〘七十一話〙ミーア、ぷにょ収納の極意を得る?
あのキモイ魔獣……、釣鐘イソギンチャクもどきが無限湧きで泣きたい。
無限は言い過ぎにしてもまさかこんなに群れていようとは……、あまりの物量に愕然とした、悠久の時を生きるスライム娘、ミーア九歳です。
悠久なのに、九歳。
なんか矛盾を感じますがいいのです!
点在してるのはわかってたとはいえ、その場所場所でこんなにうじゃうじゃいるだなんて、思わないじゃないですか~!
私から見ればしょせん雑魚なので対処自体は問題ないのですが、何しろキモさ半端なくSAN値削られるので、元日本人サラリーマンの心が少々滅入ってしまったのは仕方ないことだと思います。
けれどその甲斐あって、我が湖の清浄さ回復に相当貢献したかと思われます。
深い処の透明度も随分改善されてきました。
奴らめ、とんでもない悪影響を及ぼしてくれていました。
魔滓を吸い込むだけならありがたいくらいなんですよ?
ですが!
奴の体内でどんな化学変化起こしてるのかわかりませんが、最終的に奴から放出されるのは濃縮されたヘドロ。
そう、湖の底に充満していた魔滓まみれの汚泥の発生源はこいつらだったんです!
マジ、たまったものじゃないのですっ!
だいたいさ、吸い込んだのならもっときっちり消化しろっ!
中途半端に取り込んで中途半端なものというか更に悪くしたもの放出すな~!
ああもう、二度と見たくない……。
ところで、たくさんいた水生の動植物たちですが、まず植物の方はヘドロまみれになりながらも何とか生きながらえてくれていました。
水が綺麗になってきた今、さわさわゆらゆらと湖流にあわせて揺れてる感じでありまして、気のせいかもしれませんが伝わってくる魔力の雰囲気もとても爽やかな感じです。……爽やかな魔力っていったい。
つうか植物強し!
まぁそれもあと数週間、あの状態が続いていればどうなっていたかわかりませんが……。
次に水棲動物やお魚さんたちはどうなったかといえば、残念なことにかなりの数が魔滓に中てられ死んでしまったり、あのキモイ魔獣たちの餌食になった(奴らめ、魔滓だけでなく普通にお肉も食べてました)ようです。
それでも一部が比較的影響の及んでいなかった沿岸部の小さな入り江や湿地で弱りながらも生き延びていました。
うんうん、また地道に数を増やしていければ良いね!
ま、そんなこんなで湖の回復も目処が立ってきた感じです。
どれくらい時間が経ったのかわかりませんけれど、いい加減一度陸に戻ってミーアの体でごはん食べたくなってきました。スライム体での吸収でこと足りるとはいえ、やっぱねぇ。
ミーアボディの胃にも何か入れてあげないと。
ってことで、久しぶりにごはん食べに陸にもどろう、おー!
でもその前に。
また同じことにならないよう、対策しておきたいところです。スライム体が居なくなったらまた同じことの繰り返しになる訳ですから。
う~ん。
悩ましいです。
私がずっと居れば何の問題もない訳なんですが、たまには気分転換に外に行きたいですもん。スライム体を切り離して一部を湖に留めるといっても、離してしまったらもうそれまでです。
自分の意思のある主体となるスライム体から切り離された部分は、どれだけ多くのスライム体を切り分けたとしても何をするでもなく緩やかに死滅していくことでしょう。
完全な均等に分けることが出来たらどうなるか……怖いのでやりませんが、今こうやって思考している私が二つに分かれてしまうことはないのです。
どちらかが必ず主体のスライム体となりもう一方は従のスライム体となるのです。両方に私の意識が宿るなんてことは絶対にない。つうか私が二人居るなんてなったらちょっと怖い。
でもそうはならないことを私は本能的に理解してるのです。
魂って存在、信じてみたくなります。
不思議~。
う~ん……。
謎空間と魔石。
これうまく使えば何とかできるんじゃないかしらん。
謎空間と私は繋がってます。
謎空間の広さは理解の範疇を越えててどうなってるか不明。そもそも広いって概念が通用するところなのかどうかさえ不明。
まじ謎だわ、謎空間。
おっと、今はそんなことは置いておきましょう。
で、そこに入れた物の所在は魔石を使えば探知可能であり、たとえスライム体を切り離しても魔石の魔力が続く限りにおいて私との繋がりは切れず、従って死滅することもないため、応用として無限収納『ぷにょ袋』として活用し出したのは記憶に新しいところ。
魔力供給に関してはこの湖に居る限り心配いりません。魔石に溜めた魔力を使えば決まった行動をさせることも出来そうです。ただし、切り離されてるので、遠隔地から私の意志をリアルタイムで反映させることが出来ません。
それが出来れば一番なのだけど。
…………。
うん?
まって。
切り離したぷにょ収納。
謎空間……。
ぷにょの謎空間って……、
おいおいおいおい。
もしかすればもしかする?
い、いけるか?
自分で使う分には一個あれば十分だから今まで考えたこともなかった。
うん、試してみる価値ある。
やば、思い当たった考えに興奮してきた。
ぷにょ収納を新たに一つ作りま~す。
ちなみに今はミーアボディです、はい。
当然そのぷにょ収納にも謎空間があります。
今まで使ってたぷにょ収納【A】にはレイナールの街で手に入れた色んなもの、それに旅で入手したがらくたや素材が放り込まれてます。素材やアイテムにはタグとなる小粒の魔石をセットしてある感じです。それがないと無限空間である謎空間で迷子です。
よーし、神様お願い、思った通りであって!
新たなぷにょ収納【B】に手を突っ込みま~す。
元からあったぷにょ収納に入れてあるもの、そうですね、ナイフでいいか。それのタグ魔石を思い浮かべれば……、
「にゅおぉ~~~~~~!」
水中にもかかわらず大声をあげてしまいました!
水の中なのに声出せるのかってなるでしょうけど、出せるんです。ってこの説明はもうしたっけ。
あ、ありましたよ……、タグ魔石。
ナイフを掴んで取り出し成功してしまいました。
や、やばいでしょ、これ。
謎空間すげぇ。
これ、マジやばくない?
連携してるって次元の話じゃなく、そのものずばりじゃん!
言ってみれば、それぞれの謎空間は同じものであって、要は出入り口が増えただけってことでしょ?
今の今まで気付かなかったなんて……、ミーアのおばか!
自身に謎空間があるってことで、自分から切り離したものだから別の物だって認識してしまってたよ。
そうと分かれば話は簡単。
ぷにょ収納【B】の口にタグ魔石を付けます。
ぷにょ収納【A】の中にやにわに手を突っ込みます。
中身を出すわけじゃないです。出すのは突っ込んだ私の手。それも収納【B】から!
ふぬ、タグ魔石はしっかり認識出来ますなぁ、にゃはは!
それを掴みに行きます。
…………。
「き、きったーー!」
震え止りません!
目の前のぷにょ収納【B】から私の手がにょきっと姿を現しましたっ!
抜き差しすれば、収納【B】から出たり入ったり。
ビジュアルが不思議過ぎて笑えるっ。
「やヴぁい……」
まじやばいです。
これもう空飛ぶどころの話じゃないです。
チートもチートの仕様です。
これ、うまく使えばラノベ定番、空間転移みたいなことすら出来てしまいますやん!
だってミーアボディを放り込んでもう一方から出せばいいだけです。謎空間に空気とか無いのは確認済なので生き物は放り込めませんが、ミーアボディにその心配は不要!
完璧じゃないですか。
まぁ出したい場所にぷにょ収納を置いておく必要があって、魔石の魔力の続く限りって制限はありますが、それにしたって破格のぶっこわれ仕様です。
いったい謎空間の中はどういうことになっているのか?
やっぱ距離や広さの概念とか、ないのでしょうか?
いやまぁ、まだ遠隔地でも使えるか試してはいない訳ですが……、なぜか問題なくいけると思えてしまう私がいます。
でもこれで後顧の憂いなくこの湖を離れることができます。いや、離れてすらないわけか。何しろスライム体はずっとここにあるわけだし。
「くくっ、くくくくっ」
自然とミーアボディから笑いが零れる。
「やばい、おかしな笑いがこみあげてくりゅ」
くぅ、噛んだ。誰も居なくて良かった。
湖にぷにょ収納を納めておく祠みたいなのを土魔法で作り、そこに収めます。で、スライム体は一度謎空間に全て戻し、祠のぷにょを通してスライム体をどばぁっと大量に湧き出させます。
出てきたスライム体とそれを見ている私。
うんうん、よしよし、バッチリ確実に同調できていますよ!
ぷにょ袋も元をただせばスライム体なのでちょっと不思議で、入れ子みたいになってしまってますがそこは考えない様にしましょう。
空間としての認識、理解のため、私にとってそういう考えは大事です。
ということで、私はある程度綺麗になった湖にぷにょ入り祠を多数設置。
無事スライム体を湖のリアルタイム管理のために置いておくことが出来るようになりました。
なんなら燃料補給だって出来ちゃえます。
ひゃっふ~っ!
***
ミーアボディで湖底から岸までぽてぽて歩いて出てきました。
「久しぶりの空気! 空がとっても高いです。ああ、双子のお日様さん、こんにちは!」
体に触れる温度がずいぶん下がっているように感じとれます。かなり季節が進み、冬が近いって感じです。
岸から上がったところでもう一度、湖の中がちゃんと認識できるか確認。
「うん、大丈夫です」
これで燃料不足からも半永久的に開放されました。なにしろ湖は色んな栄養の宝庫ですから。湖は綺麗になるしスライム体もさらに増殖してしまうの間違いないです。(謎空間で)
「さて~、リイ=ナたちはどうしてるかなぁ? 報告がてら会いに行ってみましょう!」
私は意気揚々と、短いリーチの足をちょこちょこ動かし、村に向け歩を進めるのでした。




