〘三十ニ話〙ミーア、冒険者ギルドに行く
昼過ぎにレイナールの町に入った私たち一行は、まっすぐ冒険者ギルドのある場所へと向かいました。
町の中は、ソルヴェ村の草原や牧草地ばかりが目立つ廃れさびれた景色ではなく、元日本人の私をして目を奪われるものがありました。
基本石造りの整然とした街並み、馬車が行き交う大通り、人々の活気にあふれた様々な市場など、私の好奇心をいやが上にも高めてくれます。
「おいミーア、気持ちはわかるがまずは冒険者ギルドだ。かかっ、なぁに市場は毎日開かれてるんだし、また後で嫌と言うほどうろつけばいいさ。ほれ、いくぞ」
「ミーアちゃん、私が色々案内してあげるからね。がまんがまん!」
御者台で二人の間に挟まれた私は頭を撫でられつつ、町中見物はしっかりお預けをくらいました。残念。
女性三人組は、町に入った時点でお別れしました。商業ギルドへ向かうそうです。関わりはほぼなかったですが、三人のこれからの健闘を祈っておきましょう。
冒険者ギルド。
数あるギルドの中で、商人ギルドと共にもっとも知られたギルドの一つである!(ドリス受け売り)
まさか私が冒険者ギルドに来る日がくるなんて!
中の人であるサラリーマンおじさんが感動でむせび泣いております。
市場を抜けほんの少し進んだところ、すぐそばといっていい場所に冒険者ギルドはありました。
石畳の歩道に面した大きな石造りの建物です。
三角屋根が急角度で立ち上がって高さを稼いでいて、壁面には縦長の窓が開いてますが上に行くほど四、三、二とその数を減らします。三階建て以上は確実です。
両側に母屋と接した平屋の建物が同じくらいの敷地を占有し建っています。それぞれ正面に厳つい入口が大きく口を開けているので、そこからだと二頭立ての馬車だって余裕で入れそうです。きっとそこから色んな獲物とか収穫物を運び込むに違いないです!
肝心のギルドの入り口は、建物正面中央の十段ほどある石の階段を上がったところにドドーンとあります。威圧感たっぷり、金属補強がビシバシ入った分厚い木製扉が出迎えてくれました。
オルガは慣れたもので気にせず両手でバーンと威勢よく開きます。観音開きの扉ですが、片方開ければ十分なのにわざわざ両方開けます。脳筋野郎(オルガは女です。念のため)はやっぱ目立ちたがりなのでしょうか?
そんな入り方をすれば、浴びなくていい注目がいやでも私たちに注がれます。
元日本のぼっちコミュ障ぎみのサラリーマンおじさんに、この注目は刺さりすぎです。
「ほれ、そんなに怯えなくて大丈夫だからよ。らしくねぇぞミーア。堂々としてろ」
そんなこと言われても無理なものは無理です。
入ってすぐは屋内の半分くらいを占めてるホールでした。ぶっちゃけ酒場そのものです。
お昼過ぎのせいかそれほど人はいません。
というかこの時間に居る人は仕事してください。
オルガの姿に軽くざわめきが起こってますが、それを気にせず突き進んでいきます。私とドリスはそれにちょこちょこと付き従います。
ホール横の通路を抜ければ受付カウンターがあります。
オルガはそこに躊躇なく進んでいきます。
「ほわ~~」
嬉しさの余り声が漏れ出ました。
あの受付嬢がいます。しかも三人並んで座っています。ほんとに居ました。
ラノベは嘘ついてなかった!
「ようエリーネ、久しぶりだな! ギルドマスターに報告したいことがある。呼び出してもらっていいか?」
「オルガさん! 本当に無事だったんですね。う~ん、本来なら手続きを踏んでほしいところなんですが……。いえ、そうですね、奥の小会議室でお待ちいただけますか? ギルドマスターに確認してきますので」
エリーネと呼ばれたすっごく美人で女性的な曲線美にあふれたお姉さんは、ほっとした表情をちょっと困ったものに変えつつも、席を立って隣の人に二言三言言葉をかけてから奥へと消えていきました。
「よし、奥で待つとするか! ドリス、腹が減った。なんか適当に摘まむもん買ってきてくれや。部屋で食おうぜ」
「うんわかった。私もお腹ペコペコだよ~。ミーアちゃんはオルガと居てね」
ギルドの打ち合わせするような部屋でおやつ食べていいのでしょうか?
小走りで酒場の方へ向かうドリスに疑問を抱きながらも見送り、私はオルガに手を引かれ小会議室と言われた部屋へと向かいました。
***
「オルガ。まずは無事で何より」
目の前に激シブの壮年おじさんがいます。前世の私とは大違いの、艶やかなロマンスグレイが目に眩しい、落ち着きがありドッシリとした雰囲気の、いかにも頼りがいありそうなおじさんです。
オルガと向かい合い握手を交わしていますが、いやに力がこもって見えるのは気のせいでしょうか?
まぁ脳筋同士の挨拶なんてこんなものなのかもしれません。
バカですね。
背の高さもほぼオルガと一緒くらい。両名、百九十センチは確実に超えてそうな上背の持ち主たちです。
ギルドマスターの横にはさっきの美人受付嬢、エリーネさんが控えています。綺麗。眼福です。
「お前の魔伝書簡からの報告を受け、レイナール川上流の水車小屋に冒険者を派遣してある。結果は報告通りで生存者も無し、こちらで把握してる人数とも一致したようだ。礼を言わねばならんな」
向かい合って席に着いた私たち。オルガが真面目に話を始めてます。
でもテーブルの上に食べ散らかしたジャンクフードが転がってて、ちょっとお間抜けな感じです。
「そうか、ならよかった。後始末を半分任せちまってすまなかったな、助かるわ。何しろ馬鹿みたいにかき回してくれた奴がいたもんだからオレだけでは手に負えなくてよ」
オルガが私をちらりと見ながら話してます。しーらない。
「いや、それが仕事だ、かまわんさ。あそこの一味以外の襲撃に参加した野盗集団の討伐、あるいは捕縛は残念ながら出来ていない。残党狩りの依頼があの隊商から出ている。また良ければ受けてやってくれ」
「へいへい、考えておくよ」
二人が色々話を進めてますが私やドリスは横で聞いてるだけでした。ちょっと難しい言葉に理解の及ばないところもありましたが、そこは文脈から想像して補いました。エッヘン。
「それで、その幼子が報告にあった娘で、今回の見習い対象者か?」
あ、話振られた。
「そうだ。こいつぁやばいぞ、ウルヴ。見た目に騙されたらあんただって足をすくわれるかもしれんぜ?」
「実際見たことはないけどな」と笑いながら話すオルガの言葉に、ウルヴと呼ばれたギルドマスターの私を見る目が細まりました。こわぁ……。
っていうかオルガ、十八歳のくせにやたら偉そうです。
冒険者ってみんなこうなのでしょうか?
年上はちゃんと敬いましょう!
元サラリーマンおじさんからのお願いです。
「ふむ。ミーアだったな? 話はオルガから聞いたが改めていくつか確認したい。それに魔力紋の登録と属性の把握も必要だ。断っておくが拒否は出来ない。これは冒険者登録時の義務だ。誤魔化しは許されない」
うげ!
魔力測定イベント、きたこれ!
そんなのあったんですね。
私受けて大丈夫なのかしらん?
う~ん。
でもまぁ、悩んでも仕方なしい……、ま、なるようになるでしょう!




