〘十五話〙ミーアのほぼ普通な一日
会話が出来ず、名前すらわからないとか、さすがに不便と思われたのか名前を付けてくれたようです。
アンヌが私の方に指をさしさし、同じ言葉を繰り返すからいやでもわかりました。
「みーあ?」
聞き返したらとても喜び、眩しすぎる笑顔を見せてくれました。
美人の笑顔、眼福です!
でもアンヌが笑顔を見せてくれる合間に、その表情が沈んで見える時があることに私は気付きました。何を考えてるのかわかりませんが、まぁあちらでも色々悩み事があるんだろうと、少し同情の気持ちがわきました。
けど、そんなこと私が気にしてもしかたないね。
そんなことより名前です。
ミーア。
それが私の名前です!
日本人の元男が名乗る名前としてはとても恥ずかしい、なんとも西洋チックで女の子っぽい、可愛らしい名前を付けてもらっちゃいました。
おっさんサラリーマンだった自分にはもったいない気がします。
でもでも、やっぱ名前があればこそ、この世界に生きてるって認められた気分に浸れますよね!
私が純然たる人かどうかなんて、この際どうでもいいのです。スライムにだって名前あっていいと思います。
あ、そういえば今更の今更だけど……、スライムに性別ってあるのかしらん?
少なくとも……、それを判別できるようなアレや、ナニが存在しないのは確かです。
…………。
***
私の生活は彼女らに拾われて一変しました。
樹海の樹上生活よ、さよ~ならー!
子供な私はアンヌと寝食を共にすることになりました。
夜は一緒のベッドで寝ておりますの。美女の添い寝で寝れるなんて……、おっさんサラリーマンのときには想像だに出来なかったことですよ、うふふん。
ちなみに私が最初寝かされてたところが、アンヌの使ってる部屋だったのです。
朝、アンヌに起こされて目が覚めます。
寝なくても大丈夫なスライム娘ですが、スライム体を低活性化することで休眠状態にすることは可能。元日本人のおじさんメンタルは惰眠を欲するのです。
ずっと動き回るのはいやでござる。
樹海でだってちゃんと夜は寝てたんですから。
話飛んじゃいました。
で、起きたらアンヌが髪を結ってくれます。
元おっさんの私が、ツインテールです。ああ、なぜだか喉周りがかゆいかゆい~、うけた。
あるんですね、異世界にもツインテール。
幼女にツインテール。
ありありのありです。
次、ワンピース。
最初は着せてもらいましたが、簡単なのですぐ自分で着られるようになりました。アンヌが着せたがりますが、自分で着るって駄々こねてみせた私。あざとい。
ま、被るだけだしね。
さすがに新品とはいかずどこからか持ってきたお古なわけですが、私に合わせ、肩とか腕、腰回りなど子供が着れば余りまくってしまうだろうところを、うまく詰めて直してくれてあります。しかも着替えできるように二着!
アンヌ、何気に女子力高いです。
最後、下着……は、パンツのみ。はい、かぼちゃのパンツです。
上は……、すまないツルペタで。
いらないんですよ……。
余談ですが!
女性のお胸に当てる例のやつはこの世界でも確かに存在する!
アンヌの立派な双丘にて確認済み。
あの丘は良きものです。
…………。
食堂でごはんを食べさせてもらっています。
ここには、すでに知ってるヨアンの他に三人の男の人がいました。クルト、エリク、レナートっていう人たちで、ヨアンに自己紹介するよう言われたみたいで、しぶしぶって感じで名前を教えてくれました。私も別に野郎の名前は聞かなくていいです。
クルトは色黒の大男で、ずっとにやけてました。でかい手で頭をグリグリ撫でられて首もげるかと思いました。加減って言葉を知れ!
エリクは色白の痩身で、ぼそぼそ話すのでもっとデカい声でしゃべれって思いました。まぁどうせ言葉の意味はわからないのでどうでもいいですが。雰囲気ちょっとオタクっぽいやつです。
レナートは上から目線の態度ですっごく嫌そうな顔をして自己紹介したので、私だってそんな顔するあんたなんか嫌いだ!って、心の中で叫んでおきました。言葉はわからなくても嫌味なこと言われたらわかるんですからね。ばーかばーか。
みんな無駄に背が高いので普通の子だと怖がったりするかもしれませんが、あいにく私はぜんぜん平気です。
人なんて怖くないし!
顔色一つ変えない自信あるし~!
っていうか顔色はいつも青白いけどね。
また話それた。
肝心のごはんは、とても質素です。
さすがにここではスライム体での栄養吸収は自重せざるを得ないので、お口からの食事は大事!
量だけはあるので、まっずいけどもくもくと食べてます。
あ、言っちゃった。
日中、部外者で小さな子供である私は特にすることもなく退屈です。
アンヌの手が空いた時に会話の練習をするくらいしかありません。
まだ会話と言うには片言にもなっていないので無理がありますが。
まぁスライム体細胞総動員で、聞いた単語や言葉を吸収していっているので、話せる日は案外近い……はず!
ぜひ早く話せるようになりたいです。
会話は大事。
うん、人として!
それでアンヌたちと言えば、この建物がある周りを見回ってます。
巡回って言うんだっけ? そんなやつです。
まだ外に出してもらえないので窓から外をのぞき見るだけですが。
見える景色はなかなか悲惨な状況です。
点在する建物すべて壊れまくりです。建物にやたら補修跡、それに黒い染みがある理由も推測できました。
きっと魔獣。
屋根も多く壊れてるし……、これは間違いなく空飛ぶ奴。
ワイバーンとかに襲われたんだと思います。
どうりで他の人たちの姿を見ないわけです。
ここに元々住んでた人たちはきっとアレです。その、ご愁傷さま……。
で、そんなことを考えながらふと気付いちゃったんですよね、けっこう大事なことを忘れてるってことに。
ここ、どこ?
助けてもらったのはわかってます。
漂着したのもアンヌ必死の身振り手振りで理解出来ました。
それで?
肝心の漂着したここはどこなんでしょう?
当初の目的通り、対岸の陸地?
それともず~っと流された、まったく別の場所なのかしらん?
ワイバーンが出没した形跡のある場所だし、私の想定したルート上ではあるような気もします。
別にそれを知ったからどうなるって話ではないし、結果的に人と会うって目標は達成できているから大勝利なんだけど……、やっぱ気になるじゃないですか。
会話出来るようになったら自分がいたところとか、ここ。
それにもちろんこの世界。
色々知れたらいいと思う。
ああ、夢が広がる~!
こんな気持ち。
湖や樹海に居たまんまじゃ絶対味わえないです。
p.s.
寝る前にアンヌが体を濡れた布で拭いてくれる(遠慮のかけらもなくまっぱに剥かれます)のですが、水の用意の仕方がアレでしたの、アレ!
ヘタしたら人と会えた時以上の衝撃でした。
用意していた桶に手をかざし、アンヌが何か呟いたかと思えばあら不思議。空だった桶に水がどこからともなく、じわじわと湧いてきて、ついには桶を水で満たしたんです!
くはぁ~!
魔法?
あったんだ……、うん。
んふふっ!




