〘四十ニ話〙ミーア、市場へ行く
ダラダラ長くなった
冒険者ギルドを出た私はウエストバッグを装備し、更にそのバッグを隠すようローブを羽織った装いとなって、ドリスに手を引かれながら大通りを意気揚々と歩いています。
最初、愛用の背負い袋で出ようとしたら背中にしょってると、市場とかでスリのかっこうの餌食になるからやめた方がいいって言われちゃったんですよね。
ちなみにウエストバッグはその時ドリスからプレゼントされました。
ふむん、この時のために用意しておいてくれたんですかね?
ドリスへの好感度、三ポイントほどアップせざるを得ない。
ただし、このポイントに活躍の場は無い模様……。
ところで、二人にはぷにょ収納のことは明かしてないのですが、私の手荷物が小ぶりな背負い袋一つだけという、あまりの少なさにオルガには野盗のアジトで入手したお宝をどこへやったんだ? と訝しがられています。
ナイショって言ってごまかしてますが、いつまで通用しますかね?
ま、その時はその時でどうとでもなるでしょう、きっと。
先のことを今気にしてもしょうがないです。
それより今は市場です。
ずっとお預けをくらってた市場にようやく行けるとなれば私のテンションは爆上がりです。
市場の場所は町に入った時に把握済みですからね、ドリスの前に出る勢いでずんずん先へ進んじゃいますよ!
「おおぉ、ミーアちゃんが自分から進んで行動するなんて珍しいねぇ。こんなに喜んでくれるのならもっと早くに行けばよかったね~」
「うん!」
ほんとそう。
大人は自分勝手で横暴だと思います。おかげで随分お預けくらっちゃいましたよ。
まだ正式な登録が済んでない、冒険者見習いである私ですが、それが理由での町歩きは特に制限されていません。
そう、制限されてないのです。
だから好きな時に好きなように町を歩き回れる、はずなのに!
オルガにドリス、それに一番の難物、ギルドマスターまで一緒になって、私に勝手に外を出歩くなと釘をさしてくるのです!
ひどくない?
まぁ年齢より相当幼く見えるというのはあるかもだけど、私は一人で十分やっていける自立した幼女なのです。どうして一人で出歩くことを許してもらえないのか。
魔獣が闊歩する樹海を一人ぽっちで生き抜いてきた私が、小さな町の中ですら一人で歩くことが出来ないこの現実。
まぁ、ぶっちゃけ私の能力をもってすれば出ようと思えばいつでも出られる訳ですが、皆に世話になっている手前、あまり勝手をやるのもどうかと思ってしまうあたり……、げに悲しきは元日本の中年サラリーマン根性というところでしょうか。
なのでこうして大手を振って出歩けるとなれば、連れて行ってくれる人のご機嫌を損なう訳にはいきません。
しっかり媚びを売っておきましょう。
ギルド前の通りは、歩道まである石畳のしっかりとした道になっていて、二頭立ての馬車がすれ違えるほどの幅があります。
ドリスに手を引かれ市場のある町の中心方面へと歩みを進めれば、道幅は更に広がり、道の中央に緑地帯まである完全な二車線の通りへと変わっていきます。
緑地帯はかなりの幅が取られていて、所々ベンチなども置かれ公園めいた場所になっていたり、区画の切れ目では馬車がしっかりUターン出来たりとか、中々考えられた造りになってます。
「この先に商業ギルドがあるんだよ。市場はギルドのあるところで右だね」
「うん、わかってる。はやくいこ!」
気がはやる私はドリスの手をガンガン引っ張って先を急がせます。
「わわ、ミーアちゃん、そんなに引っ張らないで。ころんじゃうってば~」
つんのめってこけそうになった、ドリスに叱られました。
あはは、ゴメンナサイ。反省。
ちょうどT字路の要のところに商業ギルドが居を構えてる感じです。
見ようによっては商業ギルド前からまっすぐ延びた道の先に市場があるわけで、ギルドの力の一端を見せつけられてる気もします。
まぁそんなことはともかく、歩みを進め通りを右に曲がれば、そこにも同じ道幅で通りが続いていて、その沿道にはたくさんの店が軒を連ねていることが確認出来ます。
「ほおおぉ!」
そんなの見れば否が応でもテンションが上がっちゃいます。
それぞれの店の入り口付近には意匠をこらした看板が壁から道に突き出るように吊るされていて、それを見ればどんな店かすぐわかります。
ちなみに職人ギルドは市場のある大広場の向こう側、商業ギルドと対となる場所に居を構えてるそうで、ようは大広場は商業ギルドと職人ギルドの中央付近にあるってことですね。
「ミーアちゃん、目が輝いてきたよ。後でお店にも寄ろうね。服とかいっぱい買わなきゃ!」
「えっ、あ、うん……」
むぅ、確かに服は未だアンヌにもらったワンピースを着まわしてるだけだから買うことについてはやぶさかではない。けど私はワンピよりズボンが欲しいのですよねぇ。
別にパンツ見えてもかぼちゃだし、そもそも幼女に色っぽさは皆無なのでそれはどうでもいいのだけど、生足さらしてるのは冒険者としてどうかって思うんですよね。
ついでに言えば、ここまでファンタジーあるあるの女性冒険者のビキニアーマーとか、まだ見たことないです。意外なことに女性の冒険者自体はそれなりにいます。やっぱ魔力とかいう謎パワーがあるせいでしょうか?
ダイナマイトな曲線美にあふれたボディのオルガも、しっかりした生地のチュニックとズボン、さらに軽装ではあるものの要所を防具で覆って防御優先の装いですし、ドリスだってチュニックにショートパンツ、その下に厚手のタイツを履き、足元はショートブーツで固めているのです。
ちょっと残念ですが、実際のところあんなかっこで町歩いてたら、痴女を疑うレベルだし、もしそれで戦闘なんかしちゃったら即全身スリ傷、切り傷だらけになるのは間違いなしだよね。
身体強化があるにしたってありえない。
「おお~、今日も屋台いっぱい出てる、う~ん、いい匂いが漂ってきたよっ」
どうでもいいことで考え込んでしまった……。
ドリスのこの言葉で私も一気にお食事モード、スイッチオンです。
「うまいようまいよー、斑大猪の串焼きだー」
「煮込み肉詰めパンのチーズ乗せはどうだい、一度食ったら病みつきまちがいなしだ!」
屋台の呼び込みが元気いっぱいで目移りして困ります。
市場に出てる屋台は荷馬車ベースのものがほとんどで、屋根付きの荷台の部分がそのまま店舗の役目を果たしてる感じです。屋根から日よけを伸ばし、その下に簡単なテーブルセットとか置いて座って食べられるようにしてるところも多くあります。日本でよく見たキッチンカーの荷馬車版といったところでしょうか?
そんな屋台が、市場の拠点となっている大広場の噴水を中心として、輪を描くように連なっています。しかも二重、三重と連なりの輪は広がっているため、その数は相当なものでしょう。
どうでもいいですが、噴水はどういう仕組みで動いてるんでしょうね。大がかりな魔道具なのかもしれません。
「んまー」
「あーあ、ミーアちゃん、お口が油だらけだよ」
ただいま両手に串焼き持ってパクつき中。あっさり塩味と、謎の緑色ソースが掛かったやつです。緑色のはピクルスみたいなのをすり潰したものらしく、酸味が強くお肉にとても合ってます。
合ってるし、おいしいのですが。
しかし、なればこそ、日本のタレが恋しくもなります。私、鶏つくねが大の好物だったのですよねぇ……。甘辛ダレがしっかり絡んだふわっふわ照り焼きつくね。それを卵の黄身に絡めて食べればもう最高!
ああ、思い出したらよだれが……。
ドリスに口元を拭われながら、そんなことを思う私なのです。が、そんなことを考えても詮無きこと。
今をしっかり楽しみましょう!
うん、肉詰めパンも煮込み肉とチーズのハーモニーでとてもおいしそうですが、かなりのボリュームで、ミーアの小さな胃ではそれだけでお腹いっぱいになってしまいそうです。ま、無理ならスライム体で吸収しちゃうからどれだけでもどんとこいですけれど。
おいしく頂ける屋台の食べ物はだいたい銅貨一枚から三枚程度の物が多く、この値段がきっと、たぶん庶民が気軽に食べられる価格帯なんでしょう。
屋台はなにも食べ物だけではありません。
生活に必要な小道具、アクセサリーにカバン、帽子などの小物類、いかにも怪しい武器や防具。見たこともないグッズの数々。
この世界に生まれてけっこう経ちますが、こんなにワクワクしたのは魔法の存在を知って以来かもしれません!
今日は無理そうですが、ぜひそちらも見て回ってみたいものです。
「ほれ、かわいいお嬢ちゃん、一本サービスだ、いっぱい食べて早く大きくなんな!」
マスタードっぽいのがたっぷりついた特大フランクフルト風腸詰めを、ほっぺを目いっぱい膨らませながら食べてたら、屋台のおっさんがにかっとした笑いと共に差し出してきました。
うげっ、お、おっさん! ミーアお腹いっぱい、これ以上は無理。
出ちゃうよ。キラキラが。
けどおっさんの厚意を無下にすることなぞ出来るものではない!
「おじちゃん、それおねえちゃんにあげていい? いつもおせわになってる、から」
くふふ、ドリスに押し付けてあげます。
「かぁ~、泣けるね。小せぇのにお姉ちゃん思いのいい子じゃねぇか! こうなったらもう一本サービスでぇ。二人で仲良く食べな!」
ええっ、ま、まって。
そんなの望んでないっつ~の!
ちょっとおかしなこともありましたが、串焼き、腸詰め、骨付き肉と、定番の……日本で言えばB級グルメをお腹いっぱい食し、オレンジに似た味の搾りたての濃厚ジュースをごくごく飲んだところでドリスの目がきらりと光りました。
「よーし、ではいよいよ今から古着屋と防具屋さんに行くよ~。ミーアちゃんの着替えをいっぱい揃えなきゃだし、それに冒険者として活動するにも相応の服装を用意しないといけないからね!」
「あ、あう、その、おてやわらかに……」
言い切る前に手をぐいと引かれ、私は抵抗することもかなわず成すがままに連れていかれるのでした。
古着屋さんでは店主さんとドリス、そして私、三つ巴のお着換え攻防となり、中の人であるおじさん力は全ては削りとられ、小さな女の子力はやたら鍛えられてしまいました……。
あと、防具はさすがに小さな子供サイズは無かったので特注でオーダー入れてもらいました。
ドリスも付けている胸の下からおへその下あたりまでを覆う、コルセットタイプの奴です。
まぁ私もドリスも胸はないので、おっぱいを支える役目は全く果たさないのですけれども。
ドリスが血の涙を流しそうなので、口に出して言ったりなど絶対しません。
しませんよ?
まぁなんのかんのと一日楽しかったです。
まる。




