護衛
「なるほどなぁ……」
結納を終えて数日後、職人達から届いた報告書を執務室で読んでいると、思わずそんな声が漏れる。
「……どうかしたの?」
毎回本棚に寄りかからせるのも良くないかと専用の椅子を用意してやったのだが、それでも本棚に寄りかかるフィリップが声をかけてくる。
「ああ、いや、先日持ち帰った鉄塊ペンチ、あれの鉄の質がかなり良いらしいんだ。
……力が強く鍛造が短時間で済むから魔法石の消費が少なく、数をこなせるから腕が上がったのではないか? ということらしい。
遺跡で見つけた品々にも負けない品質だとか……いずれは工業の方でも頭角を現しそうだなぁ」
細工は苦手としているらしいが、それ以上にドルイド族にしか出来ないことが多そうで……今後はその辺りも協力していけると良いのかもしれない。
こっちの職人とドルイド族の職人、両者が同じ工場でそれぞれの得意分野で協力したなら、今までにない品とかも生まれてきそうで……盲点だったなぁ。
あの怪力は工業でこそ役立つものとどうして気付けなかったのか……うぅむ、まだまだ未熟だな。
「なーるほど、確かに鍛冶師の人達ってムキムキな人ばかりだし、力があると良いのかもねぇ。
……そんでさ、あのバカみたいなペンチ、実戦でも使うつもり?」
「……鹵獲や捕虜目的ならまぁ、使い道があるかもなぁ。
ペンチそのものに殴打用の突起でも付けておけば、装甲を引き剥がした後にペンチを叩きつけることでトドメとかも出来そうでもある。
……俺はそれより、そんな真似が出来てしまうドルイド族を戦車対策に出来ないかと考えている所だよ、槍での攻撃を防いでしまうような装甲が出てきた場合には切り札になってくれるはずだ」
「あー……王太子が作ってるやつだっけ。
確かにどんな攻撃も弾く列車が突っ込んできたら、力で対抗するしかないだろうねぇ。
……ということは戦車用の武器を作っていく感じ?」
「そうしたいんだが……具体的にどういう武器を作ったら良いかがハッキリしないんだよな。
何しろどんな戦車が出てくるかも分からないからなぁ、対策も何もないと言うか……。
かと言って何もしないままというのも問題だからなぁ、とりあえず鎧の装甲を砕いたり貫いたりする方向で何か良い武器がないか考えてみるつもりだ」
「まー、そうだね、そうやって色々作っているうちに何か発想が見つかるかも……」
と、そんな会話をしていると、いつものようにバトラーが執務室にやってきて声をかけてくる。
「失礼します、ビフとボガーという少年が報告があるとやってきていますが、どう対応しましょうか」
うん? どっかで聞いた名前だな? なんてことを思っていると、
「ああ、うん、おいらの仲間だから通してあげてよ」
と、フィリップ。
……そう言えば以前、フィリップと一緒に王都の偵察に向かってくれた二人組がそんな名前だったかな。
孤児院仲間の青年で……一人が茶髪のボサボサ頭で、一人が薄い赤髪の刈り込み頭、だったような。
確かボサボサ頭がビフ、目がつり上がって眉が力強く細面、だいぶヤンチャな印象があった。
赤髪がボガー、刈り込んで整えて髪型でビフに負けないヤンチャさを出そうとしてはいたが、目が垂れて丸顔で優しい印象のため出し切れていなかったような印象だったかな。
なんてことを考えているとバトラーがその二人を連れてきて……以前見た時のような外套姿で挨拶をしてくれる。
「二人にはさ、王都方面の偵察をお願いしてあったんだよ。
ほら、兄貴は最近あっちからの来訪者に悩まされてたじゃん? 先触れもしないでやってくる奴らばっかりで対応も遅れ気味だったし。
だからそういうのを事前に察知出来たら良いなと、ビフ達に網を張ってもらっていたのさ。
……で、何か察知したんでしょ?」
そうフィリップが声をかけると、二人はお互いを見て頷き合って……それから茶髪の青年ビフが腕を後ろで組んで胸を張っての報告をし始める。
「王都からこちらに向かってきている一団を二組、捕捉しました。
護衛の人間から目的地を聞き出しただけですが、嘘を言っているとは思えねぇのでまず間違いねぇんじゃないかと。
そのうち一組は道中で使っていた馬車に紋章入りのバナーを堂々と下げていたのでリュード軍務伯とその家臣で間違いねぇと思います。
もう一組はどこの誰かは分かりませんでしたが、女主人を中心とした一団であるようでした。
女主人はベールのようなもので顔を覆い隠していましたし、近付くだけでも警戒される感じだったので誰なのかは探れていません。
どんな移動手段を使うか次第ですが、早ければ明日にでも到着する可能性があります」
「……うわ、明日って、また先触れなしなのかな」
報告を受けてまずフィリップがそう声を上げて、俺がそれに続く。
「そうとも限らないぞ、どこかで宿を取ってから先触れを出し、日程を決めてからやってくる可能性もある。
リュード軍務伯程の人物であればカーター子爵など、道中の貴族達にも挨拶をする必要もあるだろうから、思っている以上に時間がかかる可能性は十分ある。
……そして女主人ねぇ、心当たりはないが……何者だろうなぁ」
俺がそう言うとビフが更に胸を張っての報告をしてくる。
「……女主人が誰かは分かりませんが、目的は予想出来ます。
王兄の騒動をなんとかしようとしているのではねぇでしょうか……王都周辺では今、その騒動を誰がどう解決するのか? という話題が飛び交っているらしいです。
その中には、この件を穏便に解決出来たなら大手柄になる、なんて話もあるそうで……それを成すためにブライト様のことを探ろうとする連中も増えています。
うちの商人に声をかけて質問攻めにしたり、人を送り込もうとしたり……関所の連中も最近は妙に仕事が増えて大変だってボヤいてました。
そういう訳ですんで、解決に来たか解決のための情報収集に来たかのどちらかじゃねぇでしょうか」
「あー……なるほどな。
上手くやれば王家はもちろん、我が家にも恩を売れるからなぁ、戦場に出ずに戦場以上の大手柄が狙える訳か。
リュード軍務伯はその立場から来る義務感で動いているのだろうが、女主人の方は手柄狙いだろうなぁ……。
いきなり解決を狙うのか情報収集なのか、ハニートラップの類なのか……どれも有り得そうだ」
俺がそう返すと、フィリップがため息交じりの声を上げる。
「今このタイミングで兄貴にハニートラップ仕掛けるバカがいたら、笑っちゃうなんてもんじゃないよ。
結納終わって準備が終わったら結婚式と決まって、領内全体がお祝いムードで記念品とか絵画とか売りに出されてるんだよ? 流石にそれ見たら空気読むでしょ」
「……そもそも貴族にハニートラップ仕掛けようとする時点でかなりのバカだからなぁ、空気読む頭があるかどうか分からないぞ。
むしろ結婚前の今しかないと暴走する可能性すらある」
「……なーるほど。
で、兄貴、どう対応していくの?」
「リュード軍務伯には礼儀を持って対応する、仮に王族の影響下にあるのだとしても軍務伯だからなぁ、迂闊な対応は出来ない。
女主人の一団はまずは情報収集からだろうな、今の時点ではなんとも言えない。
だからまずは軍務伯の対応のための……いや、待てよ。
先触れのタイミング次第では軍務伯達を結婚式に巻き込んでしまうのも良いかもしれないな」
と、俺がそう言うとフィリップとビフ達が目を丸くし、どういうこと? と、表情で質問してくる。
「つまりだ、これから結婚式というタイミングでやってきておいて参列しないでは無礼になる、嫌でも参列することになって……参列したなら当然だが俺とコーデリアさんの結婚を認める形になる。
軍務伯に認めさせるというのはドルイド族への迫害を是としている王家へのちょっとした嫌がらせになるかもしれないし、ドルイド族の地位の向上にもなるかもしれない。
それが原因で王族側が変に勘ぐって軍務伯と距離を取ってくれたなら儲けもの、場合によっては軍務伯を味方に引き込めるかもしれない。
参列を妙に嫌がるのなら王家の犬であることがハッキリして今後の対応策を練りやすくなるし……どういう反応を示してくるのかを見られるだけでも価値があるだろう。
……せっかくの結婚式を利用するような形になって、コーデリアさんには申し訳ないが……この機を活かさない理由はないだろうな」
「……うわぁ、貴族のお嫁さんになるっていうのは大変だなぁ、結婚式でもそんなことになるんだ。
まぁでも確かに悪くない手かもね、相手の思惑が分からないまま右往左往するより、こっちから仕掛けてこっちのペースに巻き込んだ方が良いと思う。
ただアレだよ、兄貴……コーデリアさんを巻き込むんだからちゃんと相談をして、事情を話しておかないとダメだよ。
あとは……ビフ、ボガー、よくやったね、貴族の一団相手にそれだけやれれば十分だよ。
……兄貴、この二人はさ、やる気もある忠誠心もある、実力も悪くない。
言っちゃうとルイスより素直で悪くないんだよね、余計なことしないし……だからもうちょっと近くで使ってあげたいんだけど、何か良い仕事ないかな?」
と、フィリップがそう言うとビフとボガーは緊張した様子で顔を上げ、胸をぐっと張ってくる。
自信満々というよりはどこか不安そうだが、しかしそれでも自分を精一杯アピールしようとしている。
……まだまだ若いが確かに成果を上げていて、フィリップがそこまで言うのは珍しい、つまりは有望な若者なのだろう。
「……ビフ、ボガー、どんな仕事をしたいんだ?
フィリップがここまで言うのなら出来るだけ希望を叶えてやろう、バトラー見習い、騎士見習い、飛空挺関連。
……お前達次第だ」
「どんな仕事でもやります、ブライト様の近くで働きてぇんです!」
「ボクもです、ブライト様のために働きたいです!」
……働きたいのは良いんだが、希望がないというのも困ったものだなぁ。
真っ直ぐ過ぎるというか、フィリップのように密偵向きという性格はしてなさそうで……そうなるとバトラーか騎士か、飛空挺だと俺の側という訳にはいかないからなぁ。
どうしたものかとフィリップに視線をやると、フィリップはこうなることを分かっていたのだろう、ニヤッと笑ってから口を開く。
「おいらはこの二人に護衛をやってもらおうかなと思ってるんだ。
騎士みたいな目立つ護衛じゃなくてさ、普段は別のことをしながらいざという時に備える護衛、みたいな感じで。
護衛の必要がない時は……そうだな、バトラーか庭師の仕事でも覚えさせてさ、お手伝いさせて、必要な時は側に隠れて護衛をやるって感じ。
兄貴と姉貴を守る人は多い方が絶対良いからさ、考えてみてよ」
「なるほど……護衛は確かにもう少し増やしたい所だったが構わないが、バトラーの仕事はどうだろうな。
口調や態度、細かい所作など覚えることは多いぞ? 庭師だって楽な仕事ではないんだ、護衛のついでと適当にやられては困る。
……厳しい道だが両立する覚悟があると言うのなら考えてやっても良いが……」
「それでもやりてぇです!」
「やらせてください!!」
俺の言葉に二人はそう返してきて……とりあえずやる気はあるようだ。
後は……護衛をすると言うのならコーデリアさんへの確認が必要か、コーデリアさんが嫌と言えば側には置けないからなぁ。
さっきの作戦の相談もあるし……とりあえずそこら辺のことを話し合おうかと立ち上がった俺は、フィリップ達を引き連れてコーデリアさんがいるサンルームへ向かう。
そして諸々の報告をするとコーデリアさんは嫌な顔一つすることなく受け入れてくれて、ビフ達の採用含めて全てがあっさりと決まってしまう。
「これからは伯爵夫人として旦那様を支える身、あたしも出来る限りのことはさせていただきます!
もちろんビフ達も鍛えてやりますから、任せてください!!」
……いや、鍛えてもらうつもりはなかったのだけども、コーデリアさんはそんなことを言って拳をぎゅっと握ってやる気満々だ。
側に控えていた侍女のシアイアまでもがやる気満々で……そういうことならと俺は頷き、そうしてビフ達の採用が正式に決定となるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回はそれぞれの動きやら、コーデリアさんやらになります




