〘九十三話〙研究所でのあれこれと魔力回復の謎
投稿日の設定ミスで一日遅れ、すみません……
日帰り検査のはずがなぜかお泊りになってしまった、囚われのスライム娘、ミーア十歳です。
「いやあ、申し訳ない。確認したいことが多すぎて、とても一日では調査しきれない! 何、心配はいらないよ。ここは宿泊施設も充実していてね。それに晩御飯がとてもおいしくておすすめなのでね、ぜひ食べてみて欲しい」
胡散臭い笑いとともに、帰る予定となっていた時間間際にそう告げられました。細目が線になってて、もうそれ見えてないんじゃ? ってレベルでした。
茅野さんたちにそれを断る力はなく、そのままお泊りコースと相成りました。ただ、三木警部とちゃら兄森久保はさすがにずっと留まるわけにはいかないらしく、残るのは私と茅野さんの二人です。
許す。
野郎は帰ってヨシ!
研究所の施設は外観の殺風景さとは違い、豪華とはいかないまでもなかなか充実した満足度の高いものでした。食堂は無駄を省くためかA・B二セットの選択肢しかなかったけれど、班目主任さんの言葉に嘘は無くとてもおいしかったです。
すき焼きに生卵のコラボ。白いごはんとお味噌汁サイコー。
日本の食文化に涙するしかなかったです。
あちらの世界でもブレンダの宿での食事は心に染み入る味わいでしたけれど、やはり、こと食において日本に勝るものなし。異論は認める。
お風呂は温泉ではなくそう広くもないものの、五、六人は余裕で入れて、しかもジェットバスや、サウナ完備で至れり尽くせりです。
恐るべし公益法人運営、官僚天下りスポット!
多少筋肉質とはいえ脱いだら凄い茅野さんはお風呂でも甲斐甲斐しくお世話してくれて、隅々まで洗い倒され、ぴっかぴかスライム娘になりました。
検査で被った色々なストレス――を受けてると思われてる――を癒そうと尽してくれる、その無償の優しさ、私なんて怪しさ満点の幼女なのに……、本当に感謝しかありません。
このままではアンヌの次に好きになりそうです。
割り当てられた部屋も十分にすぎる宿泊施設で、バストイレ付でアメニティもばっちり。ベッドも二人分、大型の液晶TVがありCS放送各種見放題。二階部屋で一応ベランダ付きですが外の景色は残念ながら研究所内の空虚な景色。そこだけがマイナスです。
「じゃ明日も早いしもう寝ようね、ほら、ここ、ここ」
茅野さんが自分の隣をポンポンします。
はいはい、お邪魔しま~す。
ふふん、私はいつも茅野さんと一緒のベッドでお眠なのです。ベッドが一つ無駄になりました。元おっさんサラリーマンがなにやってるのって思われそうですが関係ないです。今は十歳になったばかりで見た目はもっと幼く見える色白美幼女、ミーアなのですから!
そういえば今日は三精霊たちに一度もツンツンされませんでした。夕方には戻ってきましたが、いったいどこに行ってたのでしょうか?
いや薄々想像は付いてきてるのですが、言葉が通じないから意思疎通するの面倒なんですよね。まぁ今は自分優先です。後回しでいいでしょう。
「おやすみ、ミーアちゃん」
「おやすみなさい、お姉ちゃん」
「っ!」
私の最後の一言がうれしかったのかお布団の中でぎゅっとされました。
寝れませんので放して、お願い。
***
おはようございます。
朝起きたらまた抱きしめられてて、柔らかなお胸から抜け出せないひと時を過ごした、役得でしかない元おじさん幼女です。
朝食を終え、また胡散臭い班目主任さんとの検査三昧の時間が始まりました。
今日はぷにょ収納について調べるみたいです。例によって三精霊はふらりとどこかに行ってしまいました。
またとげとげルームに放り込まれましたが、昨日調子に乗ってちょっと焦がしてしまったり、なぎ倒してしまったところは驚くことに修理されてました。徹夜で直したりしたのでしょうか?
工事をした人たちお疲れさま!
また壊すかもだけど、ごめんしてね。
「じゃあミーアちゃん、手始めにそこの机に置いてある素材を君の収納……でいいのだっけ? そこに全て入れてもらって、指示したらまた出してもらえるかい」
マイク越しにそう言ってきたウサ主任さん。胡散臭い班目主任さん、略してウサ主任。ウサギじゃないのでね、間違っちゃダメ。
机の上に並べ置きされているのは高さ五センチくらいの円筒状の物体。材料は『木』や『金属』、それに『樹脂』系の素材がそれぞれ数種類ずつ、全部で十数個ほど置いてありました。う~ん、下準備しました感満載。これは最初からお泊りコースで調査する気満々だったと思われ。
ま、いいですけどね。
私は粛々と収納し、そしてまた取り出すだけです。
私は大人しく指示に従い、用意された素材の出し入れを行いました。
「ありがとう! 問題無かったようだね。うーん、本当に興味深い。じゃあ、次だけど、今度は床に並べて置いてあるパレット(荷物を載せるための荷役台、フォークリフトで運ぶための運搬台)の上の物だけど……、順番に収納してもらっていいかい? 無理だと思った時点でやめてもらってかまわないからね」
パレット上にはいかにも重そうに見える大きなコンテナバッグ。大雨の時とか土手に並べて置かれてるやつです。一個一トン。それが五つ並べて置いてありました。全部で五トン。それ以上はさすがにこの部屋では無理だった模様ですが、中身はやっぱ土砂なんでしょうか?
「ええっ、班目主任。……その大きさはちょっと、その、危なくないですか!」
茅野さんの抗議の声が聞こえてきました。うんうん、確かにそんな重量物、もしそれの下敷きになんてなろうものなら普通にぺしゃんこになってサヨウナラになっちゃいますからね。
ま、そもそも普通はそんな状況にすることすら不可能でしょうから、要らぬ心配なわけなのですけれど、私の非常識さに毒されつつある茅野さんはもしかして? と、不安に思ったのかもしれません。
ふふ、私心配してもらえてます。
うれしい!
心配は無用です、茅野さん。
私は順番に収納するのも面倒でしたので、ちゃちゃっと一瞬で全て収納してあげました。
告白しますが、ここに来るまでの私であれば、全ての収納を行うことは魔力不足のせいで出来なかったかもしれません。
けれど昨日今日で私の魔力はずいぶん回復しました。
もちろん満充填には程遠く、スライム体の増殖に回せるほどではありませんが、毎日のご飯や身の回りの小動物から得られるエネルギーから変換して得られる魔力と比べれば、ここの魔素モドキから得られた魔力は数十倍は多いと思われます。
そう考えてる今もまさに魔力をわずかながら得られているのです!
私の魔器官が仕事させてもらえてるのです。
ここに至って私はその源が何であるかの想像がついてきました。
この施設、それに聞いてないけどきっとこの部屋でだって扱われているだろう特殊なもの。
それ以外にも候補はいくつかありますが、けれどやっぱり最有力候補はただ一つです。この前の精密検査の時といい、三精霊たちの動きといい……、
これでも元技術系おじさんサラリーマン。
ここまでお膳立てされて気付かないほどおバカじゃありません。
そう、放射――、
「すごいぞ、まさか一度に全て収納してしまうとは。あれほどの質量が目の前から消え失せてしまったよ。はははっ、素晴らしいね――。
っと、いけないいけない。次の指示だけれど、ミーアちゃん、次は再び収納したものを出してもらえるかい? それでだね、できれば一括ではなく、個別で出してもらえると助かるのだけどね?」
思考の腰を折られましたが、今はお仕事お仕事っ、です。
で、順番ですか。ちゃんと出し方を制御できるか知りたいのでしょうかね?
面倒くさいけど、仕方ないです、魔力を得る機会をもらったお礼もありますからね。ちゃんと従ってあげましょう!
けれど、ちょっといたずらです。
私は一個一個を順番に出しました。ただし、同じ場所のその上にです。
はい、だるま落としよろしく上に積み上げてさしあげました!
わー、高い高~い!
それにナイスバランス、さすが私です。
「ちょ、ミーアちゃん、それはまずい!」
ウサ主任のマイク越しの声が珍しく焦った口調です。
その声が先か、床の異変が先か。
それは不安を煽りまくるピシピシ、ミシリという音から始まりました。
静まり返ったとげとげルームでその音だけが嫌でも耳に入ってきます。
そんな音がぴたり止まり、ふと気を緩めた次の瞬間。
目の前に積み上げたコンテナバッグたちの下からビシ、バシ、バツンとひと際大きな破砕音がしたかと思うと、床全体を大きく震わせながら垂直移動しました。
下に。
そう、床が抜けました。
ミーアびっくり。
重量物をどんと乗せられたパレットをも拉げさせつつ、五十センチくらいは落ち込んじゃいました。
ま、まぁ高さ的には大したことは無いし、その、大した問題じゃない……よね?
「ミーアちゃん……、さすがにそれはいけないと思う……」
茅野さんがボソリと発した声がスピーカーから漏れ聞こえてきました。
ううっ。
「お姉ちゃん、ごめんなさい」
さすがにまずいと思った私は素直に謝り、積み上げたコンテナバッグを元々用意されていたパレットの上へと、一個ずつ置き直しました。別々に置いてあったのにはちゃんと意味がありますよね、うん。
まぁ時すでに遅しですが。
魔力の件で目途が立ちそうになったことでちょっと浮かれてしまったのは否めません。
だが後悔はしていな……、い、いえ、後悔もしているっ!
ミーア、オヴィリーネ湖よりふか~く反省……、しています!
ごめんなさい。




