〘九十五話〙ミーアの去就と茅野さんの苦悩
放射線を大量に出している場所といってまず思い浮かべるのは断トツで原発、『原子力発電所』でしょう。日本で現在稼働している原子力発電所がいくつあるか知らないですけれど、ネットで検索してみると私が今いるところからだと車で三時間もかからず行けるところがあります。
ほんとなら空飛んでいければ楽なんだけど、魔力が心許ない中それは出来ません。なら、どうやって行くのが一番楽で簡単でしょう?
ちなみに、ネットについてはお姉ちゃんの部屋にあるPCやゲーム機が自由に使えるのでそれを使わせてもらっています。保護観察中である今の私の立場はとても微妙です。一応条件付きながら外に出ても良いとは言われてますが、わざわざ面倒が起きそうな外に出ることはしないで、高級マンションのやたら広いリビングで日がな一日ダラダラ過ごしています。
私の立場は保護観察の身となってすでに一月になろうかというところですが、未だにはっきりとした結論が出るに至っておらず、国籍についても宙ぶらりんのままです。
外に出る時の条件であるスマホ所持ですが、これは当然現在位置の把握や行動確認のためでしょうし、何も言われてませんが監視やらなんやら付いてきたりしそうですしね。
日本のお役所仕事ですからね、私の扱いについてなんらかの結論が出るのは一年くらいかかるのではないのかしらん?
いいえ、怪しさ満点の私です。
もっとかかるかもしれません!
お姉ちゃんは私を学校にも行かせたいみたいですけれど、現状だと当たり前ながら厳しいみたいで、実現したとしても当分先のことになるでしょう。
ま、私は今更そんなものに行きたいとは全く思えないので、それは実現しない方がありがたいです。元おじさんサラリーマンが中の人である私が小学校に通うとか、どんな苦行でしょうか?
おっと、いつもの癖でまた話がそれました。
やることないと思考が色々迷走しちゃいますね。いけないいけない。
放射線とか調べてみると、世の中普通に微量ながらもそれが存在していることがわかります。遠い宇宙からだってそれは届いているのです。もし私が宇宙空間に行けたなら、魔力問題は即解決できるのでしょうか?
まぁそれ以前にさすがの私でも、そんなところでは生きていけないでしょうけれど。
――いけないよね?
と、ともかくです。手っ取り早いのはやはり原発。
自然環境から短期間に、それも大量に摂取することは難しいと言わざるを得ません。
そうとなったら、善は急げ。
お世話になってるお姉ちゃん、茅野瑠唯さんには大変申し訳ないことだけれど、近日中にはここを抜け出し、うまくいけばそのままアンヌの居る異世界へと戻ってしまいたい。
原発のあるところまでどうたどり着くかは頭の痛いところですが、多少強引であってもそれは致し方ありません。実行あるのみです。
手段を選んでたらいつまでたっても帰れませんから。
そう意気込み、気合い爆上がりの私なのでした。
***
「警部――、ミーアちゃんのネット検索をチェックしてて少し気になるところがあるんですが。これ、どう思われますか?」
茅野がそう言いながら自分のノートパソコンを俺の席まで持ってきて、書類が散乱しているデスクの上にバサリと置き、俺の仕事の様子などお構いなしにその画面を見せつけてきた。
上司である大塚警視の話を皆に展開して以来、茅野の俺に対する対応はとても冷たい。
彼女はミーアを小学校に通わせ普通の子供としての生活を送らせてやりたいと考えていたようなのだが、警視の話はそれを真っ向から否定し、今までの積み重ね全てが無駄になってしまうものだったからだ。
例の話が滞りなく進めば、一ヶ月とかからずミーアのその身柄は海の向こうの大国へと移ることとなる。当初は二週間後とか言っていたが、さすがにそれはどちらも準備が整わないということで、一か月後となったわけだが。
その話を聞いた茅野は珍しく感情を露わにして俺にかみつき、そのまま大塚警視のもとに殴り込みに行く勢いだった。
俺、それに森久保も一緒になって彼女を留まらせるのに必死になり、なんとか落ち着かせるのに小一時間はかかった。涙ながらに理不尽を訴える茅野を説得するのは、俺たちのせいではないにしろ、やるせない気持ちにさせられる嫌な役目だった。
もちろん茅野だってそれを俺に当たっても仕方ないってことはわかっているだろうが……、人の心はそう簡単に割り切れるものでもないしな。この状況は甘んじて受け入れるしかあるまい。
「お、おう、ど、どんな検索かけて……」
茅野が指し示すところに目をやる。
目に入ったのはなんと言えばいいのか、なぜそんな検索を? と疑問に思うしかないワードの連続であり、幼い子供がそんな単語を知っていることを不思議に思う。
「放射線……、それに原子力発電所、か。所在地の検索や、施設の様子とか、結構詳細情報まで閲覧しているな」
ワードから更に掘り下げ、どんなページを閲覧したかまで確認していくと、あんな小さい女児が見ているとは思えない、その閲覧履歴に俺は何とも言えない不気味さを覚える。そんな知識をどこで? という思いが更に強くなる。
一ヶ月近くあの女児の様子を見てきたわけだが、友好国が目をつけた、超能力としか言いようのないあの力はもちろん一番の疑問点であり謎だが、それ以外にも日本人、もっと言えば欧米人でも見ないような髪や目の色をし、それでいて日本語は片言ぎみではあるものの不自由なく話せ、常識はずれな面が多々見受けられるとしても十歳の女児とは思えない知性を持ち合わせているように見える。
本当に不思議で謎が多い、いや多すぎる女児だ、あのミーアは。
「どうしてそんな検索をしてるんでしょう? あの子の普段の様子からは何も窺い知れないし……、どういういきさつでそんな検索かけてるのか全然わからないです」
茅野が不安げな表情で俺を見る。
ミーアの茅野宅での様子はいたって普通であり、歳のわりに無邪気さはなく、甘えてくることもほとんどないとのことだが、それはまぁ、身柄を確保するまでの分かっているだけの状況からみてもそうなるのは仕方ないかと思える。
十歳児とは思えない理解力で、一度言ったことはきっちり覚え、茅野を困らせるような行動をとることもないそうだ。
家のリビングでゲームしたり、インターネットで動画サイトを見ていることがほとんどで、外に出ることはほぼないという報告も受けている。動画閲覧の履歴も確認しているが、それを含めても今しがたのネット検索につながるようなヒントは無いように思える。
「う~ん、確かにこれまでの情報だけではこの検索に繋がる動機は浮かんでこないな。まだ我々が知らない、あるいは気付けていない何かがあの子にはあるのかもしれない。今以上にミーアの動向には気を付けて、残り僅かな期間ではあるが気を抜かな――」
ここまで言ったところでノートパソコンが壊れるんじゃないかって勢いで閉じられ、それを取り上げた彼女は踵を返して自分の席へと戻っていってしまった。
「しくったな……」
俺は周りに聞こえないくらいの小さな声でそう呟きを漏らす。つい、今の茅野への禁句を発してしまった。周りの奴らが余計なことを言うな、と責めるような目で俺を見てくる。
俺はそんな職場の雰囲気に居たたまれなくなり、喫煙室へとっとと逃げることにしたのだった。
***
突然の話に戸惑いを隠せない、引きこもり系幼女、ミーア十歳です。
仕事から帰ってきたお姉ちゃんに呼ばれ、ダイニングテーブルで向かい合って座り、おみやげで買ってきてくれたコンビニスイーツに微妙に床に届かない足をプラプラさせながら舌鼓を打ってたところで話を切り出されました。
「え? お姉ちゃんと一緒に居られるの、あと十日もないの?」
そう、お姉ちゃんとの短い期間ながらも優しさと癒しを感じられた生活の、あっけない終わりを告げられたのです。具体的な話はまだ言葉を濁していますし、お姉ちゃん、茅野さん自身も納得していないのか、かなり不満げな表情を浮かべながら話となっていますが、要約すると――、
私は日本国から追ん出されるようです。
あらあら、これはミーアちゃんも一本とられちゃいました。
お姉ちゃんの口から出てくる、回りくどい言い方からまとめた情報から考えるに、私は海の向こうの某大国に能力がらみで目を付けられ――、日本側も面倒を押し付けられると、これ幸いとばかりに私を差し出したみたいです。
まじかー。
予想外の急展開です。
一気にお尻に火がついてきました。
これは原発行、マジ早くしないとドンドン面倒なことになっていくパターンです。
某大国まで絡んできたら……。
いや、まぁ、それでもやることは結局変わらないのでしょうけれども。
「ミーアちゃん、不甲斐なくて頼りない私でごめんね。――向こうに行っても、私、絶対会いに行くから!」
そんな言葉と共に、こちらに回り込んできたお姉ちゃんにぎゅっと抱きしめられました。
ああ、いつの間にかこんなにも大事に思ってもらえるようになってたんだなぁ……。
でもね。
これ以上の面倒ごとはゴメンだし、私の決意はお姉ちゃんには申し訳ないけれど変わりません。
ごめんね、お姉ちゃん。
ミーア、今夜決行します!




