〘八十六話〙ミーア、ドナドナされる
「かつ丼!」
そう勢いよく答えた私は別に何かのドラマを見たわけじゃないですが……、知識として知っていたのでつい言ってしまった。
後悔はしていない!
「お嬢ちゃん、あのなぁ……」
目の前のおっさんが私の発言にあきれた様子を見せながらも、マジで叶えてくれるのか横にいた若いお姉さんに二言三言話しかけ、お姉さんはうなずき、私ににこりと笑いかけながら部屋を出て行きました。
突然ですが、私はいまなぜか所轄の警察署にあれよあれよという間に連れてこられ、取り調べをされるみたいな……、そんな状況になっております。
ど、どうしてこうなったっ!
事の始まりは遡ること二時間ほど前――。
ネカフェの部屋で色々自分に起こった変化について考察やら、更なる変化に挑戦しながら過ごしつつ、気分転換にだらりとソファに横になってアニメを見たりしていた時のことでした。
「ガチャリ」
ドアの開錠音とともに、簡易結界、それに認識阻害をかけていたはずのこの部屋のスライドドアがいきなり開かれ、そこからスーツを着た複数の男たちが一気に突入してきました。
「え? ええっ?」
な、なに? 何なの?
私はまさかの急展開に頭パニクリ状態。
知らない人達がいきなり突入してきたにもかかわらず、しばし呆然とし侵入者に対する対処もろくに出来ない始末でした。
「対象者を発見」
「怪しい動きや危険物の所持に注意しろ」
「わかってます」
大きな声でやり取りしながら私の周りでキビキビと動き回る男たち。
ソファから半身を起こしたまま呆然としていた私は、コートのようなものを有無を言わさず羽織らされ、ぎゅぎゅっと締め付けられる感覚とともにあっという間もなく、そのまま抱き上げられました。
「確保っ!」
ええええええっ?
「よし。では二人は残ってここの責任者に説明と口止めの徹底。あとの者は速やかに撤収だ」
ほえぇぇ?
『了解!』
抱えられた私はそのまま部屋の外に出され。
ネカフェ暮らし四日目にして、あっけなくそこから連れ出されてしまったのでした。
外に出たら出たで、横抱きにされたまま大きなワンボックス車まで運ばれ、中央列の真ん中にぽいっと乗せられ、両脇には大きな体の男たちが座りました。
「よし、署に戻るぞ。出してくれ」
前に二人、後ろの列にも二人乗せたところで、ずっと指示を出してた男の声とともに車は動き出しました。
突然の展開に頭真っ白になっていた私でしたが、ここにきてようやく落ち着いてきました。
どうやら私、たぶん警察っぽい人たちに拘束されてしまったようです。
体は着せられた拘束衣っぽいもので動けませんが、それほどきつく締められてはいないようで、痛みを感じるほどではありません。
男の人たちは私に話しかけてくることもなく、終止無言です。リーダ―の人も黙ったままで、それぞれの人が私を見る視線を感じるくらいです。
むうぅ。
いったいどうしてこんなことになったのでしょう?
簡易結界に、認識阻害の魔法。
それを現代日本の人たちが破れるとはとても思えないのですが。それとも私が知らないだけで、日本にもそんなことを可能とする技術とかあるのでしょうか?
結界師とか陰陽師とか……、はたまた超能力とか、ロマンですし、案外そのものずばり魔法使いがいたりして!
…………。
う~ん、世の中広いですし絶対ないとはさすがに言い切れませんが、でもねぇ。
他にも私が気付かない、思い至らない点とかあるのでしょうか?
あ、ありそう、というか逆にありすぎそうで怖いです。
それにしてもです!
光学迷彩はさすがに部屋の中では解除していたので見られてしまったのはまぁ仕方ないことなのですが、認識阻害はともかく、なにより結界が破られたのがほんと、解せません。
部屋に突入とか本来あり得ないはずなのに。
というか今だってこの状況、結界仕事してない、よね?
あ、あれ?
「あっ!」
つい声を出してしまった。
瞬間、車内みんなの視線が私に突き刺さる。
ひいぃ。
日本でのコミュ障おじさんの気質が甦ってきそうですぅ……。
ああああああ、結界、仕事してない……です。
うっわあ、うっわあ!
やってしまいました。
これには深い深い、あー、いや、それほど深くもない訳があるのです。
それはなにより足の復活に起因します。
無くなったはずの左足。見事復活したミーアボディについて私の探求心が疼いてしまったのは仕方ないことだと思います!
ミーアの体からの感覚が伝わるようになったことといい……、これはスライム体とミーアボディの同期というか同調というか、そういう感じのものが進んでいるのではないかと思った次第なのです。
それすなわち、スライム体の能力、復元や増殖などがミーアボディにも適用せしめられる!
足が復活したのがその証拠!
ということで色々試してしまったのです、色々。
結果。
今の私は五体満足な新生ミーアとなりました。
それはもちろん中身もなにもかもすべて含めてです!
無くなったものはすべて元通り。脳みそすら新品が備わってます。
ちなみに新品なので本来のミーアの記憶などは当然ございませんのであしからず。
今までのミーアボディはミーアの細胞にスライム体を浸透させ、ある意味同居生活をしていたわけですが、今は違います。ミーアの細胞はもうスライム体と同じ。ミーアはスライム体細胞の一形状、バリエーションに過ぎないといっても過言ではない存在となりました。
骨とか固いものもスライム体細胞なのが何気にすごい。
これはある意味スライム体細胞の進化? 何しろ固くだってなれるのですから!
固くも柔らかくもでき、伸びたり縮んだり、色付いたり透明になったり。
スライム体マジ万能化!
したがって。
やろうと思えば、某ゴムの人みたいに腕とかみよ~んと伸ばしたりすることすら可能です。たださすがに一瞬で伸びて縮んでとかは変化が追い付けないので無理ですけれど。(でも、ちょっとでも早くできるよう頑張って練習してみようかしらん)
ま、そんな感じに変化の考察、検証から実施まで、色々やっていた中、どうやらスライム脳の時にかけてあった魔法が解除されてしまった。
というのが真相のようです。
不覚。
まじ不覚。
魔法が解けたせいで、小さくてかわいらし~い、でも日本人離れした薄紫色の髪をした怪しい女の子がいつの間にか部屋を占拠してて、勝手に飲食し、店を我が物顔でうろついてるのが確認される。
そりゃ通報されるよね。
外見が小さな子供なぶん、いきなり叩き出されなかっただけマシなくらい。
でも。
それだけでここまで厳重な対策されて連れ出されるものなのでしょうか?
見た目小学校低学年の女の子にしか見えない私。
そんな私を複数の大人で囲んで拘束したうえに、拘束衣着せるとか。
おかしいよね?
などと色々考えていたところで、どうやら目的地に到着したようで停車しました。
「よし、出るぞ。君も出来ればおとなしくして、自分で歩いてもらえるとありがたいのだが?」
乗せられた時と違い、リーダーと思われるおっさんがそう話しかけてきた。どうやらずっと暴れずおとなしくしてる私を見て、大丈夫だろうと判断したのか声掛けしてくれた模様。
私も今の状況でわざわざケンカ売るほどバカじゃないので、おとなしく従うことにします。この先どうなるのか全く予測もつきませんが、この私に限って死んじゃうなんてことはありえませんし。
しばらく成り行きに任せ、様子を見てみたいと思います。
小さな子供の体です、そう悪いことにはならない。
なんて、都合のいい甘い考え……とは思いますが、ここは法治国家日本。融通が利かないことはとても多いですが、少なくとも野垂れ死にとか、奴隷落ちとかはないですからね。……ないよね?
ま、どうなったとしても、どうとでもなるでしょう。
「うん」
素直にそう答えた私は、両脇の男の人に支えられながら車から降り、むさい男たちに囲まれつつ、建物の中にふらふらぎこちない足取りで入っていきました。
そうそう、入り口のドア脇にはしっかり県警を示す看板が据え付けられていてやっぱりかと、思ったのと、安心度合いが三割増しでアップしました。
変な組織や悪の結社とかじゃなくて良かったです。
――そんなわけで、私は第三取調室と書かれてあった部屋に連行され今に至るというわけです。
部屋に入れられ、抵抗することもなくおとなしい私はすぐに拘束衣も解かれました。ただ私の横には一人、若くて凛々しいお姉さんが張り付いていますが。
しばらく色んな大人たちが行ったり来たり、忙しなく動いていましたが、ようやく一息ついたようで、「何か食うか?」と聞かれたので「かつ丼」と反射的に答えた私は絶対悪くないでしょう。
ちなみに犯罪者の取り調べ時、かつ丼とかの出前は賄賂になる? とかあるみたいでやってないそうです。今みたいに単にご飯を食べるとなった場合だって当然そのお代は自腹!
世知辛いです。
でも私は子供!
小さい女の子!
そこのところよろしくです。
久しぶりに食べたかつ丼、と~ってもおいしかった。とろ~りと溶けた半熟卵とトンカツの交じり合った、えも言われぬハーモニー!
最高です。
お代は請求されなかった。
やったね!




