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スライムになった私が拾った体を使って好きに生きる話  作者: あやちん
<三章> ミーアとアールヴ

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〘八十ニ話〙スヴェンの独白。クリスティアン付き

短めです

「ほほぅ、災禍の凶龍……ですか?」


 俺の持ち帰った情報に強い興味を持っただろうクリスティアンが、歳に見合わぬ子供のような表情を浮かべた。


「うむ。ミーアが嘘か(まこと)かわからぬが、女神からの啓示を受けたらしく、アールヴ族との会談時にそう申していたのだ。実際そのあと活発だった魔獣の動きが更に激しくなり地鳴りや地震が頻発するようになったところで、貴公や領都から至急の帰還を促す魔伝書簡(マナエピスル)が届いたわけだが」


 あやつの言葉を聞き入れるのは少々思うところもあったが、実際ここ最近の魔獣の動向を見る時、災禍の凶龍の話を当てはめれば得心出来るものが多い。

 魔獣の海峡渡りが激増し、ワイバーンの襲来が増えたことにも説明がつく。ワイバーンなど飛竜種や飛べる魔獣はともかく、泳ぐことを得意とせぬ魔獣までもが海峡を渡り、その最中に溺死する個体も後を絶たないとの報告も上がっている。


「要するに、災禍の凶龍とやらの封印がゆるみ、その存在が魔獣どもを(おび)えさせたことで、ヴィーアル樹海より魔獣が逃げ出す事態となったことが海峡渡りの真相という訳か」


「そういうことで間違いなさそうですな。いやはや、それにしてもまさか女神フェリアナ様がお出ましあそばされるとは……。女神は居る居ない議論に終止符を打てるこの話を女神教の者たちが聞き及ぶことになろうものなら、さぞや喜ぶことでしょう。

 事と次第によってはミーアなる女児は教徒たちの寄る辺として祭り上げられることになるやもしれませんなぁ。いや、面白い」


 クリスティアンめ、寄る辺などと……言うに事欠いてあやつが神子(しんし)とでも? 俺にとっては女神などどうでもよいが。いや、しかし……くくっ、確かに。


「ふん、かつて魔食いの水霊と称され、今もアールヴ族に主オヴィリーネやら湖の水霊などと(あがめ)められていたからな。存外的外れともいえぬか? ……そういえばあやつ、背中に翅を生やして飛んでもいたな……、その意味でももはや人にあらず……まさか本当に……いや、あれがそうだなどと、とても認められん、いや、認めたくない」


「何やら葛藤されているご様子。それよりスヴェン様、今なにやら面白いことを口にされましたな? 私は聞いておりませんでした! 羽、いや翅を生やして飛んでいた……ですと? なぜそのような面白きことを真っ先にお話しなさいませぬ!」


 ち、クリスティアンめ、異様に興奮しだしたぞ。面倒なやつめ。だが俺自身、あの後の強行軍であれのことをじっくり考える余裕を失っていたことも事実……。


「さして重要とは思わなかったのでな。今の今まで忘れていたのだ、許せ。そもそもあやつはアールヴ族との会談中に湖方面から空を飛んで現れたのだ。四枚の……そうだな、昆虫を思わせる透明な翅で、両腕を広げたよりも多少長い程度の翅であったな。飛んでいる最中は全身が淡く発光していたようにも思う。


 くくっ、こうして改めて口にすると確かに女神の神子(しんし)、湖の水霊と言うにふさわしい存在と言えるのかも知れんな。


 ……だがあやつが、神子(しんし)などと……くく、笑止だな」


「なるほど。聞けば聞くほど興味深い存在。このクリスティアン、ぜひともミーアなる女児……、いや女神の神子殿であり、例の湖、オヴィリーネ湖というのでしたかな? その湖の水霊様とお会いしたいものです。スヴェン様、なにとぞその機会を私にお与えいただきたく、期待しておりますよ?」


 こうなったクリスティアンは言い出したことが実現するまでは、顔を合わすたびに追及してくるのだ。全く以て面倒なやつなのだ、この男は。


 だが有能だから切り捨てることなぞ出来るわけもない。


「ああ、わかったわかった。あの者が再び現れることがあるのなら必ず面通しすると約束しよう。現れるのであればな……」





 あの日、アンヌと冒険者二人をアールヴの村に置いてヴィースハウン領に戻って以来、ミーアの姿はもちろん、その消息すら(よう)としてつかめていない。

 災禍の凶龍と共倒れしたのか、それとも単に我らを嫌って戻らないだけなのか……、それとも他に何某(なにがし)か戻れない理由があるのか。


 しかし生存しているのであれば、あれほど懐いていたアンヌのもとへ戻ってこないということは考えにくい。アールヴ族とも気心が知れていたようであるしな。


 となればやはり……。


 幸いあやつはやるべきことをきっちり果たしたようで、『災禍の凶龍』の影響と思われる魔獣の海峡渡りは収束に向かっている。が、完全に無くなるということは最早期待できそうもない。

 渡りが無くならないのは忌まわしいことに、魔獣どもが人の肉の味を覚えたためではないかとも、フェイロー大陸の圧倒的な餌場としての魅力に気付いたからではないか、とも言われているが。


 どうであれ、我らは粛々と討伐を進めるのみ。



 結局、『災禍の凶龍』の姿を見ることもなく、その存在が実際にあったのかさえ本当のことはわからずじまいとなっている。


 だがそれについては俺は確かに在ったのだと確信している。

 あの日、あの時の異様な空気感を忘れることは出来ぬ。それはあの場に居た全員が意を共にしていることだ。


 アンヌは未だあの村でミーアの帰りを待つと言って、戻ってこぬが、そんな我が儘をいつまでも通させる訳にもいかぬ。なによりアンヌの父、ハウゲン子爵の対応が鬱陶しくてかなわぬ。まぁそれはともかく、切りを付けさせる必要はある。


 冒険者二人もいつまでもアンヌに付き合わせる訳にもいかぬしな。もっとも三人でうまくやっているとも聞いているので余計なお世話となるやもしれぬが。




 それにしても……。


 居れば居るで面倒ごとばかりを起こし、居なければ居ないで周囲をやきもきさせる。


 本当にあやつという存在は俺を(わずら)わせてくれる。



 次にもし姿を現した暁には、小言の一つや二つ言ってやらねば気がすまぬというもの。



 あやつにしても俺に言いたいことの一つや二つあるであろう。


 ゆえに、俺にもう一度姿を見せろ。





 生きて戻ってくるがよい。


次回から最終章

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