〘六十四話〙ミーア、歓迎を受け甘やかされる
リイ=ナに連れられてようやくたどり着きました、アールヴ族の村!
村の周りは土壁でしっかり覆われてるけど、レイナールの壁に比べれば柔そうで規模はかなり小さい感じ。でも表面を覆ってる蔓草のとげとげは触ったら痛そうです。まぁ所詮子供だまし、どうとでも対処できそうですけれど。
ペンダントぷにょから取り込んだ記憶によれば村の周囲に結界が張られてるってことだけど、確かに周期的に波紋が広がってくるような空気感があります。これって闇属性の魔力を使った結界なのかな?
この微かにネットリする感覚は例の強面イケメンお貴族様を思い出させるので好きじゃない。
私も同じようなことは出来るかもだけど、私の場合はスライム体を使って探ることがほとんどなので似て非なるものなのです。
そういえばスライム体っていったい何属性になるんでしょうね?
以前やった魔力測定でもスライム体自身については含まれていないようですし、それがわかるようなら頭の中のスライム脳やミーアボディに浸透してるスライム体の存在だってばれちゃいますからね。頭割られたりしたらたまりません。
スライム体で出来てることを思えば普通の属性ではないような気がしますね。
ま、今考えることでもないですか。
とりあえずはアールヴ族の村にお邪魔させてもらってから、懐かしの我が湖に戻ってみることとしましょう。
通行門にいたシイ=ナって女性はリイ=ナの幼馴染ということで、濃紺の艶々髪をお尻近くまで垂らしたしたツンツン美人さんはその態度からリイ=ナを意識してるのバレバレ。リアルツンデレさんのようでした。そしてリイ=ナは典型的どん感主人公みたく、シイ=ナのそんな様子に気付く気配全くなしです。
どうしようもなく、どうでもいいですね。
結界のせいで、すぐさま私を中に迎え入れるとはいかないみたいで、シイ=ナがじじ様を呼びに戻っていきました。じじ様というのはアズ=イのことです。会ったこともないのにわかるのはほんと不思議な感覚ですね。
じじいでいいと思います。
ちなみに結界は人はともかく、魔獣に関してはその全てをはじくことは出来ないようで、はじけるのはせいぜい小型の魔獣まで。ウサギやネズミ系の魔獣はオッケーでイノシシ系はサイズ次第でギリ、銀虎みたいなのはダメっぽいね。
まぁ「知らない奴が入ってきたよ~」ってお知らせしてくれるだけでも無いよりはましでしょうし、全ての侵入者や魔獣……だけをはじき出すみたいな、都合の良いものなんてそうそう出来ないよね。
それにしてもアールヴ族というのは揃いも揃って顔面偏差値が高くて爆発させたくなってきますね。
アズ=イもじじいながら昔はさぞや……と思わせる面持ちの『イケじじ』です。総髪にした白髪に長く伸ばした口ひげに顎ひげ。淡い藍染めっぽい長衣をまとっていて、どこか仙人を彷彿とさせる佇まいを見せています。
どうやら結界を張ってるのはアズ=イを筆頭とする長老と呼ばれているじーさまたちのようです。取り込んだ記憶にもそこまで掘り下げた情報はなかったので、やはり現場に来ないとわからないことはたくさんありますね。
ぶっちゃけ村に入れないなら入れないで別にいいんですけどね。
なるようになればいいと思います。
じじいが結界魔道具への登録用プレート? を持ってきたようで、いつだったか冒険者ギルドでやったように魔力紋を登録してほしいとお願いされました。
ペタっとさわって「ふんぬ」とそれなりに魔力を送ってやったら、なんか虹色のプレートになってしまったよ。
つうか、わざとです。
魔石で出来るのならもしかしてと思ってやってみたら出来ました、虹色魔力紋プレート。
むふふん、えせ水霊様としてはこれで更に箔がつくってものでしょう。
じじいも顎が外れんばかりに大口開けて驚いてくれてますから、やった甲斐ありました!
これで心置きなく村の中に入れるんですよね?
「ミーア様、すごいです! あの、改めまして……私、シイ=ナといいます。ミーア様をお連れしたリイ=ナとは幼馴染なんです。私にぜひ村の案内役をさせてくださいっ」
うん、とっても押しが強い子ですね。
横に居たリイ=ナを押しのける勢いでアピールしてきました。私としては別に誰に案内してもらっても構わないので頷いておこう。
「うん、よろしく、シイ=ナ?」
そんなこんなでリイ=ナにシイ=ナ、ついでにじじいの三人に伴われ、私はアールヴ族の村へと足を踏み入れたのでした。
***
ミーア様を迎えたその夜、オヴィリーネ村を挙げての歓迎の宴が催された。
女神フェリアナ像と主オヴィリーネの器が祀られている樹上宮のもと、厳しい自然の中を生き、寿命を全うして倒れた木を組み上げて起こした神聖な営火を囲むようにして作られた宴の場だ。
樹海の中で生きるアールヴ族だけど、火は生きていく上でとても大切で重要なもの。
森に燃え移ることを心配して使わないなんてことはあり得ない。
村に住むアールヴ族のほとんどがこの場に集ったと思う。立ち番に当たってる人たちも交代しながらその催しに参加出来るよう気遣われた。
営火の周りで得意の楽器を持ちよった人たちが音楽を奏でれば、それに合わせて気の合うもの同士で踊りを始めたりと、賑やかで楽しい、とてもいい雰囲気だと思う。
普段、酒精の入った飲み物を嗜まないアールブ族においても、この日ばかりは皆に振舞われ、めったに見ることのできないアールヴの酔っ払いを多数目にすることが出来る珍しい日にもなった。
これからの時期がまさにそうだけど、オヴィリーネ湖周辺は冬になると雪が積もるくらい寒くなる。宴にもそんな冬を前に樹海の樹々から取れた木の実を使った料理や、魔獣の肉を使った料理とか、太い丸太を縦割りにして横にした即席のテーブルに多数並べられてる。
今の時期の魔獣たちは特に丸々としていて脂ものってるからとてもおいしいんだ。ただ、その分活動も活発だから危険度も高いけど、凡人族との交流もない閉ざされたこの村で生きるには魔獣を狩ることでしか食肉を得ることは出来ない。
みんな命の危険も顧みず、狩りをしていく他ないんだけど、昔に比べ弱体化したとはいえ、易々と魔獣にやられるようなアールヴ族なんていやしない。
亜竜種や大型魔獣が出てきたら別だけどね。
その時は一目散に逃げる。命は大切に、だよ。
「ミーア様、これも食べてみてください」
シイ=ナが甲斐甲斐しくミーア様のお世話をしててすっごく意外だ。
ミーア様のお姿は今は背中の羽も消え、体から発する神々しいばかりの輝きも収まっていて言ってみれば凡人族の見た目になっている。けれど最初に輝きを帯びながら空に浮かぶお姿を見せつけたのと、じじ様の「主オヴィリーネ様に対し、失礼があってはならぬ」とのきつい一言もあり、ミーア様を侮るような態度をとるものはどこにもいない。
っていうか、シイ=ナの態度を見ればわかるけど、侮る様子なんて微塵もなく、皆ミーア様に気に入られようと次々と収穫した穀物や木の実を使った料理、分厚い魔獣肉や腸詰めなどを貢いでいて、ミーア様のテーブルはどう見ても食べきることが出来ないほどの食材や料理で溢れかえってる。
シイ=ナは要領よくミーア様の傍に陣取ることに成功し、持ち寄られた貢物をさばきながら、手ずから食べ物をミーア様のお口へと運んでるよ。
ミーア様も意外なことにそんなシイ=ナのされるがままになっていて、相変わらず感情の読みにくい無表情に近い面持ちではあるものの、特に不満に思われているご様子も見受けられない。
「はい、あーん」
シイ=ナのそんな言葉と共に口元に差し出される料理に、小さな口を開けるミーア様。失礼ながらまるで親鳥からエサをもらう雛鳥みたいだよ。食べやすいようにちゃんと大きさを整えていたりして、普段、何事にも雑な行いが目立つシイ=ナとは思えないんだけど?
とはいえ、もぐもぐと食べ物を頬張る幼げなミーア様のお姿に、村のみんなも癒しを感じてるみたいで、周囲がゆるい空気で満たされていくのを肌で感じる。
けどまぁ、日々厳しい暮らしを送る中、たまにはこんな時があってもいいか。
じじ様がそんな二人の様子をうらやましそうに見てるのがちょっと引いちゃうけどね。
とりあえず無事にミーア様をお迎えすることは出来たけど、この先じじ様たちの思惑通りにミーア様が動いてくれるかどうかは正直わからない。
ミーア様がどういう行動をとるかなんて、僕には全く予測もつかないよ。
僕らの歓迎を受け入れてくれてるように見えるけど、ミーア様の行動は良く言えば自由、ぶっちゃけていえば無計画。
じじ様の言うことを素直に聞いてくれるかどうかなんて、それこそ女神フェリアナ様にだってわからないと思う。
僕はちゃんとお役目を果たしたからね。
後のことはしーらない。




