第1話 主を探す少女
わたしの名は、ヒイロ。
異世界ナビゲーション・システム搭載型の『人工知性体』です。
ヒイロは生まれてすぐに、無数の平行次元世界を渡り歩きました。その目的は、科学文明が飽和状態に達したヒイロの世界の人々が、いつか異なる世界に安住の地を求めた時のため、それぞれの世界の情報を解析し、整理することです。
ヒイロには、そのために必要なあらゆる機能が揃っています。
その中でも代表格とも言うべき【因子観測装置】は、世界における素粒子の振る舞いを決定づけ、万物の在り方さえも左右する根源的情報素子──【因子】を観測し、さらには制御することを可能とした革新的なものでした。
この装置には、世界の解析、情報の無限蓄積、多元的並列情報処理、高速思考伝達、多言語翻訳、因子演算などのほか、マスターとなる人物の環境適応能力を高めるべく、『スキル』を付与する機能なども付随しています。
これだけの能力を有する人工知性体など、ヒイロ自身が生まれた世界においても、他に類を見ません。ヒイロは極めて先駆的なモデルとして、試験運用の形で数々の異世界へおもむき、情報収集を続けていたのでした。
すべては、『彼ら』をナビゲートする日のために。
……けれど、ヒイロが元の世界に戻った時、そこには知性と呼べる生命体は残存していませんでした。
それは、超兵器を駆使した戦争によるものなのか?
はたまた、世界規模で発生した大災害によるものなのか?
異世界を渡り歩く中で、『進化する知性体』として自身のアップデートを繰り返し、ヒイロが構築した高性能の【因子観測装置】を駆使すれば、滅亡の原因を究明することは簡単だったかもしれません。
とは言え、滅亡した世界では、それも無意味なこと。
ヒイロは、その世界を諦めました。
造られた目的を失ったヒイロでしたが、それはあくまで『当初の目的』でしかありません。ヒイロの世界にナビゲート対象が存在しないのならば、他の世界を探すまで。
そうしてヒイロは、自分自身の『存在意義』を満たすため、いくつもの世界を渡り歩き、己のマスターとなるに相応しい知性体を探すことにしたのでした。
──その日、ヒイロは自分で「第14番」と名付けた世界にいました。この世界の科学文明はそれほど発達をしておらず、所有する兵器にしても、自らの身を滅ぼすレベルの核エネルギー爆弾ぐらいのもの。
とはいえ、ヒイロがマスターとすべき知性体には、最初から高度な科学知識など必要ありません。それが必要な状況になれば、ヒイロが余すところなく『彼』または『彼女』に与えてあげることができるのですから。
だから、ヒイロが求めているマスターの資質のうち、最大のものは『異世界に行きたい』と望む心でした。
そうした意味では、『異世界』に対し想像力を働かせる程度の文明を有するこの世界は、比較的見込みのある場所なのです。実際、この世界の──特に『日本』というこの国においては、異世界への転移や転生を主題にした物語が、若者の間でそれなりの人気を博しているというデータもあります。
しかし、残念ながらヒイロの【因子観測装置】をもってしても、知性体の『心』を解析することは難しく、マスターを探すにあたって最初に条件としたのは、その人物の持つ【因子感受性】の高さでした。
少なくともヒイロと共に異世界におもむく以上、そのサポートを受けられるだけの『素養』を持っていてもらわないと困ります。
そのため、そうした人物を見つけた後、直に接触を図り、『異世界への冒険心』を有しているかを確認する。それがヒイロの計画でした。
そしてついに、ヒイロは『彼』に出会ったのです。
次回「第2話 彼の観察記録」
お読みいただき、ありがとうございます。最初の数話は連続更新し、その後、数日に一度の更新となる予定ですので、よろしくお願いします。




