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異世界ナビゲーション  作者: NewWorld
第1章 緋色の少女と悪魔の少女
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第16話 飽きさせない男

 結局、マスターは生き残っていた盗賊9人の内、致命傷を負っていた4人のほか、尋問の末にさらに4人を殺害しました。

 このことにより、再び『世界で一番綺麗な私ワースト・プリンセス』が発動し、彼のスキルに変化が見られました。


○特殊スキル

『未完成スキル1』

 特殊スキル『世界で一番綺麗な私ワースト・プリンセス』の効果により発生。現在、91ポイント。スキル完成まで残り9ポイント。


 前回がハイラム老一人の殺害で、50ポイントでしたので、今回は41ポイントのプラスです。殺害数8人で41ポイントだとすると、1人平均5ポイントのようにも考えられますが、ヒイロが加算経過を確認していた限りでは、ポイントは尋問を行った男たちの分しかカウントされていませんでした。


 つまり、すでに他人により致命傷を負わされた相手へのとどめでは、カウントされないということでしょう。


 ハイラム老一人に比べて人数の割にはポイントが少ないようですが、これは相手の『質』にも影響しているのでしょうか? いずれにしても、命に『価値』を設定するというのは酷い話のようですが、野盗同士でもポイントにバラツキがあったところを見ると、単純なものではない、特定の法則があるのかもしれません。


 それはともかく、いつまでもこんな荒野にいても仕方がありません。ヒイロは《レビテーション》を展開し、重力制御の力場にマスターとアンジェリカを乗せて飛行を開始しました。


「ヒイロ! 本当に飛んでる! 足元のこれって床? なんか、透明な乗り物にでも乗ってるみたいだ!」


 嬉しそうに力場の上を歩き回るマスター。


「ふふ! あまり動き回ると危ないですよ」


 実際には、周囲にも力場の壁を設けているため転落の危険はありません。ですが、マスターに褒められた嬉しさを表に出さないよう、つい余計な注意をしてしまいました。


「大したものだ。これが【因子演算式アルカマギカ】か」


 同じく足元の力場を確かめながら、アンジェリカが感心したように頷きを繰り返しています。


「ふむ。……時にヒイロ、良かったら、わたしと手合わせしないか?」


「しません。マスターの指示があれば考えますが」


 ヒイロは悪戯っぽい視線を向けてくるアンジェリカに、即答を返しました。


「むう。キョウヤ。どうだ? わたしはヒイロともやってみたい」


「駄目だよ。仲間になったのなら、仲良くしなくちゃ」


「仲間だからこそ、遊ぶんじゃないか」


「僕としては、もう少しお淑やかな遊びにしてもらいたいね」


「……ふん。また、それか。お父様でもあるまいし……その手の台詞には飽き飽きだ」


 拗ねたように、ぷいと横を向くアンジェリカ。するとマスターは、そんな彼女に困ったような目を向けたものの、結局は何も言わず、流れる景色に視線を戻したようでした。

 周囲の安全を確認しながらの移動となるため、大した速度は出せていませんが、ヒイロの広範囲センサーで数キロメートル先の状況を確認した限りでは、あと数十分もすれば街らしき場所に辿り着けそうです。


「しかし、あれだな。……今さらだが、キョウヤは普通ではないな」


 いつの間にかヒイロのすぐ傍にまで身体を寄せてきたアンジェリカが、小さい声で話しかけてきました。


「それはそうでしょう。ヒイロのマスターですから」


「胸を張って言うことか? ……いや、わたしが言いたいのは、先ほどの野盗の件だよ」


「気に入りませんか?」


 あの『尋問』の間中、アンジェリカが微妙な表情をしていたことには、ヒイロも気付いていました。


「気に入らなければ、無理に同行する必要はありませんよ。マスターはあなたに貸しを作った覚えなどないでしょうから」


 しかし、ヒイロがそう言うと、アンジェリカは面白そうに笑いました。


「んん? なんだ、ヒイロ。実はお前、キョウヤと二人きりになれなくて拗ねているのか?」


「……何をわけのわからないことを。不確定要素は極力排除するのがヒイロの役目です」


「そうかい。まあ、それはいいさ。それより、先ほどの問いだが……むしろ逆だよ。あれには驚かされた。恐らく最後に生き残った男──あいつは本気で、世のため人のために生きるかもしれないな」


「……ヒイロには、人の『心』はわかりません」


「わたしにもわからないさ。実際、キョウヤの狙いがそれだったのかどうかもわからない。だが、それでも、キョウヤはあの時、間違いなく一人の人間の『在り方』を根本から捻じ曲げた。それこそ──歪んだ鏡が映す虚像のようにな。ヒイロも見ただろう? あの男、最後は別人のようだったじゃないか」


「何が言いたいのですか?」


 アンジェリカの言葉には含むところばかりが多く、理解に苦しみます。


「わたしはキョウヤのことを、もっと知りたくなった。わからないからこそ、なおさらだ」


「……わかりました。同行をやめる気はない、ということですね」


「ああ。これからもよろしく頼む」


 にっこり笑って肩まで叩かれては、ヒイロとしても返す言葉はありません。

 まだ油断するわけにはいきませんが、彼女のような強力な存在がマスターに好意的でいてくれるのはメリットも大きいでしょう。……そもそも、そんな事とは関係なく、ヒイロは自分がマスターと認めた人物が他の誰かに認められるということに、強い喜びを感じていたのかもしれません。


「……こちらこそ、よろしくお願いします。アンジェリカさん」


「ああ、そんな顔もできるんじゃないか。やはり、女の子は笑った方が可愛いぞ?」


 上から目線が気になりますが、無邪気な笑顔で笑いかけてくるこの少女のことを、どうやらヒイロも嫌いにはなれそうもありませんでした。




──それから、数十分後。


 ヒイロたちは、街の入口に立っていました。


「おお! ここが異世界の街か。うーん、全体的に角ばった感じの石でできた建物が多いのかな? 当然だけど、何と言うか……異国情緒にあふれてるね」


 マスターが嬉しそうに言いながら、門から街の中を覗き込んでいます。野盗などを警戒してか、この街には外壁が張り巡らされているのですが、普段は特に検問などもなく、自由に出入りできるようでした。


「確か、アンジェリカさんはこのあたりのことを『辺境』と呼んでいましたが、この街は、地理的にはどんな場所に当たるのでしょうか?」


 門をくぐり、正面に伸びる大通りと左右に並ぶ石造りの建物を眺めながら、ヒイロはアンジェリカに問いかけました。


「ん? まあ、実際に『辺境』という言い方が正しいかはわからんが、わたしが見た世界地図の中では、北西部の端の方にある国だからな。あの地図も本当なら家出する時に持ち出してきたはずなのだが……その手の持ち物は寝床に使っていた遺跡に置いてきてしまったからなあ……」


「その遺跡はどちらに?」


「ここから馬で移動しても、二か月近くはかかる場所だ。ハイラムの奴は、《転移の扉》を暴走させて一気にこの街まで逃げてきた。本来なら、それだけの距離を移動するとなると複数の《扉》を経由しなければならないのだが、そのためには相当の大金が必要になる」


 アンジェリカの話によれば、一般人が《転移の扉》を使用するには、多額の使用料が必要なのだそうです。


「でも、それなら同じく暴走させるわけにはいかないのですか?」


「あれは『大法術士』のハイラムだからこそ、できたのだろう。もっとも、暴走など前代未聞の珍事には違いない。すぐに噂が広まって、同じ『法術士』でもあるランドグリフとやらには転移先がばれてしまったようだがな。とはいえ、奴と同じ真似ができない以上、随分と遠回りをして追いかけてきたようだ。上流階級特権で使用料が格安だったとしても、ご苦労なことだ」


「なるほど。やはり、この世界は階級制度が支配的なのですね」


「ん? どこの世界も同じようなものだと思っていたが、そうではないのか?」


「同じ、ですか。……そうかもしれませんね」


 そんな会話を続けながら歩くヒイロたちでしたが、マスターは初めての街が珍しいらしく、目を輝かせて辺りを見回しており、まったく話を聞いていないようでした。


「おお! さっきから地味目で露出の少ない衣装が多くて残念だと思ってたけど、あれってもしかして……いや、もしかしなくてもメイド服だよね? いやあ、異世界にもやっぱりメイドさんはいたのか!」


 などと言って、大通りを見渡すマスターは、どうやら女の人ばかりを見ているようです。


「しかし、なんで普段は、あんなにおちゃらけてるんだろうな?」


「ヒイロに聞かれても困ります……」


 ヒイロとアンジェリカは、彼の背中を呆れながら見つめていたのでした。


 こうしている間にも、ヒイロは街行く人々の会話の声を拾うことを通じて、言語の翻訳精度の向上や固有名詞の確認、社会情勢や文化風習に至るまで、あらゆる情報を収集し、解析し、蓄積していきます。


 ヒイロが解析した限り、この街の文明レベルはマスターの世界で言うところの『産業革命』以前といったところでしょうか。おそらくは魔法によるものと思われる照明器具など、生活用品はある程度便利な物も揃ってはいるものの、大量生産されているわけでもなく、富裕層の贅沢品となっているようです。


 大通りには店が立ち並び、多くの人々が買い物をして歩く姿がありますので、辺境とはいえ、それなりに生活水準は高いのかもしれません。


 すると、その時でした。


「ん? どうやらキョウヤの奴、街に着いて早々、あっさりと面倒事に巻き込まれたようだぞ? まったく、飽きさせない奴だよ」


「……そうみたいですね」


 何故か嬉しそうに声を弾ませるアンジェリカに、ヒイロは思わず深々とため息をついてしまいました。

 彼女の指差した方を見れば、マスターがでっぷりと太った男性と何やら会話を交わしています。その周囲には、武装した数人の男たち。そして、マスターの背後には、彼の背中に隠れるように、栗色の髪をしたメイド服姿の女性がいました。

 

 何やら込み入った事情があるようですが、とにかく仲裁に入る必要があるでしょう。ヒイロはのんびりと歩くアンジェリカを尻目に、速足でマスターの元に駆け寄ったのでした。

次回「第17話 メイドさんは正義」

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