インフィニティ。よく来てくれた。座ってくれ」
「失礼いたします」
怒られると思っていたが、それなりに普通の対応をされた。訝しみながらも顔に笑みを貼り付けて座る。
オクルスを見た国王は、あまり表情を変えないまま手元の書類に目を落とした。
「悪いが本題に入る。この前の犯罪組織についてだ」
「はい」
「経緯はエストレージャから聞いた」
「はい。何か問題がありました?」
オクルスが淡々と尋ねると、第3王子であり、大魔法使いでもあるレーデンボークから睨まれた。相変わらずオクルスが嫌いなようだ。それなら放っておいてほしいのだが。
レーデンボークを視界から追い出し、エストレージャとレーデンボーク以外の王族の表情を窺う。
第1王子、アルシャイン・スペランザ。彼とはほとんど会ったことがない。しかし、オクルスを見る目はあまり良いものではない。どちらかと言えば、厄介なものを見る目。そのような視線はありふれたものであるため、彼からも目を逸らす。
第1王女、ルーナディア・スペランザ。ヴァランがいる孤児院に来たことがあると言っていた。そんな彼女は、世間を知ろうと積極的に街へと行っており、それはまるで女神のようだと良い評判らしい。実際、オクルスに向ける視線も悪いものではない。むしろ、興味深そうに見ている。
国王、ヒルドブルク・スペランザ。王としての評価はあまり悪いものを聞かない。ただ、オクルスの扱いには困っていそうだが、邪険に扱うこともない。
王妃はレーデンボークを生んで少しした時期になくなったらしい。だから、王族というとここにいる人で全員だ。
そんなことを考えていると、国王は思考がまとまったのか、オクルスに向かって口を開いた。
「君の対応に問題があったかと言うと、そうではない」
「不法侵入等の処罰の話ではないんですか?」
まどろっこしい話が面倒になり切り込むが、国王は首を振る。
「それは犯罪事実があったことや事情などから不問だ」
「……はい」
エストレージャは妙に心配していたようだが、オクルス自身が問題として呼び出されたわけではないらしい。それならエストレージャが案じていたのは対貴族か。それなら少なくとも今は放置してよさそうだ。
「王位継承にかかわる話だ」
「……は」
国王の言葉に、思わず気の抜けたような声を出してしまう。
なぜ急に王位継承の話が出てくるのか。オクルスが呆気にとられていると、国王が説明を始めた。
次の王が誰になるか。
現在、王には4人の子どもがいる。その中で、エストレージャとレーデンボークは王になる意思はないと表明している。
つまりは第1王子アルシャインと第1王女ルーナディアの2人の争い。
そう説明されてオクルスは初めて情勢を知った。説明されても興味はない。適当に聞き流しながら頷いた。
結局、犯罪組織を捕縛したことと、王位継承の関係は何だろうか。
オクルスの顔に面倒くさそうな気持ちが出ていたのだろうか。国王が真剣そうだった表情を少しだけ緩めた。
「結論から言おう。王位継承について、君の意見を聞きたい」
「……は?」
また気の抜けた声を出してしまうが致し方ないだろう。
なぜ、オクルスが自身の意見を必要があるのか。
オクルスが面倒な気持ちを隠していなかったから、結論を言ってくれたようだ。しかし、余計に分からなくなっただけだった。頭に手を当てて、オクルスは口を開いた。
「……申し訳ありません。説明を、お願いします」




